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第16話 手順を踏まない2人
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ルシアーノは王妃により宮を移された。
暫く使っていなかった宮だが、「清掃はしておいたから、内装を変えたいなら自由になさい」と言われ、手順を知らないルシアーノとジェセニア。
いきなり職人たちを呼び、その場で改装工事をしろと命じた。
「図面は?どういう風に改装するんです?」
「図面?なんだそれは。工事はして良いと許可は得ている。さっさと始めろ」
始めろと言われても、どの部屋を改装するのかも判らないし、壁紙を張り替えるだけ、床材を敷き替えるだけ、それとも壁を抜いたりするのか。ルシアーノは始めろと言うだけで埒が明かない。
困り果てた職人たち。
「この壁はどうするんです?要りますか?要らないんですか?」
「壁は必要に決まっているだろう!」
「じゃ、壁紙を張り替えるだけですか?」
「そうそう!えぇっと…どんな壁紙があるの?」
頂戴♡と両手の手のひらを上に職人に差し出すジェセニアだが、職人たちはまたもや困った。基本的にどんな壁紙にするかを決めてから実際に仕事をする職人を手配するもの。
青果店に行って「今日の夕食の材料を頂戴」と何を作るのかも不明なまま突然言われているようなもので、献立に相当する図面などは決めてくれていないと話にならない。
通常は「材工共」で材料も工賃も込みで見積もりなどをするものだが、それすらなくいきなり呼ばれたのだ。王族だから支払いが滞る事はないだろうとやって来ただけ。
職人の親方が簡単なフローチャートを書いてルシアーノに手渡した。
「なんだ?この四角や楕円で囲った文字は」
「先ずですね、どんなふうに改装をするのかを話し合って決めてください。予算も含めてです。これが一番上で通常ここに半年ほどかかりますよ?次に改装をしている間はその部屋が使えませんので移って頂く計画、その次に材料などを仮置きする場の計画、これはうっかり触ると崩れてしまった時に大事故になりますから。で、各部屋の床、壁、天井、窓、他にカーテンなどの備品、それを選んで頂きます。その次に大きさがありますので設置で――」
「あー!もういい!こんな面倒な事が出来るか!金は払うと言っているのに判らないやつだな。だから平民は馬鹿だと言われるんだ!何年この仕事をしてるんだ?お前の頭の中には泥でも詰まってるんじゃないか?」
ルシアーノの言葉にやってきた職人たちは表情がストンと抜け落ちた。
職人たちの中には読み書きが出来ない者もいるが、ルシアーノの言葉が判らない者はいない。
親方は「判りました」と言い、職人に声を掛けると引き上げて行った。
「おい!何処に行く!工事をしろ!」
ルシアーノは声を張り上げて帰っていく男達を呼び止めようとするが誰も振り返らない。ルシアーノに反応してくれるのはジェセニアだけ。
「ねぇ、壁紙って何処にあるの?執務室?食堂?可愛いのが良いわ」
そんな物があるはずが無い。ないから仕立て屋を呼ぶ要領で職人を呼んだのだ。
「チッ!使えない奴らだ。ニア、気分が悪い。仕立て屋を呼んで来月の夜会のドレスを作ろう。僕も揃いの色で新調したいんだ」
「夜会?!王家主催の夜会なの?!」
「あぁ、母上から呼ばれている」
「キャァ♡やっと!やっとだわ!やっぱり王太子妃になると違うのね。来月には夜会だなんて!そうだ!お茶会も開かないといけないわ。高位貴族の名簿はないの?年寄りばかりでしょうけどお披露目は必要よね」
使用人達は項垂れる。寄りにも寄ってこの宮に仕えねばならないとは。
サンルカ侯爵家から遣わされた使用人は1人もいない。使用人の手配は王妃がするものだがここにいる使用人は国王から「頼んだよ」と言われて配置換えになった者ばかり。
「まさかと思うけど、私、左遷されたのかしら」
「王妃様じゃなくて陛下・・・おかしいと思ったのよ」
「思うんだけど‥‥かなり不味いんじゃない?使用人の給料配分って王妃様がしてるでしょう?陛下がした事なんかあったかしら」
「知る限りではないわね。給料出なかったら私、悪いけど抜けるわ」
「ズルい!親の介護とか先に使われたら逃げられないじゃない」
侍女やメイドがそう考えてしまうのも無理はないだろう。
アリステラの時はまだ婚約者であったにも関わらず王宮の職員とゴードマン公爵家から来た使用人は数で言えば半々。今回サンルカ侯爵家から一人も来ていないとなると使用人の生活に直結する給料の支払いが問題になる。
宮の使用人全ての給料を賄うと宮の維持費として予算配分される金は半年分でも足らない。
宮の維持費は人件費だけではないので、実質で3カ月。
先ほどルシアーノはドレスを作ると言った。ドレスの仕立て代は布地や小物、宝飾品のランクにもよるが高価であるのは間違いなく、給料の支払いまで回るかどうか。
呼びつければ揉み手でやって来る仕立て屋に使用人達は無言で持ち場に散らばった。
それまでアリステラ用に組まれた婚約者の予算から支払われていたが、ジェセニアが婚約者になったと言う事は公表されていない。では、その仕立て代はどこから出るのか。
