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cyaru

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第33話   自分だけが知らない

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その日のディララは珍しく1人で出掛けると言ってベルガシュを置いて出掛けてしまった。

行き先は実家のハルテ伯爵家。
ディララには自由になる金はない。勿論ベルガシュにも無い。
国からの管理費は支払われると同時に親であるオルコット侯爵に渡されてしまう。
そのまま現金の支払いではなく、支払い額が書かれた書面が届き王宮にある財務課に金融商会の従業員と共に出向いて手続きをする。

オルコット侯爵はその金融商会に派遣している使用人への給金分と立て替えている消耗品や食材費の領収書を預けており、財務課で同時に手続きを行うのでベルガシュに支払いされると同時にオルコット侯爵へベルガシュから支払われましたという流れを取っているためである。

領地からの金も同様で、こちらは商会が先にツケ払いの支払いを行ってくれと手続きをしているので、ベルガシュとディララが出向いても支払ってもらえるだけの金はない。

数億残っているのは商会の設立時と同じで「資本金」の扱い。家の金であって自由には出来ない。
毎月定額が自動で差し引きされるので、爵位税などが期日に支払われない時はこの中から差し引かれる。

ベルガシュはまだ家を正式に興していないが準備期間である事は間違いないので爵位税は引かれずプールされていくだけ。

ディララは執事に「現金はありません」と言われ仕方なくベルガシュの浮気調査をする金を実家に出して貰おうとした。結婚をするのは確定でもこの機会にベルガシュに対し完全なマウントを取るため、どんなに小さな証拠でも握っておく必要があった。

籍としてはまだハルテ伯爵家にあるディララ。
それまでも父親はディララが強請れば小遣いをくれた。


「お父様、お金が必要なの」
「金?何に使うんだ」
「何って…ほら?色々とあるじゃない?ドレスとか靴も新しくしたいし」
「そんなものはアイツに買ってもらえばいい。いい加減お前には2年後結納として金がかかるんだ」
「そんなのしなくていいと思うんだけど。もう結婚してるようなものだし」

父親には「浮気調査」の金だとは言えない。どの家も弱みを握り都合よく事業を進めたいと考えていて、ハルテ伯爵も例外ではない。ここでベルガシュが当主になった時にベルガシュの弱みとなる不貞の証拠を父親に握られてしまえばディララはただの駒になる。

ディララがベルガシュに対して弱みを握ってこそ結果的に侯爵家を牛耳る事が出来るのだ。
馬鹿なようで悪知恵は良く働くディララだったが、頼みの綱と思われた父にはにべもなく断られてしまった。

そうなればディララの悪い癖が出てしまう。
思い通りにならない事や、考えていると同じ答えが返ってこない時、ディララは不機嫌になり癇癪を起す。それはベルガシュに対してだけではなく実の家族に対しても同じ。

オルコット侯爵がハルテ伯爵家に来た時、未成年に手を出したとハルテ伯爵家が強く言えなかったのは、ディララが既婚者だと知って近づき関係を持ったというだけで引いたのではない。
正直、ディララに結婚相手を見つけるのは難しいと考えていた。

嫁げば相手の家に合わせねばならないが、ディララはそれが出来ない。
10歳前後なら「我儘な娘で」と通るかも知れないが15歳頃になっても変わらなければ教育の失敗。ベルガシュが望んでくれるのであれば渡りに船。

あとは嫁いだ後、ベルガシュを意のままに操り侯爵家の名の元、事業に参入しようと画策したのだが、如何せんベルガシュが出来なさ過ぎた。そして聞こえてくるディララがベルガシュを寝取る事によってはじき出される先妻となる女性の事業が大成功の噂。

ハルテ伯爵に出来るのは、ディララを嫁がせて縁を切る事。
負債でしかないディララに必要以上金を使わない事だ。

「それが・・・買ってくれないのよ。だから頼んでるのに!ララのお願いなのよ?喜んで叶えるのが親の役割でしょう!?」

「お前に出す金などない!亭主に強請ればいいだろうが!」

「それが出来ないから頼んでるのよ!ララが頼んでるのよ!なんで判らないの!」

言い合いをする父娘の間に割って入るようにハルテ伯爵夫人が口を挟んだ。


「ディララ。いい加減にしなさい。貴女の結婚で我が家にもどれだけ迷惑が掛かっていると思ってるの。昨年引っ越しをしてあと2年、大人しくしているかと思えば2人で夜会に出向いたりして。隠すために周りがどれだけ骨を折ったか考えて御覧なさい!」

「頼んでないし~。ララは隠してくれなんて一言も言ってないわ。だいたい真実の愛で結ばれたララとベルガシュなのになんで隠すの?バカなの?頭、おかしいんじゃない?しかも結婚式とか全然予約もしてくれてないって知ってるんだからね?娘が可哀想だとか思わないなんて親としてどうかと思うんだけど?」

