侯爵夫人の優雅な１８０日

期間限定妻は無料配布をする

バザーも無事に完了し、無料の千歳飴効果があったのか雑貨を加工した品は売り切れ。仮面をつけて変装したのは迷子探しに効果があったとの神父様の言葉が嬉しかったですわ。


ですが、わたくしが聖ルイス教会のバザーに参加するのは最初で最後。
次回はイノセン公爵家が資金援助をしている教会でやってみたいと考えております。

意中の方の行動パターンもお兄様が調べて下さり、弟の屋敷に勤める使用人さんがマークをしてくださっているとか。ありがたい限りです。

期間もあと２カ月を切りましたので、そろそろアンプレッセ様にも【ご褒美】が必要かと存じます。聞けばアンプレッセ様はその方に操立てされておられるのか、禁欲期間が長いそうなのです。

どうされているのかはご本人のみが知るところとしたほうが全世界の精神衛生健康に良いと思いますので、わたくしも敢えて触れようと思いませんが、意中のお方の期間が明けるのは、わたくしの満了日より１か月ほど後なのだそうです。

赤ちゃんが出来ることを考えれば、今月は様子見をしたほうが良いでしょう。
流石にお兄様の諜報部隊も意中の方の基礎体温まではご存じないでしょうし。
監察中の方でなければわたくしも早々に出会いの場セッティング致しましたが、現状ではまだ意中の方は残り３か月ございますので、一度の交接で懐妊された場合は今の旦那様と離縁が出来なくなってしまいます。

――アンプレッセ様！あと３か月の我慢ですわ――


通販のテ〇ガのカタログをそっと執務室に忍ばせようと思いましたが、うっかりと癖つくと大変で御座います。性能が良いというリピートレビューが高い商品はお１人様推奨ですものね。
結婚した時に持参してきたオカ〇ト製品と共に置いておこうかと思いましたが、弟が勿体ないと言いますので止めました。こちらは使用人の皆さんにお配り致しましょう。


「フェイン様、これは何です？」

「コンド〇ムですわ。計画的な家族計画の必需品ですわよ」

最初はポっと頬を染めた使用人さんも１つ、２つと手渡すと持ち帰ってくださいます。
卑猥だと仰る方も多いのですがイノセン公爵家では領民には無料配布しております。貰いに来るのは恥ずかしいと思いますので、全世帯に毎月の広報と一緒に３個配布しております。
領の役所の目立ちにくい部分に木箱を置いて、不要な方はそれに入れてもらうのです。

授かろうと思っても授かれるものではないのが子供。
ですが、望まぬ妊娠も実際はあるのですから、そうならないよう、少なくともそんな考えを子供にはぶつけないようにとお兄様の発案で始めた事でございます。

恥ずかしい事ではないのです。きちんとお互いが向かい合い理解して話をせねばならない事なのですから。その事を侯爵家の使用人さんにも話をして判って頂けたのですが問題が御座いました。

「あの…折角頂いたんですけど‥‥」

昨日３個提供した女性使用人さんが申し訳なさげに１つを返却してきたのです。
同時に…

「あの…折角頂いたんですけど…」

また１人、女性使用人さんが今度は２個も返却をしてきたのです。


――いったいなぜ？どうしてなの？！――


困惑するわたくしに、最初に１つ戻してきた女性使用人さんが耳元で小さく囁きました。

「多分…小さいんです。１個目は裂けちゃって、２個目は無理やり装着したら鬱血して‥」

なんて事なの！裂けてしまう？！粗悪品だったのかしら。いえいえ。きちんとした品質管理をされた製品です。そんなことは！と悩んでいるともう１人の２個返却した使用人さんが耳元で小さく囁きました。

「ブカブカだったんです。根元を紐で縛るものでもないですし…」

――ナンデスッテ？！――


経験のないわたくしは知らなかったのです。【サイズがあるなんて！】

いえ、大きくなるのは存じております。存じておりますよ。
ですが、それでもサイズがあるなんて！！

急いで嫁入り道具の一つとして、ゲフンゲフン…明るい家族計画の為に持ち込んだサイズを確認してみます。

――全部Mサイズ――

標準と言われるMサイズ。しかしわたくしはすぐさま公爵家に便りを出し、各種サイズを取り揃えたのです。一度【どうして使うのか】を理解してくださった使用人さん達に、各種サイズ１つづつを手渡し、次からは誰がどのサイズだったのかを知られぬよう、使用人さんの控室の一角に４種類の箱を置き札を立てたのです。

【ご自由にお持ち帰りください。但し１人１度に３個まで】

大好評で御座いました。
ですが、わたくしにも好奇心は御座います。


――誰がXLサイズを持ち帰ったのかしら――

いえいえ、そんな下世話な事を考えてはいけません。いつか出会う未来の夫がわたくしのサイズなのです。他人様のサイズを気にしてはいけません。えぇ。ダメ。絶対。




そんな事があり、今朝の朝食もアンプレッセ様は野菜も残さず良い傾向でございます。
本日はアンプレッセ様は休日とのこと。最近はわたくしの食事が終わるのも席を立たず、何杯か珈琲をお代わりしつつ待ってくれるようにもなりました。良い傾向で御座います。


「イノセン公爵令嬢、今日の予定は何かあるだろうか」

はて？どうされたのでしょう。
初めてお会いした日から４か月と４日目。わたくしの予定を気にして頂いたのは初めてでございます。


「デンティド侯爵様、予定は特にありませんが？何か御座いまして？」

「いや、人気の歌劇の上演が始まったと聞いたんだ。一緒にどうかと」

整ったかんばせはわたくしの方を向いたままで、テーブルの上にサッと何かを置かれるアンプレッセ様。

あれは！！！まさかの！XLサイズっ！


「うわっ。違う。これは違うんだ、その使用人の控室にあったから貰っただけで…本当に違うから！チケットは‥‥ほらっ！ちゃんと２枚ある！」



食堂に流れる微妙な空気と静寂。

ピ～ヒョロロロ～　空を飛ぶトンビの声が今ほどよく聞こえた事は御座いませんでした。