2度もあなたには付き合えません

cyaru

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1回目の人生

第06話  生贄を求めて

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婚約期間を終え、間もなく成婚の儀を迎える時、ヴァルスは第1王子に相談を受けた。


「すまない。この刻印を削り取って市井で売ってきてくれないか?」

手渡されたのは第1王子の宮に置かれている調度品や茶器。
フロリア可愛さになんでも買い与え、強請られればその言葉を可能な限り叶えようとして成婚の儀を前にして第1王子の私財は底を突いていたのだ。

詩人や劇団を呼んで庭で公演をさせたり、数億の価格が付いた宝飾品を「ここからここまで」なんて買い方をしていたら第1王子と言えど私財もあっという間に無くなってしまう。

調度品を売るのは引き受けたとしても一時を凌ぐことにしかならない。
売ればいつかは無くなるし、1つ、2つなら破損で廃棄と出来るだろうが殆ど全てとなれば言い訳も出来なくなってしまう。


金の切れ目が縁の切れ目と言うが、第1王子はこの時既にフロリアに対しての好意は消え失せていた。フロリアに対して残っているのは結婚をすることで立太子が出来るという欲望だけ。

それでもフロリアを隣国に追い返す事が出来なかったのは「成婚=王太子」が約束されているからで、王太子となれば次の国王になる。

その時に、フロリアを病気として幽閉なりすればいいと考え、今だけの辛抱と堪えていたのだ。


調度品をこそこそと売るだけではフロリアが1週間に飲むワイン代にしかならない。次に王子が考えたのは懇意にしてくれている貴族からの融資と言う名のカンパ。


「参ったな。全然足らないんだ。ヴァルス、なんとかならないか」

「そんな事を言われても…父上に相談しますか?」

「ダメだ。叔父上に相談をすれば間違いなく父上に話が上がる。もうすぐなんだ。成婚の儀と同時に立太子だ。玉座は目前なのに」


第1王子は目前の玉座を諦めきれなかった。
ヴァルスは金欠などという恥ずかしい事でフロリアが隣国に戻ってしまえば二度と会えなくなる。この腕に抱きしめる事は叶わなくても傍に居られるだけで良いじゃないかと誤魔化してきた感情の行き場も無くなる。

内容は違えど。
その思いを言葉にすることはなくても2人は意見の一致を見た。

背に腹を変える事は出来ず、第1王子とヴァルスが取った策は予算書の改竄だった。
財布が国庫になるとそれまで散々頭を抱えて来た「金の悩み」が嘘のように消えた。

福祉のためと言えば予算はほぼ満額で認可をされる。それが毎月であっても飢える民はいるのだから廃棄する食材をタダ同然で仕入れてきて炊き出しをしてしまえば元の形は解らない。

腐ってドロドロになった葉物野菜や、芽が出たジャガイモ。腹痛を起こす者がいたとしても元々碌なものを食べていなかったのだから炊き出しが原因とは見破られない。

が、当然そこにも解決せねばならない問題が出て来た。

廃棄する食材がいつもきれいさっぱりと消える不思議。
いつかは不正をしていたことがバレてしまう。そしてフロリアの散財は知らない者がいない程になっていて近いうちに行き詰るのは目に見えていた。

「生贄が必要だな」

冗談めかして第1王子が言った。

第1王子はあくまでも冗談であり、まさかヴァルスが本気で捉えているとは夢にも思わなかった。


★~★

ヴァルスは生贄を探した。

あらゆる条件に合致をしていないと1つ間違えば全てが終わる。

誰かを愛するという事は、人を動かす大きな原動力になる。
ヴァルスはまさにそうだった。


しかし、そんなに上手く話が進むはずがない。
時間だけが無情に過ぎていき、気が付けばヴァルスは自身の私財も第1王子に貸す形で金を貸すようになっていた。

表面上は順風満帆。
第1王子はフロリアと成婚の儀を執り行い、同時に王太子となった。
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