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第29話 夫人の2択、侯爵の2択
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壁に背を預け、漏れ聞こえてきた声に「もうウンザリ」と口の中まで出た言葉を溜息に代えて吐き出した侯爵夫人。
真っ青な顔をして、ふらつきながらソファに倒れ込んだ。
「奥様、どうされました?」
「あぁ…なんでもないの。水を1杯頂けるかしら」
「畏まりました」
給湯室に向かった侍女の背を見るのに顔を動かすのも辛い。
侯爵夫人は「腹を括る時がきたようね」ポツリと呟いて、瞑想した。
★~★
オルコット侯爵家の主である侯爵夫妻の関係は非常に薄い凍りかけた水のようなもの。踏みしめれば割れてしまうので指の腹でそっと撫でるにも体温で溶けないように気を使う。例えるならばそんな関係だった。
侯爵夫人は婚約者時代からオルコット侯爵の事を心から愛していた。
爵位が同じでも、違っていても他家に嫁ぐと言う事は言葉以上に負担がある。
侯爵夫人も例外ではなく、婚約者となった日から先代夫人からは「躾」と称して「厳しい洗礼」を受けていた。「種違い」があってはならないと私生活まで管理された日々。
耐えて来られたのは婚約者を愛していたから。
女性でも家督は継げるのに、「誉」とされるのは男児。目の前で「彼の子なの」と嫁いだばかりの夫人を蔑んだ目で見たベルガシュの生みの母。
貴族の中でも高位貴族の当主夫人となる女性に課せられる最大の役目は後継者を産む事。
その仕事を横取りされてしまうのは最大の屈辱と言っても過言ではない。
ベルガシュが孫であることは「家」として喜ばしいと先代夫妻はベルガシュの存在をすんなりと金を払う事で認めてしまったのだから、嫁いできた夫人の立場など掃いて捨てると同義。
厳しい「躾」に耐えている間、女遊びをしていた事実を笑って流せるほど夫人は出来た人間ではなかった。
先代侯爵夫人は「万が一を考えて次の子は必要だから」とスペアを産めと要求してくるし、先代侯爵は「それだけお魅力的な夫だと言う事だ。自慢していい」と訳の解らない事を言う。
夫はただ、ただ詫びるだけで「君が望むなら離縁してもいい」と離縁された女性がどのような扱いをされるのか知っているはずなのに「君が好きなようにすれば良い」と地獄の選択肢を丸投げしてくる。
実家に戻っても一旦成立した結婚では出戻り娘の居場所はなく、親族からも腫物扱いをされるし、離縁と言う傷は家の駒としても使えないために肩身の狭い居候生活を余儀なくされる。
オルコット侯爵家に残れば侯爵夫人としての生活は保障されるが、夫が他の女に産ませた子を育てねばならない苦行が待ちうける。
愛していなければそれも許せたかも知れないし、愛しているからこそ「結婚」となる前に事実を知りたかった。そうすれば「未婚」であればまだ実家も受け入れてくれたのに。
夫人の愛情は瞬時に憎しみに変わった。
その日からオルコット侯爵夫人は「復讐」する事を心に誓った。
さっさと慰謝料を貰って離縁したところで社交の場でも立ち位置を作って行こうとする出戻り女に寄ってくるのは禄でもない者ばかり。
人に世話をされる生き方しかしてこなかった貴族令嬢が1人で生きていけるはずもない。
21歳から平均寿命と呼ばれる60歳までは40年近くの月日があり、離縁の出戻りなど親にも見放されるのだから慰謝料だけでは生きていけない。
ならばこのまま立ち位置を確立し、夫を切り捨てようとする40歳半ばからせいぜい20年分を生き抜く金を持って夫と離れた方がマシ。
愛しているのは君だけだと言いながら他の女の元に出掛ける夫に構っている暇はなかったし、夫の事を許そう、知ろうとも思わなかった。
我が子でもないのに我が子以上に手を掛けてきたが、やはり他人の子。
反抗期については他家の夫人からも聞き及んでいたので、「そんなもの」と受け止めることは出来たがベルガシュは悪化の一途を辿った。
無責任に子供を作っておきながら「教育は母親の仕事」と養母である夫人に夫は丸投げして見て見ぬふり。だが、それでも我が子は可愛いのか度重なる醜聞に廃嫡しようともしない。
ベルガシュ以外に子供はいないのだから仕方がない。そう思い込もうとしても「親戚筋から養子を取れば」という考えも払拭できない。
アイリーンがやって来て、侯爵夫妻の関係は少しだけ「改善」の方向に動き出していた。
ペルタスとの出会いは本当に偶然だった。
そして神様は余程悪戯が好きらしい。
――アイリーンとディララが異父姉妹だなんて――
それでも、アイリーンがやって来てオルコット侯爵は遂にベルガシュを見限った。
面倒を見てはいるがアイリーンの案の通り領地の収穫量を変えないままで所有権を移動させるまでの暫定措置に過ぎない。
別邸に引っ越しをしてからも夫婦の部屋は別。
しかし、「子はかすがい」とはよく言ったもので、侯爵夫妻の実の娘でもないアイリーンを中間に置く事で別宅に移り住んで4、5カ月目には朝食後、短い時間に夫婦で庭を散策する時間も当たり前になりつつあった。
――絆されることってあるのね――
侯爵夫人の中に、夫を許そう、もういいかな。という気持ちが小さな芽を出したのも事実。
だが、畑を荒らす無法者は突然に現れるもの。
小さく目を出した「許しの芽」は掘り返されて、靴の裏でグリグリと磨り潰された。
いい年をして号泣し縋るベルガシュに話しかけるオルコット侯爵。
その言葉に夫人は「丁度いい潮時」と新しい生き方をする事を選んだ。
「アイリーンとやり直す。その気持ちに嘘はないのか?」
「ないっ!ないよ・・・俺はやっと目が覚めた。父上と母上がどうして俺にアイリーンを選んだのか。その導きを無碍にしてしまった償いもしたいんだ。だから…ディララとは別れたい。もう顔も見たくないんだ。親孝行をさせてくれよ・・・父上の判断1つで俺は生まれ変われるんだ」
「だが…ベスが反対をするかも知れない」
「父上、アイリーンの大きな愛を理解出来た俺は父上の気持ちも判るようになった。でも父上‥‥俺は唯一父上の血をこの身に半分受け継いでいるんだよ?父上の分身でもあるんだ。俺を助けてよ。母上はもう父上から離れることはないだろうけど、俺は・・・窮地に立っているんだ。俺の事をただ思い、身を引くアイリーンが可哀想だろう?」
しばし2人の声が止む。ベルガシュの鼻を啜る音だけが聞こえてくる。
侯爵夫人は薄い扉1枚を隔てた部屋で会話に聞き入った。
「判った。本当に心を入れ替えるんだな?その言葉に嘘はないな?」
「ない、ないよ。俺はもう嘘を吐く事を止めたんだ」
「そうか。だがベルガシュ。3年の間彼女を侯爵家に迎え入れているんだ。手のひらを返したように直ぐ対応を変えるのは得策とは言えない。アイリーンとの離縁できる時間まではまだ2年ある。あの娘は優秀だ。仲良く2人で助け合えば今以上にオルコット家は栄えるだろう。アイリーンは離縁ありきで過ごしているからアイリーンを逃げないようにすることも必要なんだ」
「まだディララと付き合えと?無理だよ。もう嫌なんだ」
「だからこそだ。幸せを掴むには苦労も必要なんだ。アイリーンを侯爵家に戻すよう動くから、お前はハルテ伯爵令嬢に気づかれないように上手く立ち回るんだ」
「どうするって言うんだよ・・・あんな阿婆擦れ」
「そのまま住まわせるんだ。だが、家同士の契約もあるから2年経つまでは手が出せない。離縁したと見せかけて彼女の籍をハルテ伯爵家から抜き、その後は屋敷の地下で数日暮らして貰えばいい。2週間もすれば物言わぬ骸となる。そうなればハルテ伯爵家からの苦情も撥ねつける事が出来る。あんな娘だ。嬉々と旅行に行ったとでもして、旅先で野盗に襲われたとすればいい。顔も判別できない死体なんか郊外に行けば幾らでも転がっているんだら。お前たちは何食わぬ顔で暮らせばいい。ベルガシュ、いいか?これは私とお前だけの秘密だ」
侯爵夫人は夫の考えに激しい怒りを覚えた。
我が子が可愛い。それは仕方のない事だが、やろうとしている事は人とは思えない鬼畜の所業。ディララが可哀想だとは思わないが、それでも人の道に外れ、何食わぬ顔でその後も笑って生きて行こうなど虫酸が走る。
侍女が戻る前にと、夫人は執務机の椅子に座り直し、別邸に引っ越してからは開ける事のなかった引き出しを引いた。
色褪せた封筒を取り出し、目の前に置く。
中に入っているのは、かつて「君が望むなら離縁してもいい」とオルコット侯爵が渡してきた離縁書。夫人の欄だけが空白でオルコット侯爵の記載する欄は埋まっている。
「我が子か妻か。彼はどっちを取るかしら」
かつて、留まっても地獄、実家に出戻っても地獄の2択で留まる事を選んだ夫人。
夫がどちらを選ぶのか。
「どっちでもいいわ。わたくしの選択は1択だもの」
「奥様、どうなさいました?」
