あなたが教えてくれたもの

cyaru

文字の大きさ
16 / 47

第16話  純真無垢なゼウス

しおりを挟む
男の子だから気になるのか。
ゼウスはロベルトの家が秘密基地に見えて仕方がない。

日を追うごとに「謎の家」はどんどん進化を遂げていくのがゼウスには「カッコいい!」としか思えないのだ。

そわそわと窓の向こうにちらりと見えるロベルトの住まいを見て落ち着かない。

「ゼウス。食事中は食べる事に集中なさいな」

「うん。あのね、お姉ちゃん、あの家‥行ってもいい?」

「ダメよ。何処の家も自分が行きたいから行くではだめと教えたでしょう?尋ねる時は用件がある時よ」

「中が見たいとかじゃダメかな」

「いけません。ほら、スープが零れるわよ。ニンジンも残ってるわ」

「僕、ニンジン苦手」

「好き嫌いはダメよ。色んなものをちゃんと食べないと大きくなれないわ」


日中はゼウスも羊番をしたりと仕事があるので、自由な時間はないが夜になると「おじさん、来てもいいよって言ったから」と夕食もリスの頬袋のようになるまで口の中に詰め込んで急いで食べると食器を片付けて飛び出していく。

そんなゼウスを捕まえて湯殿に行くのだが、ゼウスはスズメの行水。
早くロベルトの家に行きたくて仕方がないのだ。

領内の若い男性たちは冬になると出稼ぎに行くのでロベルトの年代の男性は珍しくもあり、ゼウスにはそこに格好の遊び場が加わった形。

決して広くはない廃屋の隅から隅まで好奇心が先に立ち、うとうととする燃料切れまで好奇心全開で探検をする。

「すまない。寝てしまったんだ」

「また?!ごめんなさい。明日は行かないように強く言うわ」

「いいんだよ。あんな家でも訪ねてきてくれると嬉しいよ」

ロベルトからゼウスを受け取ると、ゼウスの小さな手からドングリがぽとりと落ちた。



そんな生活が2か月ほど続き、峠も雪が解け始めた頃だった。

領民の家も男手が足らないので、ロベルトは何でも屋のように領民から頼まれごとをすれば大工になったり、農夫になったりで日々の食糧を手に入れる。

そこにかつての第3王子ロベルト殿下を匂わせるものは何もない。
領民もロベルトが第3王子であることなど知らないだろう。

廃屋は更に進化を遂げて現在ではツリーハウスになっている。

ロベルトが枯れ枝をナイフで薄く削いで焚火の火種を作っているとコーディリアの家に珍しく来客があるのが見えた。来客と言っても配達人である。

コーディリアはウーラヌス伯爵家の当主でもあり、領主でもあるので国から色々と制度が変わったりすると通知を配達人が運んでくる。

王都からウーラヌス領は距離があるので最新の情報でも3か月遅れ。
領地住まいの場合はわざわざ王都まで出向かなくても当主の変更届や収入に対しての納税などは配達人を使って行ったりもする。

その類かと思っていたのだが、夜になってゼウスが何時ものようにやってきて「お姉ちゃんが困っている」とロベルトに相談をしてきた。


「なんで困ってるんだ?金か?」

「お金もだと思うけど、王都に行かなきゃいけないのかなって。お姉ちゃん、王都には行きたくないみたいなんだよなぁ」

「ゼウスは行きたいのか?」

「うん。行ってみたい。王都って変わった鳥もいるって出稼ぎに行って帰ってきた人たちが言うんだ。王都に行って捕まえたら高く売れそうな気がするんだ」

「変わった鳥?そんなの居たかな。鳥なら領地の方がインコモドキなんか変わったのが多いと思うんだが」

「なんかね、飛ばないらしいんだけどすっごく綺麗な鳥みたい。僕見てみたいなぁ」

「そんな鳥がいるのか。なんて鳥だ?」

「夜鷹だよ。夜にしか見る事が出来ない綺麗な鳥なんだって」

――ゼウス、純真無垢なままで居てくれ――


ロベルトはゼウスに「その鳥はかなり金がかかる」ことや「時に病気を持っている事もある」と教えてしまいそうになるが「子供の夢を壊してはいけない」と夜鷹の生態を教える事が出来なかった。

夜鷹については今後も話をはぐらかすしかないだろうが、ゼウスの情報を総合するとコーディリアに手紙を送ってきたのはネプトヌス公爵家。

ウーラヌス領産の羊毛事業を立ち上げたいので話がしたいとコンタクトを取ってきているとの事だった。

――ネプトヌス公爵家か。確か…トリトン殿が後継者だったな――

ロベルトの知るネプトヌス公爵家は慈善活動にも力を入れていて、堅実で忠臣。
現公爵はロベルトの叔父でもあるが、第6王子だったためネプトヌス公爵家に婿入りの形で臣籍降下している。

幾つかある公爵領は農業が盛んで食料自給率の向上に貢献している家でもある。

羊毛産業を発展させるのであれば、生産者と製造者でぼったくりをするような家でもないし、悪い話ではないと思うがコーディリアが首を縦に振らない理由がロベルトには判らなかった。

思いつく理由としては金だ。

――王都までの路銀がないんだろうか――

貴族や平民はその場で支払いを求められるが、ロベルトならば宿場町などでの支払いも後日清算で請求書を王宮宛に届けてもらえば王子用の予算から決済も出来る。

コーディリアが金の事で王都行きを悩んでいるのなら力になれるんじゃないかと考えたロベルトはお節介だと思いつつもコーディリアを訪ねる事にした。

「尋ねる時は先触れなんだが…紙もペンもないんだよな」

手紙を書こうにも道具がないロベルトは翌日家から少し離れた場所を歩いた。

「あった。あった」

見つけたのはシザンサスの葉っぱ。花が咲く時期はまだ先だが花言葉は協調。
きっと話がしたいと捉えてくれるはずだと1人頷いた。

ロベルトはゼウスにシザンサスの葉っぱを預けたのだった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

処理中です...