「全く・・・同じ腹から生まれたとは思えない出来の悪さだな。やはり間男を引き込んだんじゃないのか?」

「そんなっ!わたくしは不貞など働いておりません!ディララは間違いなく貴方の子です!」

「どういう事・・・2人とも何言ってるの?」


ディララの呟きは父親にも母親にも聞こえていない。
ディララの前で2人は醜い罵りあいを始めてしまい、ディララはそれまで知らなかった事実を知った。

「出戻り女を貰ってやった恩を忘れたか?あぁ忘れたよな?お前は忘れるのが得意な女だ。前夫との間に出来た子供もすっかり忘れて。間男との子供を私に托卵させたまでは良かったが、生憎私はお前のように忘れっぽくなくて見込み違いだっただろうがな」

「いいえっ!いいえ!私は貴方以外の男性に傾倒した事など御座いませんっ!嫁いで産んだ子は全て貴方の子です!」

「ならどうしてディララだけこんなに出来が悪い!下の子には誰もが年齢以上を期待する出来なのに、どうしてディララだけが私の子とは思えないような馬鹿なんだ?男とみれば股を開くお前と同じではないか!」


ディララは間違いなくハルテ伯爵の子であるが、隔世遺伝なのかハルテ伯爵から引き継いだ色はなく、成長すれば似た部分も出るかと思えばそれも無い。
ハルテ伯爵の母(ディララの祖母)が夫人と同じ瞳と髪の色なのだが、その色は平民でも貴族でも多くの者に見られる色で嫉妬深いハルテ伯爵はディララが生まれた時から妻を疑っていた。

嫉妬深い部分こそディララには受け継がれているが視覚では判らない。
母と言い合う父親が自分の出自を疑っている。ディララにも理解が出来た。

が、判らない事がある。「同じ腹」とは弟妹で無ければ誰の事なのだろう。
ディララは言い合う2人の間に飛び込み、双方の顔を見ながら問う。

「誰と同じ腹から生まれたというの?ねぇ、お母様、お母様はララの他に誰を産んだの?!ねぇ!お父様、誰の事を言ってるの?なんでララが、ララだけが知らないの?!教えてくれたっていいでしょう?!」

「お前の亭主の今の妻だ。名前くらいは呼んでやったらどうだ?」

皮肉めいた笑いを浮かべたハルテ伯爵は夫人に「名前を教えてやれ」と言った。

「アイリーンよ。もう1人、アイリーンの兄、ペルタスも・・・わたくしの子よ。ディララ。貴女とは父親の違う兄姉なのよ」

「うそ‥‥嘘でしょ?・・・ねぇ嘘って言って!ベルガシュも知ってるの?!知っててララと結婚すると言ったの?!ねぇ教えてよ!」

「そこまでは知らないけれど、侯爵夫妻は御存じよ。そんな事は誰かに言われなくても高位貴族なら末端までの貴族の系譜けいふは知ってて当たり前だもの」


ディララは伯爵家を飛び出すと御者に侯爵家に戻るよう伝えた。


「知ってたんでしょう!?ベルガシュ!」

帰るなりベルガシュに飛び掛かるディララだが、ベルガシュは帰宅するなりその言葉だけでは何の事だがさっぱり解らない。しかし、続く言葉に息が止まるほど驚いた。

「あの女!アイリーンと私が姉妹だから私に近づいたの!?遊んでやろうと思ったの!?ねぇ。答えてよ!」
「何の事だ?どうしてディララとアイリーンが姉妹だなんて発想になるんだ?」
「お父様とお母様に聞いたのよ!高位貴族なら下っ端の貴族の事も知ってるはずって言ってた!お母様がお父様と結婚する前に生まれたのがアイリーンだって!!知ってたんでしょ!どうしてっ!なんでララだけっ!!うわぁぁー」

ベルガシュはディララの手を振り解くと父のいる別邸に走った。
しかし、朝方母親が先に出て、後を追うように父も何処かに行ったきりまだ帰ってきていないと知らされ、今度は厩舎に走り、直ぐに馬車を出すように告げた。

「どちらに?」
「何処って…そんなの俺が知るわけがないだろう!」

怒鳴るベルガシュだが、御者も困る。行けと言われて行き先が判らないならどちらに向かって走ればいいかも判らない。少なくとも侯爵家は正門に立てば、左右と前方に道のある丁字路ていじろ状態。

「あ~・・・そうだな…そうだ!父上がウサギ狩りの時に泊まる家があるだろう!そこだ」
「あの…その家は・・・」
「構わないから出せ!」


御者もそこに今誰が住んでいるのかは知っている。
だが、ベルガシュを運んで良いものか迷ってしまい、馬車を引く馬のハーネスなど確認する動きが遅くなってしまう。

「待ってよ!何処に行くのよ!」

ディララの声にベルガシュが「早く出せ」と御者を急かす。
御者が御者席に飛び乗り、馬車が左右に揺れると入り口の扉が揺れで開いてしまった。
ディララが乗り込んで来る前に内鍵をしようとしたのだが、ディララの方が早かった。

「何処に行くというの?女の所でしょう・・・許さないんだから」

がっちりと扉の枠を掴んだディララはベルガシュを睨みつけ、ノッソリと馬車に乗り込み、ディララが内鍵をカチリと掛けた。
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