頼んだ水を持って侍女が話しかけてくる。
夫人は「アライグマって熟す前の桃も好きかなと思ったのよ」と笑って答えた。
真っ青な顔をして、ふらつきながらソファに倒れ込んだ。
「奥様、どうされました?」
「あぁ…なんでもないの。水を1杯頂けるかしら」
「畏まりました」
給湯室に向かった侍女の背を見るのに顔を動かすのも辛い。
侯爵夫人は「腹を括る時がきたようね」ポツリと呟いて、瞑想した。
★~★
オルコット侯爵家の主である侯爵夫妻の関係は非常に薄い凍りかけた水のようなもの。踏みしめれば割れてしまうので指の腹でそっと撫でるにも体温で溶けないように気を使う。例えるならばそんな関係だった。
侯爵夫人は婚約者時代からオルコット侯爵の事を心から愛していた。
爵位が同じでも、違っていても他家に嫁ぐと言う事は言葉以上に負担がある。
侯爵夫人も例外ではなく、婚約者となった日から先代夫人からは「躾」と称して「厳しい洗礼」を受けていた。「種違い」があってはならないと私生活まで管理された日々。
耐えて来られたのは婚約者を愛していたから。
女性でも家督は継げるのに、「誉」とされるのは男児。目の前で「彼の子なの」と嫁いだばかりの夫人を蔑んだ目で見たベルガシュの生みの母。
貴族の中でも高位貴族の当主夫人となる女性に課せられる最大の役目は後継者を産む事。
その仕事を横取りされてしまうのは最大の屈辱と言っても過言ではない。
ベルガシュが孫であることは「家」として喜ばしいと先代夫妻はベルガシュの存在をすんなりと金を払う事で認めてしまったのだから、嫁いできた夫人の立場など掃いて捨てると同義。
厳しい「躾」に耐えている間、女遊びをしていた事実を笑って流せるほど夫人は出来た人間ではなかった。
先代侯爵夫人は「万が一を考えて次の子は必要だから」とスペアを産めと要求してくるし、先代侯爵は「それだけお魅力的な夫だと言う事だ。自慢していい」と訳の解らない事を言う。
夫はただ、ただ詫びるだけで「君が望むなら離縁してもいい」と離縁された女性がどのような扱いをされるのか知っているはずなのに「君が好きなようにすれば良い」と地獄の選択肢を丸投げしてくる。
実家に戻っても一旦成立した結婚では出戻り娘の居場所はなく、親族からも腫物扱いをされるし、離縁と言う傷は家の駒としても使えないために肩身の狭い居候生活を余儀なくされる。
オルコット侯爵家に残れば侯爵夫人としての生活は保障されるが、夫が他の女に産ませた子を育てねばならない苦行が待ちうける。
愛していなければそれも許せたかも知れないし、愛しているからこそ「結婚」となる前に事実を知りたかった。そうすれば「未婚」であればまだ実家も受け入れてくれたのに。
夫人の愛情は瞬時に憎しみに変わった。
その日からオルコット侯爵夫人は「復讐」する事を心に誓った。
さっさと慰謝料を貰って離縁したところで社交の場でも立ち位置を作って行こうとする出戻り女に寄ってくるのは禄でもない者ばかり。
人に世話をされる生き方しかしてこなかった貴族令嬢が1人で生きていけるはずもない。
21歳から平均寿命と呼ばれる60歳までは40年近くの月日があり、離縁の出戻りなど親にも見放されるのだから慰謝料だけでは生きていけない。
ならばこのまま立ち位置を確立し、夫を切り捨てようとする40歳半ばからせいぜい20年分を生き抜く金を持って夫と離れた方がマシ。
愛しているのは君だけだと言いながら他の女の元に出掛ける夫に構っている暇はなかったし、夫の事を許そう、知ろうとも思わなかった。
我が子でもないのに我が子以上に手を掛けてきたが、やはり他人の子。
反抗期については他家の夫人からも聞き及んでいたので、「そんなもの」と受け止めることは出来たがベルガシュは悪化の一途を辿った。
無責任に子供を作っておきながら「教育は母親の仕事」と養母である夫人に夫は丸投げして見て見ぬふり。だが、それでも我が子は可愛いのか度重なる醜聞に廃嫡しようともしない。
ベルガシュ以外に子供はいないのだから仕方がない。そう思い込もうとしても「親戚筋から養子を取れば」という考えも払拭できない。
アイリーンがやって来て、侯爵夫妻の関係は少しだけ「改善」の方向に動き出していた。
ペルタスとの出会いは本当に偶然だった。
そして神様は余程悪戯が好きらしい。
――アイリーンとディララが異父姉妹だなんて――
それでも、アイリーンがやって来てオルコット侯爵は遂にベルガシュを見限った。
