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第16話 不意打ちなんてズルい!
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「無事で良かった。足の方はもう?」
「え、えぇ…お医者様が大袈裟なだけでしたの。ホホホ」
「なんだか調子が狂うな。いつもなら侍医って言ってた気がするが」
「そ、そうでした??気のせいでは?」
「気のせいか…そう言えば何も覚えてないと聞いた。記憶喪失と言うんだそうだな」
「そうなんですの。なので皆様にはご迷惑ばかりお掛けてしまって申し訳ないのです」
冷や汗が止まらない。
パンディトンはグラシアナが剣や護身術などの武術を習い始めた頃からの知り合いでもある。
6歳のグラシアナに一番年齢も近い17歳だったパンディトン。
近衛騎士も正直な所「子供の面倒」までは見たいと思わないし、女の子の場合は手加減も必要になる。武術を習い始めた頃にグラシアナきちんと向き合って話をしてくれるのは近衛隊長とパンディトンだけだった。
だからこそ、騎士団長やパンディトンだけには弱音も吐いた事があるし、近衛騎士達に育てられた感もあるためグラシアナは安心感もあって泣いたりした事もある。
ちらりとパンディトンに目を向ければ愛想笑いをする度に睨まれている気もする。
ソファに座ってくれたまでは良かったが、膝の上に指をトントンとリズムを刻むように打つ姿はパンディトンがグラシアナに言った事がある。
「苛立っている時だけ、やってしまうんだ」と。
――不味い・・・かなり苛立ってる。トントンが止まらないわ――
これは場を変えねば…と「庭をご案内します」とグラシアナは誘った。
案内するほど隅々まで知っている訳ではない。それでも部屋の中漂う空気には耐えられなかった。
「案内?貴女が?」
「え、えぇ…あまり花には興味が御座いませんか?」
「いいや。なんだか外の空気に当たりたいと思われたのかと」
――ドキッ!!バレてるし…速攻バレてるし――
案内をすると言いながらもまだ1カ月も住んでいない屋敷。見える部分にしか何が植えられているかも判らず、順路にあたる小道も判らない。
だから不意を突かれた攻撃に演じることを忘れてしまった。
パンディトンは立ち上がる素振りをしながら、菓子の入った籠から1つ菓子を抓むと何も言わずにグラシアナに向かってポイッと放り投げた。
パシッ!!
咄嗟の事で片手で投げられた菓子を簡単に、しかも片手で受け取ってしまった。
「あ‥‥」
「ふぅん。体は覚えているのかな?それとも?」
――やっちゃった…不意打ちなんてズルい!――
普通の令嬢ならキャッチする事は出来ないだろうし、キャッチしようとしても片手で取ることはせず両手の手の平をボゥルのようにして受け取ろうとするだろう。
――ダメだわ。誤魔化せそうにない――
パンディトンには嘘を吐けない。
グラシアナは周囲に使用人がいないのを確認して記憶喪失ではない理由を話した。
「降参。本当のことを言うわ。記憶はちゃんとあるの。何も忘れてないわ」
「やはりな。だがエリアスをよく騙せたな」
パンディトンから見てエリアスは年齢は年下だが、騙せるような相手ではない。
エリアスも騙されているのを判っている訳ではなさそうなので、直ぐには信じられない気持ちだった。
「会話をしたのなんて挨拶を除いたら初めてだもの」
それもそうかと思い直す。
ほぼ初見の兄妹。エリアスが知っているグラシアナは近衛騎士が見た姿など誰かを通しての情報に基づいている。一緒に育ってきた兄妹なら兄妹しか知らない面もあるだろうが、この2人はそんな生き方をしてきていなかった。
「なら、本当のことを言ってやるといい。エリアスは本気で心配をしている」
「そうかしら…両親ですら嘘の塊なのよ。信じるにはまだ時期尚早だわ」
「俺のことは無条件で信じるのに?信じてやれよ」
自分の事を特別視してくれているようで嬉しくもあるが優越感ではない。為政者により引き離された兄妹には普通の兄弟姉妹にはある信頼はなく、深い溝を感じパンディトンは寂しさも感じてしまった。
★~★
この次は22時22分(最終話じゃないよ???)
