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第13話 恋するグリズリー
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場所は変わって王都。
ネプトヌス公爵家では毎度の事になったが、公爵夫妻が頭を抱えて品選びをしていた。
「食べて無くなるモノが良いわよね」
「そうだな。だがあまりにも質素すぎないか」
「仕方ないではありませんか。何処の世界にお詫びの品だというのに大人気!予約をするだけなのに先ず行列に並んで整理券を手に入れろ!な菓子を選ぶ者がいるのですかッ!祝いじゃないのよ?顔合わせの前にまた破談なのよ?解っているの?」
今回は通算で39回目のお見合いが失敗したのだが、お相手となった令嬢の家に贈る菓子折りの中身で悩んでいるのだ。
「だいたいだ!顔合わせだとあれほど言っておいたのに!」
「貴方が首に縄でもつけておけば良かったんですのよ」
「そんなもの!引き千切っていくに決まっているだろう!そもそもでなんで昼食にしなかったんだ。夕食の時間にあいつが屋敷にいた事があるか?ないだろう!」
「それよりも!今!どこにいるのです?とっ捕まえてお説教でもしないと!キィィー!気が済まないわ!」
「おい、プロテウスは部屋にいるのか?」
公爵に問われ従者は滝の様な汗を流して申し訳なさそうに答えた。
「それが‥隊舎に行ってくると‥」
「何時だ?!」
「かれこれ5時間ほど前になります」
「5時間っ?!ぐぬぬ‥逃げおったな!」
「左様で」
プロテウスはネプトヌス公爵家の次男坊なのだが、公爵家は兄のトリトンが継ぐのだからと13歳になる前に騎士団に勝手に入隊し、以後は騎士団の独身寮住まい。
規律もあるし「まぁいいか」と騎士道に精進しているものとばかり思っていたら16歳になった頃に舞い込んだ絵葉書。プロテウスは親にも内緒で王都から離れた辺境伯に応援要請があった時に真っ先に駆け付ける部隊に配属転換を申し出ていたのである。
これまで屋敷に戻ってきた時は何とか捕まえて見合いの席を用意してきたけれど、見合いの当日に「出立だから」とお見合いをドタキャン。
年齢ももう26歳となっていい加減にどこかの令嬢と結婚をさせて幾つもあるネプトヌス公爵家の領地を子爵となって管理させようとしたのだが、尽く失敗に終わっている。
「あのぅ…」
「なんだ!」
たださえ苛ついているネプトヌス公爵に従者は恐る恐る言葉を掛けた。
「プロテウス坊ちゃんは心に決めた方が――」
「いるのかっ?!」
「どこの誰なのっ!この際、見た目が人間なら男でも女でもいいわ!何処の子なの?!」
「いや、お前、見た目が人間であれば良し、そこには激しく同意をするが性別は女性に限らないとダメだろう」
「王弟殿下だって男色では御座いませんか。何かいけないのです。問題は独身のままで相手もおらず寡で貫く事です!恋人がいるかいないか!大きな問題なのですよ?」
ネプトヌス公爵家としては長男のトリトンに子供も2人いるし、出来れば女性を望んでほしいけれど恋人が男性であってもトリトンの子を養子に出せば事が足りる。
それにプロテウスは騎士と言う職にあるので何も言われていないが二つ名では「破壊神」とも呼ばれていてプロテウスが応援に回った地では魔力暴走も起こしていないのに山が消えたり、川が流れを変えたり、平地が渓谷になったりと地図の書き換えも頻繁に行われている。
相手が異性であれ、同性であれ「守る者」が出来ればプロテウスも大人しくなるんじゃ?と僅かな期待も寄せていた。
ネプトヌス公爵夫人(名をデスピーナ)は従者にググイ!と迫る。
「そ、それがですね。プロテウス坊ちゃまがほどほどに酔った時にポロっと零した言葉をメイドが聞いただけで、シラフの時に聞いたわけではないのですけども」
「どうでもいいわ。本音に近いと言う事でしょう?何処の誰なの?」
「いえ、名前までは…。ただ6年ほど前に女神が地上に舞い降りた、と言っていたと」
「・・・・」
ネプトヌス公爵夫妻は思った。
――よく判らない宗教にかぶれたようだ――
聞くだけ損した。と、思ったのだがふとネプトヌス公爵は考え込んだ。
「どうなさったの」
「いや、そう言えば…6年前だろう?その年は20歳になった年だよな。ロベルト殿下の婚約が無くなった年でもある」
「まさか!?」
「うむ。地上に舞い降りたと言うのは、上から落ちてきたとも言えるんじゃないのか?暫くプロテウスの様子もおかしかっただろう?」
ネプトヌス公爵夫妻には思い当たることがあった。
6年前の夜会で第3王子ロベルトの婚約者だった令嬢が高さとしては3階分にあたる高所から落下した。その時に落ちて来る令嬢には数歩届かず受け止める事は出来なかったが、プロテウスは半狂乱になる令嬢の父を押さえ込み、素早く処置を行った。
あのあと直ぐに南の辺境地で魔獣が大発生していると報告があり出立をしていったが、落下事故があって出征するまで3、4日ほどプロテウスは心ここに有らずだったのだ。
食事中も窓の外を見て物思いに耽ったりでまるで恋するグリズリー。
王都に帰還した時は1日に5食は欠かさず食べていたのに小さなロールパン1つで「胸がいっぱいで食べられない」と言った。
――腹いっぱいではなく胸がいっぱい?!――
あれは間違いなく医者も直せないと言われる恋煩いに違いない。
「あなたっ!試してみる価値は御座いましてよ。確かご令嬢はあの後領地に行き誰ともご縁を持っていない筈です」
「確かに。ん?待てよ?ウーラヌス伯爵はもう亡くなったんじゃなかったか」
「だったら今の当主は…善は急げ!直ぐに調べて頂戴っ!」
ネプトヌス公爵家は途端に活気づいたのだった。
ネプトヌス公爵家では毎度の事になったが、公爵夫妻が頭を抱えて品選びをしていた。
「食べて無くなるモノが良いわよね」
「そうだな。だがあまりにも質素すぎないか」
「仕方ないではありませんか。何処の世界にお詫びの品だというのに大人気!予約をするだけなのに先ず行列に並んで整理券を手に入れろ!な菓子を選ぶ者がいるのですかッ!祝いじゃないのよ?顔合わせの前にまた破談なのよ?解っているの?」
今回は通算で39回目のお見合いが失敗したのだが、お相手となった令嬢の家に贈る菓子折りの中身で悩んでいるのだ。
「だいたいだ!顔合わせだとあれほど言っておいたのに!」
「貴方が首に縄でもつけておけば良かったんですのよ」
「そんなもの!引き千切っていくに決まっているだろう!そもそもでなんで昼食にしなかったんだ。夕食の時間にあいつが屋敷にいた事があるか?ないだろう!」
「それよりも!今!どこにいるのです?とっ捕まえてお説教でもしないと!キィィー!気が済まないわ!」
「おい、プロテウスは部屋にいるのか?」
公爵に問われ従者は滝の様な汗を流して申し訳なさそうに答えた。
「それが‥隊舎に行ってくると‥」
「何時だ?!」
「かれこれ5時間ほど前になります」
「5時間っ?!ぐぬぬ‥逃げおったな!」
「左様で」
プロテウスはネプトヌス公爵家の次男坊なのだが、公爵家は兄のトリトンが継ぐのだからと13歳になる前に騎士団に勝手に入隊し、以後は騎士団の独身寮住まい。
規律もあるし「まぁいいか」と騎士道に精進しているものとばかり思っていたら16歳になった頃に舞い込んだ絵葉書。プロテウスは親にも内緒で王都から離れた辺境伯に応援要請があった時に真っ先に駆け付ける部隊に配属転換を申し出ていたのである。
