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1回目の人生
第04話 自分は選ばれなかった
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「こんにちは。おばさん。具合はどう?」
「あぁオデット。聞いておくれ。ジークがやっと騎士になれるんだよ」
「まぁ!本当?良かったわね。ジーク凄く喜んでいるんじゃないの?」
「そりゃもう大喜びだよ。これでやっとあの子も食べていくことが出来るってもんだ」
ジークフリッドには幼い頃から騎士になる夢があった。
しかし平民には騎士になるにも狭き門。
身体的な身の丈などは基準をクリアできても採用されるのは貴族の子息が先。1代限りの準男爵家でも父親が賜っている者が優先で、腕前では上の評価を貰っていても不採用になってしまう。
平民が騎士になれるのは100人の募集のうち2、3人。
辺境警備の騎士なら採用はされやすいが、ジークフリッドは体調の悪い母親を置いて遠くには行けず王都周辺までの騎士の応募に毎回申し込んでいた。
「いつ決まったの?」
「1週間前なんだけどね…」
「どうしたの?」
過日の父ほどではないがジークフリッドの母親も妙に歯切れが悪い。
言いにくそうにしていたが、「言わねば」と心を決めたのだろう。
「オデット」
「なぁに。おばさん」
「悪いんだけどジークにはもう会いに来るのをやめてもらえないかい?」
「え…どうして?」
「実は騎士の仕事が決まったのは男爵家の娘さんとの縁談が来たからなんだよ」
オデットはジークフリッドの母の言葉を聞いて指先が冷えた。オデットがジークフリッドの事を慕っているのと同じでジークフリッドも同じ気持ちではないか。引っ越しをせねばならないけれど関係は今まで通り、すこし会う頻度が無くなるだけ、そう思っていたのだが…。
「オデットとジークの仲は解ってるけどさ。ジークにも聞いたけど結婚の約束までしたわけじゃないだろう?」
「それは、そうだけど…」
「縁談はジークも乗り気なんだよ。オデットが悪いと言ってるんじゃないよ?そこは解っておくれ。ただ4女だそうでね。このボロ家で私の面倒も看てくれるっていうし…お金も幾らか支援してくれるって言うし…。悪い話じゃないんだよ?」
「うん。解ってる。ジークもおばさんもお金で決めた訳じゃない…のよね」
「そうなんだよ。マルネ家が支援してくれないとかそういう事を言ってるんじゃないのは解っておくれよ?」
「解ってるわよ。気にしないで」
オデットは上手く笑えているか。そんな事を思いながらジークフリッドの母に言葉を返した。
お金ではないし、結婚と騎士の仕事がセットになっているからと損得勘定だけでジークフリッドは物事を決める人ではない。
何が決め手になったのか。
直ぐに答えは出た。
オデットは「自分は選ばれなかったのだ」と。
曖昧な関係のままで、自分だけが思い上がっていたのかも知れないと。
そう思うと鼻の奥がツキンと痛み、涙が溢れそうになったがグッと堪えた。
「だからね。ほら…仲の良い友達だとは相手さんも解ってはくれると思うし、アタシもね?オデットがこうやって家の事を色々としてくれるのは助かるんだけど」
「解ってるわ。間違っちゃいそうになるものね。お相手さんからみたら ”あの女は何なのか” って思われちゃう。私もそう思われたくないし、幼馴染のジークに来た折角の御縁だし喜び事なのにケチつけたくないわ。いいの。今日はね、近くまで来ておばさんどうかな?って顔見せただけ」
「ごめんよ?なんだか…都合よくオデットを使ってたみたいになっちまって」
「やだ。そんな事思ってないわ。私がつい勝手に色々とやっちゃうだけよ。これからは来る時も前もって伝えるようにするね」
「悪いね。本当に…なんだか、言い方は悪いけど天秤にかけたみたいになっちまったから」
「天秤だなんて。天秤だったら私、結構重いからガタンって私の方に傾いちゃうわよ。あ、いっけない!お父様からお使い頼まれてたの。途中だったわ。急ぎって言われたのに。ごめんね、また今度ゆっくり」
父親に頼まれた用件などない。
ただ、もうここには居られない。明らかにジークフリッドの母親も「早く帰って欲しい」のかちらちらと玄関を見ているし居た堪れなくなったオデットは笑顔を作り、ジークフリッドの家を出た。
とぼとぼと歩いて家まで戻る途中で小さな荷馬車が前からやってきた。
見るつもりはなかったけれど、御者は知らない男性でも荷台には支給された隊服なのか。上着を着たジークフリッドがいた。
声を掛けようかと思い、手を少し上げ、声が出たが…。
「ジ…」
ジークフリッドの隣には小柄な女性がいて笑っていた。
