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第39話   それ、泥棒です

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どんどんと差が広がって行くラジェットとイリス。

ラジェットは明け方隣で眠るメアリーを見て「またやってしまった」と後悔をしてしまう。
目が覚めるとメアリーはラジェットを求めてくる。

起こさないようにそっと寝台を抜け出したつもりだったがラジェットの手首をメアリーの手が掴んだ。

「行かないでよ。寂しいの。本当に1人になりそうで怖いのよ」
「止めてくれよ。そういう関係じゃないって言ってるだろう。もう以前とは違うんだ」
「以前の事は何度も謝ったでしょう?言葉のあやってあるじゃない。何時まで謝ればいいの。ジェイは週に1度来てくれればいい方だし…私、どうにかなりそう!」

ラジェットの言う以前と違う関係とは愛も情もなく、ただ性欲を発散するだけの仲だと言う意味だが、メアリーは違った。

ラジェットがまだイリスと結婚している事は知っている。
今度こそ本当に侯爵夫人になるために離縁の日まであと何日と数えて心待ちにしているのだ。

そしてライモンドが廃籍されている事を産後知って、早く体を元に戻しラジェットに取り入る事ばかり考えてきた。

「私、ジェイの事…愛しているの。嘘じゃない。本当よ」
「以前のアリーに言われたなら信じたかも知れないが、今はとても信じる気になれない」
「ジェイ。信じて。何もかも失って私にはもうジェイしかいないの。この気持ちは恋なんて軽い物じゃないの」

メアリーが何を言ってもラジェットの心に響く事はなかった。


「お願いよ。私、子供にも会わせてもらえないのよ?本当に寂しいのよ」
「子供の面倒を見ないと言ったのはアリ―じゃないか。今になって図々しいんじゃないか?」

メアリーの産んだ子供は生後半年もしないうちに子宝に恵まれない貴族の夫婦に養子に出された。その家はレント家から多額の支援もされることになり万々歳だが、養子に出されると同時に特別養子縁組なので法的にメアリーとの親子関係も抹消になっている。

レント侯爵は父親が廃籍となる事で子供の養育はとてもできないとして特別養子縁組の出来る相手を探し、生後すぐに預けて養育期間を半年設け正式な手続きをしたのだ。

ライモンドの廃籍もだが血のつながった孫との関係も簡単に断ち切った父親にラジェットはこれ以上逆らうことはしたくなくてメアリーとも子供が出来ないよう注意を払いながら体の関係だけで後は関りを持つのを辞めていた。


刻一刻と近づいてくる離縁の出来る3年目。
ラジェットは残り1年を切った頃からイリスとの関係修復を試みて動き始めた。

メアリーとの関係も間隔を開けることでフェードアウトを目論んでいるのだがやっとイリスの居場所を突き止めても不在だったり、講演会に行っても話を出来るに至らない時はむしゃくしゃしてメアリーの元に通ってしまう。

しかし神はラジェットを見放さなかった。

偶々父親の執務室の前を通りかかった時、執事と父親が話す声が聞こえてきた。

「で?イリスも参加できるって?」
「はい。ペック伯爵家の決算も区切りがついたので18時からの食事会には参加するそうです」
「良かったよ。今回の食事会でイリスに伝えることがあったからね。こんなに忙しい身の上になってしまうとは思わなかったよ」
「イリス様も同じ事を仰っていたそうですよ」

――18時に食事会、どこだ?いつの18時だ?――

その夜、父が就寝した後、ラジェットはレント侯爵の執務室に忍び込み予定表を探した。

引き出しは全て施錠されているが深夜、時間だけはある。
ラジェットは汗を拭いながら針金と細く平べったい金属の棒を鍵穴に差し込み、1つ1つ引き出しを開けた。

1つ開けて目当てのものがなければ施錠する。施錠するのは簡単だ。凸に飛び出したポッチを指で押して引き出しが収まる寸前で手を離せばカチリと閉じる。

7つある引き出しの5番目で目当てのものをやっと見つけ出した。

「ルピナスレスト。12日の18時だな」

イリスが15分前行動をする癖が変わっていなければ父親たちが来る前にイリスに会うことが出来る。

ラジェットはそっと引き出しを閉じ、施錠されたのを確認して執務室を出た。
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