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第26話 Come on Lady!魅せられろ!!
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「まぁ、ご覧になって。エスコートも無いんですってよ」
「わたくしなら恥ずかしくてとても参加できないわ」
クスクスと半月型になった目で、口元を扇で隠した夫人達が1人で入場してきたアイリーンに注目し、愉しい会話に花を咲かせる。
――キッついわぁ・・・セルジュに癒されたい(ぐすん)――
心で泣いても顔は笑顔。
俯く事は許されず、前を向いて、下手をすればドレスの装飾に埋もれてしまいがちの指先をまわりによく見せるように胸の前で扇を持ち、涼し気な表情を作ったり、時に窓の外を眺めたりせねばならない。
不合格が出てしまった石を亀裂を利用して割って、光の反射を考えてメインで施したネイルアートの周りにサブで散りばめる。
つけ爪をしている夫人や令嬢ばかりで、今回アイリーンの指先にはつけ爪ではなく、爪本体に長さが4、5センチはありそうな装飾がある。
エンヴィーのコンセプトは「指先の芸術」
エンヴィーは「ずっとやってみたかったのよ」と「つけ爪」を如何に見せるかではなく、まるで指先から星空の中の流れ星が飛び出るようなイメージで装飾されたもの。「お洒落」とは一線を画したものだった。
細い針金にクズ石と呼ばれた石たちが丁寧に張り付けられて1つ1つの石が星となり、連なって流れ星を作る。
アイリーンの事をコソコソと嘲笑する者の数が圧倒的に多いが、オシャレや流行に敏感な若い令嬢は、最初は遠巻きに見ていたが、チラチラと話しかけるタイミングを伺うようになってきた。
――えぇっと…1回目は目が合ったら視線を逸らす‥だったわね――
エンヴィーは相手の記憶に「良い印象」で残るためだとアイリーンにレクチャーした。
『いい?1回目は目が合ったらさりげなく逸らすのよ。気が付いたかな?あれ?違う?って思わせるの』
『視界の中に入った程度って素振りをすればいいの?』
『そうよ。バッチリ視線が合ってるんだけど、気のせいかな?って思わせるの』
『2回目はどうするの?』
『今回は初回の夜会でしょう?軽く会釈で引き上げてくるの。会話はしなくていいわ』
『会釈?2回目に目が合った人、全員にするの?大変だわ』
『何言ってるの!これもまた相手に自分かな?って思わせるように!だから会話はしないの』
エンヴィーはどうやら女性相手かどうかは別として、場数は踏んでいるようで2回目、3回目となると相手から話しかけてくるのをじっと待つのだという。
『まるで釣りの達人みたいね』
『その通り!魚が餌にガッツリと被りつくまで慌てて引き上げちゃダメなの』
『がっつり・・・』
『そうよ。こう言うのはね、インフルエンサーを釣り上げたら勝ちなの。インフルエンサーは流行りにビンカンなだけじゃないわ。自分という商品を如何に魅せるかを心得ているから他者と同じ物には目もくれないの。流行っている最中でもインフルエンサーにはもう流行遅れ。常にファッションならファッションの最先端を歩いてるの』
会うごとに違うネイルアートを魅せる事で、オリジナル1点物だと教え、客を引っ張り込む。
エンヴィーの言う通り、2回目、3回目となると話しかけてくる令嬢が現れたのだが、俗にいう「壁の花令嬢」で派手な装飾には憧れるが、自分が一番乗りとなると二の足を踏む。
しかし5回目の夜会では遂に令嬢達の中心にいる公爵令嬢が話しかけてきた。
そこからエンヴィーの店は予約を取る予約だけで1か月待ち。
間違ってはいけない。1回目は言ってみれば整理券を予約するのだ。その整理券を手にして初めて施術の予約が出来る。
パン屋でもレストランでもカフェでも人が行列を作ればそれだけ目立つ。
エンヴィーの店はアーティスト(従業員)を5倍に増やし、開店時間を2時間早く繰り上げ、閉店時間を1時間遅くしても毎日が満員御礼となった。
オリジナル1点物は時間もかかるがパーツの量も多いので値が張る。
出荷調整をかけて、「限定」とすればアイリーンの目論見通りプレミア感を勝手に感じてくれる。「2カ月待ちです」「3カ月待ちです」と断りを入れても令嬢たちはこぞって1点物に拘り来店した。
勿論、リーズナブルな施術もある。その時に『サービスです。秘密ですよ?』と欠けてしまって使い道がない石を「トッピング」するとそれだけでリピーターになる。
アイリーンは若い世代向けだけではなく、コソコソと嘲笑していた世代に向けても宣伝をする為に夜会に出席し続けた。
年代に合わせて、大人しいデザインのネイルアートを施し、会話の内容も勿論変える。
既婚者相手となればアイリーンはそれだけで引っ張りだこ。
何故ならば、若い世代の未婚令嬢に向けての宣伝活動でディララも釣り上がった。
ディララが釣れたのは想定外の大誤算。
エンヴィーは『どうするかはアイリーンに任せるわ』と言った。
アイリーンは久しぶりにオルコット侯爵家の別邸、侯爵夫人を訪ねた。
「わたくしなら恥ずかしくてとても参加できないわ」
クスクスと半月型になった目で、口元を扇で隠した夫人達が1人で入場してきたアイリーンに注目し、愉しい会話に花を咲かせる。
――キッついわぁ・・・セルジュに癒されたい(ぐすん)――
心で泣いても顔は笑顔。
俯く事は許されず、前を向いて、下手をすればドレスの装飾に埋もれてしまいがちの指先をまわりによく見せるように胸の前で扇を持ち、涼し気な表情を作ったり、時に窓の外を眺めたりせねばならない。
不合格が出てしまった石を亀裂を利用して割って、光の反射を考えてメインで施したネイルアートの周りにサブで散りばめる。
つけ爪をしている夫人や令嬢ばかりで、今回アイリーンの指先にはつけ爪ではなく、爪本体に長さが4、5センチはありそうな装飾がある。
エンヴィーのコンセプトは「指先の芸術」
エンヴィーは「ずっとやってみたかったのよ」と「つけ爪」を如何に見せるかではなく、まるで指先から星空の中の流れ星が飛び出るようなイメージで装飾されたもの。「お洒落」とは一線を画したものだった。
細い針金にクズ石と呼ばれた石たちが丁寧に張り付けられて1つ1つの石が星となり、連なって流れ星を作る。
アイリーンの事をコソコソと嘲笑する者の数が圧倒的に多いが、オシャレや流行に敏感な若い令嬢は、最初は遠巻きに見ていたが、チラチラと話しかけるタイミングを伺うようになってきた。
――えぇっと…1回目は目が合ったら視線を逸らす‥だったわね――
エンヴィーは相手の記憶に「良い印象」で残るためだとアイリーンにレクチャーした。
『いい?1回目は目が合ったらさりげなく逸らすのよ。気が付いたかな?あれ?違う?って思わせるの』
『視界の中に入った程度って素振りをすればいいの?』
『そうよ。バッチリ視線が合ってるんだけど、気のせいかな?って思わせるの』
『2回目はどうするの?』
『今回は初回の夜会でしょう?軽く会釈で引き上げてくるの。会話はしなくていいわ』
『会釈?2回目に目が合った人、全員にするの?大変だわ』
『何言ってるの!これもまた相手に自分かな?って思わせるように!だから会話はしないの』
エンヴィーはどうやら女性相手かどうかは別として、場数は踏んでいるようで2回目、3回目となると相手から話しかけてくるのをじっと待つのだという。
『まるで釣りの達人みたいね』
『その通り!魚が餌にガッツリと被りつくまで慌てて引き上げちゃダメなの』
『がっつり・・・』
『そうよ。こう言うのはね、インフルエンサーを釣り上げたら勝ちなの。インフルエンサーは流行りにビンカンなだけじゃないわ。自分という商品を如何に魅せるかを心得ているから他者と同じ物には目もくれないの。流行っている最中でもインフルエンサーにはもう流行遅れ。常にファッションならファッションの最先端を歩いてるの』
会うごとに違うネイルアートを魅せる事で、オリジナル1点物だと教え、客を引っ張り込む。
エンヴィーの言う通り、2回目、3回目となると話しかけてくる令嬢が現れたのだが、俗にいう「壁の花令嬢」で派手な装飾には憧れるが、自分が一番乗りとなると二の足を踏む。
しかし5回目の夜会では遂に令嬢達の中心にいる公爵令嬢が話しかけてきた。
そこからエンヴィーの店は予約を取る予約だけで1か月待ち。
間違ってはいけない。1回目は言ってみれば整理券を予約するのだ。その整理券を手にして初めて施術の予約が出来る。
パン屋でもレストランでもカフェでも人が行列を作ればそれだけ目立つ。
エンヴィーの店はアーティスト(従業員)を5倍に増やし、開店時間を2時間早く繰り上げ、閉店時間を1時間遅くしても毎日が満員御礼となった。
オリジナル1点物は時間もかかるがパーツの量も多いので値が張る。
出荷調整をかけて、「限定」とすればアイリーンの目論見通りプレミア感を勝手に感じてくれる。「2カ月待ちです」「3カ月待ちです」と断りを入れても令嬢たちはこぞって1点物に拘り来店した。
勿論、リーズナブルな施術もある。その時に『サービスです。秘密ですよ?』と欠けてしまって使い道がない石を「トッピング」するとそれだけでリピーターになる。
アイリーンは若い世代向けだけではなく、コソコソと嘲笑していた世代に向けても宣伝をする為に夜会に出席し続けた。
年代に合わせて、大人しいデザインのネイルアートを施し、会話の内容も勿論変える。
既婚者相手となればアイリーンはそれだけで引っ張りだこ。
何故ならば、若い世代の未婚令嬢に向けての宣伝活動でディララも釣り上がった。
ディララが釣れたのは想定外の大誤算。
エンヴィーは『どうするかはアイリーンに任せるわ』と言った。
アイリーンは久しぶりにオルコット侯爵家の別邸、侯爵夫人を訪ねた。
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