26 / 43
第25話 楽しくなければしないでしょ
しおりを挟む
13日目。いよいよ明日でサブリナがお役御免、いやこの執務が終わると言う日。
ボナパルト号に跨り、パッカポッカとやって来たトゥトゥーリアを先に到着していたサブリナが待ち構えていた。
「妃殿下。お話が御座いますの。お時間よろしくて?」
「そうですね。開始まで30分有りますから、その間なら」
「良かったわ。ではこちらへ」
案内をされたのはヴァレンティノの執務室に行く廊下とは反対の廊下を通った先にある部屋。
――へぇ、こんな部屋もあったんだ――
宮に住まう事も無く、あのこぢんまりとした家で生活をしているトゥトゥーリアには宮の間取りですら興味がなかった。離縁をするのに知り尽くしているほうが問題だろうと考えている。
「わたくし、妃殿下がお可哀想でなりませんの」
「可哀想?私が?」
――確かにそうとも言えるわね。本当は市井で働きたかったのに――
そう考えたトゥトゥーリアだったが、サブリナの言う「可哀想」とは違っていた。
「わたくし、レリィとは以前婚約をしておりましたの」
「はい、以前お聞きしました」
「良かった。お忘れになっているのでは?と思いまして」
――私なら婚約解消した相手を一刻も早く忘れたいと思うけど――
「それと、私が可哀想というのとどういう関係が?」
「心苦しくて。でも妃殿下のお立場を考えると知っておられた方が宜しいかと」
――なんなの?あるある言いたいで引っ張るのかしら?――
時間もあるのになぁと壁に掛けられた時計を見るとあと15分。
あるある言いたいとロングバージョンはご遠慮願いたい時間である。
「わたくし、実は婚約を解消した後もレリィとは密な付き合いを続けておりますの」
「宜しいのでは?円満解消ならそのような事もあるでしょうし、王家と公爵家、いがみ合うより仲が良いほうが周りも要らぬ心配をせずに済みますから」
ギリっとサブリナが下唇を噛むのだが、トゥトゥーリアは「それで?」と話を進めろと急かした。
「初心な妃殿下は御存じないので、レリィも気にかけておりましたの。レリィは子は要らぬ・・・そう申したはずです」
――あ~そんな事を言ってたわね――
「母親の違う子供は・・・色々と御座いますでしょう?」
――解るぅ~それ解るぅ~もう解りみしかなぁい!!――
色々なシチュエーションはあるだろうが、少なくともトゥトゥーリアは母親に非がないのに不遇の扱いを母子で受けて来た。こんな関係なら要らないと心から思うほどに!
「わたくしとレリィ。今は婚約を解消しておりますが、関係は続いていると言っているのです。お判りかしら?」
「解るか解らないかで言えば解ります。端的に言えば不貞の関係ですよね?」
「判って頂けて良かった♡レリィはなかなか気の休まる時間もないでしょう?わたくしが癒しとなってレリィを支えておりますの。でも・・・妃殿下には申し訳ないという気持ちも御座いましてよ?」
「不貞は刑事罰に問われるわけではないので、倫理観の欠如と言うことを理解されたうえでの事なら、いい大人ですし好きにされれば宜しいのでは?」
「倫理観っ?!あぁもう面倒ね。ハッキリ言ってあげる。レリィはね、わたくしといる時間の方が楽しくて穏かに過ごせる!そう言ってるの!お飾りならお飾りらしく別邸にでも引き籠っていればいいのよッ!」
――あ、本性出ちゃったんだ・・・でもね、ここに来いって言ったの、貴女の大好きなレリィなんだけど?――
しかし、ここで感情を出そうにも如何せん、トゥトゥーリアには正直どうでも良すぎて勝手にしてくれとしか言えないし、思えない。
時間もない事だし…とトゥトゥーリアは時計を見てサブリナに向かって笑った。
「楽しいと思いますよ?癒されもするでしょうし、穏かに過ごせるでしょう。だって不貞ですもの。何処の世界に生活感満載の不貞があります?面倒な事は全部人に丸投げか後回しにして今を楽しむだけが不貞なんですよ?そこに楽しさとか癒しとかなかったら誰も不貞なんかしませんよ」
「レリィに冷たくされるからと強がりを!ハンッ!愛されない女の僻みって惨めね」
「愛されてるかどうかは私の気持ちではないのでわかりませんが、少なくとも離縁について2年という期間を言い出されたのは殿下です。私は付き合わされているようなものなので、冷たくされようが言い合いになろうが貴女を僻んではいませんよ?時間なので失礼しますね?」
「逃げる気?!たかが・・・侯爵家の庶子の癖にッ!」
「逃げるのではありません。仕事の開始時間まであと5分ないからです。それと侯爵家の庶子である事は否定しません。ですが望んで侯爵家に庶子として生まれた訳ではないですし、自分でどうにもならない事をやり玉にあげられても・・・正直、迷惑です。不貞でも何でもご自由に。私は関与も関知もしません。興味がないので」
部屋を出たトゥトゥーリアをサブリナは追いかけては来なかった。
廊下を歩きながらトゥトゥーリアは思った。
――あんな大声で・・・部屋に入る意味あった?――
ボナパルト号に跨り、パッカポッカとやって来たトゥトゥーリアを先に到着していたサブリナが待ち構えていた。
「妃殿下。お話が御座いますの。お時間よろしくて?」
「そうですね。開始まで30分有りますから、その間なら」
「良かったわ。ではこちらへ」
案内をされたのはヴァレンティノの執務室に行く廊下とは反対の廊下を通った先にある部屋。
――へぇ、こんな部屋もあったんだ――
宮に住まう事も無く、あのこぢんまりとした家で生活をしているトゥトゥーリアには宮の間取りですら興味がなかった。離縁をするのに知り尽くしているほうが問題だろうと考えている。
「わたくし、妃殿下がお可哀想でなりませんの」
「可哀想?私が?」
――確かにそうとも言えるわね。本当は市井で働きたかったのに――
そう考えたトゥトゥーリアだったが、サブリナの言う「可哀想」とは違っていた。
