2度もあなたには付き合えません

cyaru

文字の大きさ
上 下
4 / 41
1回目の人生

第04話  自分は選ばれなかった

しおりを挟む
「こんにちは。おばさん。具合はどう?」

「あぁオデット。聞いておくれ。ジークがやっと騎士になれるんだよ」

「まぁ!本当?良かったわね。ジーク凄く喜んでいるんじゃないの?」

「そりゃもう大喜びだよ。これでやっとあの子も食べていくことが出来るってもんだ」


ジークフリッドには幼い頃から騎士になる夢があった。
しかし平民には騎士になるにも狭き門。

身体的な身の丈などは基準をクリアできても採用されるのは貴族の子息が先。1代限りの準男爵家でも父親が賜っている者が優先で、腕前では上の評価を貰っていても不採用になってしまう。

平民が騎士になれるのは100人の募集のうち2、3人。

辺境警備の騎士なら採用はされやすいが、ジークフリッドは体調の悪い母親を置いて遠くには行けず王都周辺までの騎士の応募に毎回申し込んでいた。


「いつ決まったの?」

「1週間前なんだけどね…」

「どうしたの?」


過日の父ほどではないがジークフリッドの母親も妙に歯切れが悪い。
言いにくそうにしていたが、「言わねば」と心を決めたのだろう。

「オデット」

「なぁに。おばさん」

「悪いんだけどジークにはもう会いに来るのをやめてもらえないかい?」

「え…どうして?」

「実は騎士の仕事が決まったのは男爵家の娘さんとの縁談が来たからなんだよ」


オデットはジークフリッドの母の言葉を聞いて指先が冷えた。オデットがジークフリッドの事を慕っているのと同じでジークフリッドも同じ気持ちではないか。引っ越しをせねばならないけれど関係は今まで通り、すこし会う頻度が無くなるだけ、そう思っていたのだが…。


「オデットとジークの仲は解ってるけどさ。ジークにも聞いたけど結婚の約束までしたわけじゃないだろう?」

「それは、そうだけど…」

「縁談はジークも乗り気なんだよ。オデットが悪いと言ってるんじゃないよ?そこは解っておくれ。ただ4女だそうでね。このボロ家で私の面倒も看てくれるっていうし…お金も幾らか支援してくれるって言うし…。悪い話じゃないんだよ?」

「うん。解ってる。ジークもおばさんもお金で決めた訳じゃない…のよね」

「そうなんだよ。マルネ家が支援してくれないとかそういう事を言ってるんじゃないのは解っておくれよ?」

「解ってるわよ。気にしないで」


オデットは上手く笑えているか。そんな事を思いながらジークフリッドの母に言葉を返した。

お金ではないし、結婚と騎士の仕事がセットになっているからと損得勘定だけでジークフリッドは物事を決める人ではない。

何が決め手になったのか。
直ぐに答えは出た。

オデットは「自分は選ばれなかったのだ」と。
曖昧な関係のままで、自分だけが思い上がっていたのかも知れないと。

そう思うと鼻の奥がツキンと痛み、涙が溢れそうになったがグッと堪えた。


「だからね。ほら…仲の良い友達だとは相手さんも解ってはくれると思うし、アタシもね?オデットがこうやって家の事を色々としてくれるのは助かるんだけど」

「解ってるわ。間違っちゃいそうになるものね。お相手さんからみたら ”あの女は何なのか” って思われちゃう。私もそう思われたくないし、幼馴染のジークに来た折角の御縁だし喜び事なのにケチつけたくないわ。いいの。今日はね、近くまで来ておばさんどうかな?って顔見せただけ」

「ごめんよ?なんだか…都合よくオデットを使ってたみたいになっちまって」

「やだ。そんな事思ってないわ。私がつい勝手に色々とやっちゃうだけよ。これからは来る時も前もって伝えるようにするね」

「悪いね。本当に…なんだか、言い方は悪いけど天秤にかけたみたいになっちまったから」

「天秤だなんて。天秤だったら私、結構重いからガタンって私の方に傾いちゃうわよ。あ、いっけない!お父様からお使い頼まれてたの。途中だったわ。急ぎって言われたのに。ごめんね、また今度ゆっくり」


父親に頼まれた用件などない。
ただ、もうここには居られない。明らかにジークフリッドの母親も「早く帰って欲しい」のかちらちらと玄関を見ているし居た堪れなくなったオデットは笑顔を作り、ジークフリッドの家を出た。


とぼとぼと歩いて家まで戻る途中で小さな荷馬車が前からやってきた。

見るつもりはなかったけれど、御者は知らない男性でも荷台には支給された隊服なのか。上着を着たジークフリッドがいた。

声を掛けようかと思い、手を少し上げ、声が出たが…。

「ジ…」

ジークフリッドの隣には小柄な女性がいて笑っていた。
すれ違う時にジークフリッドと目が合った気がしたが、その目は直ぐに逸らされた。

胸まで上げた手をオデットはキュっと握り、小走りになって家路についた。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

処理中です...