すれ違う時にジークフリッドと目が合った気がしたが、その目は直ぐに逸らされた。
胸まで上げた手をオデットはキュっと握り、小走りになって家路についた。
「あぁオデット。聞いておくれ。ジークがやっと騎士になれるんだよ」
「まぁ!本当?良かったわね。ジーク凄く喜んでいるんじゃないの?」
「そりゃもう大喜びだよ。これでやっとあの子も食べていくことが出来るってもんだ」
ジークフリッドには幼い頃から騎士になる夢があった。
しかし平民には騎士になるにも狭き門。
身体的な身の丈などは基準をクリアできても採用されるのは貴族の子息が先。1代限りの準男爵家でも父親が賜っている者が優先で、腕前では上の評価を貰っていても不採用になってしまう。
平民が騎士になれるのは100人の募集のうち2、3人。
辺境警備の騎士なら採用はされやすいが、ジークフリッドは体調の悪い母親を置いて遠くには行けず王都周辺までの騎士の応募に毎回申し込んでいた。
「いつ決まったの?」
「1週間前なんだけどね…」
「どうしたの?」
過日の父ほどではないがジークフリッドの母親も妙に歯切れが悪い。
言いにくそうにしていたが、「言わねば」と心を決めたのだろう。
「オデット」
「なぁに。おばさん」
「悪いんだけどジークにはもう会いに来るのをやめてもらえないかい?」
「え…どうして?」
「実は騎士の仕事が決まったのは男爵家の娘さんとの縁談が来たからなんだよ」
オデットはジークフリッドの母の言葉を聞いて指先が冷えた。オデットがジークフリッドの事を慕っているのと同じでジークフリッドも同じ気持ちではないか。引っ越しをせねばならないけれど関係は今まで通り、すこし会う頻度が無くなるだけ、そう思っていたのだが…。
「オデットとジークの仲は解ってるけどさ。ジークにも聞いたけど結婚の約束までしたわけじゃないだろう?」
「それは、そうだけど…」
「縁談はジークも乗り気なんだよ。オデットが悪いと言ってるんじゃないよ?そこは解っておくれ。ただ4女だそうでね。このボロ家で私の面倒も看てくれるっていうし…お金も幾らか支援してくれるって言うし…。悪い話じゃないんだよ?」
「うん。解ってる。ジークもおばさんもお金で決めた訳じゃない…のよね」
「そうなんだよ。マルネ家が支援してくれないとかそういう事を言ってるんじゃないのは解っておくれよ?」
「解ってるわよ。気にしないで」
オデットは上手く笑えているか。そんな事を思いながらジークフリッドの母に言葉を返した。
お金ではないし、結婚と騎士の仕事がセットになっているからと損得勘定だけでジークフリッドは物事を決める人ではない。
何が決め手になったのか。
直ぐに答えは出た。
オデットは「自分は選ばれなかったのだ」と。
曖昧な関係のままで、自分だけが思い上がっていたのかも知れないと。
そう思うと鼻の奥がツキンと痛み、涙が溢れそうになったがグッと堪えた。
「だからね。ほら…仲の良い友達だとは相手さんも解ってはくれると思うし、アタシもね?オデットがこうやって家の事を色々としてくれるのは助かるんだけど」
「解ってるわ。間違っちゃいそうになるものね。お相手さんからみたら ”あの女は何なのか” って思われちゃう。私もそう思われたくないし、幼馴染のジークに来た折角の御縁だし喜び事なのにケチつけたくないわ。いいの。今日はね、近くまで来ておばさんどうかな?って顔見せただけ」
「ごめんよ?なんだか…都合よくオデットを使ってたみたいになっちまって」
「やだ。そんな事思ってないわ。私がつい勝手に色々とやっちゃうだけよ。これからは来る時も前もって伝えるようにするね」
「悪いね。本当に…なんだか、言い方は悪いけど天秤にかけたみたいになっちまったから」
「天秤だなんて。天秤だったら私、結構重いからガタンって私の方に傾いちゃうわよ。あ、いっけない!お父様からお使い頼まれてたの。途中だったわ。急ぎって言われたのに。ごめんね、また今度ゆっくり」
父親に頼まれた用件などない。
ただ、もうここには居られない。明らかにジークフリッドの母親も「早く帰って欲しい」のかちらちらと玄関を見ているし居た堪れなくなったオデットは笑顔を作り、ジークフリッドの家を出た。
とぼとぼと歩いて家まで戻る途中で小さな荷馬車が前からやってきた。
見るつもりはなかったけれど、御者は知らない男性でも荷台には支給された隊服なのか。上着を着たジークフリッドがいた。
声を掛けようかと思い、手を少し上げ、声が出たが…。
「ジ…」
ジークフリッドの隣には小柄な女性がいて笑っていた。
すれ違う時にジークフリッドと目が合った気がしたが、その目は直ぐに逸らされた。
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