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1回目の人生
第07話 運命のデヴュタント
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「一体どうなっているんだ」
ヴァルスは近衛隊の隊長モルガンから叱責を受けた。
と、言うのも王太子妃となったフロリアは相変わらずで先月呼びつけた劇団員の数人が控室となった部屋から花瓶などを持ち出してしまったのだ。
しかし実際は盗まれた花瓶などはない。
フロリアの希望によりわざわざ宮に公演に来た後は直ぐに巡業に向かう劇団に盗まれたとしていくつかの調度品の帳尻を合わせているだけだった。
モルガンにしてみれば堪ったものではない。
何故か劇団員の身体検査などをヴァルスが行った時に限って窃盗が発生していてこれで7回目。市場に出回る価格を考えると損害額は軽く億を超えている。
「もう私の手には負えない。殿下が大目に見ろというから見て来たがこれ以上は看過できない」
王太子から「このくらいは仕方がない」とフロリアの遊興を見て見ぬふりをしろと言われるのと同義で目を瞑ってはきたが、度重なる窃盗を許していては近衛隊の意味が無くなる。
「いいか?良くはない。良くはないが窃盗で済んでいるだけ幸運なんだ。万が一刺客だったらどうするつもりだ?妃殿下の身に何かあった時、隣国にどう言い訳を誰がするのか。我々の首を差し出すだけでは済まないんだぞ」
「はい。申し訳ございません」
「モルガン。そう怒るな。ヴァルスが盗みをしたわけでもないし今回も破損による破棄として私が責を負えばいいだけの話だろう」
「殿下は甘いのです。一事が万事で御座いますっ。こやつの職務怠慢を何時まで許すおつもりですか」
「そう言うな。次回はないように私もヴァルスに言い聞かせておく。毎度で済まないが私の顔に免じて今回が最後だ。目を瞑ってくれないか」
ヴァルスにしてみればとんだ濡れ衣ではあるが、何も知らずただ観劇を楽しむフロリアの笑顔を見ればこのくらいの汚名は幾ら被っても構わない。
が、成婚して間もなく1年。
そろそろ首も回らなくなってきた。
ヴァルスには国王から伯爵位が授与されているが、それが効力を持つのは結婚をしてから。
同じく王家の管轄領を貰う事にもなっているが、それも結婚が条件になっていた。
金も尽きるが、予算書の改竄についても怪しむ声が聞かれるようになったが、それよりもヴァルスを悩ませたのはフロリアについての噂が市井に流れ始めた。
「俺たちがこんな貧しい暮らしをしてるってのによ!」
「聞けば毎日楽団に劇団呼んでお楽しみだそうだせ」
「俺も聞いた。おひねりなんか俺たちが1か月働いても貰えない額だと言うぜ」
「馬鹿らしくなるよな。これなら宗主国だなんだのク●くらえだ。戦慕っていいんだ。斬られて死ぬか飢えて死ぬかの違いだけならよ!」
「そうだ。そうだ!」
「王家は何をしてるんだ。俺たちの税金で腹の贅肉増やしてんじゃねぇぞ!」
不穏な動きもあり、今年のデヴュタントは見送る案も議会で出されたが、たかがデヴュタントでも市井では祝いムードも出るため経済が回る。予定通り敢行される事になった。
ヴァルスは王族挨拶に次々にやって来る貴族の令嬢を見て溜息を吐いた。
どれこれも見栄えのしない野暮ったい令嬢ばかり。若さを売りにしている令嬢は肌の露出が多いドレスだし、そうでない令嬢は幼さも残る顔を塗りたくり、その様相はまるで仮装パーティ。
だがヴァルスは嫌々ながらも令嬢たちを品定めするしかない。
令嬢たちの年齢は15歳。ヴァルスは25歳になったので10歳も違えばこんなものと思いながらも後がないのだ。
「おぉマルネ子爵ではないか。息災か」
「はい。陛下が施政を取ってくださるおかげで安泰で御座います」
「今日は。おぉそうか。下の娘が。もうそんなになるんだな」
「はい。やっと15に御座います。さぁオデット。陛下にご挨拶を」
「オデット・マルネに御座います。本日はデヴュタントの場を設けてくださり誠にありがとうございます。これからも両親共々陛下の忠実なる家臣として身命を賭し発展に貢献したく存じます」
通り一片の挨拶。どの家も同じような言葉を国王に告げる。
国王は「下の娘」とマルネ子爵家の事を知っているようで実は知らない。斜め後ろにいる官僚がそっと耳打ちをする情報なので、名前も名乗られるまで知らないのだ。
尤も、名乗られたところで右から左。特に先ほどまでの男爵家や現在挨拶に来る子爵家など女性当主にでもならない限りどこかに嫁ぐが低位貴族のため90%以上は平民同様に暮らしていく。
末端の者まで覚えていられるほど国王は暇でもなかった。
が…ヴァルスはオデットを見て運命を感じた。
今回は「大当たり」な気がするのだ。
気もそぞろになりながらやっと任が解けたのは真夜中。
「早く休めよ」と同僚たちが声を掛けて来るのを背で聞いて、ヴァルスは書類を整理するとマルネ子爵家の記述を探した。