「わたくし、レリィとは以前婚約をしておりましたの」
「はい、以前お聞きしました」
「良かった。お忘れになっているのでは?と思いまして」
――私なら婚約解消した相手を一刻も早く忘れたいと思うけど――
「それと、私が可哀想というのとどういう関係が?」
「心苦しくて。でも妃殿下のお立場を考えると知っておられた方が宜しいかと」
――なんなの?あるある言いたいで引っ張るのかしら?――
時間もあるのになぁと壁に掛けられた時計を見るとあと15分。
あるある言いたいとロングバージョンはご遠慮願いたい時間である。
「わたくし、実は婚約を解消した後もレリィとは密な付き合いを続けておりますの」
「宜しいのでは?円満解消ならそのような事もあるでしょうし、王家と公爵家、いがみ合うより仲が良いほうが周りも要らぬ心配をせずに済みますから」
ギリっとサブリナが下唇を噛むのだが、トゥトゥーリアは「それで?」と話を進めろと急かした。
「初心な妃殿下は御存じないので、レリィも気にかけておりましたの。レリィは子は要らぬ・・・そう申したはずです」
――あ~そんな事を言ってたわね――
「母親の違う子供は・・・色々と御座いますでしょう?」
――解るぅ~それ解るぅ~もう解りみしかなぁい!!――
色々なシチュエーションはあるだろうが、少なくともトゥトゥーリアは母親に非がないのに不遇の扱いを母子で受けて来た。こんな関係なら要らないと心から思うほどに!
「わたくしとレリィ。今は婚約を解消しておりますが、関係は続いていると言っているのです。お判りかしら?」
「解るか解らないかで言えば解ります。端的に言えば不貞の関係ですよね?」
「判って頂けて良かった♡レリィはなかなか気の休まる時間もないでしょう?わたくしが癒しとなってレリィを支えておりますの。でも・・・妃殿下には申し訳ないという気持ちも御座いましてよ?」
「不貞は刑事罰に問われるわけではないので、倫理観の欠如と言うことを理解されたうえでの事なら、いい大人ですし好きにされれば宜しいのでは?」
「倫理観っ?!あぁもう面倒ね。ハッキリ言ってあげる。レリィはね、わたくしといる時間の方が楽しくて穏かに過ごせる!そう言ってるの!お飾りならお飾りらしく別邸にでも引き籠っていればいいのよッ!」
――あ、本性出ちゃったんだ・・・でもね、ここに来いって言ったの、貴女の大好きなレリィなんだけど?――
しかし、ここで感情を出そうにも如何せん、トゥトゥーリアには正直どうでも良すぎて勝手にしてくれとしか言えないし、思えない。
時間もない事だし…とトゥトゥーリアは時計を見てサブリナに向かって笑った。
「楽しいと思いますよ?癒されもするでしょうし、穏かに過ごせるでしょう。だって不貞ですもの。何処の世界に生活感満載の不貞があります?面倒な事は全部人に丸投げか後回しにして今を楽しむだけが不貞なんですよ?そこに楽しさとか癒しとかなかったら誰も不貞なんかしませんよ」
「レリィに冷たくされるからと強がりを!ハンッ!愛されない女の僻みって惨めね」
「愛されてるかどうかは私の気持ちではないのでわかりませんが、少なくとも離縁について2年という期間を言い出されたのは殿下です。私は付き合わされているようなものなので、冷たくされようが言い合いになろうが貴女を僻んではいませんよ?時間なので失礼しますね?」
「逃げる気?!たかが・・・侯爵家の庶子の癖にッ!」
「逃げるのではありません。仕事の開始時間まであと5分ないからです。それと侯爵家の庶子である事は否定しません。ですが望んで侯爵家に庶子として生まれた訳ではないですし、自分でどうにもならない事をやり玉にあげられても・・・正直、迷惑です。不貞でも何でもご自由に。私は関与も関知もしません。興味がないので」
部屋を出たトゥトゥーリアをサブリナは追いかけては来なかった。
廊下を歩きながらトゥトゥーリアは思った。
――あんな大声で・・・部屋に入る意味あった?――
117
お気に入りに追加
3,684
あなたにおすすめの小説
王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。
しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。
幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。
その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。
実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。
やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。
妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。
絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。
なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。
それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~
柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。
大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。
これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。
※他のサイトにも投稿しています
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる