12 / 43
第11話 お一人様、バンザイ!
しおりを挟む
フンフンと鼻息荒く宮を出たトゥトゥーリア。
荷物はトランク1つに白菜が3個。
トランクよりも白菜の方が重くて持ちにくいが調理人が平身低頭で大きめの麻バッグを貸してくれたので、右手にトランク、左肩に麻バッグ。そこそこ歩いて左右の手が攻守交替しながら郊外の宮を目指した。
すたすたと歩くのだが、郊外の家に行ったのはその日の1度だけ。
道が分かれると左右?真っ直ぐ?と立ち止まって荷馬車で観た景色を思い出す。
その様子を離れた場所から見ていた従者は、通りかかった子供を呼び止め手に硬貨を握らせる。
『あの角を曲がりながら、殿下のお家はコッチ!と言ってくれ』
『それだけでいいの?誰かを案内するんじゃないの?』
『いや、喋りながら走ってくれるだけでいい』
子供は正直な生き物。
手に握らされた硬貨が100ミィなら断ろうと思ったがなんと500ミィ!しかも記念硬貨で、所謂ピカピカコインとなるとやる気満々!
欲望にも忠実な子供の目はキラキラと光る。
『うん、わかった!』
そんなやり取りが後方であったとは知らないトゥトゥーリア。
子供がわきを駆け抜けていく。
「殿下のお家はこっちだったな!」
――なるほど!左なのね。助かったわ――
危うく真っ直ぐ進んでしまう所だったが不思議な事に分かれ道で迷うと誰かが正しい方向を喋りながら走り抜けてくという光景に何度も出くわす。
――まさか、後をつけられてるッ?!――
サッと振り向くが眩しいほどの美丈夫は見当たらないし、護衛です!という兵士も見当たらない。
時々、「キャベッジ・パッチ・キッズがぁ…転んだッ?」と不定期に振り返るが怪しい人物はいない。
左右の手にある荷物を交互に持ち替えながら休むことなく進むトゥトゥーリア。
しかしヴァレンティノの執事は優秀だった。
護衛として後をつけさせる従者とは別に、先回りして郊外の家に荷物を運びこむように伝えた。
だからこそ、夜も22時ころになってへとへとのトゥトゥーリアが到着した時・・・
「しまった!鍵がないわ!入れない。どうしよう」
ここまで来て宮に戻る選択肢は考えられない。
そんなトゥトゥーリアの目に玄関扉のドアノブに紙が折られて巻き付いているのが目に入った。
「こんなの掃除した時、あったかしら」
ドアノブから取り外し、折られた紙を広げてみる。
「ポストの底を覗け?・・・何かしら」
玄関わきにある自立式のポストの底を覗くと、くっつき草で貼り付けられた鍵があった。
「助かった~。この時期、寝袋なしの野宿なんて臨死体験よ」
そうして玄関を開けると、月明かりにもよく見える。
テーブルの上にランプ。補充のオイル、そして火打石。
袋も幾つか置かれていて、ランプに火を入れて見てみると・・・
「小麦だわ。それから・・・こっちは野菜!干し肉もある!この袋はパンだわ!」
そして気が付くのだった。部屋の中が無人の筈なのに暖かい事に。
――誰かいるの?!でも灯りはついてなかったのに?!――
ランプを手に狭い家の中を調べるが人はいない。天井板の向こうにはネズミがいるのか「チュッチュー」小さな声と駆け抜ける音が聞こえるだけだ
最後に確認をした水回りでトゥトゥーリアは今日一番の驚きで声が出た。
「わぁ…竈に火が・・・」
轟々と燃えてはおらず、くべられた木が息を吹きかけると赤くなる。
竈のてっぺんに空いた穴を塞いでいるのはコポッコポッと小さな泡を出すスープの入った鍋。
振り返って湯殿に行ってみれば、バスタブに湯まで張られている。
「誰か泊りに来る予定だったのかしら…勝手に来ちゃったけどどうしよう」
しかし、それが自分用だと言うことが厨房の隅に置かれていた品で判った。
「わぁ…白菜だ。あはっ。カロンよりって書いてる」
紙を押さえるように置かれた白菜の下に、見知った名前がある事に安心をしたトゥトゥーリアはやっと緊張の糸が解け、長く息を吐きだした。
「よし!先ずは腹ごしらえね。それから・・・バスタブで湯あみなんて何時ぶり?」
と言いながらも「昨日ぶり~」と1人で突っ込んで笑う。
温かい具が沢山入ったスープと袋にあるパンで遅い夕食を済ませると、ムフムフと笑いながらバスタブの湯を桶でひと掬いする。
バッシャー!!「ヒャアウ!気持ちいいっ!!」
侯爵家にいた頃は侯爵夫人やエジェリナが使用する品の補充でしか触れた事は無く、昨日の結婚式の前に初めて「泡立つもの」だと知った石鹸まである事に嬉しくなって1時間も湯殿で過ごしてしまった。
「おひとり様、バンザーイだわっ!うふっ」
ホカホカになった体。残り湯に勢いのまま着て来たワンピースを放り込んでしまったので着る物がない?!と慌て、1つしかない部屋にタオルだけを巻きつけてトランクを手に駆け込むと寝台の上に寝間着とあのナイトガウンがあるのが目に入った。
「誰が‥‥まさか殿下?!あんな物言いだったのに?」
考えている間に湯冷めをしてしまうと寝間着を着て、ナイトガウンを羽織る。
寒かったら竈の前に行って指先を温めようと考えていたが、それも必要なさそうだと寝台に潜り込む。
「ん…なにこれ・・・」
綺麗に整えられていた寝台は外からでは解らなかったが、足元に何かあるのに気が付き、足の指で形を確認していくがさっぱりわからない。
もぞもぞと掛布に潜り込んで目当ての物に行き当たると見覚えがあった。
「湯たんぽだぁ!!お湯も入れてくれてる~」
至れり尽くせりのおもてなし。トゥトゥーリアはヴァレンティノに少しだけ感謝をした。
その様子を壁の外側で伺っていた従者は、ランプの灯りが消えると植え込みの陰に行き寝袋にくるまった。
窓を見てポツリ
「それ、殿下じゃなく執事さんです。おやすみなさい」
トゥトゥーリアも従者も瞼を閉じたのだった。
荷物はトランク1つに白菜が3個。
トランクよりも白菜の方が重くて持ちにくいが調理人が平身低頭で大きめの麻バッグを貸してくれたので、右手にトランク、左肩に麻バッグ。そこそこ歩いて左右の手が攻守交替しながら郊外の宮を目指した。
すたすたと歩くのだが、郊外の家に行ったのはその日の1度だけ。
道が分かれると左右?真っ直ぐ?と立ち止まって荷馬車で観た景色を思い出す。
その様子を離れた場所から見ていた従者は、通りかかった子供を呼び止め手に硬貨を握らせる。
『あの角を曲がりながら、殿下のお家はコッチ!と言ってくれ』
『それだけでいいの?誰かを案内するんじゃないの?』
『いや、喋りながら走ってくれるだけでいい』
子供は正直な生き物。
手に握らされた硬貨が100ミィなら断ろうと思ったがなんと500ミィ!しかも記念硬貨で、所謂ピカピカコインとなるとやる気満々!
欲望にも忠実な子供の目はキラキラと光る。
『うん、わかった!』
そんなやり取りが後方であったとは知らないトゥトゥーリア。
子供がわきを駆け抜けていく。
「殿下のお家はこっちだったな!」
――なるほど!左なのね。助かったわ――
危うく真っ直ぐ進んでしまう所だったが不思議な事に分かれ道で迷うと誰かが正しい方向を喋りながら走り抜けてくという光景に何度も出くわす。
――まさか、後をつけられてるッ?!――
サッと振り向くが眩しいほどの美丈夫は見当たらないし、護衛です!という兵士も見当たらない。
時々、「キャベッジ・パッチ・キッズがぁ…転んだッ?」と不定期に振り返るが怪しい人物はいない。
左右の手にある荷物を交互に持ち替えながら休むことなく進むトゥトゥーリア。
しかしヴァレンティノの執事は優秀だった。
護衛として後をつけさせる従者とは別に、先回りして郊外の家に荷物を運びこむように伝えた。
だからこそ、夜も22時ころになってへとへとのトゥトゥーリアが到着した時・・・
「しまった!鍵がないわ!入れない。どうしよう」
ここまで来て宮に戻る選択肢は考えられない。
そんなトゥトゥーリアの目に玄関扉のドアノブに紙が折られて巻き付いているのが目に入った。
「こんなの掃除した時、あったかしら」
ドアノブから取り外し、折られた紙を広げてみる。
「ポストの底を覗け?・・・何かしら」
玄関わきにある自立式のポストの底を覗くと、くっつき草で貼り付けられた鍵があった。
「助かった~。この時期、寝袋なしの野宿なんて臨死体験よ」
そうして玄関を開けると、月明かりにもよく見える。
テーブルの上にランプ。補充のオイル、そして火打石。
袋も幾つか置かれていて、ランプに火を入れて見てみると・・・
「小麦だわ。それから・・・こっちは野菜!干し肉もある!この袋はパンだわ!」
そして気が付くのだった。部屋の中が無人の筈なのに暖かい事に。
――誰かいるの?!でも灯りはついてなかったのに?!――
ランプを手に狭い家の中を調べるが人はいない。天井板の向こうにはネズミがいるのか「チュッチュー」小さな声と駆け抜ける音が聞こえるだけだ
最後に確認をした水回りでトゥトゥーリアは今日一番の驚きで声が出た。
「わぁ…竈に火が・・・」
轟々と燃えてはおらず、くべられた木が息を吹きかけると赤くなる。
竈のてっぺんに空いた穴を塞いでいるのはコポッコポッと小さな泡を出すスープの入った鍋。
振り返って湯殿に行ってみれば、バスタブに湯まで張られている。
「誰か泊りに来る予定だったのかしら…勝手に来ちゃったけどどうしよう」
しかし、それが自分用だと言うことが厨房の隅に置かれていた品で判った。
「わぁ…白菜だ。あはっ。カロンよりって書いてる」
紙を押さえるように置かれた白菜の下に、見知った名前がある事に安心をしたトゥトゥーリアはやっと緊張の糸が解け、長く息を吐きだした。
「よし!先ずは腹ごしらえね。それから・・・バスタブで湯あみなんて何時ぶり?」
と言いながらも「昨日ぶり~」と1人で突っ込んで笑う。
温かい具が沢山入ったスープと袋にあるパンで遅い夕食を済ませると、ムフムフと笑いながらバスタブの湯を桶でひと掬いする。
バッシャー!!「ヒャアウ!気持ちいいっ!!」
侯爵家にいた頃は侯爵夫人やエジェリナが使用する品の補充でしか触れた事は無く、昨日の結婚式の前に初めて「泡立つもの」だと知った石鹸まである事に嬉しくなって1時間も湯殿で過ごしてしまった。
「おひとり様、バンザーイだわっ!うふっ」
ホカホカになった体。残り湯に勢いのまま着て来たワンピースを放り込んでしまったので着る物がない?!と慌て、1つしかない部屋にタオルだけを巻きつけてトランクを手に駆け込むと寝台の上に寝間着とあのナイトガウンがあるのが目に入った。
「誰が‥‥まさか殿下?!あんな物言いだったのに?」
考えている間に湯冷めをしてしまうと寝間着を着て、ナイトガウンを羽織る。
寒かったら竈の前に行って指先を温めようと考えていたが、それも必要なさそうだと寝台に潜り込む。
「ん…なにこれ・・・」
綺麗に整えられていた寝台は外からでは解らなかったが、足元に何かあるのに気が付き、足の指で形を確認していくがさっぱりわからない。
もぞもぞと掛布に潜り込んで目当ての物に行き当たると見覚えがあった。
「湯たんぽだぁ!!お湯も入れてくれてる~」
至れり尽くせりのおもてなし。トゥトゥーリアはヴァレンティノに少しだけ感謝をした。
その様子を壁の外側で伺っていた従者は、ランプの灯りが消えると植え込みの陰に行き寝袋にくるまった。
窓を見てポツリ
「それ、殿下じゃなく執事さんです。おやすみなさい」
トゥトゥーリアも従者も瞼を閉じたのだった。
125
お気に入りに追加
3,684
あなたにおすすめの小説
王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。
しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。
幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。
その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。
実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。
やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。
妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。
絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。
なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。
それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~
柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。
大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。
これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。
※他のサイトにも投稿しています
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる