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第12-1話 深夜の取り決め①
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オルコット侯爵家には6つの領地がある。名義は侯爵が3つ、夫人が2つで、それとは別に侯爵家という「家」が領主となり流刑地のある領地が1つ、国から任されている。
公爵家と侯爵家そして辺境伯家には「家」名義の領地が国から与えられるのだが、領地の位置が国土の何処にあるのかなど国防の意味もあり、売る事も担保にする事も出来ずいらなくなれば国に原状回復の上で返上となる。
オルコット侯爵家が任された領地は罪人が服役場、つまり流刑地であるだけだ。
鉱山にも種類があり、掘り尽くして穴だらけになるだけのものもあれば、掘る最中に空気と触れて有害物質に化学変化をしてしまうものもある。
俗にいうヒ素、水銀などである。
害虫駆除の薬品や化粧品、赤い染料を欲した先人が残した負の遺産である。
どこかしこに設ける事も出来ない流刑地。
自宅から徒歩10分で公開処刑場があったり、多くの凶悪犯を収容している建物があると聞いて「やったー!」と思うものはいない。
殺人や強盗など重罪を犯した者達を集めた流刑地。生きて流刑地を出る者はいない。
牢に入れておけば満員御礼で2食昼寝付。それだけの人数を就労させる場もないし被害者に雀の涙ほどの補償も行えないため、流刑地では硫化鉱物が流れださないように常に水で薄める必要があり犯罪者がその労働にあてがわれている。
オルコット侯爵は管理は国が行っているが、「身綺麗」な王家で居たいがために公には「貴族の所有地」としたその領地をベルガシュに残す事に決めた。
名前貸しのようなもので、寝ていても毎月国から「管理料」という名目で金が支払われる。
天候不良も洪水などの災害も全て国が処理をしてくれるので本当に何もしなくていい。
デメリットは「売れない」「担保に出来ない」だけで不要な時は管理料を諦めて国に返せばいい。
原状回復も罪人を収監している建物を壊す事も出来ないため、しなくて良いのだ。
ベルガシュの力量からすれば、これ以上の物件はない。
昨夜の話、ベルガシュも参加するかと思いきや「ディララを送って行く」と言った切り、待てど暮らせど帰ってこない。
「いったい何処の花畑まで送って行ったのかしら」
「待っても仕方ない。始めようか。ベルガシュには私から決定事項だけを伝える事にするよ」
「是非そうしてくださいまし。理解させるまでの時間がもったいないですもの」
「アハハ・・・そうだね」
諦めて話を始めたのはもう日付を超えた頃だった。
侯爵夫妻は侯爵名義の領地の1つに隠居する。名はオルコット侯爵領だが先代が管理する事になり、引退と同時に分家扱いとなる為、本家となるオルコット侯爵領ではなくなる。
アイリーンは侯爵名義の残り2つの領地と夫人名義の2つの領地を慰謝料として受け取って欲しいと言われたのだが、迷っている。
農耕地であり、肥沃な大地。今まで学んだ通りに土地をローテーションしながら作物を育てれば相当な利益が出る。それは頭では解るのだが、領地と領地は隣り合っていないので管理が難しくなる。
中央にある王都を拠点にすればいいのだが、アイリーンは「崖」が好きなセルジュの為に出来れば田舎が良い。
「売ってもいいんだよ?」
簡単に言うが、広すぎて購入できる貴族は限られている。収穫量がある事から買い手はいるのだが、その収穫量があるだけに「額」で決める事も出来ない。国内の食料自給率が下がってしまう場合も考えられる。
アイリーンは侯爵家の経営を任せると言われた日から考えていた事を話し始めた。
「売るのではなく、渡す・・・と言うのは難しいでしょうか?」
「渡す?領地を渡すのかい?誰に貸すかの選定は必要で問題ないが渡すとなれば・・・」
「侯爵様、ほい!と渡すんじゃありませんよ?」
「ふぇっ??」
アイリーンにはベルガシュが流刑地の領地だけで納得するとは到底思えない。
オルコット侯爵家にやって来て半年ベルガシュは戻る事はなかったが、年に数回は帰って来て金の無心をする事は聞いていた。
――その場凌ぎでも良いからいい訳が必要なのよ――
中級文官の15年分の所得ですら1年経たないうちに遊興費で使い切る。年額で考えると平民が懸命に働いた一生分の賃金を1年で使い切る計算になる。
国から毎月支払われる金は屋敷の維持費と食費、消耗品費などで少し残るかどうか。
遊びに使う金など含まれていないのだから、気が付けば納得はしないだろうし、この4年半の間に誰かが入れ知恵をすれば元の木阿弥。
実質引退をするオルコット侯爵夫妻。その後にベルガシュに支援を求められてしまえばオルコット侯爵夫妻の生活も成り立たなくなる。
他人ではあるけれど、無関係ではなくなった面倒ごと。
オルコット侯爵家に嫁ぐと決めた気持ちと同じ。
誰のために?決まっている。領民の為だ。
――棺桶に片足突っ込んでるんだから一緒だわ――
アイリーンは「全力支援ですわ!」と前置きして言葉を続けた。
「アイリーン?誰にどうやって渡すというの?」
「渡すのは領民に!です」
「領民に?!いや、そんな事をしなくても仕事はしてくれているよ?」
間違いない。確かに領民は「言われるがまま」に農地を耕して収穫してくれている。
でも、それではダメなのだ。
「侯爵様、これは農夫達や領民の為だけでなく、ベルガシュさんの為でもあるんです。期間限定の白い結婚で去る私ですが、夫である彼の為に!!侯爵家の為に!!(ホントは領民の為に!)全力支援させて頂きますわ」
例えるならば「プシュー」
アイリーンは鼻息荒く、オルコット侯爵夫妻に詰め寄った。
公爵家と侯爵家そして辺境伯家には「家」名義の領地が国から与えられるのだが、領地の位置が国土の何処にあるのかなど国防の意味もあり、売る事も担保にする事も出来ずいらなくなれば国に原状回復の上で返上となる。
オルコット侯爵家が任された領地は罪人が服役場、つまり流刑地であるだけだ。
鉱山にも種類があり、掘り尽くして穴だらけになるだけのものもあれば、掘る最中に空気と触れて有害物質に化学変化をしてしまうものもある。
俗にいうヒ素、水銀などである。
害虫駆除の薬品や化粧品、赤い染料を欲した先人が残した負の遺産である。
どこかしこに設ける事も出来ない流刑地。
自宅から徒歩10分で公開処刑場があったり、多くの凶悪犯を収容している建物があると聞いて「やったー!」と思うものはいない。
殺人や強盗など重罪を犯した者達を集めた流刑地。生きて流刑地を出る者はいない。
牢に入れておけば満員御礼で2食昼寝付。それだけの人数を就労させる場もないし被害者に雀の涙ほどの補償も行えないため、流刑地では硫化鉱物が流れださないように常に水で薄める必要があり犯罪者がその労働にあてがわれている。
オルコット侯爵は管理は国が行っているが、「身綺麗」な王家で居たいがために公には「貴族の所有地」としたその領地をベルガシュに残す事に決めた。
名前貸しのようなもので、寝ていても毎月国から「管理料」という名目で金が支払われる。
天候不良も洪水などの災害も全て国が処理をしてくれるので本当に何もしなくていい。
デメリットは「売れない」「担保に出来ない」だけで不要な時は管理料を諦めて国に返せばいい。
原状回復も罪人を収監している建物を壊す事も出来ないため、しなくて良いのだ。
ベルガシュの力量からすれば、これ以上の物件はない。
昨夜の話、ベルガシュも参加するかと思いきや「ディララを送って行く」と言った切り、待てど暮らせど帰ってこない。
「いったい何処の花畑まで送って行ったのかしら」
「待っても仕方ない。始めようか。ベルガシュには私から決定事項だけを伝える事にするよ」
「是非そうしてくださいまし。理解させるまでの時間がもったいないですもの」
「アハハ・・・そうだね」
諦めて話を始めたのはもう日付を超えた頃だった。
侯爵夫妻は侯爵名義の領地の1つに隠居する。名はオルコット侯爵領だが先代が管理する事になり、引退と同時に分家扱いとなる為、本家となるオルコット侯爵領ではなくなる。
アイリーンは侯爵名義の残り2つの領地と夫人名義の2つの領地を慰謝料として受け取って欲しいと言われたのだが、迷っている。
農耕地であり、肥沃な大地。今まで学んだ通りに土地をローテーションしながら作物を育てれば相当な利益が出る。それは頭では解るのだが、領地と領地は隣り合っていないので管理が難しくなる。
中央にある王都を拠点にすればいいのだが、アイリーンは「崖」が好きなセルジュの為に出来れば田舎が良い。
「売ってもいいんだよ?」
簡単に言うが、広すぎて購入できる貴族は限られている。収穫量がある事から買い手はいるのだが、その収穫量があるだけに「額」で決める事も出来ない。国内の食料自給率が下がってしまう場合も考えられる。
アイリーンは侯爵家の経営を任せると言われた日から考えていた事を話し始めた。
「売るのではなく、渡す・・・と言うのは難しいでしょうか?」
「渡す?領地を渡すのかい?誰に貸すかの選定は必要で問題ないが渡すとなれば・・・」
「侯爵様、ほい!と渡すんじゃありませんよ?」
「ふぇっ??」
アイリーンにはベルガシュが流刑地の領地だけで納得するとは到底思えない。
オルコット侯爵家にやって来て半年ベルガシュは戻る事はなかったが、年に数回は帰って来て金の無心をする事は聞いていた。
――その場凌ぎでも良いからいい訳が必要なのよ――
中級文官の15年分の所得ですら1年経たないうちに遊興費で使い切る。年額で考えると平民が懸命に働いた一生分の賃金を1年で使い切る計算になる。
国から毎月支払われる金は屋敷の維持費と食費、消耗品費などで少し残るかどうか。
遊びに使う金など含まれていないのだから、気が付けば納得はしないだろうし、この4年半の間に誰かが入れ知恵をすれば元の木阿弥。
実質引退をするオルコット侯爵夫妻。その後にベルガシュに支援を求められてしまえばオルコット侯爵夫妻の生活も成り立たなくなる。
他人ではあるけれど、無関係ではなくなった面倒ごと。
オルコット侯爵家に嫁ぐと決めた気持ちと同じ。
誰のために?決まっている。領民の為だ。
――棺桶に片足突っ込んでるんだから一緒だわ――
アイリーンは「全力支援ですわ!」と前置きして言葉を続けた。
「アイリーン?誰にどうやって渡すというの?」
「渡すのは領民に!です」
「領民に?!いや、そんな事をしなくても仕事はしてくれているよ?」
間違いない。確かに領民は「言われるがまま」に農地を耕して収穫してくれている。
でも、それではダメなのだ。
「侯爵様、これは農夫達や領民の為だけでなく、ベルガシュさんの為でもあるんです。期間限定の白い結婚で去る私ですが、夫である彼の為に!!侯爵家の為に!!(ホントは領民の為に!)全力支援させて頂きますわ」
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