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第21話   重量制限が御座います

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翌日は侯爵夫人のセッティングしてくれたお茶会2連発と夕食会。

婦人方が集まるので駆動車ではなく馬車で向かう。
御者が「用意出来ました」と声を掛けてきたのでイリスはお供をするミモザと共に椅子から立ち上がった。

「じゃぁアリス、行って来るわね」
「はぁい。行ってらっしゃいませ」

タタタっとアリスが小走りになり、玄関の扉を開けた。

ガチャリ。

「え?」短いアリスの疑問符付の声がして直ぐに扉が閉じた。

ガチャリ。カチャン ついでに施錠もしたようだ。

「どうしたの?」
「いえ、どうもエルム街に迷い込んでみたいで」
「は?どういう事?」
「なんていうか…ゾンビの方がまだウェルカム出来るって言うか」


端切れの悪いアリス。理由は直ぐに判った。
ミモザが玄関扉を開けるとそこにはラジェットが立っていたのだ。

「人がわざわざ来てやったのに出迎えないとは何事だ!」

――朝から勘弁してよ。何が嬉しくて貴方なのよ――

迎え入れられた訳ではなく、どうぞと言われていなくてもラジェットはずんずんと家の中に入って来た。

「へぇ。掃除しただけでここまで綺麗になるもんだな。副王都では礼儀より掃除を教えるんだな」

天井を見上げたラジェットだったが、イリスは時間もある事だしとミモザと共にそのまま玄関を出て馬車に乗り込もうとした。

「お、おい!僕が来たのに持て成しもせずに出かけるとは何様だ!」
「若奥様です」

ミモザが短く、ピシリと答えを返した。


「え?そんな貴方はマッサカ様…んんん!!」と呟くアリス。
他の使用人に口を塞がれてしまった。

「貴様!使用人の分際で!口の利き方を知らないのか!」

近寄って来てミモザに掴みかかろうとするラジェット。イリスはステップに掛けた足をもう一度地面に降ろし、今日の茶会で是非使って!と夫人に手渡された鉄扇で伸びてくるラジェットの手を打った。

バシッ!!

「痛っ!!何するんだ!」
「私の大事な侍女にそちらこそ何をされようと?私は侍女の命を最優先にしたまで。主として暴漢を退けるのは当然です」
「命って!そんなことしてないだろう!」
「そうかしら。後ろから不意に力の強い男性に掴まれたらつかみどころによっては転んで頭をぶつけるかも知れませんし、首が締まり息が出来なくなるかもしれません。あらゆる可能性を考え、蠅を叩き落としただけです」
「は、蠅だと!」
「あら?違った?ならカメムシかしら」
「若奥様、遅れます。急ぎませんと」
「そうね」


ラジェットをそのままにまた馬車に乗り込もうとしたのだが、今度はイリスの髪を引っ張って馬車に乗車させまいとラジェットが行動に出た。

「ミモザ、髪を切り落して」
「よろしいので?」
「遅れるよりマシ。時間を守れない者と思われるならサンバラの方がマシよ」


ミモザは護衛も兼ねる侍女。そうでなければ高位貴族の侍女など19年も出来るはずがない。お仕着せの何処に仕込んでいるのかはミモザしか知らないが小刀を取り出すと迷いなく主であるイリスのめいに従って地肌と髪を掴んだラジェットの手の中間を狙って小刀をあてた。

サシュ!!軽い音とラジェットの声が重なる。


「ハァッ?!待て。離す!離すから!」

ラジェットの叫びと同時にラジェットの手は引っ張っていた抵抗が無くなりラジェットは後ろに2、3歩よろめきながら下がった。その手には掴んだイリスの髪が握られたまま。

「さ、行くわよ。ミモザ。馬車の中でツバの大きな帽子を隠れるように被せてくれる?」
「承知しました」

今度こそ馬車に乗り込んだイリスとミモザ。しかしミモザがステップから馬車の庫内に足を踏み入れた時、今度は背を突かれて前のめりになって庫内に倒れ込んだ。

「僕も行く。連れて行け」

馬車を降りるにも大きな体で扉を塞ぐようにラジェットが乗り込んできたため降りる事も出来ない。

――何処までも迷惑な人ね。自分勝手もここまで行くと国宝級だわ――

「ミモザ、大丈夫?」
「はい。無様な姿をお見せいたしました」
「いいのよ。不意を突かれたらこうなるわ。ケガはない?」
「大丈夫です。帽子を――」
「おい!僕を無視して話をするな!」

――もう、本気で面倒臭い。誰かに相手して欲しいなら弟でにも頼みなさいよね――

ラジェットに対してする様な話もなく、こちらから話題を振ってやる義理もない。イリスは黙りミモザは馬車の天井に取り付けた引き出しから2つ帽子を取り出し、ツバの形が楕円になった方を軽くイリスに確かめるように当てる。

何故そうしているのか。握ったままの主を失った髪の束にラジェットは捲し立てる事をやめてイリスの向かいに腰を下ろした。

のだが‥‥。
馬車が本当にゆっくりしか進まない。歩いた方が早いのでは?と思ってしまう速度である。

「遅いな。なんでこの馬車こんなに遅いんだ?」

――アンタが乗ったからだよッ!――

馬車にも重量制限と言うものがある。馬だって何でもかんでも引ける訳じゃない。
2頭の馬が引ける馬車の定員は御者を含め3人で馬車本体の重量に加えることが出来る重量は200kg。

ラジェットだけで130~140kgはあるので現状、イリスとミモザが下車しても馬が引けるかどうかの重量なのだ。

――こんな事なら駆動車にするべきだったわ――

イリスはそう思ったが馬車の外、御者も同じ事を考えた。

が、御者は更に考えた。
駆動車とて重量制限がないわけではなく、タイヤとタイヤを繋ぐシャーシが折れるよりマシだと思い、「少々お待ちください」急いで厩舎に向かい、2頭新たに馬を連れて来てハーネスを繋ぎ直し1軒目の訪問先であるはす向かいの侯爵家を目指したのだった。

イリスが15分前行動を当たり前としていたので、遅刻は免れたが約束の時間の4分前に到着と言う事実。それはイリスには許しがたい失態に他ならなかった。
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