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1回目の人生
第05話 拗れた思い
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ヴァルス・ガッティネは20歳になるまで女性に恋焦がれる経験をしたことがなかった。
自分の見た目については「悪い方ではない」と自覚はしていたので、容姿と家柄、財産など目当てに言い寄って来る令嬢たちには辟易としていた。
幸いにして12歳から騎士団に入団したこともあって、騒がれ始めた頃には近衛隊の所属となり参加不可避の場合も王太子の護衛勤務とすれば問題なかった。
家もいずれは出る身なので茶会や夜会に出席せねばならない理由もない。
それでも勤務中に関わらず声を掛けて来る令嬢たち。
ヴァルスは令嬢たちの全てが嫌いだった。
外見ばかりを取り繕い、中身がない。
母親や義伯母となる王妃の顔を立てるために見合いの真似事もしてみたけれど、話す会話は一律「菓子・観劇・ドレス」で代わり映えはしないし、2人以上いればマウントの取り合い。
なんのマウントかと言えば爵位や家の資産。
自分の力で得たものでもないのにどうしてそこまで自慢できるのだろうと首を傾げた。
自分も彼女たちの「ステイタス指数」を示すモノになるのが嫌だったし、結婚を考えた時、勤務が終わって帰宅しての会話が中身のない事だったり、夫を自慢したいだけにあちこち行きたいと言われるのも気分が悪い。縁談は尽く断ってきた。
女性には興味がなかった訳ではないが、誰もかれもがこうだと興味を失ってしまっていた。
近衛隊で第1王子専属の護衛となって1年ほど経った時、第1王子が婚約をすることになった。
相手は隣国の侯爵令嬢。
隣国と言っても宗主国であり属国の扱いをされるが故に第1王子は立太子をする事を条件に侯爵令嬢との結婚を決めた。
国内ではどう足掻いても側妃腹の第3王子が優勢で第1王子は太刀打ち出来なかった。
第3王子がどんなに出来がよく、民衆から慕われているとしても宗主国が後押しをするとなれば決定に等しい。
現に第1王子が正式に婚約をした翌月、第3王子は王位継承権を放棄し王籍も抜けて各国を渡り歩く商人と共に旅に出てしまった。
侯爵令嬢の名前はフロリアと言い、幾つも山を越えた先にある国だからか顔立ちも幼く見えた。
議会の議員たちは「お荷物を押し付けられただけだ」と言うが、何を見ても物珍しいのかきゃっきゃと感情を露わにして燥ぐフロリアがヴァルスにはとても好ましく見えた。
女性に対しては初めて抱いた感情。
他の令嬢たちのように菓子もドレスも観劇もするのだがフロリアは少し違う。
誰もが観ない芝居も、誰も買いそうにないドレスや宝飾品も、何年か前に流行って廃れた菓子も「見たいから」「欲しいから」「食べたいから」とその時の気分で全てを決める。
そこに誰かに対しての忖度や、自分の見栄などはなく、ただ欲望に忠実。「したいからする」「欲しいから手に入れる」その姿勢はヴァルスにはとても刺激的で、かつ官能的に思えた。
同時に激しい嫉妬を第1王子に覚えた。
学問も、武術も、人望も、そして見た目も自分の方が勝っているのに唯一負けている「身分」これだけのせいでフロリアは第1王子の妻となる。
自分なら。
何度も考えたが、宗主国の意向もありヴァルス本人の気持ちでどうなるものでもない。
手に入らないと思うと余計に欲しくなる。だがやはり手に入らない。
腕の中に取り込んでその体に精を注ぎ、自分だけのものにしたい。
そんな思いを抑え込み、姿を見られる、護衛として傍に居られるのだから良いじゃないかと自分に言い聞かせ、ヴァルスの中で拗れた思いはどんどんと歪んでいった。
ヴァルスの思いとは裏腹に乳兄弟でもある第1王子もまんざらではなさそうでトントン拍子に話は進んだ。
自分の見た目については「悪い方ではない」と自覚はしていたので、容姿と家柄、財産など目当てに言い寄って来る令嬢たちには辟易としていた。
幸いにして12歳から騎士団に入団したこともあって、騒がれ始めた頃には近衛隊の所属となり参加不可避の場合も王太子の護衛勤務とすれば問題なかった。
家もいずれは出る身なので茶会や夜会に出席せねばならない理由もない。
それでも勤務中に関わらず声を掛けて来る令嬢たち。
ヴァルスは令嬢たちの全てが嫌いだった。
外見ばかりを取り繕い、中身がない。
母親や義伯母となる王妃の顔を立てるために見合いの真似事もしてみたけれど、話す会話は一律「菓子・観劇・ドレス」で代わり映えはしないし、2人以上いればマウントの取り合い。
なんのマウントかと言えば爵位や家の資産。
自分の力で得たものでもないのにどうしてそこまで自慢できるのだろうと首を傾げた。
自分も彼女たちの「ステイタス指数」を示すモノになるのが嫌だったし、結婚を考えた時、勤務が終わって帰宅しての会話が中身のない事だったり、夫を自慢したいだけにあちこち行きたいと言われるのも気分が悪い。縁談は尽く断ってきた。
女性には興味がなかった訳ではないが、誰もかれもがこうだと興味を失ってしまっていた。
近衛隊で第1王子専属の護衛となって1年ほど経った時、第1王子が婚約をすることになった。
相手は隣国の侯爵令嬢。
隣国と言っても宗主国であり属国の扱いをされるが故に第1王子は立太子をする事を条件に侯爵令嬢との結婚を決めた。
国内ではどう足掻いても側妃腹の第3王子が優勢で第1王子は太刀打ち出来なかった。
第3王子がどんなに出来がよく、民衆から慕われているとしても宗主国が後押しをするとなれば決定に等しい。
現に第1王子が正式に婚約をした翌月、第3王子は王位継承権を放棄し王籍も抜けて各国を渡り歩く商人と共に旅に出てしまった。
侯爵令嬢の名前はフロリアと言い、幾つも山を越えた先にある国だからか顔立ちも幼く見えた。
議会の議員たちは「お荷物を押し付けられただけだ」と言うが、何を見ても物珍しいのかきゃっきゃと感情を露わにして燥ぐフロリアがヴァルスにはとても好ましく見えた。
女性に対しては初めて抱いた感情。
他の令嬢たちのように菓子もドレスも観劇もするのだがフロリアは少し違う。
誰もが観ない芝居も、誰も買いそうにないドレスや宝飾品も、何年か前に流行って廃れた菓子も「見たいから」「欲しいから」「食べたいから」とその時の気分で全てを決める。
そこに誰かに対しての忖度や、自分の見栄などはなく、ただ欲望に忠実。「したいからする」「欲しいから手に入れる」その姿勢はヴァルスにはとても刺激的で、かつ官能的に思えた。
同時に激しい嫉妬を第1王子に覚えた。
学問も、武術も、人望も、そして見た目も自分の方が勝っているのに唯一負けている「身分」これだけのせいでフロリアは第1王子の妻となる。
自分なら。
何度も考えたが、宗主国の意向もありヴァルス本人の気持ちでどうなるものでもない。
手に入らないと思うと余計に欲しくなる。だがやはり手に入らない。
腕の中に取り込んでその体に精を注ぎ、自分だけのものにしたい。
そんな思いを抑え込み、姿を見られる、護衛として傍に居られるのだから良いじゃないかと自分に言い聞かせ、ヴァルスの中で拗れた思いはどんどんと歪んでいった。
ヴァルスの思いとは裏腹に乳兄弟でもある第1王子もまんざらではなさそうでトントン拍子に話は進んだ。
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