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第19話 ゴミと言われたぬいぐるみ
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正妃となる事が決まったイメルダは意気揚々とクリスティアンの宮に住まいを移した。
グラシアナは成婚の儀の日取りが決まるまでは国王や王妃と同じ宮に部屋があり、クリスティアンと住まいは別だったが、正妃となる事はほぼ決定だったためイメルダがあてがわれた部屋はグラシアナが使用する予定の部屋となった。
その事が気に入らないのか、イメルダは移動できる家具は全て他の部屋に移させて新しい家具を揃えようと考えた。だが問題あり、揃える事が出来なかった。
実家はイメルダの起こした事の賠償を負い、それどころではないし議会もイメルダについてはどんな理由であれ予算を可決しなかった。
なので、イメルダは国王と王妃の元に行き、改装費用を出してくれと頼んだ。
何も知らない頃なら国王と王妃も「クリスティアンの望んだ女性だから」と出してくれただろうが、クリスティアンから「イメルダとは思っているような関係ではない」と聞かされていたため、出し渋る。
「王妃様だって他の女性が使うために揃えた物を使えと言われれば良い気分にはなりませんでしょう?」
イメルダは痛いところを突く。
国王は側妃こそ召し上げてはいないが、第3王子を妊娠中に女官に手を付けた事がある。烈火の如く怒った王妃は女官を解雇したが、女官の残した私物を見るだけでも気分が悪かった。
幸い女官は懐妊はしなかったがしていればどうなった事か。
イメルダの気持ちが全く分からないでもない王妃はグラシアナが使用していた部屋の荷物を「処分」という名目でならどう扱っても構わないとイメルダに許可を出した。
グラシアナの荷物と言っても年齢に合わせたドレスや幾つかのドレスに使い回しの出来る宝飾品の他、調度品がある程度。全て国の予算から購入した物なので、それを売り払い新しいものを購入するのなら国庫は傷まないと議会も許可を出した。
「辛気臭い部屋。こっちの部屋じゃなくて良かったわ」
そう言って片っ端から引き出しをあけて中身を取り出す従者の仕事ぶりを覗き込む。
「あら?手紙?大人しい振りしてちゃっかり男、作ってたのかしら」
引き出しから取り出したグラシアナの荷物をテーブルに出していく従者の置いた幾つかの手紙の束から1つを手に取り細い麻縄で縛られていた束から1通抜き取って中の封書を取り出した。
「なにこれ。バッカじゃない?見てよ」
「は、はぁ…」
手を止められた従者がイメルダの差し出した便箋を見れば、そこには文字は書けない子供が描いた絵があった。手紙の束が逆になっていたがグラシアナは教会の運営する孤児院や、医療院で生活をする子供たちの慰問をしていたため、手紙の束にはそれぞれ何処の孤児院や医療院なのか名称が書かれているのだと判った。
「マリア医療院に入院している子供が描いたようですね」
「こんなの大事にして何様?何時までもこうやって保管されてたら子供の側からしても黒歴史よね。脅しにでも使うつもりだったのかしら」
「そんな事は・・・医療院の子供は親にも見捨てられていますし」
「だからよ。そこそこの貴族に引き取られて行った子供を脅すつもりだったのよ。酷いわよね」
便せんにあるのは絵だけでどの子供がどの絵を描いたかも判らないのにあり得ないだろうと従者は思ったが、イメルダはクリスティアンの正妃になる事が決定している。
下手に逆らって怒らせてしまえば何をされるか判らず、曖昧に笑って誤魔化した。
その後もウロウロとするイメルダは棚に飾られていたぬいぐるみを掴んだ。
「いい年してぬいぐるみ?可愛いものが好きな私を見て?女子力高いのって言いたい女って感じね。あざといわ」
手にしたクマのぬいぐるみは近衛隊の隊服に似た服を着ているのも気に食わない。
イメルダは従者が引き出しの中から順番に出している品物の中からペーパーナイフを手に取るとぬいぐるみの縫い目に突き立てて思い切り引き裂いた。
「ゴミね。ぬいぐるみなんか買取もしてくれやしないわ。捨てといて」
イメルダが放り投げたぬいぐるみを受け取ったのは護衛に配置されていた近衛騎士だった。
眉を顰めたが、言葉を発することなく近衛騎士はぬいぐるみを背の側に回し、元の姿勢に戻った。
「何をしてるんだ!ここにはイメルダの物などないだろう!」
偶々国王に用事があって訪れていたクリスティアンはグラシアナの使っていた部屋が元の姿を留めていない場にやって来てイメルダに食って掛かった。
「どうせ要らないのでしょう?許可は貰ってるわ」
「許可?!誰に!」
「陛下と王妃様、それから議会も構わないって。ほら、議会の承認書もあるわ」
ひらりとイメルダがクリスティアンに突き付けたのは本物の承認書。
クリスティアンはここだけはそのままに残しておいて、グラシアナを側妃と迎え入れることが出来た時は「何も変わってないだろう?」と安心させてやるつもりだった。
イメルダはクリスティアンの目の前で「これはこの商会、こっちはこの商会に持って行って」と采配する。家具やドレス、宝飾品は次々に金に変わりクリスティアンの宮にあるイメルダの部屋の改装費用は捻出されていった。
何も無くなった部屋でクリスティアンが茫然としていると近衛騎士が声を掛けた。
「殿下。こちらはどういたしましょう」
「なんだこれは」
「グラシアナ様のぬいぐるみです。近衛隊で武術を指導していましたので数年前に皆で金を出し合い、誕生日の贈り物としたと聞いています。私が入隊する前の事のようですが大事にしてくれていたので」
「そうか。判った」
中綿が飛び出しボロボロになったぬいぐるみは確かに日焼けもしていて数年前の物。
「そう言えば贈り物って…アハハ。売られちゃったか。持って行けば喜ぶかな」
クリスティアンが選んで贈ったものではないが、グラシアナが婚約者として購入したものはイメルダに全て売られてしまった。
そのまま持って行こうとしたクリスティアンだったが、新しいものを買い、新品に入れかえれば良いと安易に考えた。しかしぬいぐるみは数年前の限定品で同じ物はもう売ってはいなかった。
下手に手を入れて余計に酷くなってしまえば本当にゴミになってしまう。
これ以上の破損をしないようにぬいぐるみはそのまま袋に入れられた。
グラシアナは成婚の儀の日取りが決まるまでは国王や王妃と同じ宮に部屋があり、クリスティアンと住まいは別だったが、正妃となる事はほぼ決定だったためイメルダがあてがわれた部屋はグラシアナが使用する予定の部屋となった。
その事が気に入らないのか、イメルダは移動できる家具は全て他の部屋に移させて新しい家具を揃えようと考えた。だが問題あり、揃える事が出来なかった。
実家はイメルダの起こした事の賠償を負い、それどころではないし議会もイメルダについてはどんな理由であれ予算を可決しなかった。
なので、イメルダは国王と王妃の元に行き、改装費用を出してくれと頼んだ。
何も知らない頃なら国王と王妃も「クリスティアンの望んだ女性だから」と出してくれただろうが、クリスティアンから「イメルダとは思っているような関係ではない」と聞かされていたため、出し渋る。
「王妃様だって他の女性が使うために揃えた物を使えと言われれば良い気分にはなりませんでしょう?」
イメルダは痛いところを突く。
国王は側妃こそ召し上げてはいないが、第3王子を妊娠中に女官に手を付けた事がある。烈火の如く怒った王妃は女官を解雇したが、女官の残した私物を見るだけでも気分が悪かった。
幸い女官は懐妊はしなかったがしていればどうなった事か。
イメルダの気持ちが全く分からないでもない王妃はグラシアナが使用していた部屋の荷物を「処分」という名目でならどう扱っても構わないとイメルダに許可を出した。
グラシアナの荷物と言っても年齢に合わせたドレスや幾つかのドレスに使い回しの出来る宝飾品の他、調度品がある程度。全て国の予算から購入した物なので、それを売り払い新しいものを購入するのなら国庫は傷まないと議会も許可を出した。
「辛気臭い部屋。こっちの部屋じゃなくて良かったわ」
そう言って片っ端から引き出しをあけて中身を取り出す従者の仕事ぶりを覗き込む。
「あら?手紙?大人しい振りしてちゃっかり男、作ってたのかしら」
引き出しから取り出したグラシアナの荷物をテーブルに出していく従者の置いた幾つかの手紙の束から1つを手に取り細い麻縄で縛られていた束から1通抜き取って中の封書を取り出した。
「なにこれ。バッカじゃない?見てよ」
「は、はぁ…」
手を止められた従者がイメルダの差し出した便箋を見れば、そこには文字は書けない子供が描いた絵があった。手紙の束が逆になっていたがグラシアナは教会の運営する孤児院や、医療院で生活をする子供たちの慰問をしていたため、手紙の束にはそれぞれ何処の孤児院や医療院なのか名称が書かれているのだと判った。
「マリア医療院に入院している子供が描いたようですね」
「こんなの大事にして何様?何時までもこうやって保管されてたら子供の側からしても黒歴史よね。脅しにでも使うつもりだったのかしら」
「そんな事は・・・医療院の子供は親にも見捨てられていますし」
「だからよ。そこそこの貴族に引き取られて行った子供を脅すつもりだったのよ。酷いわよね」
便せんにあるのは絵だけでどの子供がどの絵を描いたかも判らないのにあり得ないだろうと従者は思ったが、イメルダはクリスティアンの正妃になる事が決定している。
下手に逆らって怒らせてしまえば何をされるか判らず、曖昧に笑って誤魔化した。
その後もウロウロとするイメルダは棚に飾られていたぬいぐるみを掴んだ。
「いい年してぬいぐるみ?可愛いものが好きな私を見て?女子力高いのって言いたい女って感じね。あざといわ」
手にしたクマのぬいぐるみは近衛隊の隊服に似た服を着ているのも気に食わない。
イメルダは従者が引き出しの中から順番に出している品物の中からペーパーナイフを手に取るとぬいぐるみの縫い目に突き立てて思い切り引き裂いた。
「ゴミね。ぬいぐるみなんか買取もしてくれやしないわ。捨てといて」
イメルダが放り投げたぬいぐるみを受け取ったのは護衛に配置されていた近衛騎士だった。
眉を顰めたが、言葉を発することなく近衛騎士はぬいぐるみを背の側に回し、元の姿勢に戻った。
「何をしてるんだ!ここにはイメルダの物などないだろう!」
偶々国王に用事があって訪れていたクリスティアンはグラシアナの使っていた部屋が元の姿を留めていない場にやって来てイメルダに食って掛かった。
「どうせ要らないのでしょう?許可は貰ってるわ」
「許可?!誰に!」
「陛下と王妃様、それから議会も構わないって。ほら、議会の承認書もあるわ」
ひらりとイメルダがクリスティアンに突き付けたのは本物の承認書。
クリスティアンはここだけはそのままに残しておいて、グラシアナを側妃と迎え入れることが出来た時は「何も変わってないだろう?」と安心させてやるつもりだった。
イメルダはクリスティアンの目の前で「これはこの商会、こっちはこの商会に持って行って」と采配する。家具やドレス、宝飾品は次々に金に変わりクリスティアンの宮にあるイメルダの部屋の改装費用は捻出されていった。
何も無くなった部屋でクリスティアンが茫然としていると近衛騎士が声を掛けた。
「殿下。こちらはどういたしましょう」
「なんだこれは」
「グラシアナ様のぬいぐるみです。近衛隊で武術を指導していましたので数年前に皆で金を出し合い、誕生日の贈り物としたと聞いています。私が入隊する前の事のようですが大事にしてくれていたので」
「そうか。判った」
中綿が飛び出しボロボロになったぬいぐるみは確かに日焼けもしていて数年前の物。
「そう言えば贈り物って…アハハ。売られちゃったか。持って行けば喜ぶかな」
クリスティアンが選んで贈ったものではないが、グラシアナが婚約者として購入したものはイメルダに全て売られてしまった。
そのまま持って行こうとしたクリスティアンだったが、新しいものを買い、新品に入れかえれば良いと安易に考えた。しかしぬいぐるみは数年前の限定品で同じ物はもう売ってはいなかった。
下手に手を入れて余計に酷くなってしまえば本当にゴミになってしまう。
これ以上の破損をしないようにぬいぐるみはそのまま袋に入れられた。
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