使用人達の不安をよそにジェセニアが気に入ったものをどんどん注文する声が廊下を駆け抜けた。
暫く使っていなかった宮だが、「清掃はしておいたから、内装を変えたいなら自由になさい」と言われ、手順を知らないルシアーノとジェセニア。
いきなり職人たちを呼び、その場で改装工事をしろと命じた。
「図面は?どういう風に改装するんです?」
「図面?なんだそれは。工事はして良いと許可は得ている。さっさと始めろ」
始めろと言われても、どの部屋を改装するのかも判らないし、壁紙を張り替えるだけ、床材を敷き替えるだけ、それとも壁を抜いたりするのか。ルシアーノは始めろと言うだけで埒が明かない。
困り果てた職人たち。
「この壁はどうするんです?要りますか?要らないんですか?」
「壁は必要に決まっているだろう!」
「じゃ、壁紙を張り替えるだけですか?」
「そうそう!えぇっと…どんな壁紙があるの?」
頂戴♡と両手の手のひらを上に職人に差し出すジェセニアだが、職人たちはまたもや困った。基本的にどんな壁紙にするかを決めてから実際に仕事をする職人を手配するもの。
青果店に行って「今日の夕食の材料を頂戴」と何を作るのかも不明なまま突然言われているようなもので、献立に相当する図面などは決めてくれていないと話にならない。
通常は「材工共」で材料も工賃も込みで見積もりなどをするものだが、それすらなくいきなり呼ばれたのだ。王族だから支払いが滞る事はないだろうとやって来ただけ。
職人の親方が簡単なフローチャートを書いてルシアーノに手渡した。
「なんだ?この四角や楕円で囲った文字は」
「先ずですね、どんなふうに改装をするのかを話し合って決めてください。予算も含めてです。これが一番上で通常ここに半年ほどかかりますよ?次に改装をしている間はその部屋が使えませんので移って頂く計画、その次に材料などを仮置きする場の計画、これはうっかり触ると崩れてしまった時に大事故になりますから。で、各部屋の床、壁、天井、窓、他にカーテンなどの備品、それを選んで頂きます。その次に大きさがありますので設置で――」
「あー!もういい!こんな面倒な事が出来るか!金は払うと言っているのに判らないやつだな。だから平民は馬鹿だと言われるんだ!何年この仕事をしてるんだ?お前の頭の中には泥でも詰まってるんじゃないか?」
ルシアーノの言葉にやってきた職人たちは表情がストンと抜け落ちた。
職人たちの中には読み書きが出来ない者もいるが、ルシアーノの言葉が判らない者はいない。
親方は「判りました」と言い、職人に声を掛けると引き上げて行った。
「おい!何処に行く!工事をしろ!」
ルシアーノは声を張り上げて帰っていく男達を呼び止めようとするが誰も振り返らない。ルシアーノに反応してくれるのはジェセニアだけ。
「ねぇ、壁紙って何処にあるの?執務室?食堂?可愛いのが良いわ」
そんな物があるはずが無い。ないから仕立て屋を呼ぶ要領で職人を呼んだのだ。
「チッ!使えない奴らだ。ニア、気分が悪い。仕立て屋を呼んで来月の夜会のドレスを作ろう。僕も揃いの色で新調したいんだ」
「夜会?!王家主催の夜会なの?!」
「あぁ、母上から呼ばれている」
「キャァ♡やっと!やっとだわ!やっぱり王太子妃になると違うのね。来月には夜会だなんて!そうだ!お茶会も開かないといけないわ。高位貴族の名簿はないの?年寄りばかりでしょうけどお披露目は必要よね」
使用人達は項垂れる。寄りにも寄ってこの宮に仕えねばならないとは。
サンルカ侯爵家から遣わされた使用人は1人もいない。使用人の手配は王妃がするものだがここにいる使用人は国王から「頼んだよ」と言われて配置換えになった者ばかり。
「まさかと思うけど、私、左遷されたのかしら」
「王妃様じゃなくて陛下・・・おかしいと思ったのよ」
「思うんだけど‥‥かなり不味いんじゃない?使用人の給料配分って王妃様がしてるでしょう?陛下がした事なんかあったかしら」
「知る限りではないわね。給料出なかったら私、悪いけど抜けるわ」
「ズルい!親の介護とか先に使われたら逃げられないじゃない」
侍女やメイドがそう考えてしまうのも無理はないだろう。
アリステラの時はまだ婚約者であったにも関わらず王宮の職員とゴードマン公爵家から来た使用人は数で言えば半々。今回サンルカ侯爵家から一人も来ていないとなると使用人の生活に直結する給料の支払いが問題になる。
宮の使用人全ての給料を賄うと宮の維持費として予算配分される金は半年分でも足らない。
宮の維持費は人件費だけではないので、実質で3カ月。
先ほどルシアーノはドレスを作ると言った。ドレスの仕立て代は布地や小物、宝飾品のランクにもよるが高価であるのは間違いなく、給料の支払いまで回るかどうか。
呼びつければ揉み手でやって来る仕立て屋に使用人達は無言で持ち場に散らばった。
それまでアリステラ用に組まれた婚約者の予算から支払われていたが、ジェセニアが婚約者になったと言う事は公表されていない。では、その仕立て代はどこから出るのか。
使用人達の不安をよそにジェセニアが気に入ったものをどんどん注文する声が廊下を駆け抜けた。
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