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第12話 30点の絵姿
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王都の街はいつ来ても気忙しい。
物言わぬ人、何人もすれ違ってデルモントは王都に襤褸の一軒家で従業員の住まい兼販売所になっている家屋にやってきた。
「よぅ!元気だったか」
「デルモントさん!やっと来てくれましたか!」
商売は鮮度が命。織る布ではなく編む布を他家に知られる前に売り込みをかけたい執事はデルモントに駆け寄ったのだが、ソフィーに「ちょいとお待ち!」阻止されてしまった。
少数精鋭な販売所の従業員はソフィ―1家の関連でもある。
執事はソフィーの実弟で経理はソフィーの娘、営業は娘婿。配送などはソフィーの夫親族。気心が知れているからこそデルモントも色々と面倒を頼んだりもしている。
ガシッとソフィーに肩を組まれてしまったデルモントは「何事?!」と慌てたがそっと耳元に囁く言葉に目を見開いた。
「可愛い子をスカウトしたわよ」
「ス、スカウトッ?なんの?」
「なんのって、決まってるじゃないのさ。我らが旦那様の可愛い奥様さね」
「奥っ?!待て、待て。そんな用事で王都に来たんじゃないぞ?俺はだな?この布を――」
「解ってるわよ。でもね?相手の家ももう日取りは何時かって乗り気なのよ~」
「おーい!そんな話勝手に決めて来るな!だいたいだ、俺で良いなんて言う家がこの世にある訳がないだろうに」
「それがあるのよ。1度でいいの。会ってみてよ~。きっと手放したくなくなるから。ね?領地に一緒に帰ればいいのよ」
「あのな?歩きだぞ?令嬢を歩かせる…いやいや。それよりもだ。俺は結婚はしないと決めているんだ」
「するしないはいいから。見合いは明後日。相手の家にも迷惑をかけてしまうからちゃんと見合いをしてくださいよ?いいですね?」
「他家に迷惑をかける訳にはいかないが…。なんでまたこういう事を勝手に決めるんだ?そもそも俺が領地で惚れた女が出来ていたらどうするつもりだったんだ」
「そんな事は天地がひっくり返ってもありませーん」
ソフィーは教会で昔絵師をしていたという男に描かせたリーゼロッテの絵姿をデルモントに見せた。
ソフィー的に絵姿の出来栄えは30点。ハッキリ言って全く似ていない。
この絵姿を頼りにリーゼロッテを探せと言われれば隣に居ても捜索に1年はかかるだろう。
そのくらい似ていなかった。
「どう?実物はね、これとは全く違う、似ても似つかない別嬪さんよ」
「絵姿がそこまで違っていたら意味がないだろう」
「仕方ないでしょう?銅貨2枚で描いてくれる絵師が他にいなかったんだもの」
「そういう無駄使いをするな!全く…いいか?他家に迷惑になるから会うだけだ。会うだけ!」
結婚など出来るはずもないと断られる事前提での見合いに意義を感じないデルモントだったがソフィーの世話焼きは今に始まった事でもない。
右腕が飾りになった。たったそれだけで人間であることも否定され、ヤサグレたデルモントを人の道に引っ張り直してくれたのもソフィーだ。
もしあのままヤサグレていたら家の金を使い込んで娼婦に溺れ、酒を浴びるように飲み、賭博で身を滅ぼしていただろう。
『もう兵隊じゃないんだから、抱く女は女房だけで十分!』
『金は天下の回り物だけど降って来る訳じゃない。賭け事がしたいなら明日の天気でも占ってな!』
『酩酊で出来るのは現実逃避だけ!逃げる前に地に足付けて働きな!』
事あるごとにデルモントを叱責し、叱った後は「ちゃんと食べるんだよ」と家庭料理を振舞ってくれた。
食事をさせてくれた理由は簡単だ。
「人間、満腹になれば寝る。余計な事は考えないし、しないもんだ」
空腹は人を犯罪に走らせることも多い。
ただ、デルモントはどうしても枝豆もソラマメも豆類は残してしまう。
辺境警備は楽ではない。兵器も食料も届かない前線ではそこにあるものを食べるしかなく、豆をすり潰して焼いたパン替わりの食事の味を思い出し、あの敗走もフラッシュバックしてしまうので豆類は敬遠してしまうのだ。
「はい。王都まで碌なもの食べてないだろう?焼いといたよ」
差し出されたのは豆を挽いて焼いたものではないが、豆が練り込まれたパンだった。
「豆は体にいいからね。アレルギーでもないんだからしっかり食べて。腹が張ったら奥で寝るといいんだよ」
「ソフィーには敵わないな」
「勝てると思っていたならオムツの時代からやり直すこった」
