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第30話 頼って欲しい
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コーディリアの口からなんと言葉が返されるのか。
プロテウスの心境は俎板の鯉。あまりにも激しく心臓が拍動を打つのでクラクラ止めまいすら覚える。
「ごめんなさい。まだ考えられないんです」
「だ、だよな。うん。そうだとは思ったんだ。急かすつもりなんて全くなくてさ、アハハ。なんか格好悪いな」
お断りをされる事の方が確率は高いと思っていただけにプロテウスは自分を取り繕うので精一杯になった。
「あの、変に考えないでいただきたいのですが、今はまだ結婚を考えられないんです。ゼウスはまだ10歳にもなっていませんし、領地はネプトヌス公爵家様と提携をしたとしても経営が軌道に乗るかどうか現時点では未知数です。羊毛フェルトの動物園構想の方もまだ始まって半分も過ぎていません。何もかも中途半端なので…そこで自分の事だけ優先させると言うのはどうなんだろうと考えてしまうんです」
領地に住まいを移しまだ6年。
ある日突然伯爵家の当主になり、頼れる父も失った。
誰かに聞こうにも教えてくれる者はおらず、全てが手さぐり。
以前ほどでないにしても、領民に支えられて生きてきてまだ手を放してもらえるほど1人立ちが出来る訳でもない。
なのに結婚と言う自分の幸せを望んでいいのか。
コーディリアの瞳の中には迷いが感じられた。
プロテウスは静かに「ごめんなさい」と答えるコーディリアを抱きしめたくなった。決して男女のそれではなく何もかも1人で背負わねばならないその体を外敵から守るように包んでやりたくなった。
だからつい、コーディリアがカップを持っている手を外から覆うように握ってしまった。
「頼ってくれ。何の力にもなれないかも知れないが、出来る限りのことはする。俺を頼ってくれないか?」
「プロテウス様、お優しいんですね。でもこのまま縁談を受けるとなれば今度はネプトヌス公爵家にもおんぶに抱っこな気がするんです」
「それでいいんだ。何もかも1人で背負う事はない。半分、いや10分の1でいい。俺に投げてくれ。何とかする。コーディリア殿は頑張り過ぎだ。頼むから…頼ってくれ」
「ふふっ。そうですね。では…」
「頼ります」「お願いします」と続くかと思った言葉は…。
「考えてみます」だった。
考えてみると言いながらプロテウスに微笑むコーディリアの笑みは作られたものではなく、素直な気持ちなのだろう。そこに強い思いは感じられなくても「頼ってもいい」という選択肢が出来た事で荷物の重みが減った、そんな気持ちからくる笑顔だプロテウスは感じた。
「お茶、冷めますよ?」
「あ、あぁ…すまない。勝手に触れてしまった」
「いいえ。プロテウス様の手は大きくて温かいですわね」
「手が?大きいのはまぁ…認めるが温かい…体温高めだったかな?」
プロテウスは温かいと言われた自分の手のひらを見た。剣だこだらけでごつごつ。柔らかなコーディリアの手とは真逆で触り心地は随分と悪いだろうにと首を傾げた。
そして、ついでではないがゼウスの件を切り出した。
「そうですね。学びを与えてあげればと思うのですが…」
「やる気になっている今は大事な時期だ。こちらは結婚の話を抜きにしても問題ないが出来れば結論は早い方がいいと思う」
「しかしそこまでネプトヌス公爵家にお世話になることは…」
「頼ってくれ。これはコーディリア殿の為じゃない。ゼウスのために頼って欲しいんだ。ネプトヌス公爵家は福祉事業にも力を入れているんだが、平民の識字率をあげる。たったこれだけで農作物や漁獲量は桁違いだ。学があるというのは個々の生活の質もあげることに繋がるとネプトヌス公爵家は考えているんだ」
「そうですね。忙しいからと先送りにしていると結局学びの時間を奪ってしまいますもの」
「心配な点もあると思う。そこで提案だが一緒に王都に行かないか?滞在先はネプトヌス公爵家。ゼウスの環境に納得をしてくれたら俺が責任をもってコーディリア殿をウーラヌス領まで送っていく。何度も言うが結婚の話は棚上げで良いんだ。ここに居られる日はあと少し。決断をしてくれないか」
コーディリアはゼウスの件については迷いはほぼなかった。
全くない訳ではない。
ネプトヌス公爵家はゼウスを守ってくれるだろうが、世間はそうではない。
優しい人も多いけれどその逆もいる。
拾われ子であることは本人の責任ではないのに、それだけを理由に卑しめて来る者はごまんといる。幼いゼウスに嫌な思いはさせたくないが、ずっと子供のままで成長しない訳でもない。
「俺は思うんだ。幸せってどうして感じるんだろうって」
「え?」
「突拍子もないように聞こえると思うが…幸せって言うのは幸せじゃない事を経験するから小さな事でも生きててよかったとか、楽しいとか感じる気持ちだと思うんだ。小さな幸せを感じることが心も強くするんだと思ってる。嫌な事は誰だって経験したくない。でも、避けては通れないのも事実だ。ゼウスはきっと嫌な思いもするし、腹も立てるだろう。でも幸せだなと感じる出来事だってある筈だ。そうやって強くなっていく子だと俺は思う」
「そうでしょうか」
「そうだとも。コーディリア殿だって手探りの中、ゼウスを通じて感じた幸せは多いだろう?それは沢山苦労をしてきたからだよ。だから強いんだよ」
「まぁ、ふふっ。それは誉め言葉なのかしら」
「勿論。でも強い女性でも頼って欲しいと思うのが男心なんだけどね?」
