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アンプレッセの見栄と葛藤
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この胸の動悸はなんなのだろうか。
そもそもが私の間違いから始まっているのだから不遇な扱いをしてはならない。
そう思って食事は可能な限り一緒にとるようにしているのだが、イノセン公爵令嬢は何でもとにかく美味しそうに食べるのだ。
流石は公爵令嬢だけあって、その仕草も優雅なのだが美しさの中に時折見せる綻んだ顔に胸が早鐘を打つのだ。食事の皿が運ばれるたびに、微笑んで「ありがとう」と礼を言う。
その言葉すら私は極上のソースのように感じてしまっている気持ちに気が付いてしまった。
使用人達とは和気藹々とやってくれているようで何よりである。
その姿を見ていると考えてしまう事が増えてきた。【時が戻らないか】と。
初夜の夜。私は酷い事を言ってしまった。結婚をする夫婦のなかには離縁をする夫婦もいる。しかし初夜に言うべきことではなかったのは十分に判っている。
散財をするわけでもなく、使用人達とも仲良くしてくれて誰彼に私の不満を手紙などで触れ回る事もしない。
本来であれば侯爵夫人としてこの4か月の間には数回の夜会もあったし茶会もあったから出席をしてくれただろう。今もデンティド侯爵家が干されずにやっていけるのはイノセン公爵令嬢のおかげだ。
義父となるはずだったイノセン公爵令嬢の父親は激怒して陛下にまで苦情を延々と告げたと言う。父親であれば当然だろう。母親も同じく烈火の如く怒り狂っていると言うが、弟妹達の話では茶会や夜会で吊るし上げにあった事はないと言うから、イノセン公爵令嬢が押さえてくれているのだろう。
執務机の引き出しをあけると、離縁の届けを出した控えと受付の書類、それと復縁願いの書面がある。
夫婦喧嘩でお互いが煮詰まった時に、売り言葉に買い言葉で離縁の届けを出す者もいる。しかし貴族故に180日の間で冷静になって考えてみれば…と改善が修復出来たり、もう一度やり直してみようと思う者もいるのだ。
執務室で一人になると考えてしまう。
この観察期間中に関係を持つことが出来れば離縁は無効になる。
しかし、今の状況を見ているとイノセン公爵令嬢は私には全く関心がないのだ。
使用人達とも話をするし、分け隔てなく私とも話をしてくれるが【夫】としてではない事をひしひしと感じる。
そう思うかたわらで、あの日の彼女が忘れられないもの事実なのだ。
目を閉じれば、大きさが違った目。女性は美しく魅せようと化粧などをするから母上も化粧をする前とした後では丸きりの別人だった。
彼女も自分を美しく魅せて背伸びをしていたのかも知れない。
私なら言ってやれると思うのだ。
【素顔の君も可愛い】と。
私が魅かれたのは大きな目ではなく、つぶらな瞳のほうだったからだ。
イノセン公爵令嬢とやり直す事にした時、私は彼女を忘れることが出来るだろうか。
大きく溜息を吐いてみるが、何も解決しない事は判っている。
2人の女性を天秤にかけている私はなんと汚い人間なのだろうか。
悶々とする中、気分転換に屋敷の中を歩いていると、使用人の控室に箱があった。
中身を見て、ビックリどころではないほど驚いた。
娼館では病気を感染されないために必ず常備されていた製品である。
聞けばイノセン公爵令嬢がきちんとした家族計画の為に無料で配布しているのだと言う。
妊娠をした後でも医師の許可が出る頃になれば愛し合う夫婦もいるが感染症予防のためにも必要なのだと聞いた事はあった。
離縁をする事を知っている使用人達。私が屋敷に女性を連れ込まないのなら遊んでもいいのだと言われている事を彼らも知っている。だから手にした所で咎める者はいない。
「旦那様も幾つか持っていたほうが良いんじゃないですか」
「あ、あぁ…そうだな」
「1人3つですよ。まぁそれ以上は次の日に響いちゃうから要りませんけどね」
はいと手渡された【Mサイズ】
だが、つまらない見栄を張ってしまったのだ。
「ハハハ。すまない。こっちなんだ」
そう言って手にしたのはXLサイズ。見栄など張らねば良かった。
こっそり部屋で深夜つけてみたが、自尊心がへし折られるかと思った。
残った2つの使い道が全くない。そっと返しに行こうとポケットに入れておいたのが失敗だった。
「イノセン公爵令嬢、今日の予定は何かあるだろうか」
騎士団で過去に離縁の届けを出して180日経つギリギリで復縁届を出し、今は4人の子供に囲まれて妻の尻に敷かれている事を照れながら惚気る部下から貰った2枚のチケット。
以前にイノセン公爵令嬢がこの歌劇俳優のトーリ殿、まさに殿な俳優の事が好きだと言っていたから日頃の使用人達への対応にも感謝していたし、誘ってみようと思ったのだ。
本当にそれだけなのだ!邪な気持ちではないのは本当なのだ!
「いや、人気の歌劇の上演が始まったと聞いたんだ。一緒にどうかと」
格好よくチケットを出したつもりだった。
が‥‥
私がテーブルの上に置いて指でツツイ~っと差し出したのは明るい家族計画の必需品で、私には全くサイズの合わないXLなアイツだった。
微妙な空気が流れる中、イノセン公爵令嬢は【忘れておりました。今日はそら豆を収穫する日でしたわ】とこれまた微妙な微笑をしながら食堂から出て行った。
立ち上がれない私の一部分を凝視する執事の目。
判っている。見栄なんだ!乳兄弟として育った仲だ。お互いの外から見える部分はそれなりの年齢まで一緒に温泉にも入った仲だからバレている。
彼こそ!このXLを使う人物だ。
私はまた部屋の窓から庭を眺めた。
庭師たちとそら豆を採っているイノセン公爵令嬢にまた胸がドクンと高鳴った。
そもそもが私の間違いから始まっているのだから不遇な扱いをしてはならない。
そう思って食事は可能な限り一緒にとるようにしているのだが、イノセン公爵令嬢は何でもとにかく美味しそうに食べるのだ。
流石は公爵令嬢だけあって、その仕草も優雅なのだが美しさの中に時折見せる綻んだ顔に胸が早鐘を打つのだ。食事の皿が運ばれるたびに、微笑んで「ありがとう」と礼を言う。
その言葉すら私は極上のソースのように感じてしまっている気持ちに気が付いてしまった。
使用人達とは和気藹々とやってくれているようで何よりである。
その姿を見ていると考えてしまう事が増えてきた。【時が戻らないか】と。
初夜の夜。私は酷い事を言ってしまった。結婚をする夫婦のなかには離縁をする夫婦もいる。しかし初夜に言うべきことではなかったのは十分に判っている。
散財をするわけでもなく、使用人達とも仲良くしてくれて誰彼に私の不満を手紙などで触れ回る事もしない。
本来であれば侯爵夫人としてこの4か月の間には数回の夜会もあったし茶会もあったから出席をしてくれただろう。今もデンティド侯爵家が干されずにやっていけるのはイノセン公爵令嬢のおかげだ。
義父となるはずだったイノセン公爵令嬢の父親は激怒して陛下にまで苦情を延々と告げたと言う。父親であれば当然だろう。母親も同じく烈火の如く怒り狂っていると言うが、弟妹達の話では茶会や夜会で吊るし上げにあった事はないと言うから、イノセン公爵令嬢が押さえてくれているのだろう。
執務机の引き出しをあけると、離縁の届けを出した控えと受付の書類、それと復縁願いの書面がある。
夫婦喧嘩でお互いが煮詰まった時に、売り言葉に買い言葉で離縁の届けを出す者もいる。しかし貴族故に180日の間で冷静になって考えてみれば…と改善が修復出来たり、もう一度やり直してみようと思う者もいるのだ。
執務室で一人になると考えてしまう。
この観察期間中に関係を持つことが出来れば離縁は無効になる。
しかし、今の状況を見ているとイノセン公爵令嬢は私には全く関心がないのだ。
使用人達とも話をするし、分け隔てなく私とも話をしてくれるが【夫】としてではない事をひしひしと感じる。
そう思うかたわらで、あの日の彼女が忘れられないもの事実なのだ。
目を閉じれば、大きさが違った目。女性は美しく魅せようと化粧などをするから母上も化粧をする前とした後では丸きりの別人だった。
彼女も自分を美しく魅せて背伸びをしていたのかも知れない。
私なら言ってやれると思うのだ。
【素顔の君も可愛い】と。
私が魅かれたのは大きな目ではなく、つぶらな瞳のほうだったからだ。
イノセン公爵令嬢とやり直す事にした時、私は彼女を忘れることが出来るだろうか。
大きく溜息を吐いてみるが、何も解決しない事は判っている。
2人の女性を天秤にかけている私はなんと汚い人間なのだろうか。
悶々とする中、気分転換に屋敷の中を歩いていると、使用人の控室に箱があった。
中身を見て、ビックリどころではないほど驚いた。
娼館では病気を感染されないために必ず常備されていた製品である。
聞けばイノセン公爵令嬢がきちんとした家族計画の為に無料で配布しているのだと言う。
妊娠をした後でも医師の許可が出る頃になれば愛し合う夫婦もいるが感染症予防のためにも必要なのだと聞いた事はあった。
離縁をする事を知っている使用人達。私が屋敷に女性を連れ込まないのなら遊んでもいいのだと言われている事を彼らも知っている。だから手にした所で咎める者はいない。
「旦那様も幾つか持っていたほうが良いんじゃないですか」
「あ、あぁ…そうだな」
「1人3つですよ。まぁそれ以上は次の日に響いちゃうから要りませんけどね」
はいと手渡された【Mサイズ】
だが、つまらない見栄を張ってしまったのだ。
「ハハハ。すまない。こっちなんだ」
そう言って手にしたのはXLサイズ。見栄など張らねば良かった。
こっそり部屋で深夜つけてみたが、自尊心がへし折られるかと思った。
残った2つの使い道が全くない。そっと返しに行こうとポケットに入れておいたのが失敗だった。
「イノセン公爵令嬢、今日の予定は何かあるだろうか」
騎士団で過去に離縁の届けを出して180日経つギリギリで復縁届を出し、今は4人の子供に囲まれて妻の尻に敷かれている事を照れながら惚気る部下から貰った2枚のチケット。
以前にイノセン公爵令嬢がこの歌劇俳優のトーリ殿、まさに殿な俳優の事が好きだと言っていたから日頃の使用人達への対応にも感謝していたし、誘ってみようと思ったのだ。
本当にそれだけなのだ!邪な気持ちではないのは本当なのだ!
「いや、人気の歌劇の上演が始まったと聞いたんだ。一緒にどうかと」
格好よくチケットを出したつもりだった。
が‥‥
私がテーブルの上に置いて指でツツイ~っと差し出したのは明るい家族計画の必需品で、私には全くサイズの合わないXLなアイツだった。
微妙な空気が流れる中、イノセン公爵令嬢は【忘れておりました。今日はそら豆を収穫する日でしたわ】とこれまた微妙な微笑をしながら食堂から出て行った。
立ち上がれない私の一部分を凝視する執事の目。
判っている。見栄なんだ!乳兄弟として育った仲だ。お互いの外から見える部分はそれなりの年齢まで一緒に温泉にも入った仲だからバレている。
彼こそ!このXLを使う人物だ。
私はまた部屋の窓から庭を眺めた。
庭師たちとそら豆を採っているイノセン公爵令嬢にまた胸がドクンと高鳴った。
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