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第17話  下心は微塵もなかった

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「ここが俺と嫁御殿の寝室になる」

――まぁ、結婚なんだからそうなるわよね――

家屋の中は快適そのもの。
調度品も数は少ないが必要な分だけ品の良いものが揃えられていて言うことなし。

衣類は後日採寸に領民でお針子をしている者がやってくるが華美な装いも必要なくクローゼットにあるもので十分。

ピプペポ領では少し余裕のあるサイズの衣類を着るのが普通。肌に密着していると汗で汗疹が出来てしまったりするし、汗をかいたまま肌に密着した衣類を汗を流すのに脱ぐときに肌を痛めてしまう。

持ってきた衣類は適していなかったので大助かり。

ウィザードも想像していた人物とは違っていて、ソシャリーの方が「このご縁、ありがとう!」と感謝してしまった。

ならついでなのでお願いをしてみようと思ったのだ。
下心なんて微塵もなかった。

「少しお願いがございます。あと、つかぬことをお聞きしてもよろしくて?」
「なんだ?嫁御殿の頼みとあれば何なりと」
「先ずはその、嫁御殿と言うのはやめてくれません?」
「なんだってっ…まっ、まっ、まさかと思うが名前で呼んで良いと?!」

――それ以外に何があると?――

手で顔に風を送り「暑いな」と涼しい部屋で汗をかき始めるウィザード。
どうやら名前で呼び合う事に思い入れならぬ、思い込みがあるようだ。

「名前で呼ぶのは…体の関係を持った後…じゃないのか?」
「は?何時からそんな決まりが?!えっ?辺境ではそうなの?」
「決まっていないがそうしようと思っていた」

ソシャリーの中に小説しか読んだことはないが、ある場面のシチュエーションが幕を開ける。


★~★ソシャリー妄想 開始★~★

「あんっ…」
「嫁御殿、ここが気持ちいいのか?」
「やぁん‥そこはぁっ!!」

★~★ソシャリー妄想 終わり★~★


――ないわ。ないない――

興ざめしてしまって、そっちどころじゃないし!

を抜きにしてもいつか見た歌劇で婿入りをした殺し屋の奥様とお姑さんを想像してしまう。

闇の世界ではピカイチの腕を持つ殺し屋が実は入り婿で尻に敷かれているギャップは面白く、ソシャリーも劇場で兄嫁と大口をあけてガハガハ笑ったが、言われる立場になると辛さが身に染みる。

「婿殿!!」と呼ばれていた殺し屋。
「嫁御殿!」と呼ばれると肩身が狭い気がしてならない。

しかし!!ウィザードはソシャリーの予想を超える行動をとり始めた。

「な、なんで服を脱いでいるんです?」


先日、外は灼熱なのに屋敷の中は快適そのものである理由を聞いた。
夏は灼熱だが、冬は極寒を通り越して最低気温を刻む頃は永久凍土と思わせる地になるピプペポ領。

大地は地下50mほどまで凍結をするのだが、領民の家は屋敷の地下に必ず石を敷き詰めた部屋が設けられている。
平屋建てに見えても、実は地下に5階分の石の部屋がある。

王都から来た従者の住まう3階建ての家屋も実は地下に5階分があるので、8階建てと言ってもいい。

何をする部屋かと言えば、石やレンガは温度をなので、特性を利用しているのだ。

夏の間は灼熱なので大地は恐ろしく熱せられる。転がっている石の上に生卵を割って落とせば瞬時に黄身もとろみを残さない目玉焼きになる。

冬は深層域まで凍り付く。

なので温度をである石やレンガは夏の間にかなり熱せられる。冬はカチンコチンになる。

温度を伝えにくいと言うことは逃げにくいと言う事でもあるので、夏の間に熱せられた石、温かい空気は上に上昇をするので冬の間、家屋の地下にある熱せられた石が家屋内を温める。

夏はカッチンコッチンになった冷たさがあるので、暑い空気は屋根に向かっていき、足元は冷え冷え。温度差が出来るので空気の循環が起きて家屋の中の温度を下げる。

自然を利用した空調なので、服を脱ぐ必要性を感じない。

部屋の中は暑くないのにウィザードは服を脱いであっという間に服を脱いで生まれたままの姿になった。大事な部分を手で隠しているのだが、言わせていただく。


「隠しきれていません!!」


その言葉が合図になったのか、ウィザードは全てを包み隠さずに見せた。

手で顔を覆ったソシャリーだが、指の間に少し隙間があるのは仕方がない。
鍛え上げ、無駄のないウィザードの体はまさに芸術品。

ダービデ像を見て卑猥を感じることがないような。
そんな感覚に襲われて手を顔からどけてしまいたくなる。

「だが!大事にしたかったが名前で呼び合いたいというのなら…大丈夫だ。直ぐに

――服を脱ぐのが用意ではないの?!――

ソシャリーは取り敢えずは閨の教えは受けているが、男性を受け入れる事に特化していて男性の体に起きる変化は教えられていない。

父と兄は要るけれど「変化前」は知っていて…いや、そもそも変化が起きる事を知らない。見せてもらった事もない。

ダービデ像だって変化前じゃないか!

目の前で起きる蝶が羽化をするようなトランスフォーム。

重力に逆らって空に伸びていく植物のような変化形。

「わぁお!!」

ソシャリーは顔を覆っていた手を外し、身を乗り出して見入ってしまったのだった。

その後…美味しく頂かれてしまったのは言うまでもない。
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