王子殿下には興味がない

cyaru

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第17話   私は異母姉ではない

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バンッ!!

最後にひときわ大きな音を立ててトゥトゥーリアの作業が終わる。
ヴァレンティノは気配に気が付いたかと思ったのだがトゥトゥーリアは肩で息をしながら先程までテーブルに打ち付けていた物体を手に厨房に戻って行った。

――あれ?気が付いてないのか?――

ヴァレンティノはトゥトゥーリアの後を追って厨房に向かうと、トゥトゥーリアは先ほどまであんなに乱暴に扱っていた物体を綺麗な布巾で優しく包んでいた。


「何をしているんだ?」
「へ?‥‥」

ヴァレンティノが声をかけると、ゆっくりとトゥトゥーリアが顔を向けた。

「イギャァァァーッ!!」

トゥトゥーリアの叫び声にヴァレンティノは誰がいるのかと後ろを振り向いた。同時に護衛が2人玄関と厨房の勝手口の扉を勢いよく開けた。

「どうされましたっ!」

勝手口から入って来た護衛はトゥトゥーリアに声をかける。
が、トゥトゥーリアも我に返ったのが、「アハハ・・殿下だった」ととぼけた声を出した。

――そんなに驚かなくても――

ちょっとだけ傷ついたヴァレンティノだったが、トゥトゥーリアにしてみればいる筈のない人がいるのだから驚くのは当然の事。


「えぇっと…何の用です?」
「妃殿下!言い方っ」

――何故護衛がすかさずフォローに回ってるんだ?――


何故だが判らないが護衛とトゥトゥーリアが普通に話しているのを見ていると苛立ってしまい、ヴァレンティノは「持ち場に戻れ!」護衛に指示を出してしまった。

「では、失礼します」

ヴァレンティノの声に頭を下げた護衛。トゥトゥーリアは「ごめんなさいね」と声をかけ、さらに続けた。

「1個は食べてくださいね。美味しかったら持ち帰ってください」
「いやぁほんと。すんません」

「いいから!持ち場に戻れと言ってるんだ!」

更に声を荒げたヴァレンティノにトゥトゥーリアが護衛を庇うような仕草で前に出た。


「何なのです?ここまで不機嫌をわざわざ見せに来たんですか?」

そう言われてハッと気が付いたが、そうじゃないと訂正をするのも気恥ずかしくてヴァレンティノは言い返してしまった。

「黙って出て行くから皆がこうして迷惑をしているんだ!」
「なぁんですってぇ?お願いをしようとしたら『君は平民寄りだ』みたいな事を言ったのはそっちでしょう!人の話も碌に聞かずにダメだしして。どうせ2年で離縁なんですから今から別居でも良いじゃないですか」

護衛にかけていた言葉とは全く違う怒気を含んだ言葉にヴァレンティノは更にカッとなってしまった。

「勝手なことばかりするな!宮で大人しくしていればいいんだ」
「嫌です。顔を合わせれば嫌味ばかりな人と一緒にいたくないです」
「君が顔を合わせなければいいだろう」
「ここよりは広いですけど部屋は隣同士、生活サイクルを変えたら使用人さんは食事だ湯あみだで二度手間、三度手間!非常~に効率が悪くなります。私は生活全般一通り1人で出来ますので、どうぞ!宮でのんびりお過ごしあそばせっ!」

護衛はトゥトゥーリアの後ろで仲裁をした方がいいのかおろおろ。
ヴァレンティノの後ろにいる護衛もどうしたものかと思いつつもヴァレンティノが手を挙げるような事があれば止めねばならないと身構えている。


「ホントに・・・まぁいい。明日は国王陛下と王妃殿下が宮に来られる。昼食を共にする予定になっている。こんなところでママゴト遊びをしている時間はないんだ」

「明日ですか?ちょっとそう言う今日とか明日っていう迫ったような予定を言われても困るんですけど」

「以前から決まっていた事だ。エジェリナは知っていったはずだ」

「私は異母姉ではありませんので知りません。殿下だって王太子殿下の私的なご予定も含め全て把握されているわけではないでしょう?私への用件ならどうして先に言って下さらないんです?離縁だなんだと言った時に言えましたよね?」


それを言われるとヴァレンティノも反論は出来ない。
確かに直近の予定なのだから確認と言う意味でも伝えれば良かったのだが、バリバ侯爵家で聞いているだろうと流してしまった。

今になって考えてみればトゥトゥーリアが持参金の話をした時に、なのだと改めてになっても確認をしておけば済んだ事だとは判っている。

ヴァレンティノは1歩前に出ると頭を下げた。
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