そして明日に続くのだった(=^・^=)
「え、えぇ…お医者様が大袈裟なだけでしたの。ホホホ」
「なんだか調子が狂うな。いつもなら侍医って言ってた気がするが」
「そ、そうでした??気のせいでは?」
「気のせいか…そう言えば何も覚えてないと聞いた。記憶喪失と言うんだそうだな」
「そうなんですの。なので皆様にはご迷惑ばかりお掛けてしまって申し訳ないのです」
冷や汗が止まらない。
パンディトンはグラシアナが剣や護身術などの武術を習い始めた頃からの知り合いでもある。
6歳のグラシアナに一番年齢も近い17歳だったパンディトン。
近衛騎士も正直な所「子供の面倒」までは見たいと思わないし、女の子の場合は手加減も必要になる。武術を習い始めた頃にグラシアナきちんと向き合って話をしてくれるのは近衛隊長とパンディトンだけだった。
だからこそ、騎士団長やパンディトンだけには弱音も吐いた事があるし、近衛騎士達に育てられた感もあるためグラシアナは安心感もあって泣いたりした事もある。
ちらりとパンディトンに目を向ければ愛想笑いをする度に睨まれている気もする。
ソファに座ってくれたまでは良かったが、膝の上に指をトントンとリズムを刻むように打つ姿はパンディトンがグラシアナに言った事がある。
「苛立っている時だけ、やってしまうんだ」と。
――不味い・・・かなり苛立ってる。トントンが止まらないわ――
これは場を変えねば…と「庭をご案内します」とグラシアナは誘った。
案内するほど隅々まで知っている訳ではない。それでも部屋の中漂う空気には耐えられなかった。
「案内?貴女が?」
「え、えぇ…あまり花には興味が御座いませんか?」
「いいや。なんだか外の空気に当たりたいと思われたのかと」
――ドキッ!!バレてるし…速攻バレてるし――
案内をすると言いながらもまだ1カ月も住んでいない屋敷。見える部分にしか何が植えられているかも判らず、順路にあたる小道も判らない。
だから不意を突かれた攻撃に演じることを忘れてしまった。
パンディトンは立ち上がる素振りをしながら、菓子の入った籠から1つ菓子を抓むと何も言わずにグラシアナに向かってポイッと放り投げた。
パシッ!!
咄嗟の事で片手で投げられた菓子を簡単に、しかも片手で受け取ってしまった。
「あ‥‥」
「ふぅん。体は覚えているのかな?それとも?」
――やっちゃった…不意打ちなんてズルい!――
普通の令嬢ならキャッチする事は出来ないだろうし、キャッチしようとしても片手で取ることはせず両手の手の平をボゥルのようにして受け取ろうとするだろう。
――ダメだわ。誤魔化せそうにない――
パンディトンには嘘を吐けない。
グラシアナは周囲に使用人がいないのを確認して記憶喪失ではない理由を話した。
「降参。本当のことを言うわ。記憶はちゃんとあるの。何も忘れてないわ」
「やはりな。だがエリアスをよく騙せたな」
パンディトンから見てエリアスは年齢は年下だが、騙せるような相手ではない。
エリアスも騙されているのを判っている訳ではなさそうなので、直ぐには信じられない気持ちだった。
「会話をしたのなんて挨拶を除いたら初めてだもの」
それもそうかと思い直す。
ほぼ初見の兄妹。エリアスが知っているグラシアナは近衛騎士が見た姿など誰かを通しての情報に基づいている。一緒に育ってきた兄妹なら兄妹しか知らない面もあるだろうが、この2人はそんな生き方をしてきていなかった。
「なら、本当のことを言ってやるといい。エリアスは本気で心配をしている」
「そうかしら…両親ですら嘘の塊なのよ。信じるにはまだ時期尚早だわ」
「俺のことは無条件で信じるのに?信じてやれよ」
自分の事を特別視してくれているようで嬉しくもあるが優越感ではない。為政者により引き離された兄妹には普通の兄弟姉妹にはある信頼はなく、深い溝を感じパンディトンは寂しさも感じてしまった。
★~★
この次は22時22分(最終話じゃないよ???)
そして明日に続くのだった(=^・^=)
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