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第08話 OH!ハイテクノロジー
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翌朝、イリスの目覚めは爽快とは言えなかったがフカフカの寝具は冬場でもないのに脳内で「あと10分」と「もう起きなきゃ」の攻防を繰り広げた。
「若奥様。おはようございます」
「はい!おはようございます」
「わっ!わっ!お待ちください!!」
どうやら高位貴族は使用人に洗顔をしてもらうまで寝台から降りてはいけないようで、むっくりと起き上がり「顔でも洗って来るかな~」いつものスタイルで掛布をはだけ、寝台から降りようとしたイリスをメイドのアリスが必死で止めた。
――至れり尽くせり。ここに極まれりね――
憧れた事がなかったとは言わない。なんでも使用人にしてもらえて自分は立っているだけ、座っているだけでいい生活。しかし、夢を見るのと現実は違う。
イリスは最初は少し体温より低めの水で。そして数年前に発売になった固形石鹸を使って泡をモコモコさせて泡洗顔。軽く流した後は最後に冷たい水で顔を洗うと皮脂も落ちて引き締まる気がする。
その時に暴れるセイウチほどではないが、バッシャバッシャとするのが気持ちいい。
な・の・に。
体温より少し高めの温度になっているタオルで顔を拭かれ、首元を拭かれ…。しかも「拭かれ」と言っても軽くポンポンと押し当てる感じ。
――刺激がない…洗った気がしない――
洗顔に多くのものは求めていないし、ガツンとパンチの効いた刺激も求めていない。でも違うのだ。こうじゃない。もっとこう!!わかるだろ?判ってくれよぅ!!イリスの心が叫ぶ。
「言っちゃダメ。我慢よ」同時にイリスの心で天使が囁くがゲージは天使を振り切った。
「ダメっ!!洗った気がしないッ!」
「わ、若奥様?!」
「井戸は何処?!」
「い、井戸は勝手口を出て右側です。何をされるのです?」
「何って。洗顔よ。あぁっと貴女が悪いんじゃないの。私の思う洗顔って洗い終わりにキュッキュって顔の脂を感じないワイルド系なの!!井戸に行かせて!」
「でしたらパウダールームにどうぞ」
「え?‥‥」
連れて行かれた先は美術館や図書館の女性用御不浄のブースがある部屋に行く時に必ず通るパウダールーム。
レント侯爵家は御不浄とは別に専用のパウダールームがあって、外出から帰宅した時などは手を洗ったり、洗面台の前にある鏡で髪型や化粧崩れをセルフチェックできるのだった。
「あ…凄い」
「ラッセル様がご結婚された時に、便利だと給水と排水設備を整えたんです。赤いマークのあるノズルコックがお湯、青いマークは水です」
「お湯も出るんだ…」
イリスも工房で従業員用の休憩所や不浄を修繕した時に検討はしたのだ。
もう時代は馬車や騎乗、徒歩で移動する時代から「駆動車」と呼ばれるエンジンのついた車で移動する時代に移行し始めている。
頑として馬車を使う者のほうがまだまだ多いが、街中で道のど真ん中に鉄の棒のようなレールを敷設する計画があるのはそこに鉄道を走らせるからである。ただ、真っ黒な黒煙をあげながら走るので市中は止めて欲しいと反対の声が大きく計画は頓挫しかけている。
アリスが「どうぞ。お湯も出ますよ?」と、勧める水道設備も王宮を中心に広がりつつある。井戸で水を汲まなくてもノズルコックを回すだけで水が出る。画期的だ。
工房で検討をしたのはそれまで不浄のあと手を洗うのは桶に汲んだ水だったから。
ずっと昔は朝、昼休憩の2回しか桶の水を変えなかったそうだが、オーディンの代になって「次の人の為に水を汲もうよ」となった。そのおかげか市井で流感が流行っても従業員の感染率は低かった。
しかし手間である事は変わらず、修繕工事をする時に水道設備も検討をした。
予算がとてもとても‥‥。ペック伯爵家の周囲にはまだ排水を流す下水道がなかったので下水道設備も作らねばならず断念したのだ。
その時、お湯が出ると金額は3倍以上。水だけでも断念したのにお湯も出るとは!!
流石は国内屈指の大富豪!!
