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第43話 この手紙に終わりがあったの?!
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「おッ嬢様ァ~」
鉄壁の守備力を兼ね備えるロペ公爵家に王宮からの使者がやって来たが、正門から中に入る事は出来ず門番ですら「胸やけやする」という手紙が幾人かを手を通ってグラシアナの元に届けられた。
城から脱出し8日目。同じく兄エリアスとパンディトンが拘束をされて8日目。
心配で数日は眠れなかったがアリ―から「元気ですよ」と地下牢でのやり取りを聞かされてグラシアナはやっと数時間纏まって眠る事が出来た。
「旦那様もですがパンディトン氏もそう簡単にやられはしません」
「そうね…でも掃除までしてあげる事ないのに」
「新たな住人にも快適に過ごして頂きたいでしょうからね」
「そうですよぉ。知ってます?市井で部屋を借りる時、内見は必須ですよ~」
アリ―とメアリーは住み込みではなく通い。
2人でお金を出し合って部屋を借りて家を出ることも考えたけれど、「ここは!」という部屋にいってびっくり。
掃除はされていたけれど壁や床、天井にしみついたG臭と、残飯の香り。
壁紙を張り替えて床材も変えたそうだが、壁の内側、床板の下に沁み込んだ廃液の香りは取れていなかった。
「公爵家までの辻馬車の乗り場も目の前だし、立地は凄く良くって。なのに周囲の賃料より格安!ここしかないと思ったんですけどやめましたー!」
「でも内見って昼だけじゃなく夜も行ったほうが良いんですよ?」
「そうなの?」
部屋を借りる必要のなかったグラシアナにはピンとこないけれど、使用人達から聞く話はどれも新鮮で面白い。王宮の教育にはなかった「生活感」がそこにあるからかも知れない。
「次にイイナって部屋を見に行くと、昼間はホントに最高!陽当たりも良いし夜番明けで部屋で寝ようと思ったらカーテン厚手にすれば静かだなって思ったんですよ」
「でもね…夜に秘密があったんです。建物の隣。通りは1本裏になるんですけどそこ、居酒屋があったんです。夜になると色んな料理の香りはしてくるし」
「そうそう!しかも揚げ物ばかりだから油臭いんです」
「その上、酔っ払いの大声とか集団で飲みに来てる客のワイワイする声が五月蠅いのなんの」
「遅くまで営業してるから虫も凄かったよね。ぱっと見気が付かないけどあんな掃除されたら騙されるわぁ」
仲の良いアリーとメアリーは結局部屋を借りることをやめて通いで勤務にした。
その部屋は夜間に飛んでくる虫の痕跡など昼間には全く感じない徹底した掃除がされていた。
「だから旦那様も次に地下牢を使う人に気持ち良く使って欲しいんですよ」
――そこだけは言わせてもらうけど、違うと思うわ――
そう思いつつ、城から届いた手紙を開封してみると、1枚目の1行目から気分が悪くなった。
【愛しいグラシアナ。今日の天気はまるで僕の心を空が映し出してるようだ】
窓の外を見る。
雲1つない快晴でとても気持ちがいい。
窓から入ってくる風に昼寝をしたら気持ちいいだろうなと思ってしまう。
――あ、そうか。これ、昨日かいた手紙ね――
事務的文書かよ!とツッコミを入れたくなるのは、愛の言葉をツラツラとポエム風に書いているけれど、その紙が事務用便せんで薄く「月日」とある所にご丁寧に日付が記入されていた。
随分と安く上げたラブレター。
でもグラシアナは昨日、アリ―から2人の無事を聞かされるまで気持ちがいっぱいいっぱいで天気など覚えても無かった。
【会えなくなった歳月、僕は瞼に在りし日のグラシアナを思い浮かべる】
――まだ数か月ですけどね。歳月ってほどではないかと――
【僕に囁く愛の言葉、僕を見つめる眼差し、思い出すと胸が苦しい】
――呪いの言葉?軽蔑の眼差し?心筋症?――
【冷たくなったシーツにあの日の温もりを思い出す】
