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第10話  重婚以前に大問題

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ベルガシュとディララが未婚同士でかつ、平民であれば問題はないだろうが幾つかの問題点を無視して話をするベルガシュにオルコット侯爵がやんわりと「待った」をかけた。

「ベルガシュ。お前はもう結婚をしている。重婚は許されない」

オルコット侯爵の言葉にディララの目には涙が溢れる。
ポロリと一滴が頬を伝うと、ディララは涙声で言葉を漏らした。

「申し訳ありません。半年前に彼が結婚した事は聞かされました。でも、愛してしまったんです」

「それで?」夫人の冷たい声がディララに「だからどうした」と続きを促す。

「だから!私たち愛し合っているんですっ。何を置いても優先されるべきだと思いませんか?お義母様っ」

「貴女に義母と呼ばれる筋合いはないわ。」

「ぐすっ‥‥ぐすっ・・・酷いッ!お義母様は悪魔に魅入られてしまっているんだわ!だから純真無垢なわたくしの事が嫌いなんだわ・・・ぐすっ」


――なぜそうなる?!――

部屋にいる使用人も含めてディララの言葉には目が点になってしまった。

「純真無垢な人間が不貞に手を染めるかしらね。神様も腰を抜かすのではなくて?」


オルコット侯爵はもう気が付いているが、夫人は畳みかけるようにベルガシュとディララに薄く笑った。

「既婚者だと知っての事なのね?愛って大したものだわ。ねぇ、あなた?」
「あ…う、うん…そうだね」

口ごもるオルコット侯爵だったが、ベルガシュはあくまでも強気だった。

「母上には誰かを愛すると言う尊さが判らないだけだ!!ねぇ、父上」

父親は恋多き男だと信じてやまないベルガシュはオルコット侯爵に同意を求めた。
だが、焦っているようでやはりオルコット侯爵は冷静だった。

「重婚も問題だが、愛だのと宣う以前に問題があるだろう?ベルガシュ、判るか?」
「は?‥‥まぁ領地経営ですか?それなら父上にも手伝って頂ければ問題ないかと」
「領地経営ね。それも問題だろうがどうにでもなる。最悪事業を全て解体したっていいんだ。そもそもの部分に問題がある事にお前は気が付かないのか?」

尚も迫るオルコット侯爵にベルガシュは「はて?」考え込んだ。
ベルガシュに私財はもうないが、オルコット侯爵家は資産家。経営は父や使用人にしばらくやって貰えばいいし、アイリーンの事かとも考えるが「重婚も問題だが」と前置きされたなら別の事か?

必死で考えるベルガシュだが何が問題なのかさっぱり解らなかった。


「判らないようだから答え合わせをしようか」
「回りくどいな。父上はいつもそうだ。考えさせる事ばかりを投げつける」

――当たり前じゃないの?――

アイリーンはベルガシュの「基本他人任せ」な部分が鼻について仕方ない。イライラさせる事の天才ではないかとさえ思ってしまった。

が、オルコット侯爵の発した答えにはベルガシュも凍り付いた。

「考える事もない。ハルテ伯爵家のディララさんと言ったね?」
「そうでじゅ・・・ぐすっ」
「さっき紹介したじゃないか。父上はもう忘れたのか?」

「間違いないようだな。この国での結婚はベルガシュ、お前が既婚者である以上重婚は認められない。だが、そもそもでディララさん。君は15歳だろう。結婚は満17歳からの話だ。年齢など考える必要もない事だと思うが?」

「え…15歳・・・18歳だと言ったじゃないか!」

バッとディララに向き合ったベルガシュは部屋にいる人間の中で一番驚いていたが、ディララの返しにベルガシュも含めて魂が抜け出るかと思ってしまった。

「だってぇ…18歳って言ったらベルガシュが勝手に信じたんだもの」

付き合おうと考えている者同士、言葉を頭から疑うものはあまりいない。
その上、女は化粧で化けるというが昨今王都ではデヴュタント前の12、13歳の令嬢から22、23歳前後の女性まで同じようなメイクが流行っていてビフォーアフターをしっかりガードしていれば見抜く事も難しい。


未成年に手を出したのかと場の空気も凍り付いたがベルガシュはと否定をした。

「こっ!これは純愛なんだッ!!」

<< うわっ…キモっ >>

全員が飲みこめずに漏らした言葉がピタリと重なった。

アイリーンは10歳も年下の未成年に結婚まで本気で考えて鼻の下を伸ばしているベルガシュが気持ち悪くて仕方がなかった。
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