「これだ!子羊が見つかった…神は私を…彼女を見放さなかった」
ファイルを閉じるとヴァルスは「ヨシッ!!」腕をグッと引き寄せガッツポーズを一人でキメた。
ヴァルスは近衛隊の隊長モルガンから叱責を受けた。
と、言うのも王太子妃となったフロリアは相変わらずで先月呼びつけた劇団員の数人が控室となった部屋から花瓶などを持ち出してしまったのだ。
しかし実際は盗まれた花瓶などはない。
フロリアの希望によりわざわざ宮に公演に来た後は直ぐに巡業に向かう劇団に盗まれたとしていくつかの調度品の帳尻を合わせているだけだった。
モルガンにしてみれば堪ったものではない。
何故か劇団員の身体検査などをヴァルスが行った時に限って窃盗が発生していてこれで7回目。市場に出回る価格を考えると損害額は軽く億を超えている。
「もう私の手には負えない。殿下が大目に見ろというから見て来たがこれ以上は看過できない」
王太子から「このくらいは仕方がない」とフロリアの遊興を見て見ぬふりをしろと言われるのと同義で目を瞑ってはきたが、度重なる窃盗を許していては近衛隊の意味が無くなる。
「いいか?良くはない。良くはないが窃盗で済んでいるだけ幸運なんだ。万が一刺客だったらどうするつもりだ?妃殿下の身に何かあった時、隣国にどう言い訳を誰がするのか。我々の首を差し出すだけでは済まないんだぞ」
「はい。申し訳ございません」
「モルガン。そう怒るな。ヴァルスが盗みをしたわけでもないし今回も破損による破棄として私が責を負えばいいだけの話だろう」
「殿下は甘いのです。一事が万事で御座いますっ。こやつの職務怠慢を何時まで許すおつもりですか」
「そう言うな。次回はないように私もヴァルスに言い聞かせておく。毎度で済まないが私の顔に免じて今回が最後だ。目を瞑ってくれないか」
ヴァルスにしてみればとんだ濡れ衣ではあるが、何も知らずただ観劇を楽しむフロリアの笑顔を見ればこのくらいの汚名は幾ら被っても構わない。
が、成婚して間もなく1年。
そろそろ首も回らなくなってきた。
ヴァルスには国王から伯爵位が授与されているが、それが効力を持つのは結婚をしてから。
同じく王家の管轄領を貰う事にもなっているが、それも結婚が条件になっていた。
金も尽きるが、予算書の改竄についても怪しむ声が聞かれるようになったが、それよりもヴァルスを悩ませたのはフロリアについての噂が市井に流れ始めた。
「俺たちがこんな貧しい暮らしをしてるってのによ!」
「聞けば毎日楽団に劇団呼んでお楽しみだそうだせ」
「俺も聞いた。おひねりなんか俺たちが1か月働いても貰えない額だと言うぜ」
「馬鹿らしくなるよな。これなら宗主国だなんだのク●くらえだ。戦慕っていいんだ。斬られて死ぬか飢えて死ぬかの違いだけならよ!」
「そうだ。そうだ!」
「王家は何をしてるんだ。俺たちの税金で腹の贅肉増やしてんじゃねぇぞ!」
不穏な動きもあり、今年のデヴュタントは見送る案も議会で出されたが、たかがデヴュタントでも市井では祝いムードも出るため経済が回る。予定通り敢行される事になった。
ヴァルスは王族挨拶に次々にやって来る貴族の令嬢を見て溜息を吐いた。
どれこれも見栄えのしない野暮ったい令嬢ばかり。若さを売りにしている令嬢は肌の露出が多いドレスだし、そうでない令嬢は幼さも残る顔を塗りたくり、その様相はまるで仮装パーティ。
だがヴァルスは嫌々ながらも令嬢たちを品定めするしかない。
令嬢たちの年齢は15歳。ヴァルスは25歳になったので10歳も違えばこんなものと思いながらも後がないのだ。
「おぉマルネ子爵ではないか。息災か」
「はい。陛下が施政を取ってくださるおかげで安泰で御座います」
「今日は。おぉそうか。下の娘が。もうそんなになるんだな」
「はい。やっと15に御座います。さぁオデット。陛下にご挨拶を」
「オデット・マルネに御座います。本日はデヴュタントの場を設けてくださり誠にありがとうございます。これからも両親共々陛下の忠実なる家臣として身命を賭し発展に貢献したく存じます」
通り一片の挨拶。どの家も同じような言葉を国王に告げる。
国王は「下の娘」とマルネ子爵家の事を知っているようで実は知らない。斜め後ろにいる官僚がそっと耳打ちをする情報なので、名前も名乗られるまで知らないのだ。
尤も、名乗られたところで右から左。特に先ほどまでの男爵家や現在挨拶に来る子爵家など女性当主にでもならない限りどこかに嫁ぐが低位貴族のため90%以上は平民同様に暮らしていく。
末端の者まで覚えていられるほど国王は暇でもなかった。
が…ヴァルスはオデットを見て運命を感じた。
今回は「大当たり」な気がするのだ。
気もそぞろになりながらやっと任が解けたのは真夜中。
「早く休めよ」と同僚たちが声を掛けて来るのを背で聞いて、ヴァルスは書類を整理するとマルネ子爵家の記述を探した。
「これだ!子羊が見つかった…神は私を…彼女を見放さなかった」
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