わたくしは、王子妃エリザベートです。

cyaru

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病んでる夫婦の病みと闇

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王子領に向かう馬車の中、体温差はさほどなくとも温度差のある2人。
向かい合って馬車に揺られている。
進行方向に向かって体を向けているのがエリザベート。背を向けるのがミカエル。
長い旅になると馬車酔いをしてしまうためである。

「ウップ‥‥」
「大丈夫で御座いますか?こちらに横になられても結構ですわよ?」
「いや、そんな醜態は見せられない」
「パンジーやデイジーたちは後ろの馬車。誰も見ていませんよ」
「ダメだ…リザが見ている」
「意地を張るのはおよしなさい。目の前で吐かれるほうが迷惑です」

グイっと手を引かれ、おっとっととエリザベートの隣に体を引かれるとおとなしく横なるミカエル。上背があるので膝を立てているが…

「誰も見ておりません。ここに頭を乗せてくださいませ」
「でも、吐いちゃったら・・・」
「その時はドレスで隠して差し上げます」
「ドレスを捲りあげるなら向かいの方が良いような…いやでも膝枕も捨てがたい」
「ゴチャゴチャ言わずに横になりませ!」

エリザベートの膝枕で揺られるミカエル。至上の悦びである。
落ちないようにそっと手を回してくれるエリザベートが数刻するとうつらうつらするのを下から見上げて、どの角度から見ても綺麗だなぁと頬を染めてしまっている。
勿論、吐き気は煩悩をかき消すついでに消えてしまった。




その頃、某王子宮では王子と妃、そして新しく採用された護衛騎士がテラスにいた。

「アイザック。こちらで一緒に飲まないか」
「いえ、私は護衛です。何かあった時の為にお守りする立場ですので」
「そうか、判った。では頼むよ」
「仰せのままに」

テラス席はアイザックからすれば風下になる。王子と妃はアイザックを見て笑みを浮かべる。

「なかなかに面白そうではありませんか」
「だろう?数年前にヘイスティグズ国へ父上の名代で行った折に見かけた。逸材だな」

「面白そう。わたくしも一緒に楽しみたいわ」
「構わないぞ。…そうだ、人前に出せない内縁の妻もいるようだ」
「まぁ!ではその奥様も?」
「あれだけの男を咥え込むんだ。さらに開発のし甲斐が奥方にもありそうだな」
「屈強な騎士に貞淑な妻‥‥しばらくは楽しめそうね」

「それはそうと、エリザベート様はどちらに行かれたのかしら」
「兄上と王子領に行かれたそうだ。何を考えているのやら」
「聞けば、デモンド公爵からあの瘴気の出る地を買い取ったとか」
「そうらしいな。あんな土地何の役にも立たん。兄上にヤラれて乱心したんじゃないか?」

手で男女の交わりを示す仕草をしていやらしい笑いを浮かべる。
喉を鳴らしクックッとお互いが想像を膨らませる夫婦である。

「あら?可哀想。でも…義姉様、肌が綺麗なのよねぇ…うふっ」
「確かにな。兄上とセットなら昂ぶりを押える自信がない」
「でも、隙が無いのよねぇ…余計にきつくしちゃいそうだわ」

「全く…少しは自重しろ。周りに悟られるぞ」
「あら?殿下こそあの護衛を早速誘っていたではありませんか」
「仕方あるまい。跪いて許しを乞う大男を鞭打つのはどうしてもやめられんからな」
「うふふ。悪い人だわ」
「フフッ」

夫婦は離れた場所で背を向けて護衛をしているアイザックに視線を向ける。
頭の先から足先までねっとりと眺めながら来る日を心待ちにしているのである。

この王子には男色の気はない。王子も妻も病んでいるだけである。

夫婦が子を作るためにだけ、こうやって異国からの騎士を護衛で雇い入れるのだ。
騎士だけではない。
時には何らかの理由で修道院に入れられる令嬢なども【集める】のである。

一番は【地位があれば高いほど】この夫婦は興奮を高める。
受けた事のない恥辱、凌辱に涙を流し懇願する様がこの夫婦にはご馳走なのだ。

屈強な騎士、つまりアイザックのような者を探すのは非常に手間がかかる。
腕の立つ騎士を手放す主はいないからである。
だからか余計に手に入った時は夫婦で【愛でる】のである。

残念なのはこの夫婦が【扱いが荒い】事である。持って3回で動かなくなる。
そうなれば捨てられる。息をせず心臓の鼓動も止まった彼らの性的興奮を高めるために集められた【者】で生きて王子宮から出たものは1人もいない。

夫婦にとってはミカエルは第1王子であり見目麗しい。
そしてエリザベートも見るからに高潔である。
屈服させ、泣きながら許しを乞えば2人は涎を流しながら子作りに励むだろう。

「兄上と義姉上が手に入れば間違いなく子が出来そうだな」
「ウフフ。わたくしも月のものの最中でも孕む気がしますわ」

ぬるくなった茶を飲み干し、夫婦は仲良く席を立った。
これから庭園を散歩するのである。
栄養が定期的に根元に埋められるため、この王子宮の庭園は他の王子宮の庭園と比べて草木もしっかりしている。この頃は【ツバキ】が見頃を迎えている。

「アイザック。庭園を散歩する。後ろから頼んだよ」
「お願いね?」
「承知致しました」

「ねぇ。アイザック。奥様を数日の内に連れていらっしゃいな」
「いえ、妻は…その…体が弱く…」
「まぁ!それは大変ね。いいお薬もあるわ。ね?連れていらっしゃい」
「いえ、私も妻もその様な身分では御座いませんので」

王子夫婦は立ち止まり、後ろを付いてくるアイザックを振り返る。

「アイザック。我が妃が望んでいるのだ」
「しかし…」
「アイザック。命令だ。3日後奥方と一緒にここに来い」
「申し訳ございません。それは出来ません」

ニヤリと笑う王子。アイザックに近づきそっと耳打ちをする。

「久しぶりにカ―セル殿下と茶が飲みたいだけだ」

その言葉にハッとして顔をあげるが、王子はもう数歩先を歩いており顔は見えない。
冷や汗が背を伝うが、知られているならばもう隠し事は出来ない。

「承知…いたしました」

小さな声だったが、王子は軽く手をあげて振っている。
ツバキの花が一輪ポトリと地面に落ちた。
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