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第06話 気になって仕方がない
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食卓にトゥトゥーリアの姿はない。
昨日のアレは何だったんだろうと思いつつ、遅い朝食だったヴァレンティノ。1人で食事をするのは珍しい事ではなく、これが通常とも言える。
幼い頃は一家団欒とは程遠くても国王、王妃である両親、そして王太子の兄、妹の2人の王女と食事を共にしていた。
両親である国王や王妃と食事を最初にしたのは8歳。
テーブルマナーで及第点では食卓は共にする事が出来ず、合格点でもダメ。5人の講師が問題ないと評価をしてからの事だった。
それがヴァレンティノの知る「家族の食事」だったが、平民はもとより高位貴族とも違うと知ったのは15歳の時。側付となった専属護衛騎士や執事の話から「違うんだ」と理解をした。
18歳で成人してからは1人が日常。稀に王妃から誘われて王宮に向かう。
昨日、結婚をしたが何ら変わりない朝食を終えて、報告書を手に珈琲を飲もうと茶器を手に取った時だった。
「何を見ているんだ?」
「何と申しますか・・・」
執事が窓の外を見て「くっ」失笑を漏らしたのだ。
執事の視線の先を追ってヴァレンティノもゆっくり顔を窓の外に向けた。
「ンゴッ!?」
珈琲を口に含んでいたら、火を噴く大道芸人の如く霧にして噴き出していただろう。
そこには大きな白菜を3つ抱えて、よいしょ、よいしょと厨房の勝手口に向かっているトゥトゥーリアの姿があった。
「なんだ!あの格好は!」
――気にするところ、そこ?――
執事の目が細い線になる。
が、執事としての試験に合格し間もなく10年。第3王女、王太子と経て第2王子付となった執事は先ほどの失笑が気のせいでは?と思わせる落ち着いた声でヴァレンティノに答える。
「白菜を運ぶ妃殿下で御座いますね。お召し物は‥‥メイドがお部屋に伺った際、寝台で眠られているのは殿下だけだったと言うことですから、ご自分で持参されたドレ・・・いえ、ワンピースでございましょうか。ちなみに従者がお伺いした時は殿下が妃殿下に甲斐甲斐しく掛布をかけておられたと」
――シテないけどな。ってか何時見たんだ?――
視線で言葉をくみ取る執事はヴァレンティノに微笑む。
「仲良しさんが出来てようございました」
ニコニコの執事にヴァレンティノは表情も凍るが、瞬間解凍。
それよりも目の前の光景が有り得なさ過ぎるのである。
「そんな事は良い!なぜ白菜を運んでいるんだ?」
「何故と申されましても・・・。その件についてはまだ報告を受けておりませんのでお答えの仕様が御座いません」
冷静な執事の返し。しかしヴァレンティノにはその行動に思い当たる点があった。
間違いなく昨夜の話からきている行動に間違いない。
――本気だったのか?!――
確かに覚書とも念書とも取れる書面を書かされたが、そんなものは気を引こうとする手段の1つかと思っていたのだが、思い返してみれば話が終わり、明け方確認に来た従者に見られた時の為に寝台に並んで横になると、それはそれは寝つきが良かった。
昼間が結婚式だった事もあり、気も張っていたのかも知れないが隣に男が寝ていると言うのにあまりにも無防備。
――もしかして、あの話で手を出される事は無いと確認したから?――
いやいや、そうだとしてもだ。
第2王子と言う立場から女性に無体な事をしようとは思わないが、それでも警戒心がなさ過ぎる。まさか夫婦だからそれも仕方ないと?
ヴァレンティノは1人でぶつぶつと口の中で呟きながら考え込むが、その間にトゥトゥーリアの姿は消えて行った。あとで注意をすれば良いかと思い、報告書に視線を移すがどうにも気になって仕方がない。
いつもなら最後まで読んで、執事が胸のポケットに引っかけたペンでサインをするのだが途中で読むのを止めた。
「何か不備が?」
「いや、この箇所まで不備はない。ちょっと出て来る」
「どちらに?」
「厨房だ。本人に直接聞いた方が早い」
「なるほど。気になると?」
「・・・・・」
ヴァレンティノは否定は出来なかった。
確かに気になって仕方がなかったのである。
が、厨房に先程抱えていたであろう白菜があるのにトゥトゥーリアの姿はない。
フライパンを洗った後、竈の火で炙っていた調理人が振り向いた。
昨日のアレは何だったんだろうと思いつつ、遅い朝食だったヴァレンティノ。1人で食事をするのは珍しい事ではなく、これが通常とも言える。
幼い頃は一家団欒とは程遠くても国王、王妃である両親、そして王太子の兄、妹の2人の王女と食事を共にしていた。
両親である国王や王妃と食事を最初にしたのは8歳。
テーブルマナーで及第点では食卓は共にする事が出来ず、合格点でもダメ。5人の講師が問題ないと評価をしてからの事だった。
それがヴァレンティノの知る「家族の食事」だったが、平民はもとより高位貴族とも違うと知ったのは15歳の時。側付となった専属護衛騎士や執事の話から「違うんだ」と理解をした。
18歳で成人してからは1人が日常。稀に王妃から誘われて王宮に向かう。
昨日、結婚をしたが何ら変わりない朝食を終えて、報告書を手に珈琲を飲もうと茶器を手に取った時だった。
「何を見ているんだ?」
「何と申しますか・・・」
執事が窓の外を見て「くっ」失笑を漏らしたのだ。
執事の視線の先を追ってヴァレンティノもゆっくり顔を窓の外に向けた。
「ンゴッ!?」
珈琲を口に含んでいたら、火を噴く大道芸人の如く霧にして噴き出していただろう。
そこには大きな白菜を3つ抱えて、よいしょ、よいしょと厨房の勝手口に向かっているトゥトゥーリアの姿があった。
「なんだ!あの格好は!」
――気にするところ、そこ?――
執事の目が細い線になる。
が、執事としての試験に合格し間もなく10年。第3王女、王太子と経て第2王子付となった執事は先ほどの失笑が気のせいでは?と思わせる落ち着いた声でヴァレンティノに答える。
「白菜を運ぶ妃殿下で御座いますね。お召し物は‥‥メイドがお部屋に伺った際、寝台で眠られているのは殿下だけだったと言うことですから、ご自分で持参されたドレ・・・いえ、ワンピースでございましょうか。ちなみに従者がお伺いした時は殿下が妃殿下に甲斐甲斐しく掛布をかけておられたと」
――シテないけどな。ってか何時見たんだ?――
視線で言葉をくみ取る執事はヴァレンティノに微笑む。
「仲良しさんが出来てようございました」
ニコニコの執事にヴァレンティノは表情も凍るが、瞬間解凍。
それよりも目の前の光景が有り得なさ過ぎるのである。
「そんな事は良い!なぜ白菜を運んでいるんだ?」
「何故と申されましても・・・。その件についてはまだ報告を受けておりませんのでお答えの仕様が御座いません」
冷静な執事の返し。しかしヴァレンティノにはその行動に思い当たる点があった。
間違いなく昨夜の話からきている行動に間違いない。
――本気だったのか?!――
確かに覚書とも念書とも取れる書面を書かされたが、そんなものは気を引こうとする手段の1つかと思っていたのだが、思い返してみれば話が終わり、明け方確認に来た従者に見られた時の為に寝台に並んで横になると、それはそれは寝つきが良かった。
昼間が結婚式だった事もあり、気も張っていたのかも知れないが隣に男が寝ていると言うのにあまりにも無防備。
――もしかして、あの話で手を出される事は無いと確認したから?――
いやいや、そうだとしてもだ。
第2王子と言う立場から女性に無体な事をしようとは思わないが、それでも警戒心がなさ過ぎる。まさか夫婦だからそれも仕方ないと?
ヴァレンティノは1人でぶつぶつと口の中で呟きながら考え込むが、その間にトゥトゥーリアの姿は消えて行った。あとで注意をすれば良いかと思い、報告書に視線を移すがどうにも気になって仕方がない。
いつもなら最後まで読んで、執事が胸のポケットに引っかけたペンでサインをするのだが途中で読むのを止めた。
「何か不備が?」
「いや、この箇所まで不備はない。ちょっと出て来る」
「どちらに?」
「厨房だ。本人に直接聞いた方が早い」
「なるほど。気になると?」
「・・・・・」
ヴァレンティノは否定は出来なかった。
確かに気になって仕方がなかったのである。
が、厨房に先程抱えていたであろう白菜があるのにトゥトゥーリアの姿はない。
フライパンを洗った後、竈の火で炙っていた調理人が振り向いた。
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