チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru

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姉が弟に託した大作戦

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前日の夜に時間を巻き戻します。 ジーコジーコ。
あぁ、手動のゼンマイ時計です。作者がアナログなのです。スルーしてください。

宿屋に送ったローゼを思いながら屋敷に帰ってきたレイ君。
何時になく弟から生温かい風が吹いてくるのを姉のシュルペロローゼ(以下ルぺ)は感じ取ります。

「レイ、ご機嫌のようですね」
「姉上…ただいま戻りました」
「巡回はどうでしたの?変わった事はありませんでしたか」
「えぇ。酔っ払いのケンカと…客引きと…クックック」

どうやらドヴォルザー家は夜間の繁華街の巡回もしているようですね。
ですが、突然笑い出す弟にルぺは目が丸くなります。

「どうしたのです?笑い茸でも食べたのですか?」

ふとレイ君何かを思いついたようです。
姉のルぺは社交界でも名を知らぬ者がいないと言われるほどの女性です。
【蘭の君】と言えば姉、ルぺの事です。

「姉上、姉上は男性からの申し入れに応える時はどのようなアプローチをされた時ですか」

思わず持っていた扇を落っことし、途中まで下りた階段を踏み外そうになるルぺ。
あの堅物の弟が??雷鳴の貴公子と呼ばれ言い寄るご令嬢をバッチバチに黒焦げにする弟が??

「え、えぇっと…わたくしの耳に異常がないなら女性へのアプローチと聞こえましたが」
「えぇ。姉上ならどんな誘いをする殿方にと思いまして」

ルぺの頭の中は大混乱します。

WAIT!ウェイト!ウェイトッ!!待って。待って待って。
白い獅子ではないけれど!!お待ちなさい!わたくし思考回路が壊れたのかしら?
もしかすると先程からの生温かい風に鼓膜にカビが生えたのかしら!!

「ちょ、ちょっとお待ちなさい‥‥おかしいわ…ハァハァ‥‥不整脈かしら…」
「どうされたのです。姉上」

ハっとするルぺ。弟が近寄ってくるといつもは北極圏か!と思うようなトゲトゲの冷気を纏っているのに今の弟はどうでしょうか!!ポワっと丸くてフワフワした日向ぼっこのような温かさを感じます。
生温かい風の原因かこれか!っと危険を察知。トントントントン…重機の、いえ、省略します。

「レイ…あなたもしかして…」
「なんでしょうか」
「あ、姉のわたくしが言うのもどうかと思いますが…まさか‥‥恋?をしてるの?」
「恋‥‥あぁそうかも知れません。こんな気持ちは初めてなのでハッキリとは言えませんが…そうかも知れません」

ヒュっと息を止めるルぺ。

(認めた?ええっ?いえ、確かに認めたわ‥‥壊れたのかしら?世紀末?いえいえ一昨年新しい世紀になったばかりだわ…)

弟の瞳を見ると、それは恋をする瞳!!

(フォォォォ!弟にも!やっとやっと!春が来たのね!万年氷河期かと思っていた弟に!あぁ!神様こんな日を生きて迎える事が出来ようとは!!)

キリっと姿勢を整えたルぺは階段をゆっくりとしっかりおりてきます。
弟のレイの肩にバン!っと手を置くと

「よくやった。よくやったわ!我が弟よ!さぁ話してごらんなさい!どこのご令嬢なの?髪の色は?瞳は?身長は?スリーサイズはどう?足のサイズは?家族構成は??」

いやいや。。。前半は判るとしても後半をこの時点で知っていたらただのストーカーですよ!
知ってることがおかしいって!!

「髪はプラチナブロンドでこのくらいの長さで‥瞳は紫がかった赤で。155センチいや156かな。体重は食事前が44キロで食後は45を少し過ぎたかな…」

知ってるんかいー!!ヤバいやろ!何処で知った?広辞苑か?掲載されとらんわー!!

「多分…明日王都を観光すると思うのです」

ポっと頬を赤らめる弟に昔、手を引いて王子様ごっこをした事を思い出すルぺ。

(あぁ!こんな日が来るなんて!弟よぉぉぉぉ!萌える!燃える!任せなさい!姉様に任せなさい!)

と、言う事がありまして、夜中までさりげなく自分をアピールする服をコーデされた挙句、男性用パックで肌を整えられて、夜中の3時にまで及ぶ検討会議。

朝は使用人全員に父母を叩き起こし、小旗を振って見送ります。出征か!!

【勝ってくるぞと勇ましくぅぅぅ~♪】

使用人たちの勇ましい軍歌に見送られて出陣したレイ君。

☆~☆~☆~☆

ソファで茫然とするレイ君を見て、まさかあれほどの作戦が失敗か!?と駆け寄るルぺ。

「ど、どうしたのです!本命ガチガチの出来レース並みに的中したのでしょう?」
「姉上‥‥やってしまいました」

あぁ、幼い日を彷彿させる目に涙を溜めた弟。
女の子のような見た目の弟にドレスをきせて生きた着せ替え遊びをして泣いてしまった弟を思い出すルぺ。

「まさかノルマンディー作戦が失敗したの??」

え?一応名前つけてたんですか?ってか、作戦って何ですか!!

「髪飾りは受け取ってもらえたのです」
「弟よ!勿論その髪飾りの石の色は!!」
「僕の瞳と同じ翡翠のついた髪飾りです」
「イヤッシャー!よくやった!で?何をそんなに塞ぎこんでいるの?」
「帰ってしまったんです‥‥領地へ…」
「そんなもの!追いかければよろしい!で?何処に帰ったの?」

うるうるとした目で姉のルぺを見る弟レイ。

「東の方‥‥しかわかりません」

えぇぇぇ??っと思わず後ずさるルぺ。

国土のほぼ西よりに位置する王都。東の方は一番遠くて馬車で2週間。一番領地の数が多いです。
読者の皆様の世界でいうならば、北極点に居て「南に行った」と言われるくらいの数の多さと思ってください。

はぁっと肩を落とす姉のルぺ。それ以上に落ち込むレイ。

やっと春が来たと昨夜温かかったサロンは、雨季に入ったように涙で湿気ておりました。
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