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第19話 閃きには自信を持て!
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王都に到着をしてもイリスは忙しい。
出立の日まで残り2日。3日目の朝には調査隊と出立をするのでこの2日でレント侯爵が1日目、侯爵夫人が2日目セッティングしてくれた会合や茶会に午前と午後、そして夕食を兼ねて夜の3部構成で臨まなければならない。
何をするかと言えば「販路開拓」の第一歩。
成功するかしないかは現時点で全く判らないが、「こういうことをしますよ」と伝えておけば段階的に金ではなく物資や技術を持った人を手配してくれる場合がある。
必ずではない。それはたった1、2時間程の会合や茶会でイリスが彼らの「好奇心」や「期待」をどれだけ煽れるか、興味を引くかによる。
レント家の場合、スポンサーは必要はないがスポンサーを求めてこの手の話は彼らも聞きなれている。百戦錬磨の彼らに「コッチを見て!」とせねばならないのでイリスにも気合が入る。
さぁ!行くわよ!
別棟の玄関アプローチに停車したのは馬車ではなく最新型の駆動車。
――やっぱ金持ちは違うわぁ――
駆動車は操作する人を御者とは呼ばず、運転手と言う。
既に後部座席に乗り込んでいたレント侯爵が「ここにどうぞ」と隣のシートをポンポンと叩く。
そして耳栓を差し出してきた。
乗り心地としては田舎道を走る馬車よりはマシだが、音が爆音。耳栓は必需品だった。
街中を走るとまだまだ珍しい駆動車。歩いている人は立ち止まって走って行く駆動車を目で追う。すれ違う馬車は全て停車している。余りの爆音なので御者も御者台だから降りて馬を宥めている。音に驚いて馬が暴れないようにしているのである。
ギュギュンと奇妙な音がするのは街中に鉄道を通そうと途中まで敷いたレール。タイヤが乗り上げて滑る度に奥歯のさらに奥がキュゥっとなりそうな嫌な音がする。
ゴゴッゴゴンッ
大痔主にはとても耐えられそうにない揺れが止まると目的地。
駆動車から降りたイリスは初回の相手の到着が30分ほど遅れると聞いてレント侯爵と先に店に入った。
「あの、侯爵様」
「なんだい?」
「駆動車なんですけど、貸し出しをしてみてはどうでしょう」
「貸出?駆動車を?」
「はい。思うに馬車の時代はもう終わりだと思うんです。今は音も揺れも凄いですけども馬車の歴史を見ても人はそれを改善してきました。馬車の改善のスピードよりも早く駆動車の改善は進むと思うんです。だけど1台の価格はメンテナンスも含めると簡単に手が出せるものじゃありません」
駆動車の価格は1台数千万。燃料も必要だし運転技術を持っている人間の数も少ない。壊れれば修理する腕を持った人間も必要で貴族が屋敷を新築するよりも金がかかる。
普及しない。結局馬車に皆戻ると考える人の数が大半だが、イリスは違った。
「馬車はもう廃れます。そして駆動車は憧れにもうなっているんです。買えないけど乗れる。商売になると思うんです。一般に普及するのはまだ20年後、30年後かも知れません。でもステイタスって言うのは何時の時代も最先端にあると思うんです」
その証拠に立ち止まって見る人間の数は圧倒的だった。音が聞こえれば窓から顔を出して覗いていた者だっている。停車すれば物珍しさもあって近くに寄ってくる者や、中を覗き込む者だっているのだ。
「結婚式とか特別な日になら借りることが出来るとか、今の商談のような時にハッキリ言えば見栄!マウントとも言いますけどインパクトは大きいと思うんです」
「なるほど。買えないが借りることは出来る…宿屋のようなものか」
「そうですね。宿屋もココ!って時はお値段の張る宿屋に泊まりますし、どこそこの宿屋に泊まったと言えばそれだけで鼻高々になる事だってあります。妬みは困りますけども、人って羨望を浴びることは好きですから」
「面白い。それは考えたこともなかったよ。そうか…借りる…それなら買って保有するより少額で済む。判った。検討してみよう。運転手の育成もしなければならないな…技術員も雇って…雇用も生まれるな。アハハ。考えていると面白さがじわじわくるよ」
「その話、ウチも1枚かませてくれないか」
割入って来たのは30分ほど遅れて到着予定だった面会相手。
「御無沙汰しております」
レント侯爵が頭を下げる。
――うわぁ…いきなりここまでの大物だとは思わなかったわ――
てっきり侯爵家とか1つ上の公爵家かと思っていたイリスはまた閃いた。
「初めてお目にかかります。イリスと申します」
「聞いたよ。坑道を利用した事業を始めようとしてるんだって?」
「はい、そうなのですが…その前に王弟殿下に1つご提案が御座います。よろしいでしょうか」
「なんだろう?楽しい話だと嬉しいね」
「先程駆動車を貸出の件で1枚かませて…と仰いましたよね」
「あぁ、面白そうだしこれは商売になると思うよ。私も馬車の時代はもう終わりだと考えているからね」
――よっし!!掴みはいい感じ!腰を抜かしてよぉ!!――
思いついたばかりだったが、イリスは自分の閃きを信じて「さも!」前々から考えてましたーとばかりに切り出した。
「王弟殿下主導で乗合駆動車を運営してみてはどうでしょう」
「乗合駆動車?!」
「えぇ。国営なら文句も少ないと思うので」
驚いたのは王弟だけではなくレント侯爵もだった。
「はい。現在トラックはあるのですから、荷台部分に幌を張り、色んな人が乗合で利用できる大型の駆動車を作ってみてはどうかと思うのです。時間を決め走らせれば通勤に使えますし、距離に応じた料金なら平民も利用できると思うので利用者の数は貸出駆動車の比にならないと思うんです。ステップ台を取り付ければ女性でも高齢者でも利用できますし、先程の話を聞かれていたのなら街中に鉄道を走らせるより技術改新で駆動車の音も揺れも改善されるでしょう。何より!!鉄道は大通りのみですけども、乗合駆動車ならそこから先も乗り入れることが出来て網の目のように交通手段が張り巡らされれば利用者にとっても助かると思うんですよ」
目をぱちくりとさせ、口をあんぐり。
王弟殿下とレント侯爵が現実世界に戻るまで数分を要したのだった。
出立の日まで残り2日。3日目の朝には調査隊と出立をするのでこの2日でレント侯爵が1日目、侯爵夫人が2日目セッティングしてくれた会合や茶会に午前と午後、そして夕食を兼ねて夜の3部構成で臨まなければならない。
何をするかと言えば「販路開拓」の第一歩。
成功するかしないかは現時点で全く判らないが、「こういうことをしますよ」と伝えておけば段階的に金ではなく物資や技術を持った人を手配してくれる場合がある。
必ずではない。それはたった1、2時間程の会合や茶会でイリスが彼らの「好奇心」や「期待」をどれだけ煽れるか、興味を引くかによる。
レント家の場合、スポンサーは必要はないがスポンサーを求めてこの手の話は彼らも聞きなれている。百戦錬磨の彼らに「コッチを見て!」とせねばならないのでイリスにも気合が入る。
さぁ!行くわよ!
別棟の玄関アプローチに停車したのは馬車ではなく最新型の駆動車。
――やっぱ金持ちは違うわぁ――
駆動車は操作する人を御者とは呼ばず、運転手と言う。
既に後部座席に乗り込んでいたレント侯爵が「ここにどうぞ」と隣のシートをポンポンと叩く。
そして耳栓を差し出してきた。
乗り心地としては田舎道を走る馬車よりはマシだが、音が爆音。耳栓は必需品だった。
街中を走るとまだまだ珍しい駆動車。歩いている人は立ち止まって走って行く駆動車を目で追う。すれ違う馬車は全て停車している。余りの爆音なので御者も御者台だから降りて馬を宥めている。音に驚いて馬が暴れないようにしているのである。
ギュギュンと奇妙な音がするのは街中に鉄道を通そうと途中まで敷いたレール。タイヤが乗り上げて滑る度に奥歯のさらに奥がキュゥっとなりそうな嫌な音がする。
ゴゴッゴゴンッ
大痔主にはとても耐えられそうにない揺れが止まると目的地。
駆動車から降りたイリスは初回の相手の到着が30分ほど遅れると聞いてレント侯爵と先に店に入った。
「あの、侯爵様」
「なんだい?」
「駆動車なんですけど、貸し出しをしてみてはどうでしょう」
「貸出?駆動車を?」
「はい。思うに馬車の時代はもう終わりだと思うんです。今は音も揺れも凄いですけども馬車の歴史を見ても人はそれを改善してきました。馬車の改善のスピードよりも早く駆動車の改善は進むと思うんです。だけど1台の価格はメンテナンスも含めると簡単に手が出せるものじゃありません」
駆動車の価格は1台数千万。燃料も必要だし運転技術を持っている人間の数も少ない。壊れれば修理する腕を持った人間も必要で貴族が屋敷を新築するよりも金がかかる。
普及しない。結局馬車に皆戻ると考える人の数が大半だが、イリスは違った。
「馬車はもう廃れます。そして駆動車は憧れにもうなっているんです。買えないけど乗れる。商売になると思うんです。一般に普及するのはまだ20年後、30年後かも知れません。でもステイタスって言うのは何時の時代も最先端にあると思うんです」
その証拠に立ち止まって見る人間の数は圧倒的だった。音が聞こえれば窓から顔を出して覗いていた者だっている。停車すれば物珍しさもあって近くに寄ってくる者や、中を覗き込む者だっているのだ。
「結婚式とか特別な日になら借りることが出来るとか、今の商談のような時にハッキリ言えば見栄!マウントとも言いますけどインパクトは大きいと思うんです」
「なるほど。買えないが借りることは出来る…宿屋のようなものか」
「そうですね。宿屋もココ!って時はお値段の張る宿屋に泊まりますし、どこそこの宿屋に泊まったと言えばそれだけで鼻高々になる事だってあります。妬みは困りますけども、人って羨望を浴びることは好きですから」
「面白い。それは考えたこともなかったよ。そうか…借りる…それなら買って保有するより少額で済む。判った。検討してみよう。運転手の育成もしなければならないな…技術員も雇って…雇用も生まれるな。アハハ。考えていると面白さがじわじわくるよ」
「その話、ウチも1枚かませてくれないか」
割入って来たのは30分ほど遅れて到着予定だった面会相手。
「御無沙汰しております」
レント侯爵が頭を下げる。
――うわぁ…いきなりここまでの大物だとは思わなかったわ――
てっきり侯爵家とか1つ上の公爵家かと思っていたイリスはまた閃いた。
「初めてお目にかかります。イリスと申します」
「聞いたよ。坑道を利用した事業を始めようとしてるんだって?」
「はい、そうなのですが…その前に王弟殿下に1つご提案が御座います。よろしいでしょうか」
「なんだろう?楽しい話だと嬉しいね」
「先程駆動車を貸出の件で1枚かませて…と仰いましたよね」
「あぁ、面白そうだしこれは商売になると思うよ。私も馬車の時代はもう終わりだと考えているからね」
――よっし!!掴みはいい感じ!腰を抜かしてよぉ!!――
思いついたばかりだったが、イリスは自分の閃きを信じて「さも!」前々から考えてましたーとばかりに切り出した。
「王弟殿下主導で乗合駆動車を運営してみてはどうでしょう」
「乗合駆動車?!」
「えぇ。国営なら文句も少ないと思うので」
驚いたのは王弟だけではなくレント侯爵もだった。
「はい。現在トラックはあるのですから、荷台部分に幌を張り、色んな人が乗合で利用できる大型の駆動車を作ってみてはどうかと思うのです。時間を決め走らせれば通勤に使えますし、距離に応じた料金なら平民も利用できると思うので利用者の数は貸出駆動車の比にならないと思うんです。ステップ台を取り付ければ女性でも高齢者でも利用できますし、先程の話を聞かれていたのなら街中に鉄道を走らせるより技術改新で駆動車の音も揺れも改善されるでしょう。何より!!鉄道は大通りのみですけども、乗合駆動車ならそこから先も乗り入れることが出来て網の目のように交通手段が張り巡らされれば利用者にとっても助かると思うんですよ」
目をぱちくりとさせ、口をあんぐり。
王弟殿下とレント侯爵が現実世界に戻るまで数分を要したのだった。
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