デルモントはパンを齧りながら、テーブルの上に広げた似ていないリーゼロッテの絵姿を眺めた。
物言わぬ人、何人もすれ違ってデルモントは王都に襤褸の一軒家で従業員の住まい兼販売所になっている家屋にやってきた。
「よぅ!元気だったか」
「デルモントさん!やっと来てくれましたか!」
商売は鮮度が命。織る布ではなく編む布を他家に知られる前に売り込みをかけたい執事はデルモントに駆け寄ったのだが、ソフィーに「ちょいとお待ち!」阻止されてしまった。
少数精鋭な販売所の従業員はソフィ―1家の関連でもある。
執事はソフィーの実弟で経理はソフィーの娘、営業は娘婿。配送などはソフィーの夫親族。気心が知れているからこそデルモントも色々と面倒を頼んだりもしている。
ガシッとソフィーに肩を組まれてしまったデルモントは「何事?!」と慌てたがそっと耳元に囁く言葉に目を見開いた。
「可愛い子をスカウトしたわよ」
「ス、スカウトッ?なんの?」
「なんのって、決まってるじゃないのさ。我らが旦那様の可愛い奥様さね」
「奥っ?!待て、待て。そんな用事で王都に来たんじゃないぞ?俺はだな?この布を――」
「解ってるわよ。でもね?相手の家ももう日取りは何時かって乗り気なのよ~」
「おーい!そんな話勝手に決めて来るな!だいたいだ、俺で良いなんて言う家がこの世にある訳がないだろうに」
「それがあるのよ。1度でいいの。会ってみてよ~。きっと手放したくなくなるから。ね?領地に一緒に帰ればいいのよ」
「あのな?歩きだぞ?令嬢を歩かせる…いやいや。それよりもだ。俺は結婚はしないと決めているんだ」
「するしないはいいから。見合いは明後日。相手の家にも迷惑をかけてしまうからちゃんと見合いをしてくださいよ?いいですね?」
「他家に迷惑をかける訳にはいかないが…。なんでまたこういう事を勝手に決めるんだ?そもそも俺が領地で惚れた女が出来ていたらどうするつもりだったんだ」
「そんな事は天地がひっくり返ってもありませーん」
ソフィーは教会で昔絵師をしていたという男に描かせたリーゼロッテの絵姿をデルモントに見せた。
ソフィー的に絵姿の出来栄えは30点。ハッキリ言って全く似ていない。
この絵姿を頼りにリーゼロッテを探せと言われれば隣に居ても捜索に1年はかかるだろう。
そのくらい似ていなかった。
「どう?実物はね、これとは全く違う、似ても似つかない別嬪さんよ」
「絵姿がそこまで違っていたら意味がないだろう」
「仕方ないでしょう?銅貨2枚で描いてくれる絵師が他にいなかったんだもの」
「そういう無駄使いをするな!全く…いいか?他家に迷惑になるから会うだけだ。会うだけ!」
結婚など出来るはずもないと断られる事前提での見合いに意義を感じないデルモントだったがソフィーの世話焼きは今に始まった事でもない。
右腕が飾りになった。たったそれだけで人間であることも否定され、ヤサグレたデルモントを人の道に引っ張り直してくれたのもソフィーだ。
もしあのままヤサグレていたら家の金を使い込んで娼婦に溺れ、酒を浴びるように飲み、賭博で身を滅ぼしていただろう。
『もう兵隊じゃないんだから、抱く女は女房だけで十分!』
『金は天下の回り物だけど降って来る訳じゃない。賭け事がしたいなら明日の天気でも占ってな!』
『酩酊で出来るのは現実逃避だけ!逃げる前に地に足付けて働きな!』
事あるごとにデルモントを叱責し、叱った後は「ちゃんと食べるんだよ」と家庭料理を振舞ってくれた。
食事をさせてくれた理由は簡単だ。
「人間、満腹になれば寝る。余計な事は考えないし、しないもんだ」
空腹は人を犯罪に走らせることも多い。
ただ、デルモントはどうしても枝豆もソラマメも豆類は残してしまう。
辺境警備は楽ではない。兵器も食料も届かない前線ではそこにあるものを食べるしかなく、豆をすり潰して焼いたパン替わりの食事の味を思い出し、あの敗走もフラッシュバックしてしまうので豆類は敬遠してしまうのだ。
「はい。王都まで碌なもの食べてないだろう?焼いといたよ」
差し出されたのは豆を挽いて焼いたものではないが、豆が練り込まれたパンだった。
「豆は体にいいからね。アレルギーでもないんだからしっかり食べて。腹が張ったら奥で寝るといいんだよ」
「ソフィーには敵わないな」
「勝てると思っていたならオムツの時代からやり直すこった」
デルモントはパンを齧りながら、テーブルの上に広げた似ていないリーゼロッテの絵姿を眺めた。
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