公爵夫妻は今日も〇〇

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第1話♡  責任からの婚約と結婚

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貴族令嬢という生き物は爵位という家につけられた位が高くなるにつれてそこに生まれただけで息苦しい生活を強いられるのです。

私、エディット・ペレもその中の1人。

フェッタ侯爵家という高位貴族の家に第2子であり長女として生を受けた私に自由があったのは6歳、いや7歳まで。

廊下を走るのも、お父様やお母様に抱き着くのも、木登りをするのも、暑いからと転んだ振りをして池に飛び込むのも許されたのは過去の話。

歩く歩幅はつま先から踵までの距離が一歩。
自分の部屋まで生きて辿り着けるの?と何度思った事か。

喜劇を見ても声を出して笑ってはいけません。
「い」「に」など発音する時、歯を見せてはいけません。
どんなにつまらない講義でも欠伸をしてはいけません。

生きる屍になれというのかしら。

そして物凄く面倒なのが結婚相手。

王族や高位貴族はもれなく両親同士で生涯の伴侶を決めてしまうのだから始末に負えない。それが生理的に受け付けない相手でも、全く好みのタイプじゃなくても受け入れなければならないなんて私は前世でどれだけの悪人だったのかしら。

そんな私の夫となったのはラウル・フェルトマス・ペレ。
筆頭公爵家の嫡男で、婚約をした時は公爵子息と呼ばれましたが、結婚した今はペレ公爵ともペレ次期宰相とも呼ばれる男。

国王陛下の甥でもある夫は金髪碧眼。身の丈は多分180cmに少し足らないくらいで無駄なお肉は一切ない締まった体躯に、人気の歌劇俳優と並んでも何馬身の差を開けてるの!と言いたくなるぶっちぎりの美丈夫。

切れ長の目の上には薄い癖にきりりとした形の良い眉。高い鼻梁に程よい厚さの唇。
神様は二物を与えないと誰が言ったの!

夫は幾つも持ってるんですけど!

と、苦情を言いたくても言っていく先は無し。と。世の中理不尽に上手く出ている。



実は私とラウル。初夜は済ませていない結婚1年目の夫婦。
残念ながら「じゃ、白い結婚で離縁出来るね!」なんてのは御伽噺や小説の世界の話。

離縁はしようと思えば出来なくはないけれど、離縁できない理由が御座います。
正確にはしてもらえないと言った方が的確かしら。

世の中には本人が「本当に気にしないで。ね?」と言ったところで周囲がそれを許さないという事象があるのをご存じ?

私の場合はこの左足。

負傷から4年経ち、リハビリの成果もあって歩行には問題御座いません。
走る必要はないし20歳を超えて木登りをしようと思いません。バレリーナではないのでトゥも必要はないし、高い所にあるものは使用人に頼めば取って貰えるのです。

ゆっくり歩くのは夫人としては当たり前で、ダンスはパートナーにそれなりの技量は求められるけれどサンバやルンバ、ゴーゴーにモンキーを踊る訳でもなく、ワルツくらいなら踊れますが、引きながら歩く左足がラウルが離縁に応じてくれない理由。

私とラウルが婚約をしたのは親同士が決めたけれど原因は結局この左足。

私が16歳、ラウルが19歳で婚約となったのだけれど、第2騎士団長だったお父様に書類を届けた帰り道。事件が起こったのです。



『くそっ!なんでっ!打ち込んだのは俺の方が早かったのに!』

打ち合いのトーナメント戦で相手に軍配が上がり勝ち上がれなかったラウルは持っていた剣を地面に叩きつけた・・・までは良かったのだけれど、世の中には「打ち所が悪い」って事が御座いまして、石に当たった剣はポキンと折れてしまい、運悪くそこを通りかかった私の足にぐさりと命中。

腱を切ってしまったことでラウルは責任を取り婚約となってしまったのです。


ラウルはとても気にしているのでしょう。
毎日花を持って屋敷には来ているそうですが、激怒している父の怒りが収まるまではお見舞いも禁じられ、部屋の中は花屋よりも色とりどりの花が花瓶に生けられております。

『はっくしょん!』
『大丈夫?オリーは花粉症なの?』
『ぁい~。もう季節になると目は痒いしクシャミも・・・ふ・ふ・はっくしょん!』
『では、お花のお見舞いはお断りしないとね』

お花に罪は御座いませんが、侍女のオリーのお鼻も大事。
お見舞いのお花もお断りすることにしたのです。


父の怒りがだいぶおさまったのは1年も経った頃。

懸命にリハビリを行う中、忙しい時間を割いて来て下さるラウルにも申し訳なくて私は侍女の介助なしに歩けるようになった時に言ったのです。

「大丈夫ですよ?ほら、介助無くても歩けます」

ですが、ラウルは俯いてしまわれました。
胸を押さえ、言葉も返してくださいません。
侍女がラウルに「介助をどうぞ」「お嬢様のお手を取って差し上げて」と言っても頑なに固辞されます。リハビリは長い時間がかかるものなのですが、長くなれば「またか」と呆れもあるのでしょう。


美丈夫だから良かったじゃない、将来有望だから得したね!と私に言ってきた者は多いけれど、当人にしてみれば迷惑な話。「そこに石があったから」なんて、登山家の「そこに山があるから」のような言い訳を聞いてくれる大人など居らず、責任を取って結婚だなんてラウルには拒否権すらないんだもの。

私だって同情で世話や結婚をしてやってるなんて思われるのは真っ平。家を継ぐのはお兄様なんだから理解のある人を探しても良かったし、なんなら修道院で神に祈りを捧げて「運悪く剣が刺さる人がいませんように」と私と同じ怪我をする人がいないようにと祈ることだって出来たのだけれど親はそれを許してはくれなかったのです。
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