これまで屋敷に戻ってきた時は何とか捕まえて見合いの席を用意してきたけれど、見合いの当日に「出立だから」とお見合いをドタキャン。
年齢ももう26歳となっていい加減にどこかの令嬢と結婚をさせて幾つもあるネプトヌス公爵家の領地を子爵となって管理させようとしたのだが、尽く失敗に終わっている。
「あのぅ…」
「なんだ!」
たださえ苛ついているネプトヌス公爵に従者は恐る恐る言葉を掛けた。
「プロテウス坊ちゃんは心に決めた方が――」
「いるのかっ?!」
「どこの誰なのっ!この際、見た目が人間なら男でも女でもいいわ!何処の子なの?!」
「いや、お前、見た目が人間であれば良し、そこには激しく同意をするが性別は女性に限らないとダメだろう」
「王弟殿下だって男色では御座いませんか。何かいけないのです。問題は独身のままで相手もおらず寡で貫く事です!恋人がいるかいないか!大きな問題なのですよ?」
ネプトヌス公爵家としては長男のトリトンに子供も2人いるし、出来れば女性を望んでほしいけれど恋人が男性であってもトリトンの子を養子に出せば事が足りる。
それにプロテウスは騎士と言う職にあるので何も言われていないが二つ名では「破壊神」とも呼ばれていてプロテウスが応援に回った地では魔力暴走も起こしていないのに山が消えたり、川が流れを変えたり、平地が渓谷になったりと地図の書き換えも頻繁に行われている。
相手が異性であれ、同性であれ「守る者」が出来ればプロテウスも大人しくなるんじゃ?と僅かな期待も寄せていた。
ネプトヌス公爵夫人(名をデスピーナ)は従者にググイ!と迫る。
「そ、それがですね。プロテウス坊ちゃまがほどほどに酔った時にポロっと零した言葉をメイドが聞いただけで、シラフの時に聞いたわけではないのですけども」
「どうでもいいわ。本音に近いと言う事でしょう?何処の誰なの?」
「いえ、名前までは…。ただ6年ほど前に女神が地上に舞い降りた、と言っていたと」
「・・・・」
ネプトヌス公爵夫妻は思った。
――よく判らない宗教にかぶれたようだ――
聞くだけ損した。と、思ったのだがふとネプトヌス公爵は考え込んだ。
「どうなさったの」
「いや、そう言えば…6年前だろう?その年は20歳になった年だよな。ロベルト殿下の婚約が無くなった年でもある」
「まさか!?」
「うむ。地上に舞い降りたと言うのは、上から落ちてきたとも言えるんじゃないのか?暫くプロテウスの様子もおかしかっただろう?」
ネプトヌス公爵夫妻には思い当たることがあった。
6年前の夜会で第3王子ロベルトの婚約者だった令嬢が高さとしては3階分にあたる高所から落下した。その時に落ちて来る令嬢には数歩届かず受け止める事は出来なかったが、プロテウスは半狂乱になる令嬢の父を押さえ込み、素早く処置を行った。
あのあと直ぐに南の辺境地で魔獣が大発生していると報告があり出立をしていったが、落下事故があって出征するまで3、4日ほどプロテウスは心ここに有らずだったのだ。
食事中も窓の外を見て物思いに耽ったりでまるで恋するグリズリー。
王都に帰還した時は1日に5食は欠かさず食べていたのに小さなロールパン1つで「胸がいっぱいで食べられない」と言った。
――腹いっぱいではなく胸がいっぱい?!――
あれは間違いなく医者も直せないと言われる恋煩いに違いない。
「あなたっ!試してみる価値は御座いましてよ。確かご令嬢はあの後領地に行き誰ともご縁を持っていない筈です」
「確かに。ん?待てよ?ウーラヌス伯爵はもう亡くなったんじゃなかったか」
「だったら今の当主は…善は急げ!直ぐに調べて頂戴っ!」
ネプトヌス公爵家は途端に活気づいたのだった。
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