思いもよらないハイテクノロジーにイリスは唸った。
――欲しい!欲しいわ!工房に水道設備!――
その後、パシャパシャと顔を洗う。洗いながらイリスは思った。
――ノズルコックを3つにして、超冷水だと目が冷めそう――
そう、便利なのだが出てくる水は生温かい。原因はお湯の配管と水の配管をくっつけて配管しているので誰も洗面所を使わない時間が長く両方が生温かい同じ温度になってしまっていたのである。
物足りなさを感じ、結局井戸で水を汲み上げて「ひゃー!気持ちE!」と最後に肌を引き締めたのは言うまでもない。
「若奥様。おはようございます」
「はい!おはようございます」
「わっ!わっ!お待ちください!!」
どうやら高位貴族は使用人に洗顔をしてもらうまで寝台から降りてはいけないようで、むっくりと起き上がり「顔でも洗って来るかな~」いつものスタイルで掛布をはだけ、寝台から降りようとしたイリスをメイドのアリスが必死で止めた。
――至れり尽くせり。ここに極まれりね――
憧れた事がなかったとは言わない。なんでも使用人にしてもらえて自分は立っているだけ、座っているだけでいい生活。しかし、夢を見るのと現実は違う。
イリスは最初は少し体温より低めの水で。そして数年前に発売になった固形石鹸を使って泡をモコモコさせて泡洗顔。軽く流した後は最後に冷たい水で顔を洗うと皮脂も落ちて引き締まる気がする。
その時に暴れるセイウチほどではないが、バッシャバッシャとするのが気持ちいい。
な・の・に。
体温より少し高めの温度になっているタオルで顔を拭かれ、首元を拭かれ…。しかも「拭かれ」と言っても軽くポンポンと押し当てる感じ。
――刺激がない…洗った気がしない――
洗顔に多くのものは求めていないし、ガツンとパンチの効いた刺激も求めていない。でも違うのだ。こうじゃない。もっとこう!!わかるだろ?判ってくれよぅ!!イリスの心が叫ぶ。
「言っちゃダメ。我慢よ」同時にイリスの心で天使が囁くがゲージは天使を振り切った。
「ダメっ!!洗った気がしないッ!」
「わ、若奥様?!」
「井戸は何処?!」
「い、井戸は勝手口を出て右側です。何をされるのです?」
「何って。洗顔よ。あぁっと貴女が悪いんじゃないの。私の思う洗顔って洗い終わりにキュッキュって顔の脂を感じないワイルド系なの!!井戸に行かせて!」
「でしたらパウダールームにどうぞ」
「え?‥‥」
連れて行かれた先は美術館や図書館の女性用御不浄のブースがある部屋に行く時に必ず通るパウダールーム。
レント侯爵家は御不浄とは別に専用のパウダールームがあって、外出から帰宅した時などは手を洗ったり、洗面台の前にある鏡で髪型や化粧崩れをセルフチェックできるのだった。
「あ…凄い」
「ラッセル様がご結婚された時に、便利だと給水と排水設備を整えたんです。赤いマークのあるノズルコックがお湯、青いマークは水です」
「お湯も出るんだ…」
イリスも工房で従業員用の休憩所や不浄を修繕した時に検討はしたのだ。
もう時代は馬車や騎乗、徒歩で移動する時代から「駆動車」と呼ばれるエンジンのついた車で移動する時代に移行し始めている。
頑として馬車を使う者のほうがまだまだ多いが、街中で道のど真ん中に鉄の棒のようなレールを敷設する計画があるのはそこに鉄道を走らせるからである。ただ、真っ黒な黒煙をあげながら走るので市中は止めて欲しいと反対の声が大きく計画は頓挫しかけている。
アリスが「どうぞ。お湯も出ますよ?」と、勧める水道設備も王宮を中心に広がりつつある。井戸で水を汲まなくてもノズルコックを回すだけで水が出る。画期的だ。
工房で検討をしたのはそれまで不浄のあと手を洗うのは桶に汲んだ水だったから。
ずっと昔は朝、昼休憩の2回しか桶の水を変えなかったそうだが、オーディンの代になって「次の人の為に水を汲もうよ」となった。そのおかげか市井で流感が流行っても従業員の感染率は低かった。
しかし手間である事は変わらず、修繕工事をする時に水道設備も検討をした。
予算がとてもとても‥‥。ペック伯爵家の周囲にはまだ排水を流す下水道がなかったので下水道設備も作らねばならず断念したのだ。
その時、お湯が出ると金額は3倍以上。水だけでも断念したのにお湯も出るとは!!
流石は国内屈指の大富豪!!
思いもよらないハイテクノロジーにイリスは唸った。
――欲しい!欲しいわ!工房に水道設備!――
その後、パシャパシャと顔を洗う。洗いながらイリスは思った。
――ノズルコックを3つにして、超冷水だと目が冷めそう――
そう、便利なのだが出てくる水は生温かい。原因はお湯の配管と水の配管をくっつけて配管しているので誰も洗面所を使わない時間が長く両方が生温かい同じ温度になってしまっていたのである。
物足りなさを感じ、結局井戸で水を汲み上げて「ひゃー!気持ちE!」と最後に肌を引き締めたのは言うまでもない。
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