夫が離縁に応じてくれません

cyaru

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第10話  知らなかったことを知る

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直ぐには動くことができず翌月、ブンディル侯爵は日程を調整しオランドを連れて日帰りできる領地に出向いた。

「収穫時期でもないのになんで領地になんか行かなきゃいけないんだ」オランドは終始不機嫌なまま。

領地に到着をすると管理を任せている代官が何事だろうと駆け寄ってきた。いつもなら「●日に来る」と連絡があるのに突然の訪問。

見られて困るものはなくても、準備をしていないので衣類が汚れるかも知れないし、見せるものを順序だてて案内し見せることも出来ないので慌てたのだ。

それこそが執事の狙い。ありのままをオランドには見て欲しかった。


「旦那様、どうなさったんです?何かございましたか?」

「いや、何もないんだが…順調か?」

「はい。そうですね、丁度見に来ていただいて良かったかも知れません。今週の報告書に記載しようと思っていましたが赤黴あかかび病が出たんです。発見が早かったので収穫には影響しません」

赤黴あかかび病か。早く薬が出来ればいいんだがな。だがよく見つけたな」

「はい。毎日見回りをしておりますし…。ご案内します。見つけたのはまだ2か所なので」


ブンディル侯爵は赤黴あかかび病が厄介な病気であることは知っている。赤黴あかかび病をそのままにしておいた祖父の代で大打撃を受けたと父から聞いたことがあったからである。

但し、実物を見た事はなかった。

それはオランドも同じで「2か所?」と呟き、周囲を見渡す。遠くの山ですら薄く見える広い農地で「たった2か所」をどうやって見つけたのか。気になった。


「ここです。丁度病気になった小麦を除去するところです」

代官が「やってくれ」声を掛けると農夫が赤黴あかかび病になった苗を引き抜いて持って来た。

ブンディル侯爵もオランドも引き抜かれた小麦とまだ畑で育っている小麦。どこが違うのか解らなかった。

「ここがね。色が違うでしょう?」

「たったこれだけ?」

数本伸びている帆の中にある粒。そのいくつかに色がついていた。

「放っておくと1週間、10日ほどでこの付近一帯が全滅です。いやぁ早く見つかって良かった」

聞けば農夫が毎日担当する区画をくまなく見て回っているという。

「毎日?こんな広いのに?大げさだろう」

「いえいえ。大げさではないですよ。この他にちゃんと見てないとモグラなんかもいますし、適当にしていたら適当な物しか出来ません。品質が15年間特級であるのは領民の努力の賜物です」

オランドも品質を示すのに特級、1級、2級、飼料用と4段階あるのは知っていた。
例えるなら1kgの小麦、特急が1万なら、1級は5千、2級は2千500、飼料用はトンの単位になってやっと2級に並ぶ値が付く。

しかし、ここでオランドの「トンデモ知識」が炸裂する。

「でもこの小麦は白くない。不良品じゃないか?粉じゃないじゃないか」

オランドの呟きにはブンディル侯爵もビックリである。

ブンディル侯爵も目の前にあるのがまだ収穫前で完全に収穫する時の色になってないのは理解をしていたが、小麦が白い粉末になるのは挽いた後のこと。

ブンディル侯爵も挽いて保管をするのではなく外皮を取らないまま保管をすることくらいは知っていたし、挽く前は粒上である事も知っていたがオランドは知らなかったのだ。

「若当主様。これはまだ収穫前なのであちらで白い小麦粉をお見せしましょう」


代官に連れて行かれた先では領民が代官の指示で保管していた小麦を持ってきた。

「なんだ?粉じゃなく粒じゃないか」

オランドは思っていたものと違うとまた不機嫌になった。

「まだ収穫の時期ではないので昨年収穫をして保管している小麦になります。穂から取った状態なんですけどこの状態で保管するんですよ。この機械に入れて外皮を剥きます。他の管轄領地で稲作始めましたよね」

「稲作?あぁ米という穀物だな。あれは粒で食べたと思うが」

「はい。米もなんですけども小麦も脱穀と言う穂になっているところから先ず粒を取ります。そのあと米はもみ殻、小麦は外皮を取るんです。若当主様が見た粒にする前段階ですね」

梃子の原理を利用した足板を踏むと側面に取り付けた水車のような円形部が回り始める。

穴の開いた部分は2つあり風車のように回る部分からは風が出て、機械の上部から注がれた小麦は1つの出口からは外皮がブワーっと舞い、もう1つの出口からはポロポロとまだ茶色の粒が落ちて来る。

多少は外皮が混じっているものの息を吹きかければ飛んでいく。
代官は粒を水車が回す石臼の中に放り込んだ。

「米だったら精米の作業ですが小麦は挽いて粉にする。そうすると製品になるんです」


ゴリゴリ音がして石臼が水車の力で回ると茶色の殻と白い粉になった。

「これをふるいにかけて、白い小麦粉を出荷するんですよ」

「これでパンが出来るんだな」

「アハハ。若当主様。またまた~。試さないでくださいよ」

「試す?何を?」

「何をって。パンを作る小麦粉は強力粉です。それはハイム領でしょう?うちはパスタなんかを作る中力粉用の小麦粉ですよ」

「ち、違うのか?!」

「違うのかって…やだなぁ。違うに決まってます。絶対に作れないかって言うとそうでもないですけども、なんでもちゃんと適したものを使えばバターや塩、ミルクの分量をいちいち変えなくて済みますし、出来上がりも違いますからね」


オランドはそれも知らなかった。パンは小麦粉で作る事は知っていたがそこに塩、ミルクにバターを使うなんて知らなかったのだ。

「今年は飼料の出来が良くなくてミルクの質も良くないと酪農家が嘆いてます」

「なんでミルクが酪農家なんだ?酪農はバターとかチーズだろう」

「嫌だなぁ。若当主様、ミルクからバターもチーズも作るじゃないですか。どっちが副業?ってなると微妙な家もありますけど」


なんとオランドはバターもチーズもミルクから出来る事を知らなかったし、飼料と言う牛の餌がミルクの出来を左右する事も知らなかった。液体のミルクから味も食感も全く違うものが出来ることが想像できない。

チーズ作りも見せて貰ったのだが工程があまりにも多いのに、作っているのは母親でも10歳を少し過ぎた子供が気を利かせて次の工程に使う品を用意している。

子供でも知っている事なのにオランドは自分が知らなかったことが恥ずかしかった。

何より、知っているからと子供はオランドに自慢するでもない。
小麦を挽いた後の外皮や殻も捨てるのではなく土に梳き込んだりする。

どうしてそうするのかと言えば次に育てる植物の成長のため。

アーシャが言ったように小麦もキュウリもカボチャも土がついていた。

目にするもの、手にするもの何1つ、食卓に並んでいる形ではなかった。

――謝らないといけないな――

オランドは屋敷に帰ったら直ぐにでもアーシャに謝罪をしようと考えたのだった。
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