5 / 41
1回目の人生
第05話 拗れた思い
しおりを挟む
ヴァルス・ガッティネは20歳になるまで女性に恋焦がれる経験をしたことがなかった。
自分の見た目については「悪い方ではない」と自覚はしていたので、容姿と家柄、財産など目当てに言い寄って来る令嬢たちには辟易としていた。
幸いにして12歳から騎士団に入団したこともあって、騒がれ始めた頃には近衛隊の所属となり参加不可避の場合も王太子の護衛勤務とすれば問題なかった。
家もいずれは出る身なので茶会や夜会に出席せねばならない理由もない。
それでも勤務中に関わらず声を掛けて来る令嬢たち。
ヴァルスは令嬢たちの全てが嫌いだった。
外見ばかりを取り繕い、中身がない。
母親や義伯母となる王妃の顔を立てるために見合いの真似事もしてみたけれど、話す会話は一律「菓子・観劇・ドレス」で代わり映えはしないし、2人以上いればマウントの取り合い。
なんのマウントかと言えば爵位や家の資産。
自分の力で得たものでもないのにどうしてそこまで自慢できるのだろうと首を傾げた。
自分も彼女たちの「ステイタス指数」を示すモノになるのが嫌だったし、結婚を考えた時、勤務が終わって帰宅しての会話が中身のない事だったり、夫を自慢したいだけにあちこち行きたいと言われるのも気分が悪い。縁談は尽く断ってきた。
女性には興味がなかった訳ではないが、誰もかれもがこうだと興味を失ってしまっていた。
近衛隊で第1王子専属の護衛となって1年ほど経った時、第1王子が婚約をすることになった。
相手は隣国の侯爵令嬢。
隣国と言っても宗主国であり属国の扱いをされるが故に第1王子は立太子をする事を条件に侯爵令嬢との結婚を決めた。
国内ではどう足掻いても側妃腹の第3王子が優勢で第1王子は太刀打ち出来なかった。
第3王子がどんなに出来がよく、民衆から慕われているとしても宗主国が後押しをするとなれば決定に等しい。
現に第1王子が正式に婚約をした翌月、第3王子は王位継承権を放棄し王籍も抜けて各国を渡り歩く商人と共に旅に出てしまった。
侯爵令嬢の名前はフロリアと言い、幾つも山を越えた先にある国だからか顔立ちも幼く見えた。
議会の議員たちは「お荷物を押し付けられただけだ」と言うが、何を見ても物珍しいのかきゃっきゃと感情を露わにして燥ぐフロリアがヴァルスにはとても好ましく見えた。
女性に対しては初めて抱いた感情。
他の令嬢たちのように菓子もドレスも観劇もするのだがフロリアは少し違う。
誰もが観ない芝居も、誰も買いそうにないドレスや宝飾品も、何年か前に流行って廃れた菓子も「見たいから」「欲しいから」「食べたいから」とその時の気分で全てを決める。
そこに誰かに対しての忖度や、自分の見栄などはなく、ただ欲望に忠実。「したいからする」「欲しいから手に入れる」その姿勢はヴァルスにはとても刺激的で、かつ官能的に思えた。
同時に激しい嫉妬を第1王子に覚えた。
学問も、武術も、人望も、そして見た目も自分の方が勝っているのに唯一負けている「身分」これだけのせいでフロリアは第1王子の妻となる。
自分なら。
何度も考えたが、宗主国の意向もありヴァルス本人の気持ちでどうなるものでもない。
手に入らないと思うと余計に欲しくなる。だがやはり手に入らない。
腕の中に取り込んでその体に精を注ぎ、自分だけのものにしたい。
そんな思いを抑え込み、姿を見られる、護衛として傍に居られるのだから良いじゃないかと自分に言い聞かせ、ヴァルスの中で拗れた思いはどんどんと歪んでいった。
ヴァルスの思いとは裏腹に乳兄弟でもある第1王子もまんざらではなさそうでトントン拍子に話は進んだ。
自分の見た目については「悪い方ではない」と自覚はしていたので、容姿と家柄、財産など目当てに言い寄って来る令嬢たちには辟易としていた。
幸いにして12歳から騎士団に入団したこともあって、騒がれ始めた頃には近衛隊の所属となり参加不可避の場合も王太子の護衛勤務とすれば問題なかった。
家もいずれは出る身なので茶会や夜会に出席せねばならない理由もない。
それでも勤務中に関わらず声を掛けて来る令嬢たち。
ヴァルスは令嬢たちの全てが嫌いだった。
外見ばかりを取り繕い、中身がない。
母親や義伯母となる王妃の顔を立てるために見合いの真似事もしてみたけれど、話す会話は一律「菓子・観劇・ドレス」で代わり映えはしないし、2人以上いればマウントの取り合い。
なんのマウントかと言えば爵位や家の資産。
