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1回目の人生
第08話 ロックオン
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ヴァルスが目を付けたのは、オデットと言うよりもマルネ子爵家だった。
マルネ子爵家に資産はほぼないに等しい。
そして、現当主ダクシオンの弟妹は既に亡くなっていてマルネ子爵家を継げるのは息子のアレグロのみ。
夫人のヴィヴァーチェは騎士爵家の出自で爵位を持っているのはヴィヴァーチェの父親。その父親ももう亡くなっているため、ヴィヴァーチェはダクシオンの妻だから子爵夫人なのであって、離縁すれば平民となる。
つまり、マルネ子爵家はヴァルスの望む条件のほとんどを持っていた。
1つ目
オデットは一人娘。婚約者もおらず付き合っている男はいるようだが恋人未満で結婚の話は具体的に出ていない。
2つ目
責任を負って潰れて貰うので、出来るだけ処刑人数は押さえたい。
祖父母も他界しておりアレグロには婚約者もいない。
3つ目
ヘタに財産もないので財産処分をする際に、予算書の改竄で使い込んだ金を押し付けても押し付けた証拠しか残らない。
4つ目
領地もない子爵家なので、無くなったところで誰も困らない。
大抵は大なり小なり家が取り潰しになる際は多方面に余波が及ぶものだが、マルネ子爵家は当主と次期当主が勤め人。領民も居なければ使用人も居らず、事業の取引先もない。
「先ずは収入を絶った方がいいな。金に困った人間は突拍子もない事をするものだと相場は決まっている」
ヴァルスの結婚についてはこれまでヴァルス本人から両親に「この人と」と言い出した事もなく、25歳で将来も有望なのに隊長職になれないのは結婚をしていないから。
結婚をしている者の方が責任感がある。などの理由ではなく家庭があるという事は悪事により手を染めにくい。そう考えられていたからでもある。
「父上、母上、実はマルネ子爵家のオデット嬢を妻に迎えたいと考えているのですが」
「子爵家?」
両親は驚いた顔をしてお互いの目をみた。
まだ一方的な思いだが、オデットには婚約者もおらずデヴュタントを迎えたばかりなのだと言えば「なるほど」と頷いてくれる。何と簡単なんだろうとヴァルスは腹で両親をせせら笑った。
いずれはガッティネ公爵家を出る身のヴァルス。条件を付けるとすれば貴族令嬢で、更に何かを付加するとすれば対立する派閥に属する家ではない事くらい。
その日のうちにガッティネ公爵はマルネ子爵家に話を持ち込んだ。
「これを支度金として渡してください。私の持てる私財の全てです」
ヴァルスは王太子に金を貸してはいるが、王太子のように無計画に金を使うのではなく虎の子として金貨250枚は取っておいた。
――どうせ戻って来る金なんだし――
支度金として渡すけれど、ちゃんと戻してもらう。
金貨が手元に戻ってくれば、マルネ子爵家からも良い返事が戻って来る算段だった。
少し調べればジークフリッドの事など直ぐに解る。
ヴァルスはジークフリッドをオデットから遠ざけるために手を打った。
「父上に相談があるのです」
「なんだ?」
「実はオデット嬢に言い寄る男がいるのです。平民なので無理やり手籠めにする可能性もあります。出来れば穏便に排除したいと考えるのですが」
「そんな男がいるのか」
「婚約者などと言うものではありません。好意を寄せている程度ですが憂いはない方が良いかと。力づくで排除をすれば平民ですから声の大きな者に泣きつく可能性も無きにしも非ずで」
「おぉ。それなら縁談を頼まれていてな。私兵でもいいからと…確か男爵家の娘でな。婿さんを探しているんだ。早速そちらの縁談を取りまとめよう」
そして、更に困窮させるための手を打つことも忘れなかった。
「母上、実はオデットの兄が勤める商会なんですが」
「何かあるの?」
「反王政派に属する議員に資金提供をしている噂があります。表立っては中立派の議員を支援しているとしていますが、騎士団の報告書には水面下でその様な動きがあると。本来なら私的な事に報告書の記載事項を母上と言えど漏らすことは禁じられておりますが、僕も公爵家に砂をかける事になるやも知れないのなら対応した方がいいと思いまして」
「まぁ。そうなのね…。そうね。貴方は家を出ると言ってもまるで無関係になる訳ではないんですもの。判ったわ。商会の方には上手く手を回しておくわ」
「その際に商会に ”反王政派” などと言わないでくださいよ?」
「勿論よ。要は切り離せばいいんだもの」
「でしたら、ついでに父親の方も何とか口を利いて頂けますか?朝から夜まで休みなしで働きどおしなのでせめて半分の勤務にしてほしいんです。結婚したばかりであちらの親御さんが倒れて介護なんて笑えませんから」
「それもそうね。伯爵家を興すんだもの。他の事に時間を取られてしまうのも考えものね。ではオデットさんもなにか仕事をしているのではなくて?」
「そうなんです。辞めろと言っていいのか。母親と手慰み程度の裁縫仕事のようですが…結婚後に社交をすることを考えると手を引いて欲しいんですけどね」
「ならそうなさいな。どうせ仕立て屋あたりから仕事を貰っているのでしょう?婚約となれば伯爵夫人としての心得など学ぶ時間も必要よ。手慰み程度の仕事ならなくても問題ないでしょうし、そちらも手を打つわ」
「ありがとうございます」
ヴァルスは少し悲し気に物申せばホイホイと信じてくれる両親に腹を抱えて笑い出したい気持ちを押さえ、マルネ子爵家を追い込む手筈を整えたのだった。
マルネ子爵家に資産はほぼないに等しい。
そして、現当主ダクシオンの弟妹は既に亡くなっていてマルネ子爵家を継げるのは息子のアレグロのみ。
夫人のヴィヴァーチェは騎士爵家の出自で爵位を持っているのはヴィヴァーチェの父親。その父親ももう亡くなっているため、ヴィヴァーチェはダクシオンの妻だから子爵夫人なのであって、離縁すれば平民となる。
つまり、マルネ子爵家はヴァルスの望む条件のほとんどを持っていた。
1つ目
オデットは一人娘。婚約者もおらず付き合っている男はいるようだが恋人未満で結婚の話は具体的に出ていない。
2つ目
責任を負って潰れて貰うので、出来るだけ処刑人数は押さえたい。
祖父母も他界しておりアレグロには婚約者もいない。
3つ目
ヘタに財産もないので財産処分をする際に、予算書の改竄で使い込んだ金を押し付けても押し付けた証拠しか残らない。
4つ目
領地もない子爵家なので、無くなったところで誰も困らない。
大抵は大なり小なり家が取り潰しになる際は多方面に余波が及ぶものだが、マルネ子爵家は当主と次期当主が勤め人。領民も居なければ使用人も居らず、事業の取引先もない。
「先ずは収入を絶った方がいいな。金に困った人間は突拍子もない事をするものだと相場は決まっている」
ヴァルスの結婚についてはこれまでヴァルス本人から両親に「この人と」と言い出した事もなく、25歳で将来も有望なのに隊長職になれないのは結婚をしていないから。
結婚をしている者の方が責任感がある。などの理由ではなく家庭があるという事は悪事により手を染めにくい。そう考えられていたからでもある。
「父上、母上、実はマルネ子爵家のオデット嬢を妻に迎えたいと考えているのですが」
「子爵家?」
両親は驚いた顔をしてお互いの目をみた。
まだ一方的な思いだが、オデットには婚約者もおらずデヴュタントを迎えたばかりなのだと言えば「なるほど」と頷いてくれる。何と簡単なんだろうとヴァルスは腹で両親をせせら笑った。
いずれはガッティネ公爵家を出る身のヴァルス。条件を付けるとすれば貴族令嬢で、更に何かを付加するとすれば対立する派閥に属する家ではない事くらい。
その日のうちにガッティネ公爵はマルネ子爵家に話を持ち込んだ。
「これを支度金として渡してください。私の持てる私財の全てです」
ヴァルスは王太子に金を貸してはいるが、王太子のように無計画に金を使うのではなく虎の子として金貨250枚は取っておいた。
――どうせ戻って来る金なんだし――
支度金として渡すけれど、ちゃんと戻してもらう。
金貨が手元に戻ってくれば、マルネ子爵家からも良い返事が戻って来る算段だった。
少し調べればジークフリッドの事など直ぐに解る。
ヴァルスはジークフリッドをオデットから遠ざけるために手を打った。
「父上に相談があるのです」
「なんだ?」
「実はオデット嬢に言い寄る男がいるのです。平民なので無理やり手籠めにする可能性もあります。出来れば穏便に排除したいと考えるのですが」
「そんな男がいるのか」
「婚約者などと言うものではありません。好意を寄せている程度ですが憂いはない方が良いかと。力づくで排除をすれば平民ですから声の大きな者に泣きつく可能性も無きにしも非ずで」
「おぉ。それなら縁談を頼まれていてな。私兵でもいいからと…確か男爵家の娘でな。婿さんを探しているんだ。早速そちらの縁談を取りまとめよう」
そして、更に困窮させるための手を打つことも忘れなかった。
「母上、実はオデットの兄が勤める商会なんですが」
「何かあるの?」
「反王政派に属する議員に資金提供をしている噂があります。表立っては中立派の議員を支援しているとしていますが、騎士団の報告書には水面下でその様な動きがあると。本来なら私的な事に報告書の記載事項を母上と言えど漏らすことは禁じられておりますが、僕も公爵家に砂をかける事になるやも知れないのなら対応した方がいいと思いまして」
「まぁ。そうなのね…。そうね。貴方は家を出ると言ってもまるで無関係になる訳ではないんですもの。判ったわ。商会の方には上手く手を回しておくわ」
「その際に商会に ”反王政派” などと言わないでくださいよ?」
「勿論よ。要は切り離せばいいんだもの」
「でしたら、ついでに父親の方も何とか口を利いて頂けますか?朝から夜まで休みなしで働きどおしなのでせめて半分の勤務にしてほしいんです。結婚したばかりであちらの親御さんが倒れて介護なんて笑えませんから」
「それもそうね。伯爵家を興すんだもの。他の事に時間を取られてしまうのも考えものね。ではオデットさんもなにか仕事をしているのではなくて?」
「そうなんです。辞めろと言っていいのか。母親と手慰み程度の裁縫仕事のようですが…結婚後に社交をすることを考えると手を引いて欲しいんですけどね」
「ならそうなさいな。どうせ仕立て屋あたりから仕事を貰っているのでしょう?婚約となれば伯爵夫人としての心得など学ぶ時間も必要よ。手慰み程度の仕事ならなくても問題ないでしょうし、そちらも手を打つわ」
「ありがとうございます」
ヴァルスは少し悲し気に物申せばホイホイと信じてくれる両親に腹を抱えて笑い出したい気持ちを押さえ、マルネ子爵家を追い込む手筈を整えたのだった。
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