「考えておきます」
茶を飲み終わった2人。カップは並んで水桶に浸かっていた。
プロテウスの心境は俎板の鯉。あまりにも激しく心臓が拍動を打つのでクラクラ止めまいすら覚える。
「ごめんなさい。まだ考えられないんです」
「だ、だよな。うん。そうだとは思ったんだ。急かすつもりなんて全くなくてさ、アハハ。なんか格好悪いな」
お断りをされる事の方が確率は高いと思っていただけにプロテウスは自分を取り繕うので精一杯になった。
「あの、変に考えないでいただきたいのですが、今はまだ結婚を考えられないんです。ゼウスはまだ10歳にもなっていませんし、領地はネプトヌス公爵家様と提携をしたとしても経営が軌道に乗るかどうか現時点では未知数です。羊毛フェルトの動物園構想の方もまだ始まって半分も過ぎていません。何もかも中途半端なので…そこで自分の事だけ優先させると言うのはどうなんだろうと考えてしまうんです」
領地に住まいを移しまだ6年。
ある日突然伯爵家の当主になり、頼れる父も失った。
誰かに聞こうにも教えてくれる者はおらず、全てが手さぐり。
以前ほどでないにしても、領民に支えられて生きてきてまだ手を放してもらえるほど1人立ちが出来る訳でもない。
なのに結婚と言う自分の幸せを望んでいいのか。
コーディリアの瞳の中には迷いが感じられた。
プロテウスは静かに「ごめんなさい」と答えるコーディリアを抱きしめたくなった。決して男女のそれではなく何もかも1人で背負わねばならないその体を外敵から守るように包んでやりたくなった。
だからつい、コーディリアがカップを持っている手を外から覆うように握ってしまった。
「頼ってくれ。何の力にもなれないかも知れないが、出来る限りのことはする。俺を頼ってくれないか?」
「プロテウス様、お優しいんですね。でもこのまま縁談を受けるとなれば今度はネプトヌス公爵家にもおんぶに抱っこな気がするんです」
「それでいいんだ。何もかも1人で背負う事はない。半分、いや10分の1でいい。俺に投げてくれ。何とかする。コーディリア殿は頑張り過ぎだ。頼むから…頼ってくれ」
「ふふっ。そうですね。では…」
「頼ります」「お願いします」と続くかと思った言葉は…。
「考えてみます」だった。
考えてみると言いながらプロテウスに微笑むコーディリアの笑みは作られたものではなく、素直な気持ちなのだろう。そこに強い思いは感じられなくても「頼ってもいい」という選択肢が出来た事で荷物の重みが減った、そんな気持ちからくる笑顔だプロテウスは感じた。
「お茶、冷めますよ?」
「あ、あぁ…すまない。勝手に触れてしまった」
「いいえ。プロテウス様の手は大きくて温かいですわね」
「手が?大きいのはまぁ…認めるが温かい…体温高めだったかな?」
プロテウスは温かいと言われた自分の手のひらを見た。剣だこだらけでごつごつ。柔らかなコーディリアの手とは真逆で触り心地は随分と悪いだろうにと首を傾げた。
そして、ついでではないがゼウスの件を切り出した。
「そうですね。学びを与えてあげればと思うのですが…」
「やる気になっている今は大事な時期だ。こちらは結婚の話を抜きにしても問題ないが出来れば結論は早い方がいいと思う」
「しかしそこまでネプトヌス公爵家にお世話になることは…」
「頼ってくれ。これはコーディリア殿の為じゃない。ゼウスのために頼って欲しいんだ。ネプトヌス公爵家は福祉事業にも力を入れているんだが、平民の識字率をあげる。たったこれだけで農作物や漁獲量は桁違いだ。学があるというのは個々の生活の質もあげることに繋がるとネプトヌス公爵家は考えているんだ」
「そうですね。忙しいからと先送りにしていると結局学びの時間を奪ってしまいますもの」
「心配な点もあると思う。そこで提案だが一緒に王都に行かないか?滞在先はネプトヌス公爵家。ゼウスの環境に納得をしてくれたら俺が責任をもってコーディリア殿をウーラヌス領まで送っていく。何度も言うが結婚の話は棚上げで良いんだ。ここに居られる日はあと少し。決断をしてくれないか」
コーディリアはゼウスの件については迷いはほぼなかった。
全くない訳ではない。
ネプトヌス公爵家はゼウスを守ってくれるだろうが、世間はそうではない。
優しい人も多いけれどその逆もいる。
拾われ子であることは本人の責任ではないのに、それだけを理由に卑しめて来る者はごまんといる。幼いゼウスに嫌な思いはさせたくないが、ずっと子供のままで成長しない訳でもない。
「俺は思うんだ。幸せってどうして感じるんだろうって」
「え?」
「突拍子もないように聞こえると思うが…幸せって言うのは幸せじゃない事を経験するから小さな事でも生きててよかったとか、楽しいとか感じる気持ちだと思うんだ。小さな幸せを感じることが心も強くするんだと思ってる。嫌な事は誰だって経験したくない。でも、避けては通れないのも事実だ。ゼウスはきっと嫌な思いもするし、腹も立てるだろう。でも幸せだなと感じる出来事だってある筈だ。そうやって強くなっていく子だと俺は思う」
「そうでしょうか」
「そうだとも。コーディリア殿だって手探りの中、ゼウスを通じて感じた幸せは多いだろう?それは沢山苦労をしてきたからだよ。だから強いんだよ」
「まぁ、ふふっ。それは誉め言葉なのかしら」
「勿論。でも強い女性でも頼って欲しいと思うのが男心なんだけどね?」
「考えておきます」
茶を飲み終わった2人。カップは並んで水桶に浸かっていた。
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