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第25話  リエじゃないと僕がダメ

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暫くの間、隠そうとしてもジョゼフィーヌの一件は噂になってしまう。その事が悔しくてオクタヴィアンはブリュエットの小屋で幾つかの書類を持ち込んで執務をするようになった。


「だからぁ。気にしないと言っているでしょう?」
「僕が気にするんだ。不名誉な話だと解ってもらいたいんだ」
「判ってますって。だから執務は自分の部屋でしてください!ここでされると野草を乾かすスペースがないのよ」
「いいや。判ってない。リエはまだ僕の妻である事が仕事だと思ってる」
「え?違うの?」
「ほら!本当に好きなんだってば。愛してるのはリエだけなんだよ。あんな話を蒸し返されて僕は怒ってるんだ」
「ヴィアンが怒るのは勝手だけど、私の仕事も邪魔しないでよ」
「リエの仕事は僕の妻だろ。妻を愛するのも夫の仕事!誤解をちゃんと解くのも夫の仕事なんだよ」
「屁理屈言わない!どきなさい!」


なんだかんだで周囲から見るとじゃれ合っている様にしか見えないブリュエットとオクタヴィアン。こうやって言い合いのようなじゃれ合いをした後、ブリュエットは籠を持つとオクタヴィアンに聞くのだ。

「今日は一緒に行く?執務する?」
「いくっ!」

まるで忠犬のように尻尾があったらブンブンと周囲の埃が舞い上がるが如くオクタヴィアンはブリュエットの手を取って庭の野草採取に出掛けるのだ。


「仲良いんですよね。多分」
「奥様もそろそろ折れてもいいのに」
「折れてくれればいいけどなぁ」

使用人に見送られて野草を取り始める2人。


「ねぇリエ。ホントに誤解してないよね?」
「もう!何度言ったら判るの。してません。する必要なし!あ、そのヨモギ取ってね」
「怒ってるし…絶対怒ってるし…ヨモギ何枚?」
「20枚くらい。千切っちゃダメですからね」
「千切らないけどさ‥‥リエ~」
「なぁに?‥‥あ、こんなところに水菜が自生してる!!ラッキー!」
「明後日なんだけどさ。時間あるかな」
「明後日~?何かあるの?」
「ちょっとね。リエ本人がいないと出来ない事だからさ」
「そうなの?じゃぁ予定はあけておくわね」


ブリュエットは自生している水菜を畑に植え替えようと根っこを丁寧に掘って「ジャジャーン!水菜よ」っと手のひらを器にしてを掘り出してオクタヴィアンに得意げに見せた。

「上手だな。僕だったら根っこが千切れちゃうよ」
「コツがあるの。ここの根っこがね」

両手の手の平を器にしているので顎で「ここ」と示すブリュエットだったが…。

「リエ」
「ん?」

不意に名前を呼ばれて、オクタヴィアンの方を向くと「ちゅっ」軽く唇が触れるだけのキスをされてしまった。

「・・・・・」
「ごめん…余りにも可愛くて我慢できなかった」
「・・・・・」
「リエ?怒った?え?嫌だった?ミント噛んできたよ?変な香りがした?」
「そうじゃない‥‥初めてだったのに」
「ハジメテ‥‥」

ブワっと顔を赤くしたオクタヴィアンに持っていた水菜を「初めてだったの!」っと放り投げるとオクタヴィアンが今度は両手の手の平でキャッチした。

ずんずんと歩き、先に小屋に戻ろうとするブリュエットをオクタヴィアンは追いかけた。

「信じられない!いくら妻だからって!妻だからって!!」
「ごめん。ごめんって。今度からは聞いてからするようにする」

ピタッと歩くのをやめたブリュエットをオクタヴィアンは顔を覗き込んだ。

「うにゅっ!!」

ブリュエットの指がオクタヴィアンの高い鼻梁をキュっと抓んだ。

「リエッ!本当の妻になってよ。僕はリエじゃないと嫌なんだ。悪いところがあれば直す!もう契約で繋がっていて離縁なんてのが1日1日迫ってくる関係は嫌なんだよ」

「悪いところを直しちゃったらヴィアンがヴィアンじゃなくなるわ」

「そうかも。でも・・・1日1日タイムリミットがあるような関係はもう嫌なんだ。僕はこの先の未来をリエ…ブリュエットと一緒に過ごしたい。結婚してくれないか?ブリュエットじゃないと僕がダメなんだ」

抓まれた鼻に泥をつけたままオクタヴィアンは「お願いします!」っと咄嗟に手のひらを器に持っていたため水菜を差し出す格好になってしまった。

「ぷっ…それ、私が取った水菜じゃない」
「あはは・・・でもリエが取ったのは僕の心もだよ」

ガコッ!!ブリュエットは顎が外れたかと思うくらいに空いた口が閉じなかった。
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