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ブリジットの結婚話

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その日は突然にやってきた。

昨日から昼間は出仕を休んで観劇に行き、予約制のレストランで食事をした後は借りている部屋でいつものようにブリジットを堪能した。学園生時代からブリジットの体に溺れているオレリアンは体内の子種を全てブリジットに吐き出した。

何より昨夜のブリジットは激しかった。何かを発散するかのようにオレリアンを、昂らせて『もう無理だ』と言えば綺麗な色の付いた小瓶から液体を垂らしたワインをオレリアンに飲ませた。
数分でオレリアンの体は内側から燃えるように熱くなり、昂ぶりが明け方までおさまらなかった。


昼になり、2人で向かい合ってバスタブに浸ればまた衝動的に求めたくなる。
双璧に手を伸ばそうとするがオレリアンの両方の手首をブリジットの細い手が掴んで止めた。

「ねぇ…私、ピンクダイヤのネックレスが欲しいの」
「先月トパーズのネックレスを買ったじゃないか…」

指先がピンと固くなった双璧の頂上を跳ねた。
しかしブリジットは寝台の上のような反応を見せない。

「私に触れたい?」
「あぁ…決まってるじゃないか」
「なら、いいでしょ?ね?お願い。欲しいの」
「うーん…判った。買うよ。買うから…いいだろう?」
「えぇ。勿論」

吸い付こうとした双璧はザバリとバスタブから立ち上がったブリジットの股間を目の前にして手のひらでお預けをされた。

「買い物に行きましょう?」
「行く前に…」
「買い物が先。お楽しみは後に取っておいた方がいいでしょう?」

さっさと湯殿を出てバスローブを羽織るブリジットの姿を見てオレリアンは1人バスタブに足を伸ばし、へりに腕を引っ掛け天井を見上げた。

学園を卒業して間もなくの頃からブリジットのお強請りが始まった。
最初は10万ソルほどの指輪やイヤリングだったが、最近では100万ソル以上のモノを強請る。

学園生時代は華美なものは高位貴族、特に公爵家の物から目を付けられてしまいがちなので侯爵令嬢のブリジットと言えど買ってくれとは言わなかった。
買えば身につけるのが最低限の礼儀だが、高価な宝飾品を身につける場となれば夜会。
侯爵令嬢ゆえに同じ爵位、上の爵位の年上のご夫人方からも目を付けられてはかなわないからだ。

オレリアンには金が無い。初級文官の給料などたかが知れているし初めての給料日。
27日出勤が満日に対しオレリアンが出仕したのは11日。2万ソルも給料はなかった。なので明日返す、来週返す、来月返すと平民の同僚から金を借りまくり、4カ月目だと言うのにもう誰も金を貸してくれない。

一昨日が給料日だった為、30万ソルはあるだろうと受け取るために出仕したが、7千ソルしか給料袋には入っていなかった。

『今夜はブリジットとデートなのに』

オレリアンは珍しく実家のレスピナ侯爵家の門をくぐった。
父の公爵と妻のルシェルは父の執務室で執務中。サロンで菓子を頬張りながら茶を楽しんでいた母の侯爵夫人を横目に母の部屋である夫人の間に足を運んだ。

宝飾品のケースから幾つかの指輪やピアスなどを拝借する。

ちらりと見たのは最近買い集めていると言う宝飾品だが、そちらは見向きもしない。
先々月、その中から幾つか貰ったのだ。


『同僚の持ち物を壊してしまって…弁償しなければならないんだ』
『まぁ…でもこの頃自由に出来る現金が無いのよ』
『頼むよ。このままだと上司に睨まれて文官の仕事を辞めさせられてしまう。助けてよ。母様』


そう言うと母の侯爵夫人は最近買ったばかりだから傷もないし高値で買い取ってくれるとオレリアンに宝飾品を手渡した。だが、買取店に持っていくと二束三文。

『子供の玩具の方がまだ出来がいい』と言われてしまったのだ。


買い取って貰えないモノなどゴミも同然。
オレリアンは母が昔から使っている方の宝石箱から少しくすんだ宝飾品を手に取った。


思った通り、400万ソルの金になった。
その金でブリジットと楽しんでいたのだ。

ブリジットの強請ったピンクダイヤは小さいものでも150万ソル。
おそらく欲しいと言っていたネックレスは380万ソルの値札が付いていた。
手持ちで払えない訳ではない。

金の事を考えると昂った股間も静まり返る。
湯の中でゆらゆらと水の動きに合わせて動くのをじっと見つめた。

「ねぇ…早く。出かけましょうよ」

ブリジットの声に下腹部がピクリと反応してしまう。
オレリアンは湯殿を出て【お礼】だと言うブリジットに咥えてもらうと直ぐに吐き出した。



「うふっ。似合ってる?」
「あぁ、とても似合ってる。素敵だよ。最高だブリジット」

宝飾品店でお目当てのピンクダイヤのネックレスを手に入れたブリジットは鏡の前から動かない。支払いを済ませたオレリアンと共に宝飾品店を出た後、オレリアンは今夜もブリジットと過ごすつもりだった。

しかし。

「私、今日、結婚相手との顔合わせなの。もう帰らないとお父様に叱られるわ」

オレリアンには衝撃だった。
よくよく考えればブリジットも侯爵令嬢なのだ。家の為に何処かに嫁いでいくのは判っていたが楽しい時間がずっと続くものだと思っていた。

――まさかそのネックレスは手切れ金代わりなのか――

オレリアンは焦燥感にさいなまれた。
が、違った。

「貴方だって結婚してるでしょう?これからはお互い他人のモノ。でもワクワクしない?相手の目を掻い潜ってこうやって…」

オレリアンの指にブリジットは自分の指を絡ませた。

「別れなくていいと言う事か」
「当たり前じゃない。結婚相手は50代のオッサンなのよ?私を満足させてくれるのは…貴方だけよ」
「でもその男に抱かれるんだろう…俺は耐えられない」
「勃つ訳ないでしょう?50代よ?確か‥‥58だったはず。男としては終わってるわ」


突如決まったというブリジットの結婚。
オレリアンはブリジットをガルレロ侯爵家の門の前まで送ると深いキスを交わし別れた。

「次は何時会えそうなんだ?」
「連絡するわ。こうなった以上、お父様も今まで通り外泊は許してくれないと思うから」


後ろ髪を引かれる思いでブリジットの背中を見送るとオレリアンの乗った馬車は走り出した。



オレリアンの馬車が小さくなった頃、ブリジットは門の影から伺うようにそれを見た。

「はぁ~。疲れちゃった。寝るわ。あっと‥このネックレス。買取店に持っていって頂戴。お駄賃に10万ソルあげるわ」

門まで迎えに来ていた側付メイドにピンクダイヤのネックレスを手渡す。

「連絡は来てなかった?」
「ルズー子爵家のご子息とロンソー伯爵家のご子息が贈り物を持って参りました」
「へぇ~。何かしら?売れそうなものならいいのに」
「後は、旦那様がお呼びで御座います」
「お見合いね。嫌になるわ。こんなに若いのに爺に嫁ぐなんて」


屋敷に戻り、部屋に置かれた子息達からの贈り物を無造作に開封し、1つ目のバッグは限定品だが別の子息から同じ物を貰っているという理由で、もう一つの箱は小さめだが指輪、ピアス、ネックレスの3点セットだがセットで50万ソル程度だと見積もると2つをまた側付メイドに渡した。

「美しいって罪よね…クックック」

ドレッサーの前で髪を梳かすブリジットは鏡の中の自分に微笑んだ。
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