夫が離縁に応じてくれません

cyaru

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第24話  ココホレ教授、オランドに打診

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シャッシャ…カリカリ…シャッシャ…。

静かな部屋に私が化石を掃除する音が響きます。

「おっ?出て来た。出て来た。これは…第四指っ!長っ!」

プティラノドンの翼の部分は実は手なのです。
胴体に近い部分に肩があり、折れた先が人間でいう二の腕、更に折れて腕。
二の腕と腕の部分の長さは人間はほぼ同じかどちらかがちょっとだけ長いのですがプティラノドンは4,5倍長さが違うのです。

そして大きく違うのがその先。人間の手の平から先にある指。
言ってみれば指しかないのです。その指が第四指でこれが異常に長い!
ただでさえ長い腕の部分の更に倍!!第四指が長いのです。

「ここにフラップなんかの代わりも兼ね備えた翼があったのね。可愛い」

目の粗いブラシで擦るのは本当に不要な部分。骨を取り出すのに土をブラシで取り除いていきます。骨に近い部分は柔らかい刷毛で優しく、そっと。

「あぁ~ロマンを感じるわぁ。もう大好き!!」

「おや、アーシャじゃないか!」

突然声を掛けられて振り向くと、日に焼けて真っ赤を通り越し真っ黒になったココホレ教授が立っておりました。


「教授!お帰りなさい!どうでした?」

「空振りだよ。チュリケラトプスかと思ったが違ったよ。銀杏の木だった」

「まぁ!銀杏の?」

「圧縮されながら化石化したから骨だと思ったんだろう」

「そうですか。残念です。チュリケラトプスなら徹夜で作業したのに」

「いやいや。新婚さんにそんな事をはさせられないよ。聞いたよ?ご主人さんもここに引っ越してきたんだって?ダメだよ。次期当主だろうに」

――いいんです。離縁するので――

購買のオバちゃんは御喋りなので、もう教授にここにオランドの野郎が空いていた研究室を借りたことを喋ってしまったんでしょう。

――オバちゃんの口を塞ぐのは容易じゃないわね――

「ココホレ教授。お茶飲みます?研究室の向かいの雑木林にタンポポ見つけたのでタンポポ茶にしようと思って干したのがあるんです」

「いいねぇ。大好きだよ」


ココホレ教授はタンポポ茶が好きなのですが、突然教授の言葉が終わるやいなや大きな声と扉が勢いよく開いて壁に当たる音が致しました。

「なんだって!!」

――ちっ。もう帰ってきたの。ゆっくりしてくればいいに――

タンポポ茶の乾燥葉を入れた瓶を取り、つい苦丁茶くうていちゃの茶葉を入れた瓶も手に取ってしまいます。

――センブリ茶、奴は慣れちゃったのよね――

僅か1.5グラムで悶絶する苦丁茶くうていちゃ飲ませてあげるわ。


「あら、オランド様。もっとゆっくりして来ればいいですのに」

「私がゆっくりと寛げるのはここだ!そのために借りたんだ」

――いや、ここ研究室。貴方の借りた部屋じゃないです――

しかし人の好いココホレ教授。オランドの野郎にまで優しい言葉をかけるのです。

――教授!そいつには後ろ足で砂でも掛けとけばいいんですっ――


「君か。アーシャのご主人さんは。いやいや、アーシャは面食いだと思っていたがその通りだ」

――え?教授…恐竜の顔は ”だろう復元” ですよ?――

確かに恐竜はイケメン揃い。たった1個の脊椎ですら萌えを感じます。骨だけじゃなく皮も何もかも全体が完璧に発掘されたら私、軽く死ねます。

「イケメン…いや、今まで顔しか褒められたことなくて」

――認めるんかい!!謙遜しろや!――

「いやいや。いいねぇ。君、死んだら骨格標本にならないか?肩甲骨もいいが何より骨盤がいい。騎士などは剣を振ったりするときに腰に力もいれるから軟骨がすり減ってたりするんだ。成人でここまでとなると素晴らしい!色んな苦労から逃げねばならないからね。君は完全形だよ。イケメンだ」

「え…骨格標本ですか」

――ココホレ教授…褒めてるけど無意識に軽くディスってます――

オランドの野郎は「そうかなぁ」なんて照れておりますが、骨格標本ですよ?
まぁ、亡くなった後も仕事出来るんで、今までしなかった分の補填にはなるでしょうけど。

「あの…すみません。アーシャを借りてもいいですか?」

「アーシャを?いいけど…アーシャは物じゃないよ?」

「そういう意味ではないんですけど」

「解ってるよ。アーシャ。休憩をしておいで。アーシャの事だ。ずっと細かい作業をしてただろう。遠くの緑を見て目も休めないといけないよ」

――それ、そいつの前でいつもやってますけどね――


教授の言葉なら仕方ありません。
そうでなくても「キリの良いところまで!」って10時間以上も没頭しちゃう人も要るので、ココホレ教授は休憩については五月蝿いのです。

しぶしぶと渋い茶をオランドの野郎に、美味しいタンポポ茶をココホレ教授に淹れて苦丁茶くうていちゃだけをトレイに載せて隣の部屋に移動を致します。

「どうぞ」

「あ、お茶だ。初回はキツかったけど慣れると飲みたくな―――」

――予想通り。言葉を失ったわね――


この調子で私の事も記憶から失ってくれるといいんだけど、記憶力はいいのよね。

以前に野菜とか土がついてる云々で間違っていたことを知り、オランドの野郎は猛勉強したそうなのです。本を読み、直接聞いたりで…高位貴族って物覚えいいよね~と思った事はありますが、本当に物覚えが良くて。

多分、覚え方にコツがあるんでしょうけど、オランドの野郎にだけは聞きたくないので聞いてません。


「ゴホッ…父上と話をしてきたんだ。ゴホッゴホッ…今回は渋いな」

「えぇ。いぶし銀と呼ばれる名人のお茶です」

「え?アーシャの手作りじゃないのか?」

「モチノキ属の多羅葉はこの辺にはありません。お取り寄せです」

「私のために…ありがとう!!」

――いえ、作業の眠気覚ましです――

「私たちの結婚の事なんだが」

――にゃに??いい話を期待してるわよ!!――

私たちの未来に向けての話し合いのゴングが鳴ったのです。

カーン!!
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