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第22話  憤る仮夫

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作業の手が止まるので、呼び名くらいいいかなとブリュエットがOKをするとまたオクタヴィアンはブリュエットに向かって眩しい笑顔を向ける。

――くっ!美丈夫の笑顔波状攻撃はキツっ!――

「それで?今も仕事だと思ってるとか?」
「思ってますよ」
「え‥‥だ、だったらさ。折角の縁だし…って違うな。仕事の延長してみないか?」
「嫌ですけど。手が止まってます。それと!ここの根っこの分かれ目!土がついたままです」

即でお断りをされてしまったが、ブリュエットにも考えがある。


「結婚を仕事で延長となると伯父夫婦がまた丸儲けです。離縁の慰謝料だって先払いで貰ってるんですよ?これで延長料金まで伯父夫婦に払うなんて。馬鹿げているわ」

「離縁の慰謝料も…ってことは仕事なのにリエは何も貰ってないのか?」

「貰ってませんよ。ここを出ていく時に1日1万ゴルが私の予算だと聞いたので日々節約です。そのお金だけは持っていけますから。あの畑だって野菜を育てれば1品でも1食でも浮くでしょう?茶会とか夜会とか言われても経験がないから出来ないなって思ったけどする必要がないのは助かりました。そういうのってお金かかるじゃないですか」

「そうだったのか。あの畑はそういう意味が・・・じゃ、離縁は変わらないんだ」

「そうですねぇ。契約期間ってありますしね。兎に角。あの伯父夫婦にはもう1ゴルも貢ぎたくないんです。執事さんから聞いたかも知れませんが私はずっと無休で無給。庭の草とか詳しくなったのも生きるためなんです。何でもしなきゃ食べる物だってなかったんです。はい。これもやり直し!」

「待ってくれ。君は確か伯爵家の・・・」

「そうですよ。でも伯爵家は休眠中です。私が20歳になるまでは誰にもどうにも出来ません。離縁した後、私は20歳になってますから、のこのこマ―シャル子爵家に戻ったらどうなると思います?」

そんな事は想像もしたくない。しかし休ませもせず、そして働いた分の給料も支払っていない。ブリュエットの告白が事実なのであれば大問題だ。

わざわざ考えるまでもない。20歳になり署名に効力を持つブリュエットがマ―シャル子爵家に戻れば伯爵家の権利はマ―シャル子爵に譲渡となるようブリュエットは場合によっては命さえも取引に使われてしまうだろう。

爵位が移った時点でブリュエットはマ―シャル子爵にとっては邪魔者にしかならない。

「事故の補償金もかなりの額だと知ったのは最近です。(ぱしゃぱしゃ)それまでは・・・救助に来た人に報酬として支払ったとか…まぁいろいろと ”そんな事もあるのかな” って思う言葉で騙されてきましたからね。ま、今更伯爵家をどうしたいってないんです。貴族令嬢の教えも受けていませんし切り盛り出来るとも思えません。国王陛下に返上してお金にする方が良いかなって。それが出来ると知ったのもここに来てミモザさんに教えて貰ってからですよ?ほんと・・・あの狒々親父っ!何もあげるものですか!」

「なら・・・マ―シャル家に何も奪わせない。そして貰うはずだったものを貰う。そうすれば・・・僕の事をヴィアンと呼んでくれるか?」

――フェっ?随分と安く請け負うのね。ここで呼んだらどうするのかしら――


ブリュエットとしては伯爵家を返上し金にしようと考えたのは事実だった。
オーストン公爵家に来る前は20歳になったら独立し、もう伯父夫婦の元からは逃げだそう。爵位が伯爵家となれば子爵である伯父夫婦は手出しも出来ない。そう考えていたが甘かった。

金に換えられる。その事を知った夜ブリュエットは怖くて眠れなかった。

伯父夫婦が伯爵位を授かるよりも売り飛ばしたほうがいい。そう考えるのは当然。
子爵家と伯爵家では税率が違うので何でも屋という商売をするなら子爵家で居た方が都合がいい。怖くて眠れなかったのは伯父夫婦はきっとブリュエットをそのまま飼い殺しにするつもりだと思ったからである。

20歳になり爵位をどうするか「ブリュエット」に決めさせる風で返上し金にする。その金を奪うだけで後は何も変わらない。マーシャル子爵家としては何の関与もしていない。そうすれば批判もかわせる。

それまでよりさらにブリュエットに仕事をさせて命をすり減らすように仕向ければいいだけだ。最悪、娼館に売り飛ばされてその金すら懐に入れるつもりかもしれない。


ゴシゴシと指の腹で野草の土を洗うブリュエットを見てオクタヴィアンは自分がどんなに恵まれているか。その上でなんて愚かだったのかと涙が零れそうな目を二の腕を押し付ける事で誤魔化した。

「リエ。その日が来る前に僕は出来る事をするよ」
「あら?ありがとう。はい、これもやり直しね」

土が残った野草を手渡されるその手をオクタヴィアンはギュッと覆うように握った。

「やり直しだ。何もかも」
「ん?そこまでやり直さなくていいわよ?こっちは綺麗になってるし。それにこれで終わりじゃないのよ?」
「うん。終わりじゃない。そこから始めるんだ」
「始めるんじゃなくて、次は水気を取るのよ」
「判ってる。何もかも取ってやる!」
「何もかもはダメ。優しく水気だけを吸い取るんだってば」

その日は夕食の時間になるまでオクタヴィアンはブリュエットを手伝った。
ブリュエットには終始笑顔を向けていたが、心の中は煮えくり返って仕方がない。

屋敷に戻ると「打ち解けましたか?」と問う執事に命じた。

「マーシャル子爵家。丸裸にしてくれ」
「おや?どうされました?」
「どうもしない。僕の妻を僕の出来ることで守るだけだ。二度と手出しはさせない。先ずは情報だ。指の毛の数まで全て報告してくれ」

――おやおや。急にオトコになっちゃって――

「畏まりました」

執事は表情は無表情のままだったが、心では盛大に「やったー!万歳!」オクタヴィアンの変化を喜んだ。
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