あなたが教えてくれたもの

cyaru

文字の大きさ
21 / 47

第21話  喧嘩をするなら

しおりを挟む
プロテウスとロベルトの空気は一触即発。

ただならぬ空気を感じた農夫は慌ててコーディリアの待つ洗浄小屋に向かって走り出したが、その間も2人の纏う空気は更に悪くなってお互いの胸倉を掴みあげるまでになった。

昔はプロテウスのほうがかなり背丈もあったが、ロベルトも辺境で鍛えられた事もあり左程に身長差はない。それでも体躯が良いのはプロテウスで殴り合いになればプロテウスの圧勝になるだろう。

しかし、プロテウスも簡単には手が出せなかった。
ロベルトは第3王子であり、ここで揉め事を起こせば遠い王都にも時間差はあるものの聞こえる事になる。負傷でもされたらロベルトを留め置いているコーディリアも何らかの処罰を受けてしまうからである。


ギリギリと至近距離での睨み合いが続くが、農夫がコーディリアに知らせた事で帰り道の途中にあったコーディリアがゼウスと共に息を切らせて走ってきた。

「えぇーい!!」

ドーンとロベルトの足にぶつかってきたのはゼウスだった。
間を置かずにコーディリアも声を上げた。

「何をされているんです!領内で喧嘩をするのなら出て行ってくださいませ!」

プロテウスとロベルトの体が離れると間にコーディリアが体を割り込ませた。
見上げなければならない背丈のある男性2人に挟まれてもコーディリアは怯まない。

平和主義を名乗るほどでなくても、争いごとは領内では迷惑でしかない。


「すまない、少し頭に血が上った」

「リア、こいつを追い出してくれっ!」


プロテウスは落ち着きが見えたがロベルトは鼻息が荒い。体は離れても隙あらばまた掴みかかりそうな勢いがある。

「ロベルト、彼は私のお客様なの。失礼な事はしないで頂きたいわ」

「そんなの客じゃない!疫病神だ」

――え?あなたがそれを言う?――

ここでロベルトが領に来てからの言動を諫めるつもりはないが、少なくともプロテウスは事前にネプトヌス公爵家から事業の話は先触れが届いているし、事業をするのなら現地を実際に視察するためにやって来るであろう事も想定の範囲内。

コーディリアは「私の客だ」と取り敢えずは2人の間に距離を作るため、プロテウスを家の中に招き入れる事にした。

その決定に不服そうなロベルトだったが、ロベルトに文句を言われる筋合いはない。

「ネプトヌス公爵子息様、先に家でお待ちくださいませ。ゼウス、お客様をご案内してくれるかしら」

「うん。いいよ」

ゼウスに案内をされてプロテウスが家の中に入っていくとコーディリアはロベルトにもう一度言った。


「ロベルト、彼は先触れも届いているお客様なの」

「そんな!リアが王都に行く、来いって話だっただろう?」

「そうね。でも事業をするなら現地視察をするのも当然よ」

「突然やってきて視察とか…する訳ないさ」

「それを決めるのはロベルト、貴方じゃないわ。私なの」

強い口調で言えば「解ったよ」渋々とロベルトは納得をしてくれたがコーディリアが家に戻ろうとすると後ろをついてくる。一緒に家の中にも入ろうとするので「貴方はここまでよ」コーディリアはロベルトを玄関前でシャットアウト。


プロテウスは改めてコーディリアに突然やってきた非礼を詫び、挨拶をした。

「ネプトヌス公爵家に籍を置くプロテウスと申します。覚えてはいないと思いますが、お会いするのは2度目です」

「2度目、で御座いますか?申し訳ございません。初見かと思っておりました」

「初見の様なものです。あの時、貴女は意識が無かったと思うので」

「あの時?で御座いますか?」


コーディリアはプロテウスの言う「あの時」がピンとこない。
もう6年も経っているのもあるが、思い出や感傷に浸っていては食べるにも事欠く上に、幼いゼウスを抱えての生活はお世辞にもゆとりがあるとは言えなかったのですっかり忘れてしまっていた。

ロベルトが領にやって来るまで当時の事を思い出すのは寒さで皮膚が攣るように痛むときくらい。

「思い出したくもないでしょうが、貴女を初めて見たのは夜会で落下した時です。上着も伯爵が丁寧に洗いに出してくださって新品同様になって返ってきました」

「まぁ!あの時の。そうだったのですね。これは失礼を致しました。ネプトヌス公爵家の方だったとは。父もお名前を聞くことを失念しており、兵士のような方だったと隊舎に上着を届けたのです。その節は本当に助かりましたわ」

「いえ。お元気そうで良かったです。私はあの後直ぐに遠征に向かいましたので」

「左様でございましたか。お陰様で木登りは出来ませんが小走り程度なら問題も御座いませんわ」

「木登りですか。私も子供の頃はよく木に登って父に叱られたものです。騎士になってからは久しく登っておりませんので、もう、クマのようには登れませんけどね」

「まぁ。ウフフ。猿ではなくクマだなんて」

「この体ですからね。でも野生のクマは木登りも上手いんですよ。ご存じでしたか?」

「えぇ。ウーラヌス領には固有種のウーラヌスベアが居りますもの。木の上にある蜂の巣をそれは上手に獲るのです。ヒグマや白熊のように泳ぐ事はないのですけれど」

「アハハ。私は泳ぐのも得意ですよ。犬かきならぬクマかきで近づいて遡上する鮭をバシャッと!」

プロテウスは手でクマが鮭を引っかける仕草を真似た。

――あら?意外に可愛い事をするのね。手がちゃんと丸まってるなんてポイント高いわ――

他愛もない話をする中でコーディリアはロベルトとの諍いもありどうなる事かと気を揉んだが、気さくなプロテウスに少しだけ安心したのだった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【完結】『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

処理中です...