6 / 41
1回目の人生
第06話 生贄を求めて
しおりを挟む
婚約期間を終え、間もなく成婚の儀を迎える時、ヴァルスは第1王子に相談を受けた。
「すまない。この刻印を削り取って市井で売ってきてくれないか?」
手渡されたのは第1王子の宮に置かれている調度品や茶器。
フロリア可愛さになんでも買い与え、強請られればその言葉を可能な限り叶えようとして成婚の儀を前にして第1王子の私財は底を突いていたのだ。
詩人や劇団を呼んで庭で公演をさせたり、数億の価格が付いた宝飾品を「ここからここまで」なんて買い方をしていたら第1王子と言えど私財もあっという間に無くなってしまう。
調度品を売るのは引き受けたとしても一時を凌ぐことにしかならない。
売ればいつかは無くなるし、1つ、2つなら破損で廃棄と出来るだろうが殆ど全てとなれば言い訳も出来なくなってしまう。
金の切れ目が縁の切れ目と言うが、第1王子はこの時既にフロリアに対しての好意は消え失せていた。フロリアに対して残っているのは結婚をすることで立太子が出来るという欲望だけ。
それでもフロリアを隣国に追い返す事が出来なかったのは「成婚=王太子」が約束されているからで、王太子となれば次の国王になる。
その時に、フロリアを病気として幽閉なりすればいいと考え、今だけの辛抱と堪えていたのだ。
調度品をこそこそと売るだけではフロリアが1週間に飲むワイン代にしかならない。次に王子が考えたのは懇意にしてくれている貴族からの融資と言う名のカンパ。
「参ったな。全然足らないんだ。ヴァルス、なんとかならないか」
「そんな事を言われても…父上に相談しますか?」
「ダメだ。叔父上に相談をすれば間違いなく父上に話が上がる。もうすぐなんだ。成婚の儀と同時に立太子だ。玉座は目前なのに」
第1王子は目前の玉座を諦めきれなかった。
ヴァルスは金欠などという恥ずかしい事でフロリアが隣国に戻ってしまえば二度と会えなくなる。この腕に抱きしめる事は叶わなくても傍に居られるだけで良いじゃないかと誤魔化してきた感情の行き場も無くなる。
内容は違えど。
その思いを言葉にすることはなくても2人は意見の一致を見た。
背に腹を変える事は出来ず、第1王子とヴァルスが取った策は予算書の改竄だった。
財布が国庫になるとそれまで散々頭を抱えて来た「金の悩み」が嘘のように消えた。
福祉のためと言えば予算はほぼ満額で認可をされる。それが毎月であっても飢える民はいるのだから廃棄する食材をタダ同然で仕入れてきて炊き出しをしてしまえば元の形は解らない。
腐ってドロドロになった葉物野菜や、芽が出たジャガイモ。腹痛を起こす者がいたとしても元々碌なものを食べていなかったのだから炊き出しが原因とは見破られない。
が、当然そこにも解決せねばならない問題が出て来た。
廃棄する食材がいつもきれいさっぱりと消える不思議。
いつかは不正をしていたことがバレてしまう。そしてフロリアの散財は知らない者がいない程になっていて近いうちに行き詰るのは目に見えていた。
「生贄が必要だな」
冗談めかして第1王子が言った。
第1王子はあくまでも冗談であり、まさかヴァルスが本気で捉えているとは夢にも思わなかった。
★~★
ヴァルスは生贄を探した。
あらゆる条件に合致をしていないと1つ間違えば全てが終わる。
誰かを愛するという事は、人を動かす大きな原動力になる。
ヴァルスはまさにそうだった。
しかし、そんなに上手く話が進むはずがない。
時間だけが無情に過ぎていき、気が付けばヴァルスは自身の私財も第1王子に貸す形で金を貸すようになっていた。
表面上は順風満帆。
第1王子はフロリアと成婚の儀を執り行い、同時に王太子となった。
「すまない。この刻印を削り取って市井で売ってきてくれないか?」
手渡されたのは第1王子の宮に置かれている調度品や茶器。
フロリア可愛さになんでも買い与え、強請られればその言葉を可能な限り叶えようとして成婚の儀を前にして第1王子の私財は底を突いていたのだ。
詩人や劇団を呼んで庭で公演をさせたり、数億の価格が付いた宝飾品を「ここからここまで」なんて買い方をしていたら第1王子と言えど私財もあっという間に無くなってしまう。
調度品を売るのは引き受けたとしても一時を凌ぐことにしかならない。
売ればいつかは無くなるし、1つ、2つなら破損で廃棄と出来るだろうが殆ど全てとなれば言い訳も出来なくなってしまう。
金の切れ目が縁の切れ目と言うが、第1王子はこの時既にフロリアに対しての好意は消え失せていた。フロリアに対して残っているのは結婚をすることで立太子が出来るという欲望だけ。
それでもフロリアを隣国に追い返す事が出来なかったのは「成婚=王太子」が約束されているからで、王太子となれば次の国王になる。
その時に、フロリアを病気として幽閉なりすればいいと考え、今だけの辛抱と堪えていたのだ。
調度品をこそこそと売るだけではフロリアが1週間に飲むワイン代にしかならない。次に王子が考えたのは懇意にしてくれている貴族からの融資と言う名のカンパ。
「参ったな。全然足らないんだ。ヴァルス、なんとかならないか」
「そんな事を言われても…父上に相談しますか?」
「ダメだ。叔父上に相談をすれば間違いなく父上に話が上がる。もうすぐなんだ。成婚の儀と同時に立太子だ。玉座は目前なのに」
第1王子は目前の玉座を諦めきれなかった。
ヴァルスは金欠などという恥ずかしい事でフロリアが隣国に戻ってしまえば二度と会えなくなる。この腕に抱きしめる事は叶わなくても傍に居られるだけで良いじゃないかと誤魔化してきた感情の行き場も無くなる。
内容は違えど。
その思いを言葉にすることはなくても2人は意見の一致を見た。
背に腹を変える事は出来ず、第1王子とヴァルスが取った策は予算書の改竄だった。
財布が国庫になるとそれまで散々頭を抱えて来た「金の悩み」が嘘のように消えた。
福祉のためと言えば予算はほぼ満額で認可をされる。それが毎月であっても飢える民はいるのだから廃棄する食材をタダ同然で仕入れてきて炊き出しをしてしまえば元の形は解らない。
腐ってドロドロになった葉物野菜や、芽が出たジャガイモ。腹痛を起こす者がいたとしても元々碌なものを食べていなかったのだから炊き出しが原因とは見破られない。
が、当然そこにも解決せねばならない問題が出て来た。
廃棄する食材がいつもきれいさっぱりと消える不思議。
いつかは不正をしていたことがバレてしまう。そしてフロリアの散財は知らない者がいない程になっていて近いうちに行き詰るのは目に見えていた。
「生贄が必要だな」
冗談めかして第1王子が言った。
第1王子はあくまでも冗談であり、まさかヴァルスが本気で捉えているとは夢にも思わなかった。
★~★
ヴァルスは生贄を探した。
あらゆる条件に合致をしていないと1つ間違えば全てが終わる。
誰かを愛するという事は、人を動かす大きな原動力になる。
ヴァルスはまさにそうだった。
しかし、そんなに上手く話が進むはずがない。
時間だけが無情に過ぎていき、気が付けばヴァルスは自身の私財も第1王子に貸す形で金を貸すようになっていた。
表面上は順風満帆。
第1王子はフロリアと成婚の儀を執り行い、同時に王太子となった。
757
お気に入りに追加
2,110
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約解消したら後悔しました
せいめ
恋愛
別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。
婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。
ご都合主義です。ゆるい設定です。
誤字脱字お許しください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
結婚しましたが、愛されていません
うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。
彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。
為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた
せいめ
恋愛
伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。
大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。
三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?
深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。
ご都合主義です。
誤字脱字、申し訳ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結保証】嘘で繋がった婚約なら、今すぐ解消いたしましょう
ネコ
恋愛
小侯爵家の娘リュディアーヌは、昔から体が弱い。しかし婚約者の侯爵テオドールは「君を守る」と誓ってくれた……と信じていた。ところが、実際は健康体の女性との縁談が来るまでの“仮婚約”だったと知り、リュディアーヌは意を決して自ら婚約破棄を申し出る。その後、リュディアーヌの病弱は実は特異な魔力によるものと判明。身体を克服する術を見つけ、自由に動けるようになると、彼女の周りには真の味方が増えていく。偽りの縁に縛られる理由など、もうどこにもない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる