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1回目の人生
第03話 追い込まれていく生活
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「でも、どうして私なのかしら。公爵家の方なんて会う事もないのに」
「デヴュタントで見初めたそうだよ」
「え?たったあれだけの時間で?」
デヴュタントの夜会はトータルした時間なら7、8時間開催されているが平民は参加できないけれど15歳になる貴族の子女は希望すれば全員参加が出来る。
王宮の大ホールと言えど一度に全員は収容出来ないので時間の区割りがされていた。子爵家は16時から17時半まで。
たった1時間半。流れ作業のようなもので、王族への挨拶と同時に後ろでは挨拶が終わった組は1曲踊って退場。実質の滞在時間など15分程度なのだ。
人数も男爵家、子爵家は多いので誰が誰かも解らない。
実際オデットは会場内で親友のナタリーは伯爵家なので割り振られた時間そのものが違うが、同じ爵位のアーシャやケイト、ディアナの姿を見る事も出来なかった。
――そんな中で見初めたって本当?――
オデットはこの婚約に疑問を持った。
「やはりお断りをするのが正解だと思うの」
「そうか…。先方はどうしてもと…その…」
先ほどから歯切れの悪い父のダクシオン。何かあるのかと問い質してみれば支度金だと言って金貨がぎっしりと詰まった袋を出してきた。
「受け取ったの?!」
「いや、娘に先ず聞いてからの返事をすると言ったんだ。だが、断るのなら断るでその時に返してくれればいいと言ってな」
オデットは背筋が寒くなった。
何故ここまでごり押しのように婚約を申し入れてくるのか。
「お父様、金貨の枚数は数えて貰ったんでしょうね?」
「勿論だ!あとで足らないと言われても我が家には銀貨ならまだしも金貨を用意できるだけの蓄えはないからね」
聞けば金貨は250枚。
兎に角、こんな大金をボロ屋の家の中に置いておくのも危ない。
強盗など入ろうと思えば直ぐに入れるような屋敷とも言えない家なのだから。
1か月後にまたガッティネ公爵家からは使いが来るというので断る方向で父親とも意見は一致したのだが…。
夜になり、兄のアレグロががっくりと肩を落として帰ってきた。
領地もないマルネ子爵家。アレグロは中堅どころの商会で経理の仕事をさせて貰っているのだが、クビになったというのだ。
「どうしてなの?!いきなり解雇だなんて」
「理由がサッパリ解らないんだ。帳簿が合わないとか言われるならまだしも帳簿に間違いはないし…。息子さんが隣国の留学から帰るのかと思ったら帰国は予定通り3年後。僕を解雇すると同時に店の前に経理募集の貼り紙をするんだから何が何だか」
異変はまだ続いた。
オデットと母親のヴィヴァーチェが内職の縫製を請け負っている仕立て屋に出来上がった分を納品に行くと「次の仕事はない」と仕事を打ち切られてしまったのだ。
祖母が生きていたころからなので15年いや20年以上仕事をくれていて、祖母が亡くなってからもう8年。その間も年末や先日行われたデヴュタントなどでは金が必要だろうと多く仕事を回してくれていた。
以前に納品をした分の出来が悪くて客からクレームがあったのか?と聞けば違うという。いい加減お針子の数は足りていなくて、知り合いで縫製が出来る人がいれば紹介して欲しいと言われているのに何故次の仕事が貰えないのか解らない。
これでは稼ぎがあるのは父親のダクシオンだけとなってしまい食べていけなくなる。
兄のアレグロが解雇されたことでダクシオンの稼ぎだけでは2か月後に迫った爵位税が払えないのだ。
そのダクシオンもオデットとヴィヴァーチェが内職を断られた翌日に解雇ではなかったが、今までの出勤の半分にしてくれ、これは決定だと告げられた。
領地でもあれば一家で引っ越しをして田舎で細々と暮らすのだが、如何せん領地がない。
追い打ちをかけるように次の週には住んでいる家の家賃を大家が来月からは倍にするという。
慌てて新しい職探しのついでに今の家賃程度の家を探すも見つからない。
王都郊外まで行けばあるにはあるのだが、そうなると仕事先までの距離が出てしまって通勤に乗り合いの辻馬車を使うとその運賃で倍になる家賃とほぼ同額になる。
郊外は王都の防衛のために民家はまばらで、乗り合いの辻馬車に乗るまでに1時間は歩かねばならないという不便さもある。
「なんだか…袋の金貨を使えって追い込まれてる気がするわ」
「気のせいだろう。もしそうだとして公爵家に何の利もない。こうなったら3週間後にガッティネ公爵家から使いが来たら袋の金を返して、ついでに爵位も陛下に戻し、どこか田舎にでも引っ越しをしよう。小作人となれば家族が食べていけるくらいにはなるだろうし」
「でも変よね…。私もオデットも内職の布は汚さないように気を付けていたし…刺繍は指名までもらっていたのに」
「言っても仕方がないさ。仕立て屋も案外苦しいのかも知れないしさ」
前向きなマルネ子爵家の面々。
しかし、日々を節約しても元々がそんなに稼ぎがあった訳ではない。
引っ越しを考えればわずかに貯めた金も手を付ける事は出来ず、先ずは食費から切り詰めた。
仕事を失って10日目。引っ越しをすると決めて片付けを始め多くない荷物が纏まった事からオデットはジークフリッドの元に行こうと考えた。
――ジークに引っ越しするって伝えなきゃ――
オデットは友達以上恋人未満の関係だったが、生きていくには仕方がないとジークフリッドに別れを告げるため出かけた。
「デヴュタントで見初めたそうだよ」
「え?たったあれだけの時間で?」
デヴュタントの夜会はトータルした時間なら7、8時間開催されているが平民は参加できないけれど15歳になる貴族の子女は希望すれば全員参加が出来る。
王宮の大ホールと言えど一度に全員は収容出来ないので時間の区割りがされていた。子爵家は16時から17時半まで。
たった1時間半。流れ作業のようなもので、王族への挨拶と同時に後ろでは挨拶が終わった組は1曲踊って退場。実質の滞在時間など15分程度なのだ。
人数も男爵家、子爵家は多いので誰が誰かも解らない。
実際オデットは会場内で親友のナタリーは伯爵家なので割り振られた時間そのものが違うが、同じ爵位のアーシャやケイト、ディアナの姿を見る事も出来なかった。
――そんな中で見初めたって本当?――
オデットはこの婚約に疑問を持った。
「やはりお断りをするのが正解だと思うの」
「そうか…。先方はどうしてもと…その…」
先ほどから歯切れの悪い父のダクシオン。何かあるのかと問い質してみれば支度金だと言って金貨がぎっしりと詰まった袋を出してきた。
「受け取ったの?!」
「いや、娘に先ず聞いてからの返事をすると言ったんだ。だが、断るのなら断るでその時に返してくれればいいと言ってな」
オデットは背筋が寒くなった。
何故ここまでごり押しのように婚約を申し入れてくるのか。
「お父様、金貨の枚数は数えて貰ったんでしょうね?」
「勿論だ!あとで足らないと言われても我が家には銀貨ならまだしも金貨を用意できるだけの蓄えはないからね」
聞けば金貨は250枚。
兎に角、こんな大金をボロ屋の家の中に置いておくのも危ない。
強盗など入ろうと思えば直ぐに入れるような屋敷とも言えない家なのだから。
1か月後にまたガッティネ公爵家からは使いが来るというので断る方向で父親とも意見は一致したのだが…。
夜になり、兄のアレグロががっくりと肩を落として帰ってきた。
領地もないマルネ子爵家。アレグロは中堅どころの商会で経理の仕事をさせて貰っているのだが、クビになったというのだ。
「どうしてなの?!いきなり解雇だなんて」
「理由がサッパリ解らないんだ。帳簿が合わないとか言われるならまだしも帳簿に間違いはないし…。息子さんが隣国の留学から帰るのかと思ったら帰国は予定通り3年後。僕を解雇すると同時に店の前に経理募集の貼り紙をするんだから何が何だか」
異変はまだ続いた。
オデットと母親のヴィヴァーチェが内職の縫製を請け負っている仕立て屋に出来上がった分を納品に行くと「次の仕事はない」と仕事を打ち切られてしまったのだ。
祖母が生きていたころからなので15年いや20年以上仕事をくれていて、祖母が亡くなってからもう8年。その間も年末や先日行われたデヴュタントなどでは金が必要だろうと多く仕事を回してくれていた。
以前に納品をした分の出来が悪くて客からクレームがあったのか?と聞けば違うという。いい加減お針子の数は足りていなくて、知り合いで縫製が出来る人がいれば紹介して欲しいと言われているのに何故次の仕事が貰えないのか解らない。
これでは稼ぎがあるのは父親のダクシオンだけとなってしまい食べていけなくなる。
兄のアレグロが解雇されたことでダクシオンの稼ぎだけでは2か月後に迫った爵位税が払えないのだ。
そのダクシオンもオデットとヴィヴァーチェが内職を断られた翌日に解雇ではなかったが、今までの出勤の半分にしてくれ、これは決定だと告げられた。
領地でもあれば一家で引っ越しをして田舎で細々と暮らすのだが、如何せん領地がない。
追い打ちをかけるように次の週には住んでいる家の家賃を大家が来月からは倍にするという。
慌てて新しい職探しのついでに今の家賃程度の家を探すも見つからない。
王都郊外まで行けばあるにはあるのだが、そうなると仕事先までの距離が出てしまって通勤に乗り合いの辻馬車を使うとその運賃で倍になる家賃とほぼ同額になる。
郊外は王都の防衛のために民家はまばらで、乗り合いの辻馬車に乗るまでに1時間は歩かねばならないという不便さもある。
「なんだか…袋の金貨を使えって追い込まれてる気がするわ」
「気のせいだろう。もしそうだとして公爵家に何の利もない。こうなったら3週間後にガッティネ公爵家から使いが来たら袋の金を返して、ついでに爵位も陛下に戻し、どこか田舎にでも引っ越しをしよう。小作人となれば家族が食べていけるくらいにはなるだろうし」
「でも変よね…。私もオデットも内職の布は汚さないように気を付けていたし…刺繍は指名までもらっていたのに」
「言っても仕方がないさ。仕立て屋も案外苦しいのかも知れないしさ」
前向きなマルネ子爵家の面々。
しかし、日々を節約しても元々がそんなに稼ぎがあった訳ではない。
引っ越しを考えればわずかに貯めた金も手を付ける事は出来ず、先ずは食費から切り詰めた。
仕事を失って10日目。引っ越しをすると決めて片付けを始め多くない荷物が纏まった事からオデットはジークフリッドの元に行こうと考えた。
――ジークに引っ越しするって伝えなきゃ――
オデットは友達以上恋人未満の関係だったが、生きていくには仕方がないとジークフリッドに別れを告げるため出かけた。
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