わたくしは、王子妃エリザベートです。

cyaru

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バロビン国に到着

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ゆっくりと進む馬車。先導をしてくれるのは嫁ぎ先であるバロビン国の第二騎兵隊。

家族もいる使用人を連れて行くにはバロビン国はあまりにも遠い地である。
早馬で駆け抜けるにしても女性侍女では馬に乗る事は出来ても数十分全速力で走らせる事も無謀に近い。死にたいのかと言われても不思議ではない。

エリザベートは心配する両親や兄夫婦に笑顔で大丈夫だと告げて1人で旅立った。

途中までは馬車の中でも一人。本を読むにも街道は舗装はある程度しかしておらず馬車酔いをしてしまいそうなほどに上下に揺れる。出来る事は眠る事くらいである。
それでも途中の宿屋では足を伸ばせるからかしっかりと寝てしまう。

今日の昼過ぎあたりには国境付近だと言う声が聞こえる。
入国になればその先の宿場町で侍女が1人同乗するとかなんとか。

帝国からの道のりでバロビン国に入国をしたあたりから景色が一変する。
茶色く土がむき出しになった山。伐採をしたのかと思ったが切り株などもない事から木、そのものがないのだろう。雨も少ない国だというから地滑りも少ないのだ。

バロビン国に入り入国審査などがあるかと思ったがこれだけの騎兵隊に囲まれているのである。
「そんなものは帝国を出発する時に終わっています」と告げられてしまった。
侍女が1人同乗すると聞いたきがしたが、出発する時に乗り込むのはあエリザベート一人であった。色々と話が聞けるかと思ったがいないのであれば仕方がない。

休憩時にバロビン国の王都まではあとどれくらいかと聞くと3日はかかると言われ、何故かと聞けば「女性はゆっくりと進む馬車でないと機嫌を損ねるから」と言われたエリザベートはその言葉に機嫌を損ねた。
確かに道はお世辞にも良いとは言えないが、そこまで過保護にしてもらう必要はない。
その旨を告げると聊か馬車の速度が上がった気がした。

流れていく景色を見て思ったことは、【想像以上に何もない】と言う事である。
地理、地学の本でバロビン国の事は知ってはいたが【見ると聞く】では大違いと世間でいうように【読むと見る】では全く違っていた。

時折見える人は農民かと思ったが農作物を育てられるような土地ではない。
着ている服もお世辞にもまあまあとも言えないような粗末な服。体つきも背格好の割に細い。

本に書かれていた通りだと実感をしたのは翌日予定より早く王都に入ってからである。
貧困にあえぐ国とは聞いていたがまさにその通りだった。


メインロードと言われる通りでも商店に活気はなく木枯らしが吹く夕暮れを思わせる。
思わず時計を見て時刻を確かめるとまだ15時。
石畳みとは騎兵隊の団長が言っていたがところどころ浮き上がり、めくれ上がり。
中には思わず車輪が脱輪するのではと思うほどの穴が開いている場所もある。

改めて馬車の隣を騎乗して並走する騎士を見てみれば甲冑も傷だらけで彼の祖父か曾祖父が購入した物かと思うような年代物を感じさせるものだった。


――思った以上に大変かも知れない――


そう思ったのが間違いではなかった事はもうすぐ夕刻という時間に王宮に到着してから思い知った。
出迎えは確かに多かった。全員が歓迎をしていない事も直ぐに感じ取れた。

聞けばこの国は一夫多妻の国で国王には8人の妻がいると言う。
お相手の第一王子は?と探してみるが【いない】と言われてしまった。

しかし、国の長である国王、そして夫となる男性の実母(王妃)が出迎えてくれている。
完全に孤立したり冷遇をされるわけではなさそうだが、他の王子や王子妃の視線が痛い。
明らかに値踏みをするような視線を感じるのだ。


――こんな所で怯む事は出来ない!背筋を伸ばし胸を張るのよ――


自分自身を叱咤激励し、堂々と国王、王妃の前でカーテシーを取る。
おそらくは今までで一番優雅に姿勢が取れたと思うほどに。


「遠いところをよく来て下さった。今日はお疲れであろう。宴は明日に予定をしているのでゆっくりと休まれるがよい」
「直々のお出迎え、並びにお心遣い感謝いたします」
「ごめんなさいね。ミカエルには来るように言っておいたのだけれど」
「いえ、殿下もお忙しい身と聞いております。この先幾らでも会えますので」
「そう言って頂けるとありがたいわ」

「皆の者。エリザベート・ブランチェスカ・アルトーレ殿に礼を」

国王の一声で一糸乱れずにザっという音と共に居並ぶ一同が礼をする。
ドレス姿の女性がいなければ軍隊と間違いそうである。

こうやって礼をするのはおそらくはエリザベートの持参金なのだろうと推測出来た。
礼をする前とした後の他の王子と思われる者の顔つき、目つきは険しい。
だがたかが1人の女が嫁入りに他国からの支援金の倍以上を持参金として持ち込むのだ。
頭の一つでも下げておけと言う事なのだろう。



結局馬車に同乗する聞いた侍女は来なかった。
生きた情報いや、生の声を例え正確な情報でなくとも馬車で得られるかと思ったがその機会はなかった。

ピリリとした空気をかき消すかのように王妃の言葉に2人の侍女と1人の従者がやってくる。
「パンジー」と「デイジー」という双子の侍女と「リジー」という従者であった。
部屋に案内をされると、これはまた…となんと言葉をかければ良いか迷ってしまった。


――一言でいえば‥…質素?――


何もない部屋である。テーブルセットもなく家具もない。
衣類はクローゼットに仕舞えば良いか、そのほかは見事に寝台しかない。
窓の景色は?と言うと5つある窓の内3つは城壁しか見えなかった。

「あ、その窓は開けないでください。枠が城壁に当たってしまうので」

――道理で日当たりも良くない訳だ――


そして残り2つの内1つも開けたすぐそばの木に蜂が巣を作っていると言う。
甘味は自給自足か?と思ったがこの国の蜂は蜜は集めない肉食系の蜂だと言われる。
刺されると死に至る事もあるサバクバチという種類なのだそうだ。
刺されれば腫れあがり熱も出ると言う。最悪死に至る事もあるとか。


残り一つの窓は開ける事は出来る。出来るのだが景色に問題があった。

「見えるのは男性の公衆浴場になります」

つまりは窓は開けるな、カーテンは閉めておけと言う事なのだろう。

――前途多難ね。でもまぁ第一王子が来れば話してみればいいでしょう――



「多分、似ていると思います」

そう言って絵姿を1枚渡されるが【】とはどういうことなのだろう?

エリザベートはそれでも楽観視していたが、かなり考えが甘かった。
第一王子ミカエルはこの国に来て結婚式までの3カ月の間、一度も訪れなかったのだ。
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