自分の力で得たものでもないのにどうしてそこまで自慢できるのだろうと首を傾げた。
自分も彼女たちの「ステイタス指数」を示すモノになるのが嫌だったし、結婚を考えた時、勤務が終わって帰宅しての会話が中身のない事だったり、夫を自慢したいだけにあちこち行きたいと言われるのも気分が悪い。縁談は尽く断ってきた。
女性には興味がなかった訳ではないが、誰もかれもがこうだと興味を失ってしまっていた。
近衛隊で第1王子専属の護衛となって1年ほど経った時、第1王子が婚約をすることになった。
相手は隣国の侯爵令嬢。
隣国と言っても宗主国であり属国の扱いをされるが故に第1王子は立太子をする事を条件に侯爵令嬢との結婚を決めた。
国内ではどう足掻いても側妃腹の第3王子が優勢で第1王子は太刀打ち出来なかった。
第3王子がどんなに出来がよく、民衆から慕われているとしても宗主国が後押しをするとなれば決定に等しい。
現に第1王子が正式に婚約をした翌月、第3王子は王位継承権を放棄し王籍も抜けて各国を渡り歩く商人と共に旅に出てしまった。
侯爵令嬢の名前はフロリアと言い、幾つも山を越えた先にある国だからか顔立ちも幼く見えた。
議会の議員たちは「お荷物を押し付けられただけだ」と言うが、何を見ても物珍しいのかきゃっきゃと感情を露わにして燥ぐフロリアがヴァルスにはとても好ましく見えた。
女性に対しては初めて抱いた感情。
他の令嬢たちのように菓子もドレスも観劇もするのだがフロリアは少し違う。
誰もが観ない芝居も、誰も買いそうにないドレスや宝飾品も、何年か前に流行って廃れた菓子も「見たいから」「欲しいから」「食べたいから」とその時の気分で全てを決める。
そこに誰かに対しての忖度や、自分の見栄などはなく、ただ欲望に忠実。「したいからする」「欲しいから手に入れる」その姿勢はヴァルスにはとても刺激的で、かつ官能的に思えた。
同時に激しい嫉妬を第1王子に覚えた。
学問も、武術も、人望も、そして見た目も自分の方が勝っているのに唯一負けている「身分」これだけのせいでフロリアは第1王子の妻となる。
自分なら。
何度も考えたが、宗主国の意向もありヴァルス本人の気持ちでどうなるものでもない。
手に入らないと思うと余計に欲しくなる。だがやはり手に入らない。
腕の中に取り込んでその体に精を注ぎ、自分だけのものにしたい。
そんな思いを抑え込み、姿を見られる、護衛として傍に居られるのだから良いじゃないかと自分に言い聞かせ、ヴァルスの中で拗れた思いはどんどんと歪んでいった。
ヴァルスの思いとは裏腹に乳兄弟でもある第1王子もまんざらではなさそうでトントン拍子に話は進んだ。
805
お気に入りに追加
2,110
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした
せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。
「君を愛するつもりはない」と。
そんな……、私を愛してくださらないの……?
「うっ……!」
ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。
ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。
貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。
旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく!
誤字脱字お許しください。本当にすみません。
ご都合主義です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。
ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」
幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。
──どころか。
「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」
決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。
この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる