わたくしは、王子妃エリザベートです。

cyaru

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ペットを拾う夫婦と消えた妃

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「エル様、なんでも口にしないでくださいまし」

行く先々でとりあえずは【食べてみる】ミカエルに呆れてしまうが、ミカエルはこれが一番手っ取り早いと言って木になっている果物などを食べている。

だが、よく観察をしてみると同じ果実ではなく微妙に違うものを食べているのである。
で、「これ旨い。食ってみ?」と渡されるものは確かに甘くて美味しい。
ただ、従者たちは気が気ではない。夜になり腹痛などを起こせば大変だからである。

しかし、そこは野生生活10年ほどになるミカエル。
齧って味覚を確かめ、甘いなと思っても直感でペっと吐き出すものもある。
なんでもかんでも口に入れるが、飲み込むわけではない。恐るべし野生の勘。

ヘビなどが出て来ても、押えどころを知っているので瞬時に捕まえる。

「こいつは毒があるから注意ね。でもねぇ…ぶつ切りにして塩焼きすると美味いんだ」

「こいつは動きはノロマなんだけど産卵期は平気で3,4mは飛ぶからね」

「おぉぉ~ヤマカガシまでいるじゃん!リザ!ここに移住しないか?」

遥か彼方を見つめるようなエリザベートの冷たい視線。
だが、ミカエルは完全に野生を開放している。まさに狂喜乱舞である。

「エル様、そろそろ出立しますわよ」
「え?どっか行くの?」
「次は先日購入したあの瘴気が出る地です。行ける時に見ておかねばなりません」
「判った。手を洗ってくるから待ってて」

手洗いを忘れないのは良い事である。
ミカエルを待っている間、少し先の雑木林の入り口付近で従者が声をあげる。
何事かと言ってみると、生後数日の子犬のような生き物がいる。
どうやら大型のヘビか、熊かに襲われたようで巣がグチャグチャになっていた。

「可哀想になぁ‥‥どうしましょうか?」
「そうねぇ…誰か飼育方法をご存じ?」
「犬はなぁ…もうちょっと大きかったら簡単なんだけど」

そこにミカエル登場。ジャジャーンである。

「リザ?どうした?」
「犬の巣が荒らされたようで…一匹生きているようですがどうしたものかと」
「は?コレ、犬じゃないよ」
「ですが、どう見ても犬で御座いましょう?」
「絶対とは言わないけど犬はこんな巣は造らない。これは狼だな」

<< オオカミ? >>

「どうする?連れてくなら世話は出来るけど」

<< できるの? >>

「でもなぁ‥‥だけどなぁ…」
「どうしましたの?ご飯が特殊だとかですの?」
「そうじゃなくて、ペット飼うと子供諦める人とか多いしなぁ」
「連れて行きましょう。飼います」

エリザベート即断である。何故?という表情のミカエルはスルーされる。
従者たちは、心で合掌をする。
しかし!そこはエリザベートである。

「子供が背中に乗って月に向かって吠えるなんてロマンスですわ」

何かが微妙に違うような気もするが、子供であればオオカミの背中には乗れそうである。
ミカエルは瞬時に満面の笑みになる。そう!子供を想定しているという事は……である。



馬車の中、とりあえずなかったのでヤギの乳を与えてみるとよく飲むミニオオカミ。
その後はぐっすりと眠る。見た目は子犬なのであるが…

「エル様はどうしてオオカミとわかったのです?」
「ん?小さいうちは似てるけど、手、いや足かな。爪が違うんだよ。犬は丸くなるけどオオカミは尖ってるんだよ。ほら、ちょっと見えてるだろ?爪の先」

「あら、本当ですわ。よく見分けられますわね」

「そりゃね。野犬なら親が近くにいてもある程度対処できるけど、狼の親はもう逃げるしかない。群れてるからね。近くに居なかったのは…親が敵を遠くまで追いやってたのか、やられたかだな。やられたとなると狼すら太刀打ち出来ない大型の獣、熊なんかがふもとまで降りてきているから危険でもあるがな」

「そうなのですね。早速熊がいるかもと言うのは周知するようにしましょう。作業員の方も危険と言う事ですしね。しかしエル様は物知りですのね」
「ま、何度も襲われたことあるから」

それはそれで問題であるが、本人がケロっとしているし生きているからオールオケ。
そしてさりげなくエリザベートの手を握るミカエル。馬車の中は2人きり。

「子供は何人作ろうか?」
「は?」
「出来れば‥‥5人、いや6人かなぁ」
「わたくしはそんなに産めませんから、帰ったら愛人の選定を致しましょう」
「必要ないよ。俺が抱くのはリザだけだ。女はリザだけで終わり。言ったろ?」
「まぁ、それはそうですが、わたくしにも限界がございますの」
「じゃ、限界を確かめつつで‥‥(ちゅっ♡)」

しまった。先に乗り込んでしまったから馬車の隅に追いやられて逃げ場がない。
元々、馬車なので逃げ場などはないが、それでも角に追い詰められ、馬車の壁ドンで囲われていては、まず逃げられない。何より相手は夫である。

「お、お待ちくださいませ」
「待たない。愛人とか選ばれるくらいなら今からここで抱く」
「そう言うのは!寝台でするものですっ!」
「関係ない。俺は何処ででもリザなら抱ける自信がある」
「わ、わたくしは、どこでもかしこでも抱かれる自身がございませんの!」

馬車の壁ドン。エリザベートは次回に向けての対策を練るのである。
そんな対策を講じられる事も知らずにミカエルはまた膝枕でエリザベートに甘える。

「ところで、エル様」
「どうしたぁ?」
「キノコなどはよくお召し上がりになりますの?」
「腹が減ればね。山にいっぱいあるし」
「見分けはつきますの?毒キノコもありますでしょう?」
「毒キノコは見ればわかるよ。判らないのは‥‥城の食事だ」

最後の言葉だけが声色も表情も変わるミカエル。その声でおおよそどんな環境で育ったのかがわかる。
第1王子とはいえ常に気を張らねばならない王宮。

「でも、リザ。王子宮の食事は温かくて美味しいよ」
「そうで御座いますね」
「一緒に食べればもっと美味しい。だから‥‥」

その先は眠ってしまったミカエルの口からは聞く事は出来なかった。
王子領で必要以上の消費カロリーだったミカエルは疲れて寝てしまった。

無防備に眠るミカエル。ちょっとだけ可愛いと思ってしまったのはきっと、自分の膝の上なら何も考えずにただ眠れるからなのだろうと思うとクスっと笑ってしまうのだった。

馬車は山を越えて、街道を走り、瘴気の吹き出す領にひた走る。
そこでパイプライン工事について職人たちとパッツィオ家当主ローレンが待っている。





ミカエルとエリザベートが王子領などへの視察旅行に出かけて1週間目。
第3王子の王子宮ではちょっとした騒ぎになっていた。
昨日からサリアが帰らないのである。

「まだ帰らないのか?全く…どこを遊び歩いているんだ」
「申し訳ございません。手を尽くして探しているのですが一向に」
「騎士団と憲兵団にも連絡を入れて市井も探させろ…全く手間ばかりかけおって」

第3王子アルバートはサリアを失踪させるための計画を練っていた。
しかしまだ段階である。

計画は街に買い物に行かせたサリアを破落戸に襲わせ、船で沖合まで運びそこで捨てる。潮流を考えれば岸に流れ着く事はまずない。
問題は、破落戸と、片道2日ほど往復で4,5日船を貸してくれてサリアを投げ込んでくれる口の堅い者をどうやって用意するかであった。
幾らかの金が必要な事は勿論、こちらの素性がバレないようしなくてはならない。
人選をしていた所なのである。

まさか計画がバレてサリアが逃げたのではと焦りを隠せない。
見つかったとしてもしばらくはまだ動けないだろう。悔しさをにじませる反面思う事もあった。

もし、亡骸となって見つかってくれればまさに天の啓示ではないかと。
見つかれば見つかったで反省させるために地下の懲罰房に入れて衰弱死でもさせるかと目論む。

――どこかで暴漢にでも嬲り殺しにされていれば悲劇の夫を演じてやるのに――

どちらにしても、サリアを探すしかないアルバート。

「しっかり探すんだ」
「畏まりました」

しかし、捜索の範囲はおそらく出ていないだろうと思われた広い第3王子の王子宮の敷地内から市井にまで広げたが、3日経ってもサリアは見つからなかった。
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