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第25話  アイリーン、広告塔になる

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ネイルサロンの創業者本人がまさか来るとは思っても見なかったアイリーンは慌てた。

「エンヴィーよ。家名はないわ。昔はあったけど必要ないから拾う事はめたの」

肩を軽く上げておどけた表情の女性は、挨拶の時に見せた朗らかな笑顔は小分けした石を見始めると一変。ちらっと見て右に左に。手に取って透かして右に左に。あっという間にちょっぴりの右の山と、こんもりした左の山に分けていく。


「先ず右側。品は良いわね。ランクが落ちれば透明度も無くなるけれど、場所によってはJランクでも需要が見込めるわ。ただ、接着する部分の削りが甘いわね。見えなくなる部分までこだわって欲しいの。このランクで条件が維持できるなら10個1セットを月に最低5千セットで取引するわ」

右に分けられた石。必ずしも1段階目、A段階目ではなかった。
何が基準なのか。それよりもおそらくは「ボツ」である左の山が問題だ。
パーセンテージで今日持ち込んだ8割が左の山となっている。

「次に左の山。微妙な石もあるけれど一山幾らでしか取引できないわ。見てくれるかしら」

エンヴィーは合格を出した石を1つ無造作に取り出す。同じように不合格の石も1つ。

「大きさはいいの。くすみがあってもベースはマニュキュアを塗った爪だから誤魔化そうと思えば誤魔化せるし、デザイン次第で面白いものは出来そう。でもね、よく見て。これは傷ではなく亀裂なの。接着剤が入り込んで出来上がりと同時に割れるわ。そうなれば商品ととしては無価値、いえ不良品ね。やり直しになってお客様にも迷惑が掛かってしまうわ。正直、亀裂があるものは割れていれば使い道はあるんだけど、この状態だと使えないわ。再選別すれば合格点になる石もあって混じってる状態なの」

「そうですか‥判りました。亀裂のある石についてはもう一度選別の方法を見直してみます。それから…デザイン画なのですが、これらの石を使って採用出来そうなものがあれば検討して頂きたいのです」

「デザイン?デザイナーもいるの?」

「いえ、デザイナーではなく今回領民なのですが、この石を広く知ってもらうための宣伝にも使えるかも知れないと案を出して貰ったんです」

「領民の・・・見せて頂ける?」

「はい。こちらになります」

アイリーンは束になったデザイン画をエンヴィーに手渡す。
エンヴィーはアイリーンが考えたように3枚目、4枚目と早いスピードで捲って行くのだが、そろそろ真ん中に差し掛かろうかという8枚目で手を止めた。

3人の少女が描いたデザイン画を抜き取り、次を捲って行く。最後まで見終わったエンヴィーはもう一度束のデザイン画をパラパラと捲り、少し考えながら2枚を抜き取った。

「斬新だわ。これを描いた領民の方に会ってみたいわ」
「ありがとうございます。こちらは3人の少女が連名で描いたものなんです」
「3人・・・そうなのね。あぁ、この2枚は手を加えればいい感じになりそうなの。でも…これは別格ね」

その1枚だけは他のデザインとは違っていた。
手足の爪に施すデザインと言われて、1枚以外は1本の指の爪に絵柄を描いていた。勿論それでもいいのだが、エンヴィーもアイリーンも「これは‥」と思ったものは、ネイルアートだけをデザインしたものではなく、1人の人間をデザインしたもの。

ドレス、髪飾り、ネックレス、化粧に至るまでが1つの作品だった。勿論ネイルアートも含まれていて全ての指先まで連なったネイルアート。どれが欠けても成立しないデザイン。

エンヴィーは「3人を纏めて面倒見たい」と申し出てくれた上に、一山幾らで不合格となった石についても商会から選定係を領地に派遣する事も約束してくれた。

「で?アイリーンさんも原石よね?」
「は?私がですか?」
「そうよ。碌にお肌のお手入れもしていないし、化粧も言ってみればリクルートメイク。貴女も広告塔になって頂く事も条件に追加するわ」
「ま、待ってください。私は茶会や夜会はもうかなり長い間ご無沙汰でして」

エンヴィーは不敵に笑う。

「広告はね、ただ広げればいいって訳じゃないの。消耗品、つまり食べたり使ったりすれば無くなるものはインパクトのあるフレーズなんかですり込むの。でもね、ドレスとか宝飾品、ネイルアートなど言ってみれば形があるモノは現物を実際に見せて口コミを利用した方がかかった経費に対しての効果が大きいのよ」

アイリーンは、それもそうだとエンヴィーの言葉に納得した。

「美味しかった」「使い易かった」と口コミで言われても半信半疑。しかし、耳に残るフレーズの言葉などを覚えていれば手に取って「買ってみよう」となりやすい。

化粧やドレスなどは、見た事のある人から言葉で聞いてもイメージしにくいが、実際に見れば「やる」「やらない」を判断しやすい。

――領民の皆の為だわ。仕方ない――

「判りました。やります」
「そう来なくっちゃ。専属のネイルアーティストがいるから、週に少なくとも3回。お披露目してきて頂戴ね」


まさか石を売り込みに来て、広告塔にならねばならないとは。
笑顔も引き攣るアイリーンだった。
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