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第21話 喧嘩をするなら
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プロテウスとロベルトの空気は一触即発。
ただならぬ空気を感じた農夫は慌ててコーディリアの待つ洗浄小屋に向かって走り出したが、その間も2人の纏う空気は更に悪くなってお互いの胸倉を掴みあげるまでになった。
昔はプロテウスのほうがかなり背丈もあったが、ロベルトも辺境で鍛えられた事もあり左程に身長差はない。それでも体躯が良いのはプロテウスで殴り合いになればプロテウスの圧勝になるだろう。
しかし、プロテウスも簡単には手が出せなかった。
ロベルトは第3王子であり、ここで揉め事を起こせば遠い王都にも時間差はあるものの聞こえる事になる。負傷でもされたらロベルトを留め置いているコーディリアも何らかの処罰を受けてしまうからである。
ギリギリと至近距離での睨み合いが続くが、農夫がコーディリアに知らせた事で帰り道の途中にあったコーディリアがゼウスと共に息を切らせて走ってきた。
「えぇーい!!」
ドーンとロベルトの足にぶつかってきたのはゼウスだった。
間を置かずにコーディリアも声を上げた。
「何をされているんです!領内で喧嘩をするのなら出て行ってくださいませ!」
プロテウスとロベルトの体が離れると間にコーディリアが体を割り込ませた。
見上げなければならない背丈のある男性2人に挟まれてもコーディリアは怯まない。
平和主義を名乗るほどでなくても、争いごとは領内では迷惑でしかない。
「すまない、少し頭に血が上った」
「リア、こいつを追い出してくれっ!」
プロテウスは落ち着きが見えたがロベルトは鼻息が荒い。体は離れても隙あらばまた掴みかかりそうな勢いがある。
「ロベルト、彼は私のお客様なの。失礼な事はしないで頂きたいわ」
「そんなの客じゃない!疫病神だ」
――え?あなたがそれを言う?――
ここでロベルトが領に来てからの言動を諫めるつもりはないが、少なくともプロテウスは事前にネプトヌス公爵家から事業の話は先触れが届いているし、事業をするのなら現地を実際に視察するためにやって来るであろう事も想定の範囲内。
コーディリアは「私の客だ」と取り敢えずは2人の間に距離を作るため、プロテウスを家の中に招き入れる事にした。
その決定に不服そうなロベルトだったが、ロベルトに文句を言われる筋合いはない。
「ネプトヌス公爵子息様、先に家でお待ちくださいませ。ゼウス、お客様をご案内してくれるかしら」
「うん。いいよ」
ゼウスに案内をされてプロテウスが家の中に入っていくとコーディリアはロベルトにもう一度言った。
「ロベルト、彼は先触れも届いているお客様なの」
「そんな!リアが王都に行く、来いって話だっただろう?」
「そうね。でも事業をするなら現地視察をするのも当然よ」
「突然やってきて視察とか…する訳ないさ」
「それを決めるのはロベルト、貴方じゃないわ。私なの」
強い口調で言えば「解ったよ」渋々とロベルトは納得をしてくれたがコーディリアが家に戻ろうとすると後ろをついてくる。一緒に家の中にも入ろうとするので「貴方はここまでよ」コーディリアはロベルトを玄関前でシャットアウト。
プロテウスは改めてコーディリアに突然やってきた非礼を詫び、挨拶をした。
「ネプトヌス公爵家に籍を置くプロテウスと申します。覚えてはいないと思いますが、お会いするのは2度目です」
「2度目、で御座いますか?申し訳ございません。初見かと思っておりました」
「初見の様なものです。あの時、貴女は意識が無かったと思うので」
「あの時?で御座いますか?」
コーディリアはプロテウスの言う「あの時」がピンとこない。
もう6年も経っているのもあるが、思い出や感傷に浸っていては食べるにも事欠く上に、幼いゼウスを抱えての生活はお世辞にもゆとりがあるとは言えなかったのですっかり忘れてしまっていた。
ロベルトが領にやって来るまで当時の事を思い出すのは寒さで皮膚が攣るように痛むときくらい。
「思い出したくもないでしょうが、貴女を初めて見たのは夜会で落下した時です。上着も伯爵が丁寧に洗いに出してくださって新品同様になって返ってきました」
「まぁ!あの時の。そうだったのですね。これは失礼を致しました。ネプトヌス公爵家の方だったとは。父もお名前を聞くことを失念しており、兵士のような方だったと隊舎に上着を届けたのです。その節は本当に助かりましたわ」
「いえ。お元気そうで良かったです。私はあの後直ぐに遠征に向かいましたので」
「左様でございましたか。お陰様で木登りは出来ませんが小走り程度なら問題も御座いませんわ」
「木登りですか。私も子供の頃はよく木に登って父に叱られたものです。騎士になってからは久しく登っておりませんので、もう、クマのようには登れませんけどね」
「まぁ。ウフフ。猿ではなくクマだなんて」
「この体ですからね。でも野生のクマは木登りも上手いんですよ。ご存じでしたか?」
「えぇ。ウーラヌス領には固有種のウーラヌスベアが居りますもの。木の上にある蜂の巣をそれは上手に獲るのです。ヒグマや白熊のように泳ぐ事はないのですけれど」
「アハハ。私は泳ぐのも得意ですよ。犬かきならぬクマかきで近づいて遡上する鮭をバシャッと!」
プロテウスは手でクマが鮭を引っかける仕草を真似た。
――あら?意外に可愛い事をするのね。手がちゃんと丸まってるなんてポイント高いわ――
他愛もない話をする中でコーディリアはロベルトとの諍いもありどうなる事かと気を揉んだが、気さくなプロテウスに少しだけ安心したのだった。
ただならぬ空気を感じた農夫は慌ててコーディリアの待つ洗浄小屋に向かって走り出したが、その間も2人の纏う空気は更に悪くなってお互いの胸倉を掴みあげるまでになった。
昔はプロテウスのほうがかなり背丈もあったが、ロベルトも辺境で鍛えられた事もあり左程に身長差はない。それでも体躯が良いのはプロテウスで殴り合いになればプロテウスの圧勝になるだろう。
しかし、プロテウスも簡単には手が出せなかった。
ロベルトは第3王子であり、ここで揉め事を起こせば遠い王都にも時間差はあるものの聞こえる事になる。負傷でもされたらロベルトを留め置いているコーディリアも何らかの処罰を受けてしまうからである。
ギリギリと至近距離での睨み合いが続くが、農夫がコーディリアに知らせた事で帰り道の途中にあったコーディリアがゼウスと共に息を切らせて走ってきた。
「えぇーい!!」
ドーンとロベルトの足にぶつかってきたのはゼウスだった。
間を置かずにコーディリアも声を上げた。
「何をされているんです!領内で喧嘩をするのなら出て行ってくださいませ!」
プロテウスとロベルトの体が離れると間にコーディリアが体を割り込ませた。
見上げなければならない背丈のある男性2人に挟まれてもコーディリアは怯まない。
平和主義を名乗るほどでなくても、争いごとは領内では迷惑でしかない。
「すまない、少し頭に血が上った」
「リア、こいつを追い出してくれっ!」
プロテウスは落ち着きが見えたがロベルトは鼻息が荒い。体は離れても隙あらばまた掴みかかりそうな勢いがある。
「ロベルト、彼は私のお客様なの。失礼な事はしないで頂きたいわ」
「そんなの客じゃない!疫病神だ」
――え?あなたがそれを言う?――
ここでロベルトが領に来てからの言動を諫めるつもりはないが、少なくともプロテウスは事前にネプトヌス公爵家から事業の話は先触れが届いているし、事業をするのなら現地を実際に視察するためにやって来るであろう事も想定の範囲内。
コーディリアは「私の客だ」と取り敢えずは2人の間に距離を作るため、プロテウスを家の中に招き入れる事にした。
その決定に不服そうなロベルトだったが、ロベルトに文句を言われる筋合いはない。
「ネプトヌス公爵子息様、先に家でお待ちくださいませ。ゼウス、お客様をご案内してくれるかしら」
「うん。いいよ」
ゼウスに案内をされてプロテウスが家の中に入っていくとコーディリアはロベルトにもう一度言った。
「ロベルト、彼は先触れも届いているお客様なの」
「そんな!リアが王都に行く、来いって話だっただろう?」
「そうね。でも事業をするなら現地視察をするのも当然よ」
「突然やってきて視察とか…する訳ないさ」
「それを決めるのはロベルト、貴方じゃないわ。私なの」
強い口調で言えば「解ったよ」渋々とロベルトは納得をしてくれたがコーディリアが家に戻ろうとすると後ろをついてくる。一緒に家の中にも入ろうとするので「貴方はここまでよ」コーディリアはロベルトを玄関前でシャットアウト。
プロテウスは改めてコーディリアに突然やってきた非礼を詫び、挨拶をした。
「ネプトヌス公爵家に籍を置くプロテウスと申します。覚えてはいないと思いますが、お会いするのは2度目です」
「2度目、で御座いますか?申し訳ございません。初見かと思っておりました」
「初見の様なものです。あの時、貴女は意識が無かったと思うので」
「あの時?で御座いますか?」
コーディリアはプロテウスの言う「あの時」がピンとこない。
もう6年も経っているのもあるが、思い出や感傷に浸っていては食べるにも事欠く上に、幼いゼウスを抱えての生活はお世辞にもゆとりがあるとは言えなかったのですっかり忘れてしまっていた。
ロベルトが領にやって来るまで当時の事を思い出すのは寒さで皮膚が攣るように痛むときくらい。
「思い出したくもないでしょうが、貴女を初めて見たのは夜会で落下した時です。上着も伯爵が丁寧に洗いに出してくださって新品同様になって返ってきました」
「まぁ!あの時の。そうだったのですね。これは失礼を致しました。ネプトヌス公爵家の方だったとは。父もお名前を聞くことを失念しており、兵士のような方だったと隊舎に上着を届けたのです。その節は本当に助かりましたわ」
「いえ。お元気そうで良かったです。私はあの後直ぐに遠征に向かいましたので」
「左様でございましたか。お陰様で木登りは出来ませんが小走り程度なら問題も御座いませんわ」
「木登りですか。私も子供の頃はよく木に登って父に叱られたものです。騎士になってからは久しく登っておりませんので、もう、クマのようには登れませんけどね」
「まぁ。ウフフ。猿ではなくクマだなんて」
「この体ですからね。でも野生のクマは木登りも上手いんですよ。ご存じでしたか?」
「えぇ。ウーラヌス領には固有種のウーラヌスベアが居りますもの。木の上にある蜂の巣をそれは上手に獲るのです。ヒグマや白熊のように泳ぐ事はないのですけれど」
「アハハ。私は泳ぐのも得意ですよ。犬かきならぬクマかきで近づいて遡上する鮭をバシャッと!」
プロテウスは手でクマが鮭を引っかける仕草を真似た。
――あら?意外に可愛い事をするのね。手がちゃんと丸まってるなんてポイント高いわ――
他愛もない話をする中でコーディリアはロベルトとの諍いもありどうなる事かと気を揉んだが、気さくなプロテウスに少しだけ安心したのだった。
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