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1回目の人生
第01話 舞い込んだ縁談
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悪夢の始まりは一生に一度のデビュタントだなんて笑えない話。
母ヴィヴァーチェの来た真っ白いドレスを取り出してみれば、レースの穴ではなく虫食いの穴だらけ。
折りたたんだ端になった部分には黄色い色もついていて、とても着られたものじゃない。
慌てて仕立て直した。
「良かったわね。間に合ってホッとしたわ」
「本当よ。もうお母様ったら!念のために見て良かったわ。他のドレスもほとんど捨てたんだから!」
「虫の嫌う薬袋を入れているから大丈夫と思ったのよ」
「何時入れたのよ」
「30年くらい前??あ、28年前だったわ」
「その時だけならこうなっちゃうわよ!薬袋の効能は1年でしょうに!」
ヴィヴァーチェが嫁いで来た時のままに保管されていた長持は開けてびっくり。
布がクズになっている長持もあったのだ。
急いで仕立てたと言っても既製品に手を入れてもらっただけ。
それでもデヴュタントの夜会を皮切りに今年度の社交シーズンが始まるのだから仕立て屋にも無理を言ってしまった。
デヴュタントですからねと仕立て屋が気を利かせてくれたからよかったものの、そうでなかったらどうなった事か。
なんとか間に合った真っ白なドレスを着て、父ダクシオンと共に入場。
オデットは初めて見る王宮の大ホール。天井を見上げ口をあんぐりと開けた。
「オデット。口が開いたままだ」
「だってぇ。お父様。凄いわ」
雰囲気にも飲まれオデットはまるで夢の世界に舞い込んだかのよう。
始めてみる国王に王妃、そして3人の王子に2人の王女。王族をこんな至近距離で見たのも初めてだし、貴族とは言え末端に近い子爵家の令嬢にしてみれば国王や王妃から声を掛けて貰い、名を呼ばれ髪に花を刺してもらえるなんて。
ダクシオンの足を数えきれない程に踏んだダンス。
興奮冷めやらぬままデヴュタントを終えて数日、いまだに友人たちと話題になるのはデヴュタントの事。
子爵家は貴族ではあるものの、社交と言っても近所の会合が関の山で、オードブル的なご馳走ではなく籠に入った寄せ集めの菓子を皆で齧りながらワイワイするようなもの。
だからこそ一生に一度、最初で最後の晴れ舞台デヴュタントはその年の子女にはずっと思い出として残るのだ。
王妃に髪に刺してもらった花は薔薇。
ドライフラワーとなるべく現在乾燥中である。
そんなある日。
昔から仲の良い親友ナタリーと銅貨芝居と呼ばれる銅貨1枚で1幕見られる青空芝居小屋から帰ってきたオデットをダクシオンが血相を変えて名を呼んだ。
「オデェーッ!!オデットォォォ!!」
「なんですの。お父様。そんな大声で呼ばなくても。3軒隣まで聞こえてしまいますわよ」
「おちっおちっ」
「今日の芝居のオチですか?湖の白鳥に変えられたお姫様を――」
「違うっ!オチじゃないんだ。そう。オチじゃない。落ち着いて聞くんだ」
「オチを落ち着いて?」
「それも違う!兎に角落ち着いて聞くんだぞ?お前に…縁談が来た」
「エェェーッ?!」
驚かずにいられるはずがない。
マルネ子爵家は借金こそないものの、領地のない名ばかりの貧乏貴族。
年間の収支は父のダクシオンと次の子爵となる兄アレグロの稼ぎを合わせて中級文官の年収程度。それらは爵位税と日々の生活費で消えていく。
母のヴィヴァーチェ、オデットの内職の縫製で小銭を万が一の時のために貯めている。遊興は僅かな小遣いでそれぞれがやりくりする平民と何ら変わらない子爵家なのだ。
そこにガッティネ公爵家という国内に3家ある公爵家の中でも筆頭公爵家から縁談が持ち込まれたとなれば驚かずにいられるはずがなかった。
母ヴィヴァーチェの来た真っ白いドレスを取り出してみれば、レースの穴ではなく虫食いの穴だらけ。
折りたたんだ端になった部分には黄色い色もついていて、とても着られたものじゃない。
慌てて仕立て直した。
「良かったわね。間に合ってホッとしたわ」
「本当よ。もうお母様ったら!念のために見て良かったわ。他のドレスもほとんど捨てたんだから!」
「虫の嫌う薬袋を入れているから大丈夫と思ったのよ」
「何時入れたのよ」
「30年くらい前??あ、28年前だったわ」
「その時だけならこうなっちゃうわよ!薬袋の効能は1年でしょうに!」
ヴィヴァーチェが嫁いで来た時のままに保管されていた長持は開けてびっくり。
布がクズになっている長持もあったのだ。
急いで仕立てたと言っても既製品に手を入れてもらっただけ。
それでもデヴュタントの夜会を皮切りに今年度の社交シーズンが始まるのだから仕立て屋にも無理を言ってしまった。
デヴュタントですからねと仕立て屋が気を利かせてくれたからよかったものの、そうでなかったらどうなった事か。
なんとか間に合った真っ白なドレスを着て、父ダクシオンと共に入場。
オデットは初めて見る王宮の大ホール。天井を見上げ口をあんぐりと開けた。
「オデット。口が開いたままだ」
「だってぇ。お父様。凄いわ」
雰囲気にも飲まれオデットはまるで夢の世界に舞い込んだかのよう。
始めてみる国王に王妃、そして3人の王子に2人の王女。王族をこんな至近距離で見たのも初めてだし、貴族とは言え末端に近い子爵家の令嬢にしてみれば国王や王妃から声を掛けて貰い、名を呼ばれ髪に花を刺してもらえるなんて。
ダクシオンの足を数えきれない程に踏んだダンス。
興奮冷めやらぬままデヴュタントを終えて数日、いまだに友人たちと話題になるのはデヴュタントの事。
子爵家は貴族ではあるものの、社交と言っても近所の会合が関の山で、オードブル的なご馳走ではなく籠に入った寄せ集めの菓子を皆で齧りながらワイワイするようなもの。
だからこそ一生に一度、最初で最後の晴れ舞台デヴュタントはその年の子女にはずっと思い出として残るのだ。
王妃に髪に刺してもらった花は薔薇。
ドライフラワーとなるべく現在乾燥中である。
そんなある日。
昔から仲の良い親友ナタリーと銅貨芝居と呼ばれる銅貨1枚で1幕見られる青空芝居小屋から帰ってきたオデットをダクシオンが血相を変えて名を呼んだ。
「オデェーッ!!オデットォォォ!!」
「なんですの。お父様。そんな大声で呼ばなくても。3軒隣まで聞こえてしまいますわよ」
「おちっおちっ」
「今日の芝居のオチですか?湖の白鳥に変えられたお姫様を――」
「違うっ!オチじゃないんだ。そう。オチじゃない。落ち着いて聞くんだ」
「オチを落ち着いて?」
「それも違う!兎に角落ち着いて聞くんだぞ?お前に…縁談が来た」
「エェェーッ?!」
驚かずにいられるはずがない。
マルネ子爵家は借金こそないものの、領地のない名ばかりの貧乏貴族。
年間の収支は父のダクシオンと次の子爵となる兄アレグロの稼ぎを合わせて中級文官の年収程度。それらは爵位税と日々の生活費で消えていく。
母のヴィヴァーチェ、オデットの内職の縫製で小銭を万が一の時のために貯めている。遊興は僅かな小遣いでそれぞれがやりくりする平民と何ら変わらない子爵家なのだ。
そこにガッティネ公爵家という国内に3家ある公爵家の中でも筆頭公爵家から縁談が持ち込まれたとなれば驚かずにいられるはずがなかった。
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