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番外編:サイモンの嫁取物語

第Ⅱ話

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「では、潜水夫の派遣が出来るように王都に戻ったらすぐに対応しよう」
「よろしくお願いいたします。もう駅に向かう時間です。お送り致しましょう」

王弟と共に港湾整備の視察に同行していたサイモンは商会が用意をしてくれた駆動車の後部座席に王弟に続いて乗り込んだ。

エンジン音が唸る駆動車に揺られて駅に向かう。
10年前は鄙びた田舎町も大きく変わった。

自然の地形を利用し大型船も停泊できる港を整備することが決まると王都~副王都間しかなかった鉄道はこの街まで延びることになってどの地域よりも先にレールが敷かれた。

貨物列車で荷を運び、海路を使っての交易をするため仕事があると聞きつけた民衆が続々と集まり現在では王都に次いで人口の多い街になった。

王都からこの街までは鉄道を使って16時間。以前は1カ月半かかったのだから随分と近くなった。

駅に到着し、8両編成の列車に乗り込む。

ブシューっと真っ白い蒸気が吐き出されると鉄道員の笛の根がホームに響く。
ガタンと揺れを感じると同時に列車は動き出して今度は真っ黒い煙を吐きながら王都に向かう。

先頭から6両までは一般客が乗り込み乗車率は180%。座席は2人掛けの椅子が1つの区画を作る様に向かい合っていて座席に座れなかったものは座席と座席の間に麻袋を敷いたりして床に座る。天井付近の荷物棚に寝転がる者だっている。

慣れてきた猛者になると向かい合った座面と座面に板を数枚渡し、下段の恐ろしく低い2段ベッド状にして床と板の間に潜り込む者と、板の上にも寝る者、椅子に座る者に分かれる。ベッタリと板を渡さないのは板の隙間に足を降ろし椅子に座るため。板を腰で押さえる形になり2段ベッドの上段では通路側に足を膝から折って寝る。

通路にも座り込む者がいて駅で停車するたびに立ち上がって通路を開ける。

一般車両は人の熱で気分が悪くなりそうだがサイモンと王弟は料金は割高な後部の2両の特別車両。
ブースに衝立で区切られていて1部屋4人。
中央にテーブルがあり、ゆったりした座席。
移動する時間が長いので食事も2食提供される。

「便利になったなぁ。お!見てみろ。列車と競争している駆動車があるぞ」
「無茶な事を。事故の元ですよ。スピードを出せばまだ分解する駆動車も多いのに」
「そういうがな?イリスの提案した駆動車専用の時間制限区画。来年には議会で可決だぞ?」
「らしいですね。通行人を巻き込んだ事故は減るでしょうけど駆動車の事故が増えそうです」

便利な駆動車の台数が増えてくると今度は別の危険も生まれてくる。

馬車の時代にも人と馬車の事故はあったが、スピードが出ていない上、御者も回避する腕があったし人も馬車には注意を払う。

しかし馬車の感覚で飛び出してしまうと、馬車よりも何倍も早く走ってきて、急停止するにも制動距離の長い駆動車。人身事故が多発していた。

「便利と安全をセットにしなければ」とイリスは考え駆動車専用の区画を時間を設けて設置すれば?と提案したが、まだまだ便利と安全の共存は先になりそうだ。

「いろいろと思いつくイリスは凄いが、そのイリスに ”うん” と言わせたお前も凄いぞ」
「そうでしょうか」
「結婚式まであと1カ月か。今が一番楽しいときなのに連れ出して悪かった」
「いいえ。仕事ですからお気になさらず」

あと1カ月。

この10年は長くもあり短くもあった。
サイモンは車窓から流れていく景色を見て、思いを胸に秘め身を引こうとした日から思わぬ幸運を掴んだ今までを思い浮かべた。

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