あなたの事は記憶に御座いません

cyaru

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第08話  真実の愛のお相手

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グラシアナがロペ公爵家に戻り療養する許可が議会で可決をされた。

なんとも面倒な事だが議会によって選ばれた婚約者の制約の1つでもある。

ロペ公爵夫妻は毎日グラシアナの元に見舞いに来た。

仲良く出来るかとなれば否。
少し前はグラシアナ、そして今は兄をいとも簡単に自分たちが生きるために切り離そうとする両親ととてもではないが仲良くなど出来はしない。


「エリアスも来ればいいのだが…用事があると言って時間が取れないのだそうだ」
「左様でございますか」


エリアスと言うのはロペ公爵家の第一子であり嫡男。次期公爵の仕事で忙しいのだとロペ公爵は言う。

どんな性格の兄なのか。
ロペ公爵夫妻が言うには思春期を迎えた頃からは口数が少なくなり、もう27歳になるが浮いた話の1つもなく婚約者を選ぼうと話をしても「執務に追われてそれどころではない」とにべもない。


――そう言えばお兄様は殿下と同じ年齢なのだわ――

物心ついた時には兄だけでなく親とも離れて暮らしていた事もあり、兄の情報を両親から聞き出そうとしたのだが何とも頼りない情報しか得られない。

――結局子供を蔑ろにするから何もわからないのよ――

表情はニコニコと微笑みながらロペ公爵夫妻の話を聞いていたグラシアナだが、内心はかなりはらわたが煮えくり返る思いだった。

いろいろと話は聞けたのだが、聞くたびに感じるのは両親の残念度合。
グラシアナの部屋があるのかと思えば「急いで用意させている」と言うから、公爵家では居ない者として扱われていたのだろう。

なんせ「誕生日は何時だったか?」とグラシアナの誕生日を従者に聞く始末。
生みの親である母親ですら「初夏・・・初秋だったかしら?」と首を傾げる。

――出産経験2回じゃないの?それも覚えていないの?――

グラシアナに出産の経験はないけれど、7、8人に1人は出産で重篤な状態になると言うのになんともお気楽なものだ。本当にこの母親から自分が生まれたのか?と疑念さえ抱いてしまう。

しかしロペ公爵がその後をどうするかは別として「婚約の解消若しくは破棄」に動いている事は間違いなかった。

議会も侍医の診断により今後グラシアナが歩行も困難となれば次代の王妃について見直しは余儀なくされる。問題はその代わりとなる令嬢がいないこと。

――1人いるじゃない!真実の愛で結ばれた女性が!――

声高らかに叫びたいが、記憶喪失設定としてしまったため知らぬふりをするしかない。


議会も決めかねているのは解る。
イメルダは自身の名前ですら間違う事もある「トンデモ令嬢」であり、茶会や夜会と聞けば足繁く出向いているがそれだけ。年齢も兄やクリスティアンと同じ27歳で完全なる嫁遅れいきおくれなのは間違いない。

グラシアナが14歳だったか15歳だったか。当時20歳になるかどうかのイメルダを受け入れてもいいと言う伯爵家があったのだが、イメルダがお断りをした。

その時周囲は「断るなんてどういう了見だ?」「失礼にも程がある」と誰もがイメルダからお断りをした事に驚いた。

グラシアナはその件を聞いた際に「女性から断るのは非礼なんて風潮はおかしい」と思ったのだが実はそういう理由ではなかった。

オルタ侯爵家のイメルダと言えば見た目は27歳には見えない幼い顔立ちに男性を誘うような豊満な肉体。美容には惜しむ事なく金を使う令嬢で有名だった。

夜会でも胸元を強調したドレスを着ている事が多く、グラシアナも「足元が見えるのかな?」と思った事がある。

クリスティアンがイメルダを側に置き始めた時、近衛騎士達の立ち話で「大きな胸は憧れ」との言葉も聞いた。だからクリスティアンもそうなのだろうなと思った事だった。


そんな人の目を引く容姿なのに敬遠されているのにも理由がある。
イメルダを敬遠するのは他人の婚約者にちょっかいを出し、立場に物を言わせて時に寝取った事もある。クリスティアンが側に侍らせた頃にはもう聞こえ無くもなったが「マリッジ・クラッシャー」とイメルダには二つ名があった。

そして色目を使うこと以外に兎に角、散財家で光物に目がない。オルタ侯爵家は侯爵家なのでそれなりの資産もあるのだが余りにもイメルダが使い過ぎて領地を1つ売った。

新発売、新製品、話題の品。そんなうたい文句に弱くて我慢をする事が出来ない。と言って、買った品にセンスがあるのかと言えば「高額なので良い商品」的な考え方。

自分の名前もまともに書けず、買い物好きだからと言って目利きが出来る訳でもセンスがあるわけでもない。

お断りをされた伯爵家の子息は平々凡々な見た目でとりわけこれ!と言った売りも無かったそうだがイメルダに断られた後、逆に「どんな男だ?」と噂になり今では同じ爵位の伯爵家から妻を娶り、子供にも恵まれている。


そんなイメルダがいると言うのに、クリスティアンは毎日見舞いにやってくる。

「シア。あぁ今日もなんて可愛いんだ。眩しくて目が潰れそうだよ」

グラシアナは指をチョキの形にして「突いてやろうか?」と心で呟いた。
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