37 / 48
第37話 情報共有
しおりを挟む
公爵家は広い。屋敷も広いが敷地も当然広い。
門番はグラシアナの乗った馬が駆けてきた時に、その歩みを止めぬよう見張台から駆けてくる馬を確認すると正門を開き、通過すると門を閉じた。
その後は庭の木の枝に渡したロープの端を引き、ロープに取り付けた木の板がカランカランと音を立てて屋敷の中にいる者達に緊急を知らせる。
玄関に駆け込んできたグラシアナを迎えたのは老執事を先頭に数人。
ロペ公爵家にグラシアナと御者が到着した時、御者は気絶し体は馬の尻に頭が乗っていた。
鐙にしっかりと足を引っかけていた御者。御者の腕がグラシアナを掴む手に力が入らず離れても馬からは落ちないよう鐙に引っかけた足の隙間にグラシアナは自分の足を捩じ込んでいた。
従者達が鐙からグラシアナと御者の足を抜き、御者を3人かかりで降ろす。
老執事がまだ騎乗するグラシアナに問いかけた。
「お嬢様!!旦那様は?!パンディトン氏は?!」
門道の先を見ても後から馬が追ってくる様子はない。
必死で御者を落とさないように気遣いながら馬を駆けさせてきたグラシアナもすっかり息が上がり、老執事の問いかけに直ぐに答える事が出来ない。
声よりも息を吐かないと苦しいのだ。
馬を降りようにも手ががっちりと手綱を掴んでいて指を広げることも出来なかった。
★~★
気絶してしまった御者はまだ目覚めない。
グラシアナは老執事たちに何か起こったのかを語った。
「左様で御座いましたか。では旦那様とパンディトン氏はまだ城に?」
「はい。お兄様は帝国の領事館に行くようにと」
「では、そうなさってください」
「だけど!お兄様もクマさんも…放っておいて私だけ安全な所に逃げることは出来ません」
飛んで火にいる夏の虫だと解っていても、議会が欲しているのが自分ならエリアスとパンディトンと引き換えに城にもう一度出向いても構わないとグラシアナは考えたが、使用人達は「旦那様の言葉に従ってくれ」と言う。
思いだすだけで身震いをしてしまう。自分の身が可愛い、逃げられて良かったとは全く思わない。
銃弾はいとも簡単に人を殺める事が出来ると報告書で読んだこともある。
馬車に乗せる時に聞いた事もない鈍い音はきっとパンディトンが銃弾を受けた音。
そして長槍を持った門番たちに囲まれていた兄を思うとクリスティアンの妃になる事を拒否し、それまでの立場でいることも嫌になった自分本位の考えが何と愚かだったのかと自分が嫌になってしまった。
「ご自分を責めてはいけません。話を聞く限り旦那様の想定はほぼ当たっています。旦那様はそれはそれは用意周到に足元を固める方です。大旦那様の血を引くとは思えないほどに」
――私もそう思うわ。ついでにあの母親もだけど――
「低位貴族の半分以上は旦那様が纏めているのですよ。だからご一緒したいのに朝早くから自ら出向き、説得をされていたのです。こんな時に他国の方が理解があるのは情けなくなる。そうおっしゃっておりましたよ」
「半分以上?貴族を纏めて・・・まさかクーデターを?」
「いいえ。そんな事をしたら内乱が勃発するでしょう。王家から離脱をした元王家。こちらは機会を狙っているものもいるのです。皮肉なことに議会が実権を握っているから手出しが出来ないだけですから」
老執事が言うようにこの国は歪。
王家に望まれているのは長く続く直系をと絶やさない事だけで政治に関しては完全に蚊帳の外。国を動かしているのは貴族の一部で構成をさせている議会。
そして長く続く王家のある国を国民も自慢に思っているので大増税など面倒なことが身に降りかからないなら怒りもしない。
議会は本当に国民の顔色を見ながらどこまで税を絞り取れるかを考えて絶妙なバランスを保っている。
ただ、王家にもこれはおかしいと気が付くものが生まれてくる。グラシアナはたとえそれが我が子であっても切り捨てねばならない。議会にとっての異端分子を王家の中から監視し議会に報告をするためだけに育てられてきたのが離れてみた今ならよく判る。
「本来は高位貴族が監視をするのです。愚かであれと監視をするのではなく国のトップ、顔であるか、それに足るか。そんな監視です。旦那様の構想をお聞きになった事は御座いますか?」
「ないわ。だってお兄様はいつも・・・」
行き過ぎた妹愛。それもどんなに幼かろうと守れなかった自分への戒めから来ている思いなのでグラシアナも苦笑いをするしかなかった。
★~★
次は12時10分。その次は14時10分デーッス(=^・^=)v
門番はグラシアナの乗った馬が駆けてきた時に、その歩みを止めぬよう見張台から駆けてくる馬を確認すると正門を開き、通過すると門を閉じた。
その後は庭の木の枝に渡したロープの端を引き、ロープに取り付けた木の板がカランカランと音を立てて屋敷の中にいる者達に緊急を知らせる。
玄関に駆け込んできたグラシアナを迎えたのは老執事を先頭に数人。
ロペ公爵家にグラシアナと御者が到着した時、御者は気絶し体は馬の尻に頭が乗っていた。
鐙にしっかりと足を引っかけていた御者。御者の腕がグラシアナを掴む手に力が入らず離れても馬からは落ちないよう鐙に引っかけた足の隙間にグラシアナは自分の足を捩じ込んでいた。
従者達が鐙からグラシアナと御者の足を抜き、御者を3人かかりで降ろす。
老執事がまだ騎乗するグラシアナに問いかけた。
「お嬢様!!旦那様は?!パンディトン氏は?!」
門道の先を見ても後から馬が追ってくる様子はない。
必死で御者を落とさないように気遣いながら馬を駆けさせてきたグラシアナもすっかり息が上がり、老執事の問いかけに直ぐに答える事が出来ない。
声よりも息を吐かないと苦しいのだ。
馬を降りようにも手ががっちりと手綱を掴んでいて指を広げることも出来なかった。
★~★
気絶してしまった御者はまだ目覚めない。
グラシアナは老執事たちに何か起こったのかを語った。
「左様で御座いましたか。では旦那様とパンディトン氏はまだ城に?」
「はい。お兄様は帝国の領事館に行くようにと」
「では、そうなさってください」
「だけど!お兄様もクマさんも…放っておいて私だけ安全な所に逃げることは出来ません」
飛んで火にいる夏の虫だと解っていても、議会が欲しているのが自分ならエリアスとパンディトンと引き換えに城にもう一度出向いても構わないとグラシアナは考えたが、使用人達は「旦那様の言葉に従ってくれ」と言う。
思いだすだけで身震いをしてしまう。自分の身が可愛い、逃げられて良かったとは全く思わない。
銃弾はいとも簡単に人を殺める事が出来ると報告書で読んだこともある。
馬車に乗せる時に聞いた事もない鈍い音はきっとパンディトンが銃弾を受けた音。
そして長槍を持った門番たちに囲まれていた兄を思うとクリスティアンの妃になる事を拒否し、それまでの立場でいることも嫌になった自分本位の考えが何と愚かだったのかと自分が嫌になってしまった。
「ご自分を責めてはいけません。話を聞く限り旦那様の想定はほぼ当たっています。旦那様はそれはそれは用意周到に足元を固める方です。大旦那様の血を引くとは思えないほどに」
――私もそう思うわ。ついでにあの母親もだけど――
「低位貴族の半分以上は旦那様が纏めているのですよ。だからご一緒したいのに朝早くから自ら出向き、説得をされていたのです。こんな時に他国の方が理解があるのは情けなくなる。そうおっしゃっておりましたよ」
「半分以上?貴族を纏めて・・・まさかクーデターを?」
「いいえ。そんな事をしたら内乱が勃発するでしょう。王家から離脱をした元王家。こちらは機会を狙っているものもいるのです。皮肉なことに議会が実権を握っているから手出しが出来ないだけですから」
老執事が言うようにこの国は歪。
王家に望まれているのは長く続く直系をと絶やさない事だけで政治に関しては完全に蚊帳の外。国を動かしているのは貴族の一部で構成をさせている議会。
そして長く続く王家のある国を国民も自慢に思っているので大増税など面倒なことが身に降りかからないなら怒りもしない。
議会は本当に国民の顔色を見ながらどこまで税を絞り取れるかを考えて絶妙なバランスを保っている。
ただ、王家にもこれはおかしいと気が付くものが生まれてくる。グラシアナはたとえそれが我が子であっても切り捨てねばならない。議会にとっての異端分子を王家の中から監視し議会に報告をするためだけに育てられてきたのが離れてみた今ならよく判る。
「本来は高位貴族が監視をするのです。愚かであれと監視をするのではなく国のトップ、顔であるか、それに足るか。そんな監視です。旦那様の構想をお聞きになった事は御座いますか?」
「ないわ。だってお兄様はいつも・・・」
行き過ぎた妹愛。それもどんなに幼かろうと守れなかった自分への戒めから来ている思いなのでグラシアナも苦笑いをするしかなかった。
★~★
次は12時10分。その次は14時10分デーッス(=^・^=)v
1,458
お気に入りに追加
3,653
あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

貴方でなくても良いのです。
豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる