純白の王子妃だった君へ

cyaru

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固いパン

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朝になってもシンディ以外の侍女が来ることはなかった。
人の気配はしているので、この部屋に来ることがないのだろうと溜息をつく。

悔しいと思いながらも一人で着替える事が出来ないのでシンディに手伝ってもらっている時、エンジェリーナのお腹が空腹を知らせてしまった。

「お嬢様…まさかと思いますが昨日は?」
「何も頂いてませんわ」
「ではせめてお水…」

シンディは言いかけたが、寝台横にある水差しは昨日のままである。
エンジェリーナが昨日そっと水を捨てているので中身は空のままで変わっていない。

「お嬢様、少々おまちください」

そう言ってシンディが差し出したのはパンである。
おそらくシンディの朝食なのかおやつなのか。そう思いながらパンをかじる。
思いのほかパンは固かった。それでも口の中に入れるとホっとしたエンジェリーナはゆっくりと噛み締める。

「フレデリックに頼んで何か買ってきてもらいましょう」
「ダメよ。ここにはお金を持ってきていないわ。頼めない」
「お嬢様の御食事代くらいフレデリックには痛くもなんともありませんよ」

そういうとシンディは寝台にはあわないサイズのシーツベッドメイキングを始める。
思えば父には冷遇をされてはいたけれど、シーツを変えていないベッドで寝たのは初めてだった。
侯爵家にいた頃は、熱が出ても必ずシーツは交換をしてくれていたのである。

「使用人のベッドのサイズなので小さいですし、肌触りは良くないと思うのですが取り替えないよりは遥かに良いと思います。これで今夜は我慢してくださいませ」
「何を言うの。とてもありがたいわ。ありがとう」

シンディの変えてくれたシーツはベッド半分ほどの大きさしかない。
ベッドマットが両側に見えているのが少しだけ面白いとまた固いパンを齧った。

その日の昼食もとても目を疑うものであった。
スープはコンソメスープのようでカップの底が見えるが、石のようなものが見える。
スプーンで混ぜると食器を擦るような音がする。そっとカップを置いた。
野菜も昨日ほどはしなびてはいないと思ったが、隠すように置かれたレタスを取ると、痛んで緑色のドロドロした液体が張り付いているような一品だった。
パンも手に取ってみるとシンディにもらったパンよりも遥かに固かった。
とてもエンジェリーナの手では千切れそうにない。
またそっとカトラリーを置いて席を立つ。

夕食も昼食に引けを取らない献立だった。
パイシチューの中身は生肉が詰められている。しかも傷んでいるようで匂いも酷いものだった。
スープの具もそのままにしておいてあげれば綺麗な蝶になっただろうにとエンジェリーナは静かにカトラリーを置いた。

食事室にシンディがいたら暴れてテーブルをひっくり返すかも知れないと思うとくすりと笑って席を立った。

翌日も、その翌日もよくこんなメニューを考えられるものだと思うほどの酷い料理がだされた。

窮状を訴えるわけではないが、王妃様に手紙を書いても一向に返事は来なかった。
使用人たちが何を書いてるか判らなくて処分をしているのかもとシンディが言うので、内容が判る状態でただの季節のかわりを伝えただけの手紙ですら返事が来ることはなかった。

「きっとお忙しいのね。王子妃と違って王妃様は公務が多いと聞くわ」
「忙しくても返事は出来ると思うんですけどねぇ」
「お母様の話をしてほしかったけれど残念だわ」

半年も経つとフレデリックの持ってくる食べ物だけが食事となってしまった。
朝食も、昼食も夕食もとても食べられるようなものではない上に欠けた食器は仕方ないと思えても、鉛製の食器は何をしようとしているのかわかってしまったからだ。

セドリックに言うべきか悩み、鉛の食器を持ち返って手紙をしたため、くれぐれも侍女たちに注意だけでとどめて欲しいと王子妃の公務である決裁書類を持ってくる執事にセドリックへ渡して欲しいと頼んだ。
だが、その返事も来ることはなかった。
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