王子殿下には興味がない

cyaru

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第二章~王子殿下は興味「しか」ない

2人の共同作業

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「さ、急いでください」
「急ぐ?何をするんだ?」

シボリーナミルクをトゥトゥーリアは受け取るとヴァレンティノを家の中に招き入れた。

「手伝って頂きます」
「何をすればいいんだ?」
「先ず、この卵。全部ボウルに割って頂くのですけども、白身と黄身は分けてください」

タマゴを手渡されたが、ヴァレンティノは卵を割った事がない。
手の平で握り潰すのか?と思えば「こうするんです」とトゥトゥーリアがお手本を見せる。

コンコンと卵をキッチンのヘリの角に軽く当てて指でパカっと開く。

「黄色いのが黄身、透明の部分が白身です。白身にあるカラザは取ってくださいね」
「なかなかに高難度だな」
「何事も挑戦ですよ。黄身を潰さないように気を付けてくださいね。3回に分けてお砂糖を入れますけど、泡立てるのにはスピードが必要です!頑張って!」
「リアは何をするんだ?」
「シボリーナミルクとバターで生クリームを作るんです」


ヴァレンティノはメレンゲクッキー、トゥトゥーリアはケーキを作り始めた。
ケーキのスポンジ台は昨夜お隣さんにオーブンを貸してもらい出来上がっている。
どうしても竈だとふんわりとならないので苦肉の策である。

カシャカシャ‥‥カシャカシャ・・・。
ただ混ぜるだけだと思っていたが、ヴァレンティノは世にも不思議な光景を目の当たりにした。


「リっリア!!白くなって固くなってきたぞ?私は手順を間違ったのか?!」
「それでいいんです。もうちょっと・・・固さが必要かな」
「まだ混ぜるのか?!もうドロドロじゃないぞ?」
「いいんですよ。それで」

ヴァレンティノが必死に混ぜるメレンゲの中にトゥトゥーリアはホウレンソウを乾燥させて砕いた粉を混ぜた。すると白かったメレンゲが薄い緑色になっていく。

街に行けば搾り機も売ってはいるのだが、程よい固さになったメレンゲを平たい鉄板の上にスプーンで掬って並べて行く。竈に入れて少し待つとヴァレンティノが大好きな焦げ目がついて来た。

「リアっ!リアっ!焦げ目がついて来たぞっ!これからどうするんだ?」
「どれどれ~・・・まだかな」

入り口はオープンの竈。トゥトゥーリアはピックの先でツンツンとメレンゲクッキーを突っつく。

「火は弱くしてあるので、こっちを手伝ってください」
「いいのか?このままで」
「いいんですよ。ちょっと強めの余熱のようなものですから」

呼ばれたヴァレンティノが手伝うのはケーキの飾りつけ。
シボリーナミルクとバターを溶かし、昨夜のうちに井戸から桶に水を入れて屋外放置で作った氷。桶の表面を叩き割り、ボウルを冷やしながらトゥトゥーリアは生クリームを作った。

「スポンジ台に生クリームは塗ったので、イチゴとかのせて行きましょう」
「いいのか?私が手伝っても・・・」
「何を言ってるんです。真ん中はメレンゲクッキーを置くのであけてくださいね」


ふるふると震える手でヴァレンティノはイチゴやカットしたオレンジを飾りつけて行く。
ふと見ればラズベリーやブルーベリーの実もあった。

「ブルーベリーやラズベリーはどこに飾るんだ?」
「それはね~焼いてるメレンゲクッキーをちょっと焦げ目付けて幹に見立てて、リースみたいにするんですよ。そろそろ焼き色もいい頃かな。取って来るのでイチゴで飾っててくださいね」

キッチンに戻ったトゥトゥーリアは竈を覗き込み、プレートを取り出した。
皿の上にコテでクッキーを剥がし載せて、粗熱を取っていく。

あとはこのクッキーで仕上げをするほぼ完成のケーキを生クリーム作りに使った残りの氷が入った箱で冷やしながら、トゥトゥーリアはヴァレンティノと作業台にもなっていたテーブルを動かし、真っ白いクロスを掛けた。


「真ん中にケーキを置いて・・・あ!七面鳥!!もうすぐ届くと思いますので受け取ってください」
「そんなもの。言ってくれれば手配したのに」
「いいんです。今日は使用人さんもお休みでしょう?それに七面鳥のローストは孤児だった子供たちが配達をしてくれるお仕事にもなってるんですよ?生誕祭、様、様ですもの」

上げ膳下げ膳だったヴァレンティノは知らなかった。
気を利かせた使用人が焼いたものを置いてくれていただけだった。


言われた通りにしただけだが、この疲労感も悪くない。
ヴァレンティノは感じた。
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