――まぁ…おねしょは起きた時に冷たさを感じるわよね――
【僕たちの21年間はもう消えた】
――えぇ。そこは同意するわ――
【でも僕たちには未来に向かう思い出を積み重ねることができる】
――その思い、ジェンガしていいかしら――
老執事から「ジョーカー残し」の次に教えてもらった1人でも出来る遊び。ジェンガ。侮るなかれ。木で組み上げた塔は上手く抜かないと崩れてしまうのだ。
2枚目も3枚目も4枚目も同じような文言がダラダラ連なっている。
「だから一体何を言いたいの!」と目的の言葉を探すのはカーニバルでごった返す人の中で横ストライプの服を着たメガネ男を探すよりも面倒にしか感じない。
「もう疲れたわ。あとは読んでくれる?」
「お嬢様、疲れ目にはブルーベリータルトです」
「まさか…メアリー!裏切ったの?!」
「そんな訳ありません。私達は切っても切れない同士ですよ。お嬢様を差し置いてお菓子作りをする訳がありません。お菓子作りは3人で!天啓です」
――天啓なんだ…しばらくいいかなって思ってたのに――
得意げに言うメアリーは調理長お手製のブルーベリータルトを差し出す。
程よい酸味と甘さが目に沁みるようだ。
グラシアナが読んでいた手紙を受け取ったアリーは感心した。
「よくここまで他人をドン引きさせる言葉を思いつけるものですね。一種の才能ですよ」
「もう見たくもないわ。結局何が言いたいのか判らないし」
「うーん…このラストから18行手前ですかね」
「ラスト?この手紙に終わりがあったの?!」
グラシアナもびっくりだ。下手をすると両面にあるんじゃないかとすら思えた手紙。
アリ―の言う18行目を見ると確かにそれらしい文字があった。
【兄上と従者。愛の障害となる者を取り除くのは神もお許しになる】
――取り除かれるのはお前だッ!――
グラシアナはテーブルをバン!!と手のひらで叩いた。
「いタタタ・・・思ったより全面が痛かった・・・」
考えた以上にグラシアナの手の平は貧弱だった。
★~★
次はちょっと時間が変わって20時40分。
楽しい!美味しい!あなたの夕食♡ご一緒したーい♡
鉄壁の守備力を兼ね備えるロペ公爵家に王宮からの使者がやって来たが、正門から中に入る事は出来ず門番ですら「胸やけやする」という手紙が幾人かを手を通ってグラシアナの元に届けられた。
城から脱出し8日目。同じく兄エリアスとパンディトンが拘束をされて8日目。
心配で数日は眠れなかったがアリ―から「元気ですよ」と地下牢でのやり取りを聞かされてグラシアナはやっと数時間纏まって眠る事が出来た。
「旦那様もですがパンディトン氏もそう簡単にやられはしません」
「そうね…でも掃除までしてあげる事ないのに」
「新たな住人にも快適に過ごして頂きたいでしょうからね」
「そうですよぉ。知ってます?市井で部屋を借りる時、内見は必須ですよ~」
アリ―とメアリーは住み込みではなく通い。
2人でお金を出し合って部屋を借りて家を出ることも考えたけれど、「ここは!」という部屋にいってびっくり。
掃除はされていたけれど壁や床、天井にしみついたG臭と、残飯の香り。
壁紙を張り替えて床材も変えたそうだが、壁の内側、床板の下に沁み込んだ廃液の香りは取れていなかった。
「公爵家までの辻馬車の乗り場も目の前だし、立地は凄く良くって。なのに周囲の賃料より格安!ここしかないと思ったんですけどやめましたー!」
「でも内見って昼だけじゃなく夜も行ったほうが良いんですよ?」
「そうなの?」
部屋を借りる必要のなかったグラシアナにはピンとこないけれど、使用人達から聞く話はどれも新鮮で面白い。王宮の教育にはなかった「生活感」がそこにあるからかも知れない。
「次にイイナって部屋を見に行くと、昼間はホントに最高!陽当たりも良いし夜番明けで部屋で寝ようと思ったらカーテン厚手にすれば静かだなって思ったんですよ」
「でもね…夜に秘密があったんです。建物の隣。通りは1本裏になるんですけどそこ、居酒屋があったんです。夜になると色んな料理の香りはしてくるし」
「そうそう!しかも揚げ物ばかりだから油臭いんです」
「その上、酔っ払いの大声とか集団で飲みに来てる客のワイワイする声が五月蠅いのなんの」
「遅くまで営業してるから虫も凄かったよね。ぱっと見気が付かないけどあんな掃除されたら騙されるわぁ」
仲の良いアリーとメアリーは結局部屋を借りることをやめて通いで勤務にした。
その部屋は夜間に飛んでくる虫の痕跡など昼間には全く感じない徹底した掃除がされていた。
「だから旦那様も次に地下牢を使う人に気持ち良く使って欲しいんですよ」
――そこだけは言わせてもらうけど、違うと思うわ――
そう思いつつ、城から届いた手紙を開封してみると、1枚目の1行目から気分が悪くなった。
【愛しいグラシアナ。今日の天気はまるで僕の心を空が映し出してるようだ】
窓の外を見る。
雲1つない快晴でとても気持ちがいい。
窓から入ってくる風に昼寝をしたら気持ちいいだろうなと思ってしまう。
――あ、そうか。これ、昨日かいた手紙ね――
事務的文書かよ!とツッコミを入れたくなるのは、愛の言葉をツラツラとポエム風に書いているけれど、その紙が事務用便せんで薄く「月日」とある所にご丁寧に日付が記入されていた。
随分と安く上げたラブレター。
でもグラシアナは昨日、アリ―から2人の無事を聞かされるまで気持ちがいっぱいいっぱいで天気など覚えても無かった。
【会えなくなった歳月、僕は瞼に在りし日のグラシアナを思い浮かべる】
――まだ数か月ですけどね。歳月ってほどではないかと――
【僕に囁く愛の言葉、僕を見つめる眼差し、思い出すと胸が苦しい】
――呪いの言葉?軽蔑の眼差し?心筋症?――
【冷たくなったシーツにあの日の温もりを思い出す】
――まぁ…おねしょは起きた時に冷たさを感じるわよね――
【僕たちの21年間はもう消えた】
――えぇ。そこは同意するわ――
【でも僕たちには未来に向かう思い出を積み重ねることができる】
――その思い、ジェンガしていいかしら――
老執事から「ジョーカー残し」の次に教えてもらった1人でも出来る遊び。ジェンガ。侮るなかれ。木で組み上げた塔は上手く抜かないと崩れてしまうのだ。
2枚目も3枚目も4枚目も同じような文言がダラダラ連なっている。
「だから一体何を言いたいの!」と目的の言葉を探すのはカーニバルでごった返す人の中で横ストライプの服を着たメガネ男を探すよりも面倒にしか感じない。
「もう疲れたわ。あとは読んでくれる?」
「お嬢様、疲れ目にはブルーベリータルトです」
「まさか…メアリー!裏切ったの?!」
「そんな訳ありません。私達は切っても切れない同士ですよ。お嬢様を差し置いてお菓子作りをする訳がありません。お菓子作りは3人で!天啓です」
――天啓なんだ…しばらくいいかなって思ってたのに――
得意げに言うメアリーは調理長お手製のブルーベリータルトを差し出す。
程よい酸味と甘さが目に沁みるようだ。
グラシアナが読んでいた手紙を受け取ったアリーは感心した。
「よくここまで他人をドン引きさせる言葉を思いつけるものですね。一種の才能ですよ」
「もう見たくもないわ。結局何が言いたいのか判らないし」
「うーん…このラストから18行手前ですかね」
「ラスト?この手紙に終わりがあったの?!」
グラシアナもびっくりだ。下手をすると両面にあるんじゃないかとすら思えた手紙。
アリ―の言う18行目を見ると確かにそれらしい文字があった。
【兄上と従者。愛の障害となる者を取り除くのは神もお許しになる】
――取り除かれるのはお前だッ!――
グラシアナはテーブルをバン!!と手のひらで叩いた。
「いタタタ・・・思ったより全面が痛かった・・・」
考えた以上にグラシアナの手の平は貧弱だった。
★~★
次はちょっと時間が変わって20時40分。
楽しい!美味しい!あなたの夕食♡ご一緒したーい♡
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