チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru

文字の大きさ
上 下
8 / 44

堅物令息はデートに誘う

しおりを挟む
「ホェェ~よく寝たぁ」

翌朝目覚めたローゼは何故かシーツをスリスリしています。
そしてベッドをギュッギュと押していますね。

「このベッド。柔らかいんだけど沈み込まない程よい固さなんだよねぇ。気持ちいい~」

時計をちらりとみると、2回転程ゴロゴロ。反対側にゴロゴロ。
どうやら宿屋のベッドを堪能しているようです。

「おっといけない。朝食は7時からって書いてあったわ。王都名物あるかなぁ~」

ワンピースに着替えるとパジャマをグイグイリュックにねじ込みます。
しかし途中で何かに気が付いたようです。

「いけない!日焼け止めと歯ブラシが奥にあるんだった!」

ねじ込んだパジャマを出してお目当てのものと取り出すと今度はパジャマをたたんでクルクル。
コンパクトにまとめてリュックの底に入れていきます。
最初からそうしようよ・・・。

顔を洗うために洗面室に行くと、ピキーンと固まります。

「こっこれは!!!!」

洗面台のわきにある籐籠を見て固まっています。

「歯ブラシ…うわっ固形石鹸じゃないの!フォォォォ~!ジャンプ―とトリートメント!!
持ってきたトラベルセットの意味が!王都って色々凄いわ…」

田舎では固形石鹸など使っていると言っただけで注目の的です。
紙に包まれた小さな1、2回分の石鹸をじぃぃぃ~っと見ていますが思わず歓声をあげます。

「えぇぇぇっ!お持ち帰りしていいの?すごぉぉい!!」

籐籠に貼り付けられた小さなメッセージカード。

【ご自由にお使いください。使い切れなかった分はお持ち帰り可能です。大容量タイプはインフォメーション横カウンターにて販売中】

おぉ、悶えておりますね。ブレませんよローゼ。流石です。
洗面室のたった5分で10話くらいの更新を作者にさせる気のようですがそうは問屋が卸しません。
はい、次行きますよローゼ!!

朝食もローゼを満足させるものばかり。

「くぅ~この真っ黒いヌードル。朝から濃いわぁ~♡流石王都!!」

全部を食べきろうと思ったビュッフェタイプの朝食ですが6割を制覇したところでお腹はパンパン。
あまり食べすぎると何かの衝撃で飛び出しそうです。

「ここまでね…ぬぅ!残念だけど…お持ち帰りは出来そうにないし見るだけで残りは勘弁してやるわ!」

食堂で見るだけ食事を十分に堪能して部屋に戻りガイドブックを開きます。
帰りの馬車の出立時間が16:05分ですのでそれまで行けそうなところに行く気ですね。

「えっとここは徒歩で30分かぁ‥‥こっちは15分だけど。道が複雑ねぇ…」

ガイドブックのマップには乗合馬車と徒歩の時間が書かれていますがローゼは母の言葉を思い出します。

【いいこと?王都は乗合馬車の時間は絶対なのです。遅れたら乗せてはもらえませんよ】

田舎では結構ルーズ。誰それが来るはずだと乗客が言えば30分程度なら待ってくれますし、走り出しても【おーい!待ってくれ!】と叫べば止まってくれます。
だけど馬車停での様子を到着時に見た限り、定刻になるとさっさと発車してしまってました。

【出発時刻の10分前にはお集まりください】

と幾つも看板があった事を忘れていません。

「と、なると‥‥15時30分には戻ってなきゃいけないわねぇ」

うーんっと考える事10分ほど。【よし。決めた】っと声をあげるとリュックを背負いインフォメーションに向かい会計を済ませると宿屋の玄関を出ます。

片手にガイドブック。右見て左見てガイドブック見て右見て…。
真っすぐ歩き出そうとすると声をかけられました。

「昨日のお嬢さん。いえ。ローゼ嬢。おはようございます」

名前を呼ばれたローゼはビックリしてキョロキョロとします。
そこには、満面の笑みをたたえた昨夜ぶりのレイ君が昨日とは違ったカジュアルな服装で手を振っています。
ペコリと頭を下げるとローゼはレイ君に走り寄ります。

「危ないですよ。大丈夫ですか」
「大丈夫ですわ。どうされましたの?こんな朝早くに」
「いえ、もし王都を観光されるのならご案内しようと思いまして」
「本当?…っとありがたいのですけど時間がありますの。ごめんなさい」
「時間?どなたかと待ち合わせですか」
「いいえ。このガイドブックのここと、ここと、ここと…ここ。あと時間が余ればここも行くんです」

その説明に思わずレイ君は冷や汗が流れます。
それもそのはず、皆様の世界でいうならば、新宿あたりからまず成田山に行ってその足で八景島で景色を見た後、東照宮に行って、スカイツリーでお買い物、最期に軽井沢でソフトクリームを食べた後、上野でパンダを見てからという軍隊でも1日じゃ絶対に無理という鬼の行軍工程です。

「あのローゼ嬢」
「なんですの?」
「はっきりと言いますが無理ですよ」
「えっ?」
「その工程ですと少なくとも移動時間も含めて4日は必要だと思います」
「そうなの‥‥」

肩を落としてシュンとするローゼを見てレイ君はまた胸がキュインとします。

「わたくしの別荘がありますから宿泊すればよいですよ」
「あ~それは無理ですわ」
「そ、そうですね。知り合ったばかりですし怖いですよね。失礼しました」
「ううん。そうじゃなくて16時05分発の馬車で帰るから無理なの」

ローゼはそう言ってまたガイドブックに目を落とします。
ブツブツと言いながらここならいけるかなぁと思案をしているようです。

「では馬車に間に合うような場所をご案内いたしますよ」
「いいの?でも‥‥大丈夫ですわ。レイ君の時間をとるわけにはいかないですもの」
「フフっ…とても美味しくて王都でしか食べられないスイーツもありますよ」
「本当?あ~どうしよう…」
「さぁ、行きましょう。迷った時は先ず行動です」
「そうなの?」
「えぇ」
「あの・・・今更なんだけど…レイ君は変な人じゃないですわよね?」
「ふふっ本当に…貴女と言う人は。教えてあげましょう。変な人は必ずこう返事をします」

「違いますよ‥‥ってね」

ふぇっ?っとしか声の出ないローゼ。

(どうしよう。って事はレイ君は変な人なんだわ…)

ローゼ。今更です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男装の公爵令嬢ドレスを着る

おみなしづき
恋愛
父親は、公爵で騎士団長。 双子の兄も父親の騎士団に所属した。 そんな家族の末っ子として産まれたアデルが、幼い頃から騎士を目指すのは自然な事だった。 男装をして、口調も父や兄達と同じく男勝り。 けれど、そんな彼女でも婚約者がいた。 「アデル……ローマン殿下に婚約を破棄された。どうしてだ?」 「ローマン殿下には心に決めた方がいるからです」 父も兄達も殺気立ったけれど、アデルはローマンに全く未練はなかった。 すると、婚約破棄を待っていたかのようにアデルに婚約を申し込む手紙が届いて……。 ※暴力的描写もたまに出ます。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

公爵令嬢、身代わり妻になる?!

cyaru
恋愛
ガルティネ公爵家の令嬢プリエラ。16歳。 王太子と父の謀りで投獄をされ、市井に放りだされた瞬間に兵士に襲われそうになってしまった。這う這うの体で逃げたものの、今度は身なりの良さに誘拐されそうになり咄嗟に幌馬車に飛び込んだ。その幌馬車は遠い田舎街に向かう馬車だった。 幌馬車では同乗の女性が切羽詰まった顔でプリエラの手を握ってくる。諸事情を抱えた女性は土下座でプリエラに頼み込んだ。 「必ず見つけるからそれまで身代わりになって!大丈夫!不能だから!」 不能かどうかまでは判らないが、少なくとも王太子よりはマシ。 兄や叔母に連絡を取ろうにもお金もなく、知らなかった市井の生活に衝撃を受けたプリエラは身代わり妻を引き受けた。 そして【嫁ぎ先】となる家に案内をされたのだが、そこにいた男、マクシムはとんでもない男だった?! 居なくなったプリエラを探す王太子ジョルジュも継承権を放棄して探しに行くと言い出した?! ♡はプリエラ視点 △はジョルジュ視点 ☆はマクシム視点(7話目以降から登場) ★はその他の視点です ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」  十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。  だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。  今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。  そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。  突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。  リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?  そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?  わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。

処理中です...