あなたの事は記憶に御座いません

cyaru

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第46話  まさかの?!

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「シアから返事が?!」

グラシアナに手紙を出し返事を待つクリスティアンの元に待ち望んだ返事が届いた。
乱暴に封筒を開けようとしたが、思い直して丁寧に封書を開ける。

中の香りを思い切り吸い込んだ後、頬を染めて便箋をひらいた。

「アァッ!シア…やっぱり。兄に妨害をされていたんだね。ほぅら見ろ。直接やり取りが出来れば直ぐに返事が返ってくる。登城しますなんて♡僕に会いたくて堪らないんだよ。記憶はなくても体が!本能が僕を求めているんだ」

舞い上がるクリスティアンだったが、従者が待ったをかけた。

「殿下、イメルダ様はどうなさるのです?」
「イメルダ?あぁ…放っとけばいいよ」
「いえ、侍医から捨て置けない報告も上がっています」
「侍医から?自分で擦り過ぎて皮膚炎にでもなったとか?」


イメルダは当初よりも薬は抜けてきてはいるものの、野生の動物のほうがまだ理性を持っている状態で手足を拘束していないと気絶するまで体を傷つけてしまう。
性的な興奮は抜けたけれど、人体には猛毒でもある酒池肉林はイメルダの脳内に快楽を植え付けてしまい、イメルダは求めてしまうのだ。

傷だらけだった体に痛みを伴って浸潤したムスクの原液。
イメルダは痛みこそ快楽と食事ですら流動食ではないと危険が伴う。

侍医は時間が薬とこれ以上打つ手がないからと言って手をあげた。

「放っておけばいい。化膿でもして破傷風にでもなってくれれば悲劇の王妃となって僕には同情票も集まる。それに・・・正妃に先立たれた僕に寄り添う元婚約者。これこそ民衆の関心を呼ぶんじゃないか?」

あわよくばグラシアナとの復縁が民衆の声から上がればこの上ない喜び。
議会は国民の反応を見ているのだから、ご機嫌取りに復縁を決める可能性もある。

そうなれば儲けもの。ハンコ押しなら側妃でも出来るのだから国王となるクリスティアンと2代目正妃となるグラシアナはずっと子作りだけしていればいい。
なんなら産褥で人前には出られないとすれば歩けないグラシアナを人目に晒す事もない。

我ながらいい考えだと思った
クリスティアンだったが、従者の答えは全く違うものだった。

「殿下、イメルダ様は懐妊されているようです。なのでお手上げと言うのは落ちつかせる薬も使えないと言う事です」

「なんだって?懐妊?」

「はい。月のものはもう3カ月になりますが確認されておりませんし、吐き気と微熱は数日前から訴えられていたようでミゴモリそうに尿を垂らしたところ、反応も出たそうです」

「嘘だろ…違う。それは僕の子じゃない。3カ月前っていったら合わないだろ!」

「殿下、妊娠の週数などは最終月経から割り出すのです、性交をした日ではないんですよ」


イメルダはクリスティアンの宮に来るかなり以前は色んな子息と関係を持っていたが、年齢も年齢。周囲に同年代で遊んでくれる男性などクリスティアンくらい。

そのクリスティアンは王太子で既にお手付きでは?と噂もされていたイメルダに声をかける男などいるはずがない。グラシアナとの関係がまだあった時ですら、今の状態である正妃になるのでは?と言われていてうっかり手を出して妊娠させてしまえば托卵を疑われる。

王家に睨まれるよりも議会に睨まれてしまえば一族郎党に咎が及ぶ。

ここ数年でイメルダと関係を持っているのはクリスティアンしかいなかった。

「いやだ・・・嫌だ。違う!僕の子じゃない!」
「殿下、落ち着いてください。良い事ではありませんか。王家の血がこれで残る事が確定ですよ」
「ダメだ。そんな事をしたらシアが怒る。やっと・・・やっとなんだぞ?邪魔者を排除し、こうやって手紙をくれたんだ。僕に会いたいから登城するって手紙だ!どうしてどいつもこいつも!肝心な時に僕を邪魔するんだ!僕たちの愛に障害なんていらないんだよ!」

そう言われても困るのは従者。

「取り敢えず今日は4軒。新当主の挨拶がありますので謁見の場にお願いしますよ」
「行けるわけないだろ!」
「行って頂かないと困ります!王太子の務めですッ!」

何時になく声を荒げた従者にクリスティアンは務めとなれば行くしか道はなく出向いた。

最初の当主の挨拶を受けた後、従者からイメルダの懐妊の兆候アリ。そう耳打ちをされた国王と王妃は手放しで喜んだ。この事は直ぐに議会にも知らされ、その誰もが手を叩いて喜んだ。

「祝いの席を設けなければ!!」
「止めてくれよ!あんな化け物との子供なんか僕の子じゃない!」

クリスティアンは叫んだが、誰もその声をきいてはくれなかった。


窮地に立たされたクリスティアンはその後の挨拶を済ませた後で愛の巣になるはずだった部屋に1人籠った。

グラシアナが来るまで待っている時間はない。
クリスティアンは自分で自分を追い詰めた。

「こうなったら僕にも考えがあるッ!」
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