面倒を見てはいるがアイリーンの案の通り領地の収穫量を変えないままで所有権を移動させるまでの暫定措置に過ぎない。
別邸に引っ越しをしてからも夫婦の部屋は別。
しかし、「子はかすがい」とはよく言ったもので、侯爵夫妻の実の娘でもないアイリーンを中間に置く事で別宅に移り住んで4、5カ月目には朝食後、短い時間に夫婦で庭を散策する時間も当たり前になりつつあった。
――絆されることってあるのね――
侯爵夫人の中に、夫を許そう、もういいかな。という気持ちが小さな芽を出したのも事実。
だが、畑を荒らす無法者は突然に現れるもの。
小さく目を出した「許しの芽」は掘り返されて、靴の裏でグリグリと磨り潰された。
いい年をして号泣し縋るベルガシュに話しかけるオルコット侯爵。
その言葉に夫人は「丁度いい潮時」と新しい生き方をする事を選んだ。
「アイリーンとやり直す。その気持ちに嘘はないのか?」
「ないっ!ないよ・・・俺はやっと目が覚めた。父上と母上がどうして俺にアイリーンを選んだのか。その導きを無碍にしてしまった償いもしたいんだ。だから…ディララとは別れたい。もう顔も見たくないんだ。親孝行をさせてくれよ・・・父上の判断1つで俺は生まれ変われるんだ」
「だが…ベスが反対をするかも知れない」
「父上、アイリーンの大きな愛を理解出来た俺は父上の気持ちも判るようになった。でも父上‥‥俺は唯一父上の血をこの身に半分受け継いでいるんだよ?父上の分身でもあるんだ。俺を助けてよ。母上はもう父上から離れることはないだろうけど、俺は・・・窮地に立っているんだ。俺の事をただ思い、身を引くアイリーンが可哀想だろう?」
しばし2人の声が止む。ベルガシュの鼻を啜る音だけが聞こえてくる。
侯爵夫人は薄い扉1枚を隔てた部屋で会話に聞き入った。
「判った。本当に心を入れ替えるんだな?その言葉に嘘はないな?」
「ない、ないよ。俺はもう嘘を吐く事を止めたんだ」
「そうか。だがベルガシュ。3年の間彼女を侯爵家に迎え入れているんだ。手のひらを返したように直ぐ対応を変えるのは得策とは言えない。アイリーンとの離縁できる時間まではまだ2年ある。あの娘は優秀だ。仲良く2人で助け合えば今以上にオルコット家は栄えるだろう。アイリーンは離縁ありきで過ごしているからアイリーンを逃げないようにすることも必要なんだ」
「まだディララと付き合えと?無理だよ。もう嫌なんだ」
「だからこそだ。幸せを掴むには苦労も必要なんだ。アイリーンを侯爵家に戻すよう動くから、お前はハルテ伯爵令嬢に気づかれないように上手く立ち回るんだ」
「どうするって言うんだよ・・・あんな阿婆擦れ」
「そのまま住まわせるんだ。だが、家同士の契約もあるから2年経つまでは手が出せない。離縁したと見せかけて彼女の籍をハルテ伯爵家から抜き、その後は屋敷の地下で数日暮らして貰えばいい。2週間もすれば物言わぬ骸となる。そうなればハルテ伯爵家からの苦情も撥ねつける事が出来る。あんな娘だ。嬉々と旅行に行ったとでもして、旅先で野盗に襲われたとすればいい。顔も判別できない死体なんか郊外に行けば幾らでも転がっているんだら。お前たちは何食わぬ顔で暮らせばいい。ベルガシュ、いいか?これは私とお前だけの秘密だ」
侯爵夫人は夫の考えに激しい怒りを覚えた。
我が子が可愛い。それは仕方のない事だが、やろうとしている事は人とは思えない鬼畜の所業。ディララが可哀想だとは思わないが、それでも人の道に外れ、何食わぬ顔でその後も笑って生きて行こうなど虫酸が走る。
侍女が戻る前にと、夫人は執務机の椅子に座り直し、別邸に引っ越してからは開ける事のなかった引き出しを引いた。
色褪せた封筒を取り出し、目の前に置く。
中に入っているのは、かつて「君が望むなら離縁してもいい」とオルコット侯爵が渡してきた離縁書。夫人の欄だけが空白でオルコット侯爵の記載する欄は埋まっている。
「我が子か妻か。彼はどっちを取るかしら」
かつて、留まっても地獄、実家に出戻っても地獄の2択で留まる事を選んだ夫人。
夫がどちらを選ぶのか。
「どっちでもいいわ。わたくしの選択は1択だもの」
「奥様、どうなさいました?」
頼んだ水を持って侍女が話しかけてくる。
夫人は「アライグマって熟す前の桃も好きかなと思ったのよ」と笑って答えた。
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